特集 2022年3月17日

【検証】図鑑で聖地巡礼はできるのか

聖地巡礼をしてみたい。

宗教的な意味合いから離れた、好きな漫画やアニメの舞台となった地(聖地)を訪れる方の聖地巡礼。

醍醐味といえば、好きな作品のあの場面、あの地に自分がいるぞという、ふたつの世界が交わる瞬間だ。

聖地巡礼のあの興奮は、どんな本でも成り立つのだろうか。例えば図鑑とか。

まちを歩くのと建物が好きで不動産会社に入りました。
休日は山を登り川を渡り海で石を拾います。

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聖地巡礼をしよう、図鑑で

「街なかの地衣類ハンドブック」大村 嘉人 著、文一総合出版(以下、写真引用はすべて本書より)

今回のテーマとなるのは、「街なかの地衣類ハンドブック」。なんとなしに選んだ本だったが、開いてみると、わたしの住むつくば市の出番がなぜかやたらに多い。

地衣類とは…?とお思いの方も多いでしょうが、それはのちほどご説明しますね…(P 42,31,21 筆者加工)

ハンドブックに掲載された62枚の写真のうち、なんと21枚がつくば市内で撮影されたものだ。

地衣類そのものは全国どこにでも分布しているのに、これだけつくば市の写真が多いということは、何かつくば市が重要な鍵を持っているのだろうか。

つくば市民にはおなじみの施設(P 21,筆者加工)

これは…!!猫の背筋を撫ぜたときみたいなぞわぞわした感覚がやってきた。わたし、この場所知ってるぞ!

本のなかの景色が、バーンと立ち上がってくるような、静かな興奮。さっそくひとつめの聖地を目指し、外に出た。

図鑑で聖地巡礼 わかったこと①

本の中に知っている場所があると興奮する

地衣類から知る、道端に潜むちいさな生きもの

そもそも地衣類ってなんなのよ?そうお思いの方も多いでしょう。

つくばに詳しい夫も誘って外に出た。そうそう、こういう道端の木の…
これ!
とはいっても肉眼では限界があるので…
顕微鏡で覗いてみましょう。おもちゃ価格の顕微鏡、Bluetoothでスマホから写真を撮れるので大変便利
ドン!1000倍に拡大してみると、胞子?菌?なにやら見知った植物とは別の生きものっぽい、これが地衣類
他にも、公園によく生えている木の……
こういうの!
ワーオ
なんだかミステリアスな生きもの、これが地衣類。
この緑のやつらも地衣類…?
いえいえ、これはコケ類。茎や葉がある、れっきとした植物。
コケ類と地衣類、同じ場所に住んでいることも多々あり、
どちらも同じくらい小さくて地味でよく似た存在。

昔々はどちらもひっくるめて「こけ」と見なされていたらしく、地衣類の学名にも〇〇ゴケ、と呼ばれるものがたくさんある。

「こけ」をよくよく拡大してみてみたら、ひとつの植物として生きる「コケ類」、ひとつのからだに藻類と菌類の、二種類の生きものが共生している「地衣類」があることがわかったのだそう。

藻類は光合成によって作った栄養を菌類に、菌類は潤いたっぷりの住処と無機養分を藻類に与えるwin-winな関係だ。
地衣類が住むのは木だけではない。いつもなら通り過ぎるコンクリートの
こんな角にも
地衣類!コンクリートのでこぼこ、サンゴやクマミノみたく鮮やかな地衣、レンズ越しのゆらゆらした光が海の底のようだ

ほうほう、とハンドブックを読みながら歩くと、学研のひみつまんがシリーズを思い出す。

ハンドブックの登場人物として、ページからページへ案内されている気分だ。

さあ、そろそろ目当ての建物が近づいてまいりました。
写真と同じアングルを探して……
ここだ!……あれ?

ここがあの場所だー!!と盛り上がったのは一瞬で、高揚した気持ちはすぐに吹き飛んでしまった。何やら様子がおかしい。

……地衣類が、いない?!

写真では全面にびっしり育っていたロウソクゴケが、すっかりいなくなってしまったのだ。

ハンドブックによると、地衣類が樹木を弱らせ枯らす原因だと誤解され、高圧洗浄などで洗われてしまうことも少なくないそう。

洗われちゃったのか……

訪れた歴史の名所がペカペカに塗り直されていたときのような、寂しい気持ちがある。

僅かに残った地衣類を観察。100均の虫眼鏡でも結構しっかり見える
顕微鏡で更に拡大するとこんな感じ。
ちなみにロウソクゴケによく似た「コナロウソクゴケモドキ」というのがいて
肉眼ではどっちも同じように見えるけれど
拡大するとロウソクゴケのような葉っぱ型ではなく、つぶつぶしたかたちが特徴。地衣類の同定はなかなか難しい。
ちなみにさっきの木、反対側を見ると別の地衣類が賑わっていて、きれいなツートーンになっていた。

図鑑で聖地巡礼 わかったこと②

・歩きながら本を読み込むと、本の登場人物になったような気持ちが味わえる

・聖地の姿が変わってしまうと悲しい

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茨城ローカルチェーン店から聖地を特定せよ

さて、次の写真からはこれといった目立つ建物がないため、聖地の特定のハードルがぐんと上がる。

二つ目に選んだのは、コナロゼットチイの写真。なんとなく両脇の看板に見覚えがあるのだが…(P31)
33.jpg
特にこの、赤い丸二つが特徴的な看板……なんだっけなんだっけ……

あ!思い出した!!「これ、ばんどう太郎だ!!」

茨城県民にはおなじみ、和食レストラングループです(しあわせ創業企業ばんどう太郎グループ 公式ホームページより)

「うわ、確かにこれはばんどう太郎だわ」「一度見えたらもうばんどう太郎にしか見えない」「第2駐車場があるばんどう太郎ってこと?」「結構大きな通りの店かもね」

ふたりして一気に気持ちが高ぶり、推理が止まらない。これこれ、これだよ、聖地巡礼に求めていた興奮は!

つくば市でも7店舗ほどお店を構えるばんどう太郎。震える手でグーグルマップを開き、めぼしい場所をストリートビューで覗く。
この看板だ〜!!!
歩いて10分ほどの距離。興奮でスタスタスタスタ足音も軽い。
ハンドブック片手にキョロキョロ見渡すと、見覚えのある赤い看板だ!
ぴったりのアングルを探して…
ここだ!
奥にはばんどう太郎の看板もバッチリ見える

おー!!思わず歓声が上がった。今度こそ、地衣類もびっしり元気なままだ。 

剥がれかけの樹皮にも、その下にもコナロゼットチイ。
顕微鏡で覗くたび、ヒー!と思って、ちょっとのけぞる。

この ヒー! は、ぶつぶつ!とかきもちわるい!とかのネガティブな ヒー!ではない。

いつも見てて、いつも通り過ぎる場所が、こんな複雑なことになってんだ!という驚きのヒー!なのだ。

ところで、写真を撮った場所からくるりと振り向くとラーメン屋さんがあります

「この写真撮ったひとは、ラーメン食べて店出たときに、いいじゃんて思って撮ったのかね」

「そう思うとなんか親近感が湧くね」

図鑑で聖地巡礼 わかったこと③

・聖地を自分で特定できると楽しい

・著者がなぜこの場所を選んだのか、想像するのもいい

 

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聖地よ永遠なれ

そろそろ日が暮れてきた。もう一つくらい行きたいねとページをめくるも決定打に欠ける写真が続く。

(左上から時計回りにP19.33 53.42)

どことなく学校の施設のような雰囲気があり、とすると、おそらく筑波大学のどこかなのだけど………。

じっと写真を見つめていた夫がつぶやいた「これ、体育科って書いてある気がする」(P19)
おわかりだろうか…… 

事の真相を確かめるべく、我々は早速筑波大学に向かった。

これまで、あちこち聖地を巡るうち、歩くときの心持ちが変わっていることに気づく。

今まで気にもとめていなかったような、街なかの汚れや経年変化の部分が気になって仕方ないのだ。
年季が入った看板のもよもとした汚れを拡大してみると
板のこまか〜いでこぼこにアオサ海苔みたいな藻が貼りついている
道の端っこには
ちいさなコケと
地衣類(おそらくツブダイダイゴケ)

全部ひとくちに汚れだと思ってたものの解像度が上がっていくのはなかなかおもしろく、世には名前がついているものがあまりにも多すぎるなと改めて感じ入った。

そうこうしているうちに、見覚えのある風景が現れた
おお〜!
おお〜!も3回目になると、本当にあの場所があったという感動より、しめしめ…(ありましたね…)と答え合わせに近い気持ちが割合を占める。
それにしても……20016年発刊の写真と比べて、驚くほど様子に変化がない。

地衣類の成長速度は遅く、速くても年間2〜6mm、種によっては0.1mmにも満たないこともあるのだそうだ。

誰かに洗われない限り、いつ訪れても(肉眼では)変わらない姿を見せてくれる地衣類、聖地巡礼ビギナーにはうってつけの題材なのかもしれない。

図鑑で聖地巡 でわかったこと④

・自分の世界のことを本の世界の目で見るようになる

・聖地特定→巡礼の経験を重ねると感動よりも推理の答え合わせのような気持ちになる


教科書の聖地巡礼=修学旅行か

検証の結果、図鑑であっても、聖地巡礼を味わえることがわかった。

歩きながら本を読み込めば、内容もよく頭に入ってくるし、著者に親近感もわくし、いいことずくめだ。学校なんか飛び出して、教科書の聖地巡礼をしたら楽しいんじゃなかろうか。……これが修学旅行か?!

なぜつくば市の写真ばかりなのかという謎は、帰宅後、著者の研究所の所在をみてすぐに解決した。やっぱりお昼を食べた帰りに写真を撮ったに違いない。(OpenStreetMapより 筆者加工)

 

「街なかの地衣類ハンドブック」

大村嘉人 著 文一総合出版

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