特集 2011年9月30日

「金庫と鍵の博物館」がなかなか開かない

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墨田区に「金庫と鍵の博物館」という小さな博物館があるらしい。この博物館、開館日は「第1・3の土曜日、日曜日(8月を除く)」なんだそうだ。開館日がずいぶん少ない。

金庫だけになかなか開かない、なんてだじゃれのような理由じゃないだろうな。金庫と鍵にはさほど興味がなかったものの、開館日の件はみょうに気になる。
本業は指圧師です。自分で企画した「ふしぎ指圧」で施術しています。webで記事を書くことをどうしてもやめられない。(動画インタビュー)


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墨田区の「小さな博物館」

ここ
ここ
「杉山金庫」の一角
「杉山金庫」の一角
墨田区では「小さな博物館事業」というのをやっていて、個人商店のちょっとした一角を「博物館」として一般に開放している。(→こちらの記事に詳しい)「金庫と鍵の博物館」もその中の一つ。

そういった事情から「小さな博物館」たちは、どれもふつうの博物館よりは開館時間が短い。その中でも特に「金庫と鍵の博物館」は来館前に電話で予約が必要になる。なかなかガードが固い。
博物館というより、本当に金庫屋さんのひと部屋
博物館というより、本当に金庫屋さんのひと部屋
館長の杉山さんに話を聴いてみた。「杉山金庫」の先代が珍しい金庫や、古い金庫を集めていて、そのコレクションを展示しているそうだ。
杉山さん。杉山金庫の三代目でもある
杉山さん。杉山金庫の三代目でもある
悪いが「見ただけじゃ面白くない」というのは確かにそうだ
悪いが「見ただけじゃ面白くない」というのは確かにそうだ
「20年くらい前に区の方から博物館をやってくれって指名されたんですけれどね、金庫って鉄のかたまりじゃないですか。絵とか芸術品と違って、べつに観て面白いもんじゃないですから。だから予約してもらって、僕が説明をつけているんですよ」

なるほど、そこが開館の短さにもつながるわけか。金庫と鍵の博物館がなかなか開かない理由は、単純にマンパワーの問題であった。

旧日本軍の遺産

「たとえば、そこにあるのは…、むかしの日本陸軍で使われていた金庫なんですがね、現存が確認されているのは1台だけです。」

いきなり軍の遺産がきた。こんなところで、突然伝奇小説みたいな世界観が出てきておどろく。
中には軍の暗号解読表が入っていたという
中には軍の暗号解読表が入っていたという
「そもそも金庫には『防火用金庫』と『防盗金庫』があるんですよ。日本で一般に使われている金庫の9割以上が『防火金庫』。もちろん防犯効果が全くない訳じゃないですけれどね、『防盗金庫』に比べれば、弱いです」

この金庫はそんな防盗金庫の中でも最高峰。ドリルを使っても破られない!と杉山さんは語っていた。
ぜんぜん関係ないこと考えててすいません
ぜんぜん関係ないこと考えててすいません
正面には三重のロック
正面には三重のロック
扉は二重…
扉は二重…
いや、三重
いや、三重
この桐のタンスのような部分は、古い日本の金庫に特有の構造だそうだ。「最近の金庫にはついていないし、機能的に意味があるとは思えない」と杉山さんは言っていた。
とすると、まさに文化、というところなのだろうか。こんな鉄の扉の奥のことだと不思議に感じる。
ロックの機構部分を開けてみせてもらえた。秘密めいたメカメカしさにうっとりする
ロックの機構部分を開けてみせてもらえた。秘密めいたメカメカしさにうっとりする
この金庫、「開けた回数が機械的にカウントされる」という機能がついている。
この内側のダイヤルでカウントされる機構になっている
この内側のダイヤルでカウントされる機構になっている
「この金庫を開けられるのは軍の中でもほんの一握りの人間です。もしも前に開けたときよりも、カウントが2つ増えていたら…?暗号表が盗まれていなくても、その時点で、破棄して変更しなくちゃいけないですよね。スパイに見られた可能性がある」

こんなに無骨な鉄の固まりから情報セキュリティの話が出てきた。「モノ」としての金庫は知っていたが、その機能や、実際の運用のされ方なんて今まで考えたことがなかった。面白い。

金庫の鍵穴の謎

つづいて説明してもらったのはフランスのフィッチェというメーカーの金庫。金庫の世界では有名ブランドらしい。こちらも先ほどの陸軍の金庫と同じくらいの時期に作られた物だそうだ。
「こちらも素晴らしい防盗金庫です」
「こちらも素晴らしい防盗金庫です」
「素晴らしい」と紹介されるも全然わからない。一見、カギ付き洋風ダンスのようだ。深夜の通販で1万円(この値段で同じ物がもう一つついてくる)くらいの代物に見えた。

杉山さんは、そんな僕の心中を完全に読み取っているようである。
「これ、金庫に見えないでしょ?それじゃ、斎藤さん、カギ穴を探してみて下さい。正面にありますよ」
「ちなみに真ん中についているのは、フェイクのカギ穴です」
「ちなみに真ん中についているのは、フェイクのカギ穴です」
あ、見えているこれは違うのか。じゃあどこに…こんなの考えても解るのか…?と思った瞬間に杉山さんが挑発してきた。
また自信たっぷりに…
また自信たっぷりに…
小学生の発想力がないと解けない金庫?僕は自分が割と大人失格だと思っているので、そういう部分では簡単には譲りたくない。

「小さい子供はやっぱり視点が細かいのかな?この金庫を正面から見た時にある『ある違和感』を拾えるのがうまいみたいだよね」

くー、金庫の博物館でこんなナゾナゾみたいなことになるとは思わなかった。なんとか見破れないか。
どこに着目していいのか全然わからない
どこに着目していいのか全然わからない
後から聞いたら「確かに目の前にあったのに!なんで気付かなかったんだ!」と悔しくなってしまうようなトリックだった。悔しかったので、みんなにも是非一度考えて欲しい。

読者への挑戦状

それではこの金庫の謎の解説は次のページで。解決に必要な情報は全て上のでかい写真の中に提示されています。
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解決編

悔しくて、たっぷり10分は考えただろうか。
しかし結局ギブアップしてしまった。答えはこういうことだ。
「この四角い飾り。切れ目があるの、ここだけなんですよね」
「この四角い飾り。切れ目があるの、ここだけなんですよね」
「ここをズラすと」
「ここをズラすと」
ここか!僕には全然わからなかった。なにより杉山さんが「ちょっとした違和感」と称した切れ目部分が目の前にあったのに気付かなかったのが悔しい。
大人失格な上に子供にも負けた、と思った
大人失格な上に子供にも負けた、と思った
実際に杉山金庫の重要書類が入っている
実際に杉山金庫の重要書類が入っている
金庫を開けると家具調の外観からは一変して、無骨な内側が見て取れた。このドアの分厚さ、なんかずるい。

「本気出すんなら、この金庫の近くに、もっと普通の『金庫らしい金庫』を置いておくのが良いかな。そして、その中には泥棒用の『オミヤゲ』をちょっと置いておけば完璧。本気で隠したい財産は守られます。」

杉山さんが面白いことを言うので、僕も一瞬納得してしまった。でも、一見理にはかなっているようだが、あまりにも金庫中心の発想なんじゃないのか…。

長い鍵の意味

「ところで、このイギリス製『チャブ』もなかなか素晴らしい金庫なんですよ。香港とか、イギリスの息のかかったところには置いてある金庫です」
杉山さんが金庫を表現するときの形容詞は、常に「素晴らしい」である
杉山さんが金庫を表現するときの形容詞は、常に「素晴らしい」である
これも普通に使っている
これも普通に使っている
「これ、住宅の玄関扉と同じくらいの厚さがあるんです。でも材質は無垢の鉄です。絶対に壊せません」
鍵が長い
鍵が長い
「で、素晴らしいのが錠前。せっかく分厚くても扉の表面についていたんじゃ、破られちゃいます。だから奥深くについているんです。昨今、ピッキングとかありますけれど、これは無理ですね」
鍵は柄の部分と鍵本体が取り外せるようになっている。小さな本体部分だけを肌身離さず持ち歩けるわけだ
鍵は柄の部分と鍵本体が取り外せるようになっている。小さな本体部分だけを肌身離さず持ち歩けるわけだ
ところで、こんな風に実際にお店で使っている鍵の写真をネットに載せてしまって、防犯上大丈夫なのだろうか?鍵の柄の部分が長いのはすごいかもしれないが、鍵の本体はずいぶん単純な形みたいだし…写真を元にコピーされたりする可能性があると思う。

そのことを尋ねてみたときの杉山さんの表情が印象的だった。
その質問待ってましたとばかりに!
その質問待ってましたとばかりに!
本当に?これが?複製不可能?
本当に?これが?複製不可能?
ということなら思い切って拡大して写真を載せてしまうが、この鍵が複製不可能なんて正直まだ信じられない。
杉山さんの本業は金庫の販売、修理、鍵開けである
杉山さんの本業は金庫の販売、修理、鍵開けである

金庫の話がこんなに面白いなんて

この世にこんなに金庫が好きな人がいるなんて思っていなかった。たっぷり話を聴いて取材を終了させたつもりだったのだが「今回の話は『金庫編』ってことで。まだ『錠前編』とかいろいろあるからね」と言っていた。話はまだまだあるらしい。

また行かなくては。なかなか開いていないけれど。
金庫と鍵の博物館

東京都墨田区千歳3-4-1
03-3633-9151
(要予約)
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