誰でも観光大使になれる町、香美町
知り合いと飲んでいたら、「僕、兵庫県の香美町観光大使になったんですよ」と突然切り出された。なにそれ、実は昔ジャニーズジュニアだったくらい意外な告白。
彼は香美町出身の女性と結婚したそうだが、本人は特に香美町と関わりがあるわけでもなく、里帰りで数回いった程度だという。そして彼は芸能人でも有名人でもないはずだ。
私の中にある観光大使のイメージが詰まったポスター。これは群馬ですね。
なんでも香美町というところは、一般から観光大使をカジュアルに募集しており、香美町のPRをする気さえあれば、誰でも気軽になれるものらしい。そりゃならねば。
私も観光大使になりました
家に帰ってさっそく香美町公式サイトの募集ページをチェックすると(
こちら)、観光大使の任務は「焼きガニうまいで」とか「但馬牛、ジュウジュウいっとったで」とかいっていればよく、その募集人数はどーんと400人。
そんなことで憧れの観光大使になれるのならばと、香美町の場所すらよくわからないままに即応募。
数日後、数種類の観光案内と共に、町長名義で書かれた観光大使の証明書が送られてきた。
これらのパンフレットを見て、兵庫県が日本海に面しているということを初めて知った。そんな私が観光大使だ。
自薦とはいえ、香美町長からの任命なのである。カニと牛のかわいい合成獣バッチも入っていたよ。
観光大使になった目的を正直に言うと、先人にやられたように、「俺、実は観光大使なんだぜ」といって、ニヤリとしたいだけだったりする。
しばらくは誰かに会うたび自慢させていただいた。
一度くらいは観光してみよう
しかしだ、やはり観光大使になったからには、さすがに一度くらいは現地を訪れて、ある程度は香美町を語れるようになっておかないと格好がつかないだろう。ペーパー観光大使、よくない。
そこでスケジュールに余裕のあった六月末、一泊二日で香美町までいってみることにした。
編集部の工藤さんに撮影係をお願いしました。乗換で立ち寄った姫路のロッテリアにて。(
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姫路からは特急で本州縦断。海って何回見ても、「おお!」って思う。
実際にいってみると、香美町はなかなか遠い。朝五時過ぎに自宅を出て、町役場のある香住駅についたのが午後一時。
でも私は観光大使なので、少し遠いなと思うくらいが本当の旅だよねと思うのだった。基本的には、大阪あたりから来る前提の観光地なのかな。
「きちゃったネ…」ってどういうことだよと思いながら記念撮影。やっぱりなにか騙されているのか。
歓迎ならぬカニ迎。
香住駅はカニ押しだった。香美町は日本海に面した町で、どうやらカニが名物らしい。
カニといえば冬の食べ物。どうも来る季節を間違えたようだが、カニのない季節だからこそ味わえる、香美町の底力を堪能したいと思う。ちなみにカニは大好きだ。
町役場にいったら町長が待っていた
香美町にやってきて、まず最初に向かったのは、香美町役場の観光商工課。担当者にあって、観光大使募集のいきさつを聞いてみたい。
駅前の通りで第一町人発見。特に話しかけたりはしませんが。
観光大使なのでビチっとスーツを着てこようと思ったが、クールビズで失礼します。
受付後、すぐに観光商工課の方がやってきて、こちらへどうぞと通してくれた場所は、なぜか町長室だった。
そしてそこには香美町長の長瀬幸夫さんがいた。なぜなら町長室だからだ。
まさかの町長さん登場。町長さんらしい町長さんだ。
いきなりの政治家登場にアワアワしていたら、商工観光課の方は去っていき、部屋には町長さんと同行の編集部工藤さん、そして私だけが残された。
放心状態の観光大使。
我々の企画意図がどこまで町長さんに伝わっているのかわからないが、「こんなに熱心な観光大使はいませんよ!」と、大歓迎していただいた。
ドキドキしながら観光商工課の人に聞くはずだった観光名所などを聞いてみる。夏はアユやイカがおいしく、三姉妹船長の遊覧船がおすすめとのこと。
極度の緊張に背中から湧き出る冷たい汗。クールビズできてよかった。
観光大使のタスキを持参してきた
ところで観光大使といえば、肩から○○観光大使と書かれたタスキを掛けているイメージがある。
私も観光大使のはしくれとして、あのタスキが欲しかったので、自分で業者に発注して作ってきた。
町長との会談中、これ以上なにを話したらいいかわからなくなってきたタイミングで、鞄からタスキを取り出してみた。
「実はこんなものを持参しました」と町のトップにプレゼンテーション。手が震えて思うような準備ができない。
こういう行動は当然恥ずかしいのだが、さしさわりのない会話より、突然の奇行のほうが心は落ち着く。
自ら花まで付けたタスキを掛けて、町長の横に並んでみると、もはや私は本当の観光大使にしか見えなくなった。
「素晴らしいタスキだ!」と褒めてもらった。観光誘致のために頑張ります。
このタスキがなくても私は本物の香美観光大使なのだが、やはり物理的な肩書は大事である。
タスキは二本用意したので、この場で町長から観光大使に任命された工藤さんにも掛けていただいた。
香美町出身の中堅お笑いコンビが観光大使になりました。みたいな写真。
この様子を町の広報誌に載せましょうと、写真を撮ってもらった。いろいろとおおごとである。
出発前はまったくなかった観光大使としての責任感が、だんだんと沸いてきた。おれ、この町が好きだ。
タスキをしたまま歩いてみる
七つの海水浴場と四つのスキー場がある香美町(町長の受け売り)、せっかくなのでタスキをしたままで観光をしてみようと、とりあえず海へと歩いて向かった。
肩から掛けた香美町観光大使のタスキ、自分の知り合いに会う心配のない町だからか、カメラマンが横にいるからか、はたまた観光大使としての自覚からか、なんだか全然恥ずかしくなかった。むしろ誇らしい。
恥ずかしくはないが、視線は集まる。観光大使のコスプレしている人にみえてやいないだろうか。本物ですよ。
タスキがツルツルと肩から滑り落ちる。やはり肩パットの入ったピンクのワンピースも発注するべきだったか。
すれ違う人が私を見ている。集団下校をする子供たちも、トラックに乗った怖いおっちゃんも、みんなが微笑みかけてくれる。やはり観光大使の肩書は大切だ。
すごい、タスキ一つで世界が変わった。私もだんだんその気になってきて、自分から手を振ったりしたのだが、魚屋のおばちゃんに「タレントさん?」と聞かれて、急に恥ずかしくなった。ごめんなさい、一般人です。
白い手袋もしてみた。町議会議員選に出る人ではない。
観光大使、香美町をゆく
香町観光大使のタスキを掛けた東京(正確にいうと埼玉)からきた一般人。でも本物の観光大使。
自分のこの立場を、言葉でうまく説明することができないのだが、そのあたりの違和感を含めて、町の人とのコミュニケーションが楽しい。
自分の似顔絵を商品パッケージにしちゃったお土産物屋さんにて。活きたシロイカを見せてもらった。
海の見えるカフェでおねえさんと一枚。
このタスキをしていると、猫も愛想がいい気がする。
香美町の人はみんな優しく、記念写真も気楽に応じてくれる。これは私が観光大使だからなのか、土地柄なのか。
お店に入っても撮影許可を撮ったりするのがスムーズなので、香美町滞在中は常にタスキをぶら下げていた。
町長がお勧めしてくれた観光船かすみ丸へとやってきた観光大使。
世界ジオパークにも認定されているこの絶景を、もっと多くの人に見てほしいと思う観光大使。
夏にカニやアカムツはないけれど、何を食べてもおいしい町。イワガキやイカが旬ですよ。
香美町の詳しいことは、私ではなく観光協会で聞いてください。
香美町の観光を応援する歌、「香美にカミング音頭」
一泊二日、滞在26時間という短い旅だったが、新米香美観光大使として、そしてただの観光客として、力いっぱい楽しんだ。
まだまだ行きたかったところや食べたかったものはいっぱいあるけどね。
「みんなも香美町においでよ!」とアイドル気どりで手を振ったのだが、写真を見たら覚えたての蟷螂拳みたいになっていた。
この楽しかった思い出をどうやってみんなに伝えればいいだろうと考えた結果、ありがちだがオリジナルご当地ソングを作ることにした。
二日間撮影に付き合わされた、熱中病寸前の工藤観光大使。
カラオケ作成は私がやっている
二人羽織バンド、タンデムの上西さん改め香美西さん。
一応自分で作った歌なのだが、正解のメロディがよくわからず、「目が泳いでいる歌声」と評された。
以下、カラオケ映像風の画像と思い出メモを用意したので、脳内で動画にしてお楽しみください。歌詞と写真はあまりシンクロしていません。
観光大使の重要な役割といえば、やはりテープカット。公園にあった適当な遊具で勝手にやってみた。(
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私がこの滑り台で滑った1万1人目でーす!(ウソ)
宿は観光らしくビジネスホテルではなく旅館にしたのだが(この町にビジネスホテルは存在しない)、ここの晩御飯がうまかった。
宿についてすぐネットラジオ収録の準備をする工藤観光大使。
泊った宿がアタリで、何を食べても本当においしかった。宿の中でもタスキをしていました。
イカの姿造りを激写する工藤観光大使と、レモンを絞ってイカを動かそうとするおかみさん。
アワビのステーキに大興奮。ところでイカのゲソをそのまま齧って食べてしまったのだが、あとから「塩焼きにしましょうか」といわれて恥ずかしかった。もう食べちゃったよ。
食事から戻ってきたら、蒲団が並んで敷いてあった。男同士だと、どういう距離が正解なんだろ。
まだ寝るには早いので、海沿いの飲み屋で、地元の人達と夜の観光大使。
食事の後に、「めいぷる」という飲み屋にやってきて、お店のおねえさんと記念写真。せっかくのタスキが東急ハンズのパーティーグッズに見えてきた。
慣れないことをして照れる観光大使。もはやただの酔っぱらいだ。
ここで食べたアジの刺身が抜群においしくて驚いた。
香美町二日目は、独特の様式美を保っている町の散策からはじめてみた。
屋根も壁も黒い木造の古い建物がたくさんの残っている。
このショッピングセンターでなんでもいいから買い物がしてみたい。
古い街並みにいたく感心していた工藤観光大使。当たり前だけれど、人によって観光の見どころは違うようだ。
漁港にあったリアカーがかっこいい。
目的もキャラクターもなんだかよくわからないなにか。
こういった店が当たり前に残っている。次のテレビ小説、この町を舞台にすればいいのに。
遊覧船の船長は、親子二代にわたる三姉妹というゲームかドラマの世界みたいな設定だ。設定というか、本当の話。
初代三姉妹の長女と、その娘二人と、その子供に見あげられている観光大使。
その昔、航海の安全を願ったかえる島。カエルと帰る、奇岩と祈願のダブルご利益!
昨日いった飲み屋のマスター(写真左)が、地引網をやるといっていたので混ざってきた。我々が帰った後、「あれ誰?」って聞かれたことだろう。
小雨が降る中、子供達と無邪気に遊ぶ観光大使。このタスキがすべての免罪符になっている気がしてきた。
解体されて一部だけが残っている余部鉄橋に手を振る観光大使。鉄道は詳しくないので、ありがたみがよくわかっていない。
帰りの電車までちょっと時間があったので、香住のスターバックスこと茶茶で一息。電卓かと思ったらエアコンのリモコンだった。
「きちゃったネ…」ではじまって(1ページ目下から二枚目の写真)、「またきてね」で終わるツンデレな香美町。(
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カラオケ版はこちら。歌えるようになっておいてください。
私が香美町にいったのは6月末。カニやノドグロには遅く、海水浴にはまだ早いという、いってみてわかったのだが、一番なにもない時期だった。
「なんでこの時期に観光大使…」と多くの町民にいわれたが、この時期でもみるところ、食べるものはいっぱいだったよ。
この記事、同行の工藤さんが書いたら、載せる写真やエピソードが、ぜんぜん違うんだろうな。
香美町、名前だけでも覚えてください
香美町という場所、観光大使になれるというきっかけがなければ、まずいくことはなかっただろうし、名前を覚えることすらなかったかもしれない。
私と同じように香美町を知らなかったとうい人は、名前だけでも覚えてもらえればと思う。
翌日、大阪のビアガーデンで香美町のPRをする観光大使。誰かこのタスキ、受け継ぎませんか。