サビだけ歌いたい人もいればソロを聴きたい人もいる
短くなっているといえば、JOYSOUNDには「サビカラ」というサービスがある。サビだけを歌えるカラオケだ。選曲するといきなりサビが始まって、サビだけで終わる。そういうことしていいんだ!?という発明だと思っている。
林:
「サビカラ」はいつからですか?
金子:
2021年からですね
林:
あれは大発明ですね。
でも、おふたりのような元々音楽畑の人からすると、抵抗ないですか?
金子:
……ありますよ(笑)。音楽をやっている人間からすれば、ソロパートなど、サビ以外でも聞かせどころはあるんです。だけど、カラオケで歌う人は、やっぱりサビをいちばん歌いたいわけですから、そこから始まるってのは、理にかなっているでしょうね。

阿部:
かと思えば「ホテルカリフォルニア」の後奏をカットするなみたいな、そういう声もある。
金子:
あります(笑)
阿部:
ギターソロを聞くために入れているという声も。
林:
ホテルカルフォルニアをカラオケで入れる人からの声が
阿部:
かと思えば、別の曲では真ん中のギターソロが長いとか、原曲通り再現すると長いっていうご意見があったりとか。まちまちです。
金子:
楽曲の長さっていうのは、クラシックなんてものすごい長かったですよね。オペラが2時間、3時間。交響曲になって1時間。それがジャズとかロックになって5分とかで、さらに今はもう3分とか、そういう世界になってきてますので。
カラオケルームの使われ方の変化・ミシンの貸し出しをしている
ずっとイーグルスの話を続けたくなるが、カラオケルームそのものの使われかたにも聞いてみた。
金子:
2019年から、音楽ライブの生配信や映画・アニメなどの観て楽しめる映像コンテンツを配信する「みるハコ」というサービスをはじめたんです。そこで、サッカーのワールドカップ全試合観られますというのをやりました。
ワールドカップって夜中が多いので、その時間帯に集まって、うおーって声出すのって日本の家屋ではできないんで。防音の効いたカラオケボックスにみんな集まってやっていただくという。
林:
コロナもあって、カラオケが防音の個室として再発見された感じはありますね。リモートワークも。
金子:
コロナの時そうでしたよね。あとJOYSOUND直営店でミシンの貸し出しをしたら、コスプレイヤーさんが衣装を自作するためにカラオケルームに足しげく通うようになりました。
林:
家ではできないからですか?
金子:
ミシンを持ってらっしゃらない方も多いですし、自宅では作業スペースが限られていたり、音も気になる。そんななか、我々の親会社であるブラザー工業の高機能なミシンがカラオケルームで気軽に使えるということで、魅力を感じていただけたようです。
林:
一周しましたね!!
金子:
コロナが終わって一気に市場が戻ってきたんですけど、歌うだけじゃないっていうカラオケの活用法がどんどん広がってきている、そういう図式でしょうか。
林:
コロナの時に試行錯誤したのが生きている
ファーストテイク風の部屋の要望が増えた
阿部:
ファーストテイク風の部屋を作りたいっていう要望も増えましたね。
林:
それはお店からですか。
阿部:
そうですね、そういうことができる機材を選定してくれっていう。
林:
ファーストテイク風の部屋ってマイクとポップガード(金魚すくいみたいなもの)があってソニーのヘッドホンとか置いてあるような?
阿部:
ちょっと小さいミキサーがあって
あのマイクはコンデンサーマイクって言うんですけど、実際に使っているものは60~70万する。それはさすがに入れられないんで見た目がああいうマイク風でポップガードをつけてもらって。
金子:
動画を撮るのでしょうね。
阿部:
壁は白くしないといけませんね。
林:
ファーストテイク風の動画撮れたら自慢したいですね。確かに。
実際のレコーディング用のコンデンサーマイクは温度管理して保管しないといけないそうです。これは本物。
レーザーディスク時代の人は生演奏
インタビューをしているのはJOYSOUNDのレコーディングスタジオである。カラオケでたまに見かける「生演奏」という印がついている曲は、こういったスタジオでスタジオミュージシャンが演奏して録音している。

林:
ここで演奏したものはMIDIのファイルじゃなくて、オーディオのデータとして使うんですね。
金子:
膨大な配信曲の中で全曲はもちろん無理なので、一部の曲を。
通常の通信カラオケは、コンピュータだけがわかるMIDIという楽曲データにして送って、カラオケの端末で人が聞いて分かる音楽にする。
生演奏データは、いわゆるCDと同じで人が聞いて分かる音楽を作って送る。その分データが大きくなる。
阿部:
通信カラオケの前のレーザーディスクの時代って、あれってだいたい生演奏だったんですよ。
曲と映像も全部1対1でレーザーディスクに入っているんで。そういう世代の人たちが歌う曲は生演奏にすると喜ばれるんです。
林:
なるほど~
阿部:
今の若い子たちって、もう最初から通信カラオケなので、MIDIで作られた曲のほうが親しみがあるんです。やっぱり40代以上の方が歌うヒット曲を中心に生演奏化しています。
林:
我々世代ですな。
ベストテン世代は豪華な演奏の印象がある
阿部:
あと昔、「夜のヒットスタジオ」とか「ザ・ベストテン」って、バックが生演奏でやってたじゃないですか。
林:
やってましたね!
阿部:
あれって原曲よりかなり豪華な構成でやっていたんですけど、あっちの方がみんなの記憶にあるんです。で、原盤を聞くと、実はすごくシンプルだったりする。
だから、意図的にああいう歌番組の豪華な方を再現するってことをやってますね。

林:
原盤に忠実がいいわけではないと
金子:
アイドルだったら「8時だョ!全員集合」とか。沢田研二さんの曲も全部後ろで生演奏していましたよね。
阿部:
ホーンセクションがいて、ストリングスもいて、指揮者もいて。
すごい豪華で、やっぱりあっちの記憶のほうが人の記憶に残っているんです。
BOØWYから変わった
金子:
変わったのはBOØWYからですよね。
林:
BOØWYから?
金子:
はい。「BOØWY後」と言われているらしいんですよ。自分たちで演奏して自分たちで歌うスタイルです。レベッカやパーソンズ、爆風スランプも。バンドブームですよね。
林:
バンドは自分たちで演奏してましたもんね。
金子:
あの時ぐらいから、世の中の音楽がちょっと変わってきたじゃないですか。
林:
カラオケでも、バンドの曲は生演奏にするんですか?
阿部:
することもありますよ。
金子:
やっぱり10代とか多感な時期に聞いたものって残るんで、それを再現しないと本物っぽく聞こえないってことなんでしょうね。そのままCDとか、当時のLPとかをそのまま作ってもダメなんですよね。

またしばらく知ったかぶれる
7年前の取材に続いて背景映像に詳しくなった。
「時代を感じさせないように携帯電話とか出てこないんだよ」と知ったかぶって言っていたが、今日からはこうアップデートしよう。
「携帯電話は出てこなかったけど、いまスマホがないほうが不自然だからスマホは出てくるんだよ。」
誇らしげにまたしばらく知ったかぶっていきたい。
「ボカロの曲もガイドボーカルは人間が歌っているんだよ」
これもまたしばらく知ったかぶって言えそうだ。
ぜひみなさんもカラオケに行ったら知ったかぶってください!
※「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。