特集 2011年9月15日

姫路モノレールで45年前にトリップする

こいつが現役だったあの時代
こいつが現役だったあの時代
かつて姫路の街を走っていたモノレール。
駅舎のなかで長年そのままに保管されていたその車両が、ついに一般公開されることになったという。
現地は当時の面影をそのままに残す、夢の国であった。
1984年うまれ、石川県金沢市出身。邪道と言われることの多い人生です。東京とエスカレーターと高架橋脚を愛しています。

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話は昨年のゴールデンウィークにさかのぼる

去年(2010年)のゴールデンウィーク、ドリーム交通モノレールの模型を作っている和田さんにお話をきくチャンスを得(実際模型をみせてもらったのはこの記事 )、高まっていたモノレール熱をそのままに、私は姫路へと向かった。姫路の街に、廃線となったモノレールの橋脚がそのまま残されている箇所があると聞いたからだ。
その橋脚が、これだ。真ん中の煙突みたいなやつ。
その橋脚が、これだ。真ん中の煙突みたいなやつ。
うむ、完全に建物からはえてるみたい(実際は橋脚のまわりをとり囲むように建物が建てられたそうだ)。
うむ、完全に建物からはえてるみたい(実際は橋脚のまわりをとり囲むように建物が建てられたそうだ)。

ただの廃線じゃなかった、姫路モノレール

姫路市営モノレールは、姫路駅、大将軍駅、手柄山駅のたった2区間を走っていたモノレールである。1966年に手柄山公園で開催された「姫路大博覧会」のための輸送機関として開業、wikipediaによれば当初は鳥取まで(!)の壮大な延伸計画もあったようだが、博覧会後に利用者が激減、モノレール事業を推進してきた市長の交代や、車両を作っていた日本ロッキード・モノレール社の解散などもあり1979年には多大な赤字を残して正式廃業してしまった。そんなわけで、現在これらの橋脚のすべてがいつ撤去されてもおかしくない状態にある。

という話をきいて、私が想像していたのは、ただひっそりと物陰に佇むコンクリート柱の姿だった。ところが現地へきてみれば、この橋脚、ただの廃線橋脚じゃない。建物からはえてみたり突っ込んだり、なんだかやりたい放題だ。
貫禄の旧大将軍駅。4~5階部分がモノレールの駅、高層階は公団住宅になっている。そのままマンションに突っ込んでいって駅にしちゃうという、いまみても、じつに斬新なアイディア。
貫禄の旧大将軍駅。4~5階部分がモノレールの駅、高層階は公団住宅になっている。そのままマンションに突っ込んでいって駅にしちゃうという、いまみても、じつに斬新なアイディア。

それにつけても姫路モノレール橋脚のフォトジェニックぷりよ

対岸のレンガ造りの工場とあわせてのこの絵になるっぷり。いろいろと大変なのは承知のうえで、いつまでも残したい風景である。
対岸のレンガ造りの工場とあわせてのこの絵になるっぷり。いろいろと大変なのは承知のうえで、いつまでも残したい風景である。
植物との共生もお手の物。
植物との共生もお手の物。
川沿いを進み、ここから大きくカーブを描いて、終着駅の手柄山へとのぼっていく。
川沿いを進み、ここから大きくカーブを描いて、終着駅の手柄山へとのぼっていく。

駅舎は改装工事中だった

終着駅のあった手柄山公園では、駅舎もやはり公園内にそのまま残されていると聞いていたのだが、この前年に、長い間駅舎の中で保管(というより放置)されていた車両の一般公開の準備が始まり、駅舎も改装工事中であった。
2009年、駅舎から車両を出す公開イベントに参加された私のモノレール師匠和田さん(現在は日本万国博モノレール模型を製作中 http://expo70-monorail.seesaa.net/)からお借りした貴重な1枚。
2009年、駅舎から車両を出す公開イベントに参加された私のモノレール師匠和田さん(現在は日本万国博モノレール模型を製作中)からお借りした貴重な1枚。
2010年5月、フェンスの隙間から手を伸ばし撮った工事中の駅舎。車両が一般公開となった暁には必ずまたくると誓う。
2010年5月、フェンスの隙間から手を伸ばし撮った工事中の駅舎。車両が一般公開となった暁には必ずまたくると誓う。

~そして1年が経過~

再びやってきた手柄山公園。駅舎がすっかり綺麗になっている。
再びやってきた手柄山公園。駅舎がすっかり綺麗になっている。
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1年後、駅舎は水族館になっていた

表玄関側から。「手柄山交流ステーション」として生まれ変わった、旧駅舎(左側)。右側は市営水族館。
表玄関側から。「手柄山交流ステーション」として生まれ変わった、旧駅舎(左側)。右側は市営水族館。
手柄山交流ステーション、なかなか盛況である、なるほどやっぱりみんな、モノレール好きなんじゃない。と思っていたら、手柄山交流ステーションの入り口は水族館入り口と共用であった。
そして入り口はいってすぐにお目見えする、超貴重なロッキード式モノレール実物。え、え、あの、入場料とかはどうすれば…!
そして入り口はいってすぐにお目見えする、超貴重なロッキード式モノレール実物。え、え、あの、入場料とかはどうすれば…!
水族館の入場券売機はあるが、「手柄山交流ステーション」の入場券売機がないので、受付の方に「あの、モノレールを観に来たんですが、どこに行けば…」ときいてみると、(そこにあるじゃん…)という顔をされつつ「エレベーターで2階へ行ってください」と教えていただく。
モノレール展示室、ちょっと字が小さくないですかね。
モノレール展示室、ちょっと字が小さくないですかね。
2階にあがって気づくことには、どうやらこのモノレール展示室は、無料なのだ、太っ腹。
2階にあがって気づくことには、どうやらこのモノレール展示室は、無料なのだ、太っ腹。
会いたかったよ、ロッキード式モノレール…!
会いたかったよ、ロッキード式モノレール…!
モノレール手柄山駅のホームだったこの場所は、当時の配置をそのまま活かす形で展示が行われている。
貴重な車両展示のほかにも
貴重な車両展示のほかにも
駅名表示や、モノレールのりばの看板も展示。当時の雰囲気が手にとるように伝わってくるので、とてもうれしい。
駅名表示や、モノレールのりばの看板も展示。当時の雰囲気が手にとるように伝わってくるので、とてもうれしい。
さらに、ホームにある広告看板も
さらに、ホームにある広告看板も
時刻表や時計も再現(これも本物なのかも)。
時刻表や時計も再現(これも本物なのかも)。
乗客の親子も再現(これはレプリカ)。
乗客の親子も再現(これはレプリカ)。
そしてホームの隣にあった車庫の部分は、水族館の淡水魚スペース(!)として生まれ変わっていた。で、こちらは有料なのだ。個人的な価値観と一般的価値観が逆転していてなんだかくらくらする。
そしてホームの隣にあった車庫の部分は、水族館の淡水魚スペース(!)として生まれ変わっていた。で、こちらは有料なのだ。個人的な価値観と一般的価値観が逆転していてなんだかくらくらする。
車両は当然のごとく中に乗れるようになっている。
車両は当然のごとく中に乗れるようになっている。
なかは水族館にきたひとたちの休憩スペースになっていた。お母さんが「次のペンギンの餌やりまでここで休憩よ~」と子どもたちに号令をかけている。
なかは水族館にきたひとたちの休憩スペースになっていた。お母さんが「次のペンギンの餌やりまでここで休憩よ~」と子どもたちに号令をかけている。
「まぁいろいろあったけど、地元のひとに愛されるスペースになれば、それで満足ですわ」※著者による勝手なアテレコです
「まぁいろいろあったけど、地元のひとに愛されるスペースになれば、それで満足ですわ」※著者による勝手なアテレコです
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ところでロッキード式モノレールとは…

ところで先ほどからロッキード式、ロッキード式と勝手に興奮してきたが、それはなにかというと、航空機で有名なあのロッキード社が開発したモノレールで、コンクリート製の軌道の上に鉄のレールを敷き、その上を鉄の車輪で走る方式(東京モノレールとか大阪モノレールは、軌道の上を直接ゴムタイヤで走る)。姫路モノレールと、やはり今はなき向ヶ丘遊園モノレールがこの方式だったが、前述のとおりロッキード社自体がモノレール事業から撤退してしまったこともあって、もう現存しているものはない。
そんなすごいものが、なんと屋外に展示してあった。
そんなすごいものが、なんと屋外に展示してあった。
説明も超詳細(白状すればここへきて初めて「へぇ、ロッキード式ってこうなってるのね…!と学んだ私である」
説明も超詳細(白状すればここへきて初めて「へぇ、ロッキード式ってこうなってるのね…!と学んだ私である」
記念にツーショット写真
記念にツーショット写真

そして惜しげもなく上映中の当時の貴重なVTR

館内で上映されているVTRでは、ロッキード式が走っていた当時の姿がよくわかる。
館内で上映されているVTRでは、ロッキード式が走っていた当時の姿がよくわかる。
とてもよくわかる。ああ。足が猫バスみたいでかわいい。
とてもよくわかる。ああ。足が猫バスみたいでかわいい。
ほら、真ん中に、ロッキード式独特の鉄のレールが!
ほら、真ん中に、ロッキード式独特の鉄のレールが!
しかし、このVTRのまたオツなことといったら。運転席の脇で上映し、当時の運転席の窓からの風景をそのまま表現している。
しかし、このVTRのまたオツなことといったら。運転席の脇で上映し、当時の運転席の窓からの風景をそのまま表現している。
在りし日の手柄山駅に到着するところでVTRが終わるというオツさよ。いま同じ場所に立っているとおもうととても不思議な気分。
在りし日の手柄山駅に到着するところでVTRが終わるというオツさよ。いま同じ場所に立っているとおもうととても不思議な気分。

当時の建物がなんだか素敵すぎる

そして2階あがって正面のスペースでは、ずっと1966年の姫路大博覧会の映像を上映しているのだが、このVTRもなんだかすごすぎる。というか、姫路大博覧会がすごすぎる。1966年といえば、大阪万博の4年前だが、「ここは本当に日本でしょうか」というような、おもいきった建物がこれでもかと建てられているのだ。
名前に忠実なレインボーブリッジとか
名前に忠実なレインボーブリッジとか
ロックガーデンとか。ちょっとディズニーみたいだけど東京ディズニーランド開園の17年前である。
ロックガーデンとか。ちょっとディズニーみたいだけど東京ディズニーランド開園の17年前である。
そしてもうひとつ。そんな素敵な当時の博覧会会場を再現した模型のなかで、モノレールが走りまわっていた。
夢の国の全体像がここに。
夢の国の全体像がここに。
こんなメルヘンで可愛らしい建物が実在していたのだ、1966年には。
こんなメルヘンで可愛らしい建物が実在していたのだ、1966年には。
と、感慨にふけっていて、私は気づく。
この建物、さっき、見た気がする。
この写真の矢印の部分。
この写真の矢印の部分。
ほら、これ。え、嘘…!
ほら、これ。え、嘘…!
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そして私は1966年にトリップした

嘘のようにそのまま残っていた、1966年の「スリラー塔」(ちなみにマイケル・ジャクソンのヒット曲『スリラー』は1982年)
嘘のようにそのまま残っていた、1966年の「スリラー塔」(ちなみにマイケル・ジャクソンのヒット曲『スリラー』は1982年)
おそらいしよう、これが1966年。
おそらいしよう、これが1966年。
2011年。見事にそのままじゃないか…!
2011年。見事にそのままじゃないか…!
そしてふつうに近づけるみたいだからどんどん近づくのだ。
そしてふつうに近づけるみたいだからどんどん近づくのだ。
こういう木の植え方とか、たぶん日本初だろう。
こういう木の植え方とか、たぶん日本初だろう。
なんだか重力に反している建物
なんだか重力に反している建物
スーパーマリオっぽい城(スーパーマリオブラザーズの発売はこの19年後)
スーパーマリオっぽい城(スーパーマリオブラザーズの発売はこの19年後)
そしてふつうに登れちゃうみたいだし
そしてふつうに登れちゃうみたいだし
マリオっぽい橋もふつうに渡れちゃうみたいなんだ
マリオっぽい橋もふつうに渡れちゃうみたいなんだ
いいんですよね…?
いいんですよね…?
いいのよね…?
いいのよね…?
と登ってきたらなんだかすごいところに着いてしまって
と登ってきたらなんだかすごいところに着いてしまって
絶景なのである。真ん中にみえるのが、1ページ目で追いかけていたモノレール軌道跡。
絶景なのである。真ん中にみえるのが、1ページ目で追いかけていたモノレール軌道跡。
たぶん紙幅はとっくに尽きているが高速化するインターネットインフラをいいことにまだ進めよう、だって1966年の「ロックガーデン」もやっぱりそのままあったのだ。
これ。
これ。
このやたらと貴重そうな建物も
このやたらと貴重そうな建物も
ふつうに登ってこれて
ふつうに登ってこれて
絶景なのである。
絶景なのである。
最後に「まさかね」と思いつつやっぱり現存していた、エヴァンゲリオンの使徒みたいな回転展望台。
最後に「まさかね」と思いつつやっぱり現存していた、エヴァンゲリオンの使徒みたいな回転展望台。
「まさかね」と思いつつ
「まさかね」と思いつつ
2011年現在、そのまま営業中なのである。
2011年現在、そのまま営業中なのである。

太陽の塔にのぼってピラフ食べた、みたいな気分だった

なんだか当たり前にそこにありすぎて、「45年前の博覧会の建物がそのままそっくり残っている」というのがすごいことなんだか普通のことなんだかわからなくなってしまったが、片や太陽の塔を擁する1970年の大阪万博記念公園は、いまや世界遺産への登録を目論んでいるし、太陽の塔にはのぼってピラフ食べたりできない。

手柄山公園はほかに水族館(これも1966年からある)やプール、遊園地など、現役のいろんな施設が充実していて、休日、地元のひとでおおいににぎわっていた。モノレールのVTRには、孫を水族館につれてきたおじいちゃんが「お、なつかしいねぇ」と見入っていたし、東京からやってきて、やたらモノレールや建物をありがたがるような観光地ではない、そういう自然なありかたが居心地よく素敵だとおもった。

でも私はまた行くとおもうし、行ったときにはやはり、モノレール展示室で「1966年、マジすごい」と気分を盛り上げてから当時の建物をめぐるのがおすすめである。
回転展望台で45年間かわらない(たぶん)ピラフの味をかみしめる
回転展望台で45年間かわらない(たぶん)ピラフの味をかみしめる
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