ついに最後のハンバーグ
結局、ワールドビジネスサテライトからインタビューされることはなかった。あいつらは嘘をつく、と勘の良いディレクターが察したのだと思う。
それはそうと、なんと僕たちの順番がまわってきたのだ。すでに予定の閉店時間は過ぎていたのだが、営業時間を延長して対応してくれたのだ。店長たちの粋な計らいである。
お店に着いてから1時間半、僕たちは最後のすかいらーくの席についた。
2人とも「すかいらーくハンバーグステーキ」を頼むことにした。
呼び出しボタンを押して最後の注文をする。
アルバイトのお姉さんがオーダーを聞きに来た。すかいらーくハンバーグのセットを2つと生ビールを2つ。
オーダーを受けたお姉さんが厨房の方へ消えていく。
あと10分もすれば僕たちの前に最後のハンバーグがやって来る。
「なんとなく淋しいですね」
2人とも少し感傷的になっていた。すかいらーく最後の食事なのだから無理もない。
ハンバーグがやって来た。そして、感傷的な気持ちはすっ飛んだ。
1時間半も待って、お腹がぺこぺこだったのだ。
最後のすかいらーくという取材の目的を忘れて、目の前のハンバーグステーキセットを一気に食べた。
すかいらーくのハンバーグはおいしかった。林さんは「こんなに本格的なハンバーグだったんですね」と、そのおいしさを再評価していた。僕もそう思った。しかし、僕たちはこのハンバーグを2度と食べることが出来ないのだ。
失って初めて、その大切さを知る。
そんな淋しい思いは、このすかいらーくで最後にしたいものだ。
サヨナラすかいらーく
最後の最後までおいしいハンバーグを提供してくれたすかいらーくに敬意を表し、背筋を伸ばして会計の順番を待った。敬礼したい気持ちで一杯だったが、それはやめといた。
料金を支払ってレシートを受け取った。これで本当に最後である。
サヨナラ、小さい頃に家族で通ったすかいらーく。
レシートを財布にしまっていると、林さんが何かを見つけた。
「ほら、あれ」
今日で終わるはずなのに従業員を募集している。
多分、次のガストを見据えての募集だと思うが、出来ればこういう物を見ずに最後のすかいらーくを味わいたかった。そして、こういう所を見逃さない林さんはさすがだと思った。
店の外に出ると、さっきまでの喧噪が嘘のようだった。看板のネオンは消えて、外で待っている人もいない。
「いよいよ終わりって感じですね」
「打ち上げとかするんですかね?」
最後の片付けが終わってから、ビールで乾杯くらいはするかもしれない。あの女性店長が挨拶をして涙を流すかもしれない。
本当の最後まで見届けたい気持ちはあったのだが、舎人ライナーの終電が迫っていた。駅まで急がなければならない。それに、僕たちは部外者だ。本当の最後までここに居る資格はない。
少し急ぎ足でさっき来た道を戻っていった。