特集 2011年8月10日

“黒スリット絵”で運動神経がよくなる

夢が6コマで叶う。
夢が6コマで叶う。
私は運動が苦手だ。幅跳びは1m58cmくらいしか飛べないし、球技でも鈍くさかった。ここでもたびたび記事のネタにしている(「夢の幅跳び写真を撮った!」「マンガのようなバッティングをしたい」など)。

40を超えたライターに、運動が苦手だなどと始められても皆さん困るだろうが、生きてあるうちはどこまでも付きまとう問題である。どうにかならんものか。

運動能力を実際に高めることは無理でも、せめて「できた」気分になりたい。常にそんな願望を抱く毎日の中、あるものが心に留まった。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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温故知新ですよ

先日、資料用に買った「別冊太陽 明治・大正・昭和 子ども遊び集」(1985年春発行)。たまにパラパラめくっては、何かネタになりそうなものはないかと、つらつら考えたりしている。
いい本を買ったものだ。何度見ても何か発見がある、気がする。
いい本を買ったものだ。何度見ても何か発見がある、気がする。
その中の、あるおもちゃが目に留まった。黒く細いスリットの中で絵が動く…これ、昔もあったんだ!
その名も「活動写真」。
その名も「活動写真」。
ハンドル式だ。現代の雑貨屋に置いてあってもいい、かわいさ。
ハンドル式だ。現代の雑貨屋に置いてあってもいい、かわいさ。
絵が動いて見えるのは、たぶん数枚の連続絵が細かい帯状に描かれており、その上を黒い縞が通ると絵が順番に現れるから、だろう。

ところで、さっき「昔“も”」と言ったのは、最近の仕掛け絵本で同じ原理を用いたものを見たからだ。ページをめくると、そのめくったページに黒スリットが引っ張られて、下の絵が動いてみえるという仕掛け。初めて本屋の店頭で触れたときは、たいへん衝撃を受けた。

自分が見たのは、シルエットの馬が走るといったものだったが、ある雑貨屋でスターウォーズものを売っていたので、即買ってみた。
まだ出続けるのか、スターウォーズ関連グッズ。
まだ出続けるのか、スターウォーズ関連グッズ。
さっそく開いて遊んでみよう。パカッ。おお、動く動く!パタッ。おお、動くー。パカッ…(延々と続く)
電気的な仕組みもないのに、手の中で絵が動く快感がここにある。そして、なぜこう動いてみえるのか、という不思議さがさらにまた魅力的だ。

ささやかな夢に涙、お宝破壊に涙

すごく滑らかに動いている気がするが、ゆっくりゆっくりページを開いてみると、6コマから成っていることがわかる。
父と子の対決が、6コマで。
父と子の対決が、6コマで。
黒スリット(正式名わからんのでこの言い方で行く)の幅と間隔を調べると、確かに、黒い部分は隙間の幅の5本分にあたる。黒+隙間で6コマ、というわけだ(わかる?)。

口で言っててもわかりにくいので、ちょっと本を分解させてもらって調べてみよう、そうしよう。内心、とても悲しい気持ちでカッターを入れる(自分はスターウォーズファンなので)。
なるべく、なるべーく損傷の少ないように…
なるべく、なるべーく損傷の少ないように…
思ったより少しだけ複雑な構造。
思ったより少しだけ複雑な構造。
これが黒スリットだ。水平に貼らないと全てダメになるな。
これが黒スリットだ。水平に貼らないと全てダメになるな。
残像大会になっている元の絵。
残像大会になっている元の絵。
近寄ってよく見ると、6本ごとに絵が現れるようだ。なるほどー。分解してしまえば、原理はまあ、思っていたとおりのものだ。しかしスリットが非常に細いので、再現できるかどうか。

そう、私はこの黒スリットの向こう側で、かっこよく運動をしてみたいと思うのである。6コマの夢だ。ささやかな願いであり過ぎて、自分で涙を禁じえないほどだ。

しかし工程は、ささやかとはまるでいかなかった。

とりあえず机の上で敢闘

完成したらいくらでも動ける(紙の上で)とはいえ、まずは、元となる6コマの写真をどうしても用意しないといけない。

例えば、陸上選手のような幅跳びをしたいと思ったら、それっぽい写真を無理にでも用意せねばならない。というわけで、過去記事からだが、コマ割りでちまちま撮って適当に合成して幅跳び気分を味わった写真があるので、練習用にこれを使おう。
4年も前になる。今見てもひどい。
4年も前になる。今見てもひどい。
もちろん、これをどうやって細いスリットに合うように加工するか本当のところはわからないが、ソフト(フォトショップ)を使って見よう見まねでやっていけば、まあなんとかなるだろ。運動は嫌だが、こういう作業は大好きだ。小学校などの先生も、運動できない子には「こういう道もあるんだよ」と教えてあげたらいい。
上の写真から、6コマを厳選。
上の写真から、6コマを厳選。
一枚重ねて、慎重に黒スリットを塗る。
一枚重ねて、慎重に黒スリットを塗る。
モアレというか画像処理の事情で、妙に不安な縞々が浮上。
モアレというか画像処理の事情で、妙に不安な縞々が浮上。
黒い部分に重なったところを消す。コマごとに、隙間分ずつずらして消す
黒い部分に重なったところを消す。コマごとに、隙間分ずつずらして消す
全部のコマがほぼくっついてないのでわかりにくいが、これでいい、はず。
全部のコマがほぼくっついてないのでわかりにくいが、これでいい、はず。
モニター上で、黒スリットをちょっと動かしてみた。おお!これだ、まさにこれ。自分が右からポンポン飛び出て、気持ちよく幅跳びをしていくではないか。とうぜん逆方向にスリットを動かすと、自分が左からポンポン飛びのいているように見えるわけだが。
間違えてコマひとつ欠落している。申し訳ない。
間違えてコマひとつ欠落している。申し訳ない。
理論的には成功である。この調子で、もうひとつ、長年の夢というか積年の恨みというか、ある種目というか技を、紙上で完成させたい。これもまた鈍くさくて自分で嫌になる。

バクテンまでも行かない

それは、側転である。あれができない。できる方には本当に遠い星の話に聞こえるだろうが、できないもんはできん。

一瞬だけ真の逆立ちになる、あの瞬間が耐えられないのだ。私はいつでも、やる前にあきらめるタイプだった。ついでに言えば跳び箱の4段も、足をひっかけやしないかと恐れて跳ぶことができない。まあそれはいい。

側転である。まずは十何年、下手したら数十年ぶりの、本気の側転をやってみよう。
のんきな体勢。
のんきな体勢。
ほらな。もう最初からやる気ない。体育の先生も大変だ、こんな生徒を相手にしなくてはならないのだ。そりゃ、砂利を頭からかけたくなる(高校のときふざけてたら本当にやられた)。

まあでも、コマ撮りなら側転もらくらくじゃないか?ははは。という軽い気持ちでさあほら撮影だ。
こうかな?
こうかな?
こーんな感じ?
こーんな感じ?
真ん中、クライマックス、これぞ側転という逆立ちの部分は、とばす。あとからバボちゃん(バレーボールのあのキャラ)のような立ち姿勢を別撮りして、逆さにして合成する所存である。
・・・で、着地、と。
・・・で、着地、と。
やりきったという表情。
やりきったという表情。
ささ、うちに帰って合成しようそうしよう。
こんな感じで切り抜いて→
こんな感じで切り抜いて→
こんな感じに。真ん中は、最右の立ち姿勢を反転させて手・腕の角度もいじった。How 姑息。
こんな感じに。真ん中は、最右の立ち姿勢を反転させて手・腕の角度もいじった。How 姑息。
あとは紙にプリントして、動くような仕掛けを作るだけだ。
だけ、とはいうものの、ここからがとても大変だったのだけど、書くのもいまいましいのでダイジェストで送る。

・本のとおりに厚紙を切ったり貼ったりしたはずなのに、微妙に位置が合わない。
・本のとおりの大きさで画像を作ったが、スリットサイズが小さかったようで、肉眼では動いて見えるが撮影ではほとんどモアレ。
・なのでスリットを大きめにして、また一から画像加工(元のトリミングした連続写真はもう残ってない)
・一からプリント、そして紙工作。

モニターとプロダクトの間には、予想もしない障害がたくさんあった。半分は私の適当な性格から来るものだろう。体育がダメでこういうのもダメだったら、今後は何で補完したらいいのか。
別紙で作るのはあきらめた瞬間。本を「ハッキング」することに。
別紙で作るのはあきらめた瞬間。本を「ハッキング」することに。

遠い昔、遥か銀河の彼方で…側転

もう一から台紙を作るのはあきらめたので、申し訳ないが元のスターウォーズの本にお邪魔させてもらうことにした。前後のストーリーとはもちろん何の関係もない。

まったく本のフォーマットどおりに写真とスリットを裁断する。ついでに言うと、このときも実装後にスリットサイズの関係でうまくいかなかったので、再度プリントと裁断をする羽目になった。何これ超むずかしい。
元にきれいに戻すことを考えて、マスキングテープで。
元にきれいに戻すことを考えて、マスキングテープで。
スリットシートは、透明ラベルに印刷して、ビニール袋に貼り付けて作った。もう適当。
スリットシートは、透明ラベルに印刷して、ビニール袋に貼り付けて作った。もう適当。
やっと嵌め込み完了だ、手間がかかったもんだ。

ドラえもんの「割り込みビデオ」を使ったごとく、スターウォーズの世界になぜか割り込ませてもらったのが、こちら。
ダースモールとの死闘!オツ=ワンも跳ぶ。
ヨーダ、熟練の剣さばき!オーダ、未熟の側転。
跳んでる跳んでる、回ってる回ってる。順回し、逆回し。あはははは。

動画ではちょっと見えにくいかもしれないが、もうビョンビョン、グールグルだ。本の世界の中では、憧れの「運動神経バツグン!」ってやつである。心のかたすみでこれ違う!という言葉も聞こえないでもないが、私は満足だ。
静止画だと、UMA(未確認動物)みたいだ。
静止画だと、UMA(未確認動物)みたいだ。

個人のコンプレックス解消に、4ページ使ってしまった。時間も手間もかかってしまった。

できあがったときは「おお跳んでる跳んでる」「おお私回っとる回っとる」と喜んでいたが、しばらく後、冷静な気持ちを取り戻した。なんだこりゃ。

でも静止画さえ撮れば、ライトセーバーも操れるし馬にも乗れる。体育系のコンプレックスはこれで補完だ。次は数学系のコンプレックスをどうごまかしたらいいか考えたい。
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