門真は良い町
最寄り駅である門真南駅から徒歩で現場の団地へと向かう。この町、大都会という感じでは決してないが、そこかしこに先端の技術を感じさせる建造物が見られる。
駅前にはSFめいた謎のドーム。
近未来的な巨大高架も
かと思えばその向かいには水田とレンコン畑が広がっている。
反面、緑も多い。
こういう妙なバランスのとれた街が僕は大好きだ。
「打倒、門ページけいさつ」という謎のメッセージが落書きされた自販機。平和な町なんだろうなあ。
一見デンジャーな雰囲気の落書きだが、よく見るとゆるゆるである。そのゆるさがかえって治安の良さを感じさせる。良い町だ。
名物マスターのいる店にて
さて、この町に着いたのはちょうど昼時。腹の虫が鳴きはじめている。こんなことでは戦にならぬと飲食店を探すが、驚いたことに駅の周辺にはそれらしい店がほとんど見当たらない。
仕方が無いので団地へ向けて歩を進めているうちに一軒のお店が目に入った。
やっと見つけた喫茶店。音符が楽しげに踊る外壁から滲みだす不思議な魅力にひき寄せられ入店。
店内に入ると人の良さそうなご夫妻が笑顔で迎えてくれた。
店内は気取りすぎないアットホームな雰囲気。食事もやさしく懐かしい味わいで大変美味しかった。
ただ食事をとってすぐに出る予定だったのだが、このマスター御夫婦が非常に痛快な方々で、いろいろと話し込んでしまった。
そのうちに話題はエスカルゴへと移ったのだが、「そんなニュースもあった気がするが最近は何も続報を聞かない」とのこと。
なんとわざわざ町の事情通に電話でエスカルゴ情報を聞き出してくれた。
例の団地に住まう常連さんたちに電話で尋ねていただくも、近況については分からずじまいであった。
不安が募る…。
奥様はなんとシンガー。お店の二階ではカラオケのご指導をされているのだとか。
その後も楽しいお話をたくさん聞かせていただいたうえ、団地への道案内もしていただけた。生き物を探すのも楽しいが、旅にはこいう人々との出会いも欠かせない喜びであることを改めて認識した。
お礼にこの場を借りて少しお店の宣伝をさせていただく。
喫茶・軽食・カラオケ みひろ
大阪府門真市三ツ島282-2
電話/FAX 072-842-6662
エスカルゴだけじゃない!外来種オンパレード!!
団地へ向かう途中、水路を発見。
僕には子供の頃から、こういう水辺を見ると、いてもたってもいられなくなるという嫌な癖がある。早速、網を持って水辺へ。
メダカのように見えるが実はカダヤシという外来魚。
メダカのようなかわいい小魚が採れた。実はこの魚、カダヤシ(漢字で書くと蚊絶やし)という北米原産の外来種である。その名の通り蚊の幼虫であるボウフラを撲滅する目的で日本に持ち込まれたが、想定外の生命力の強さでボウフラどころかメダカなどの在来種まで駆逐しながら全国に分布を拡大している。「世界の侵略的外来種ワースト100」というランキングにも選定されている厄介者なのだ。
通行人に餌をねだって集まってくるミシシッピーアカミミガメの群れ。
さらに水辺には外来種のカメの姿も大量に。「ミシシピーアカミミガメ」なんて言われてもピンと来ないかもしれないが、要は大きくなってかわいらしい面影を失ったミドリガメである。もともとペットとして飼われていたものを心無い飼い主が持て余して放逐し、それが繁殖してしまったものだろう。こういう光景を見るのはやはり残念である。
ニホンヤモリ。名前に「ニホン」とついているが実はこれも大陸からの移入種とされている。
大阪と言えばこいつ。オーストラリアからやってきたセアカゴケグモ。門真にもばっちり生息していた。
言わずと知れた毒グモであるセアカゴケグモも侵入していた。滅多なことでは人を咬むことはないと言われているが、住民の方にはよくよく注意していただきたい。
外来種以外にも、関西ならではと言える生物たちを目にすることができた。
外来種ではないが関西に多い水鳥であるケリ。初めて見たので興奮した。
鳴いているセミはクマゼミばかり。西日本らしい光景だ。こちらももちろん在来種。
えっ、採っちゃダメなの!?
噂の団地に到着。
ここだ。何の変哲もない閑静な団地である。
団地内限定でエスカルゴが繁殖していると聞いていたので、よほど特殊な環境なのだろうと踏んでいたのだが、決してそんなことはないようだ。
団地のそばには水辺もある。これで非常時もエスカルゴのモイスチャーキーピングはばっちりだ。
晴天が続いているためかエスカルゴどころか普通のカタツムリの姿も見当たらない。這った跡さえ見つからない。
本当にここでいいのだろうか。ひょっとして同じような名前の団地が別にあるのではないだろうか。ここにエスカルゴがいるという確証がほしい。
団地内をうろうろしていると驚くべき張り紙が目にとまった。
張り紙に「外来カタツムリを採取しないでください」の文字。エスカルゴのことだ。
あ、やっぱりここなんだ。よかった。いや、よくない。採っちゃダメなのか。これでは取材にならない。真っ青になった。
樹木や花壇の管理をされているという住人の方を探し出して詳しく事情を尋ねたところ、これは外来種であるエスカルゴが団地の外に拡散してしまうのを防ぐための対応であるとのことだった。よって元いた場所に帰すのであれば、探し出して撮影する分には問題は無いとご指導くださった。試食の夢は断たれたが、なんとか取材は続行できる。ほっと一安心である。
ようやく捜索開始
落ち葉の下や
こんな物陰が怪しい。
木の洞も要チェックだ。
晴天時、カタツムリの類はじめじめした日影に隠れ潜んでいる。
植え込みなどの日影を中心に怪しいと思われる箇所を入念に探っていく。
どっちがエスカルゴだかわかったもんじゃない。
エスカルゴ用トラップと思しきものが仕掛けられていた。外部の団体も調査に入っているようだ。中を覗いてみたかったがそこはぐっと我慢。
と、その時。背後から「何探してるの?」という幼い声。
虫捕りをしている少女に話しかけられる。よかった、仲間がいた。
虫捕り少女であった。地面を這いつくばる僕を見て同類の匂いを感じ取ったようだ。
カタツムリを探しているという旨を伝えると、僕が虫捕りに精通していると思い込んだらしく、「さっきからバッタしか採れない。チョウの採り方を教えてほしい。」と頼まれた。
近くをアゲハチョウが飛んでいたので、「アゲハの仲間は同じルートをぐるぐる飛んでいるから、同じ所で待ち伏せしていたら捕まえられるよ。」と教えてあげたところ、それに従い見事にモンシロチョウを捕まえていた。なぜだ。
お母さんに見せてあげるそうだ。もう昼間からカタツムリを探してるような怪しい人に近付いちゃだめだよ。
「ありがとう!」と言って去って行ったが、僕のアドバイスが全く無意味だったことには彼女も感づいているだろう。気を遣わせてしまった。
エスカルゴ、捕獲!
さて、本題に戻ろう。エスカルゴである。
なかなか見つからないので、もう全て駆除されてしまったのではないかと悲観的な考えが頭の中を支配しかけたその時。
怪しいプランターを発見。
いたー!
これだー!エスカルゴだ!生きている姿を見るのは初めてだが、雰囲気ですぐにそれとわかった。明らかに国産のカタツムリとは佇まいが異なる。
日本のカタツムリよりも殻の高さがあって丸っこいイメージ。模様も特徴的で美しい。
食用に供されるだけあって結構大きい。つまみ上げてもずっしりと重い。
ビジュアル的には非常に良い生物である。
乾燥に耐えるため、殻の口には膜が張られていた。
連日の晴天で休眠状態に入っていた。やはりここは動いている姿が見たい。
ミネラルウォーターをかけてやると…。
おっ、ツノを出したぞ。
動き出した。皆さん、これがエスカルゴの姿ですよ。
ちなみにこのエスカルゴは和名ヒメリンゴマイマイ、仏名プチグリというかわいい名前を持っている。しかし、その名の響きに似合わず繁殖力旺盛で海外では農業害虫として忌み嫌われることも多いそうだ。
正面からのショット。うーむ、かわいい。
満足である。エスカルゴが見つけられて満足である。たっぷりとこころゆくまで観察した後は言いつけに従い、元いたプランターの下へと戻してやった。外来種をわざわざ野に帰してやることに少々の違和感を覚えたが、郷に入っては郷に従えである。ひょっとすると外部の団体が捕獲したのちに研究に用いるということもあるのかもしれない。
さらに小さな小さなカタツムリを発見。おそらくエスカルゴの子供と思われる。
工藤さん、仇はとったよ…。
大量発生とはいかないまでも、確かに大阪の団地にエスカルゴは生きていた。2年越しの続編記事となってしまったが、なんとか形になって安心している。ただ単に今回はタイミングが良かっただけだと思うが。
外来種であるエスカルゴは本文中に登場したカダヤシのように、在来の生態系に悪影響を及ぼす恐れがあるため、早急な駆除と団地外への拡散の阻止が求められる。
しかし、エスカルゴたち外来生物を見つけた時は遺憾に思う一方で、妙な興奮を覚えてしまったのも事実だ。この複雑な気持ちにどうやって折り合いをつければいいのだろう。今後の個人的な課題である。
道中見かけた看板。逆に本気じゃない婚活ってなんだ。はしたない。婚活くらい言われるまでもなく本気でやっていただきたいものだ。