静岡でトビウオをすくうイベントがある
トビウオすくい体験という魅力的なイベントを企画しているのは、静岡県伊豆市にある
土肥温泉旅館協同組合。
8月末から9月にかけての毎週末、毎年恒例の人気イベントらしいのだ。
しずおか観光大賞奨励賞だそうですよ。私が審査員なら文句なく大賞。
船で夜の海に出て、光に集まったところをすくうので、出船は20時と遅め。
私がいったのは9月16日。台風が接近していて天気も怪しかったので、それほど参加人数はいないだろうなと思ったら、集合場所には昆虫採集感覚の親子連れから、見るからに釣り好きっぽいアダルトなグループなど、幅広いお客さんでにぎわっていた。
トビウオすくい、老若男女を問わず大人気である。なんだ、やっぱりみんなトビウオをすくいたいんじゃないか。
こういうイベントに参加する人達だけあって、網を手にしただけでテンションが上がり、とりあえずなにかを捕ろうと張り切りだす。
観光船などではなく、バリバリの漁船に分乗。釣り船にはよく乗るけれど、夜に出船というのはあまりないのでウキウキだ。
トビウオすくいのシステム
台風が近づきつつあるというものの、この日はまだ風も波もない絶好のトビウオすくい日和。
漁船は真っ暗な海をほんの数分走ると、ライトをつけて徐行に切り替えた。どうやらもうトビウオすくいのポイントに着いたようだ。
フラッシュをたかないと何も写らない真っ暗な海を走るのが新鮮。久しぶりに天の川を見た。
先行していた船がトビウオすくいをはじめていたが、あんなので本当に捕れるのかな。
トビウオすくいとは、漁船が照らすライトに集まってきたトビウオを、手に持った2メートル程の網ですくうというシンプルな漁。漁というか、レジャーですね。
金魚すくいと違って網が壊れる心配はないけれど、網が届く範囲にトビウオがこないとどうにもならないという心配がある。
とりあえず網を構えてトビウオの出現を待つ。
トビウオが集まってきた
水面まで1メートルあるので、網の射程距離は本当に目の前だけ。いくらトビウオが光に集まるとはいえ、エサも撒かずにそんな都合よく現れてくれるのだろうか。
だがそんな私の心配は無用だったようで、ポイントについて早々、真っ暗な海の中で、白い魚影が近づいてくるのがはっきりと見えた。
「ああ!」 久しぶりに声を出して驚いてしまった。
この羽の飛び出たシルエット、明らかにトビウオである。ようこそここへ、私の青いトビ(ウオ)。
たいていの魚は気持ち良さそうに泳いでいるものだが、トビウオは特に気持ちよさそうだ。
網を出すことでせっかくのトビウオを逃がしてしまうのが怖くて、つい見入ってしまっているうちに、スーっと船の下に潜っていってしまった。
あー、もったいない。トビウオに対して奥手な自分が憎いわー。
トビウオは本当に飛んで逃げる
いまのが最初で最後のチャンスだったらどうしようと悔やんだのは5秒だけ。またすぐに別のがやってきてくれた。どうやらモテ期の到来だ(トビウオに対して)。
光に集まってくる性質があるというのはわかるけれど、こうもべったりと船のそばにやってくるのが不思議。
羽を閉じて泳ぐ姿は、一時期流行ったスカイフィッシュのようだ。見たことないけど。
網の射程距離まで近づいたところで、今度こそはと頭側から網をそっと近づけるのだが、直前でスッと方向を変えて逃げてしまった。
まあ当たり前なのだが、自由に海を泳ぐ魚を網ですくうというのは、人を信じていない野良猫を抱きしめるよりも難しい。
なんて言い訳を考えていたら、隣でやっていた妻があっさりとすくいやがった(言葉が悪くてすみません)。
嬉しすぎて林家パー子みたいなテンションになっている。
どうやらトビウオの進行方向と構えた網の位置が交差すれば、すくうことができるっぽいのだが、平面的な動きだけではなく、 時には網の届かない深さへと潜り、時には空を飛んで逃げていく。
届かなーい。大人気なく5.4メートルある自前の網を持ってくるべきだったか。
魚なのに飛んで逃げるっていう選択肢があるのがすごいな。
逃げられるのは悔しいのだが、飛んでいるトビウオをすぐ近くで見られて得した気分。
追いかけられたショウリョウバッタのように、あわただしく飛んで逃げる姿に感動してしまった。
水鳥が船に驚いて飛び立つのも、トビウオと見間違えるようになるよ。
どうにかトビウオをゲット!
トビウオすくいの開始から20分が経過。何度もトライを繰り返すことで、ようやくトビウオの進むクセみたいなのが見えてきた。トリッキーなパンチを見切ったベテランボクサーの如し。
網を海の上に構えた状態でトビウオの進む方向を予測し、射程範囲を横切る直前にスッと網を垂直に沈め、カウンター一発で仕留めるイメージ。
とかいって、実際はバタバタもいいとこだ。
「すくった!」ではなく、「入った!」という感じかな。
ちょっとだけ涙腺が緩んじゃった。
この後は怒涛の3連続キャッチを決めるなど、フナやコイを毎日追いかけまわしていた小学生の頃の腕が蘇ってきたようだ。
実は8月にも沼津市の戸田(へだ)というところにトビウオすくいをやりにきていたのだが、その時は大雨警報が出てしまって、船がでなかったのだ。
これは私と縁がないのだなと諦めかけたトビウオすくいだけに、体中がヘラヘラしっぱなしになるほどの喜びである。これだけ童心に返ったら二歳くらい若返るんじゃないだろうか。
大物がすごい勢いで突っ込んできたので反射的に網を出してみた。
水中でライトを持ったダイバーや漁師が刺されて死ぬといわれているダツだった!
しかし絶好調の時間は長くは続かず、急にトビウオの寄りが悪くなった。
遠くを見ると、山からお月さまが顔を出していた。船長の話だと、光でトビウオを集める漁なので、月明かりがあるとダメなのだそうだ。
「月が出るとダメ」という理由が、なんだか原始的でいいなと思った。
もうちょっと隠れていてほしかったかな。
でも、これだけ獲れれば十分です(写真は三人分)。
ダツ、長いね。
あと100回やりたい
今更だけど、私はなにかを捕まえて食べるというのが本当に好きなんだなと実感。帰り道では、いつになく饒舌になってしまった。
この瞬間のために生きてきたというと大げさだが、こういう瞬間(複数形)のために生きているといっても、ウソにはならないかな。
家から土肥までは片道5時間。そしてトビウオをすくう時間は1時間。それでもまた来たくなる、私好みのイベントでした。
トビウオ定食。ダツもつみれにしたけど、骨が青くて焦ったよ。