ちゃんこはおいしい
このあと、東中野にある元力士の方が営むラーメン屋に行こうとしたが、スープ切れで閉店していた。なのでちゃんこ屋でちゃんこを食べた。煮詰まるほどに味が濃くなり、味が変化して最後までおいしかった。帰って体重を測ったら96キロだった。変わっていなかった。
強い男に憧れがある。日本古来からの伝統の格闘技である相撲では一番強い階級を「横綱」と呼び、日本中がその強さに憧れを持っている。
相撲を取りたい。全員、投げ飛ばして生きていきたい。そして、最終的には横綱になるのだ。日々を生きる中でそんな思いがいつしか芽生え、気持ちをおさえきれずに両国へ行った。企画が定まらないままに。
大相撲でおなじみ両国国技館がある町「両国」。相撲にまつわる風景や場所が多く存在している。
ちなみに両国国技館のある場所は「横網一丁目」と地名である。相撲の町となると、地名にも横綱が入ってくる。自分の名前にも入れたい。ちなみに地名の網が違うのは昔からの名残だそうです。
横綱になるためには何をすればいいのか全然わからないので、お菓子屋で聞いてみたところ「体を大きくしなきゃダメだね」と言われた。
「結構、太っている方ですけど、ダメですかね」と聞いたが、「まだまだだね。ちゃんこを食べなさい。」とアドバイスをいただいた。この記事が「ちゃんこの食べ比べ記事」になった瞬間だった。
食べ比べをして、体重がどれだけ増えたか調べようと思う。ドラッグストアで体重計を買った。
100キロなかった。こんな体重では横綱なんて夢のまた夢である。食べよう。ちゃんこをたらふく食べよう。食べて大きくなるのだ。目指せ、名横綱。
ちゃんこを食べるためにお店を探そう。実は両国にはランチメニューでちゃんこを食べられるお店が多数存在する。
だいたい2000円以上するのだが、ランチだと1500円でライスお代わりし放題のお店があってお得だ。午後も頑張りたい人、すごく食べる人にもおすすめ。
両国にはいたるところにちゃんこのお店がある。どこも予約でいっぱいだったり、満席だったりとにぎわっているようだ。
どこも混んでいたが、駅の近くにちゃんこを出しているお店があったのでそこでちゃんこを食べることにした。ライス食べ放題ではないがおなかも空いているし、太りたいのでちゃんこを頼もう。
注文すると黄金色の出汁がやってきた。これがのちの日本でも起こったゴールドラッシュの起源である。
サケ、タラ、カニ、肉。誰か優勝したのかと思ったが、横綱ちゃんこの食材だった。興奮を抑えながらも煮え立つのを待つ。特に肉とカニの部分を見ながら待つ。
全ての具材が鍋へと入れられた。食べたい気持ちが前に出てしまって焼肉では生焼けでも食べるタイプだが、横綱を目指す者、落ち着きが大事だ。煮えるまで待とう。煮えたかどうか菜ばしでつかまないように我慢をする。
ちゃんこ鍋は、野菜を中心にあっさりとした味付けでヘルシーな料理である。これだけで太れるのかと疑問に思ったが、具材と一緒に食べたり、出汁をかけて汁ご飯にしたりと炭水化物を腹がはち切れんばかりに食べるそうだ。
また、食べる時間が重要で、できるだけ間隔を開けることが大切らしい。空腹であればあるほどエネルギーが脂肪へと変わり、太りやすくなる。そして、ダメ押しで食べた直後に眠ることで、カロリーが脂肪として蓄積される。
朝を抜いて、お昼に食べて、昼寝をして、夜にまた食べる。聞いたことがあるなと思ったが自分も毎日をそうやって過ごしている。知らないうちに自分が力士の過ごし方をしていた。才能だ。
出汁が染みこんだお揚げは絶品だが、マグマを口に入れたのかと思うほど熱い。しかし、暑さなんかに負けてられない。横綱たるものすました顔で食べるべきだろう。(このあとに食べた白菜も熱かったし、鶏肉も熱かった。全部、リアクションした。)
2人前である。友人と2人で来たので余裕だと思っていたが、全然減らない。大盛りメニューとかではない。太ろうとご飯を2杯食べたのが関係あるがわからないが減らない満腹感が襲ってきている。
1.8人前を食べた気がする。かなりの満腹感だ。2軒目に続けて行ってちゃんこ食べ比べをしてもいいが、もう少しお腹を空かせてから行きたい。なので、両国の相撲にまつわる場所めぐりをしてお腹を空かせよう。
町を歩くと横綱の手形を見つけた。いつしかここに自分の手形も乗るかもしれないと思うと感慨深い。
横綱たちの手は大きい。この大きさで張り手なんてやられた日には大型トラックがぶつかってきたかと思うだろう。
さらに歩くと空き地に土俵を見つけた。両国の人たちはきっとお昼休みに相撲を取るのだろう。ベンチではワンカップ片手に陽気なおじさんたちがいた。こちらを見て「お前、やれんのか」という目をしている気がする。
力を見せつけようと友人と相撲を取ろうとしたら、「何かしらのケガをするタイプの土俵だから嫌です」と言われた。
仕方ない。イメージトレーニングだけしておこう。この一番で優勝が決まる。そういう気持ちで土俵へと上がる。
良い一番だったのだろう、土俵の外へと倒れる相手が見えた気がした。敢闘賞を取ったなと思った。この気持ちをままに相撲の町めぐりは続く。
両国は相撲好きな人たちにとって歩くだけでも楽しい町だ。もっと時間をかけて見たい。
駅前のお店には本物の土俵が再現された場所がある。そこを見ながらある決断をした。
風邪が流行っている。私の周りでも風邪を引いている人がいるし、なんなら自分も引いているのだ。いつもなら2時間ぐらい歩けばお腹が空いてくるが、お腹がいっぱいで2杯目のちゃんこなんて入らないのだ。
物言い(撮影を手伝ってくれた友人)からは「マジすか」と言われた。「体調がよかったらちゃんこ鍋1億人前ぐらい食べられるのにな~」と冗談を言ったが、友人の目は笑っていなかった。ごめんと小さく言うしかない。何か違う企画を考えよう。
そんな英断をしていた直後、いいものを見つけた。横綱の優勝写真である。
優勝額と呼ばれ、優勝を達成した力士へおくられる額縁のことである。これを作れないだろうかと探したがどこにもない。なら作ろう。
ちゃんこの食べ比べ記事からまさかの工作記事になった。人生なにが起こるかわからない。額縁を作るために木材を買う。長さとかは勘だ。
あとは写真である。外で撮影しようとしたが、雨が降ってきてしまい家で撮影することに。果たしてかんろくのある写真は撮れるのか。まずは家でとりあえず撮った写真を見てほしい。
貫禄なんて一切出ない。家で立っているだけである。これは工夫しなければならない。ブルーシートを後ろにすればいいのではないか、そう思って家の中を探すが、ブルーシートなんて引っ越したばかりの家にはない。
この後も優勝額への試行錯誤が続いた。腰に布を巻いた方がいいのではないかと思い、バスタオルを巻いてみた。果たしてどうか。
もうダメかもしれない。万策尽きたかと思われた瞬間、友人が撮った写真が奇跡を起こした。
下から撮ることで足腰が太く見えて、体も大きく見える。(この写真なら飾れる!)と興奮していた。
これで写真が決まった。ただ、でかく印刷をするにはどうすればいいのか。キンコーズだと値段が高くなってしまいそうだ。なので、コンビニにポスター印刷を使った。
家に戻り、額を作る。買ってきた接着剤が木につかないタイプだったぐらいで大きな失敗もなく完成した。
夢にまで見た優勝額ができた。夢にまで見たというより、町で見た優勝額だ。誰がなんといおうと優勝額である。気持ちで見てください。
完成したあとに友人は「なにに優勝したんですかね」と言った。
このあと、東中野にある元力士の方が営むラーメン屋に行こうとしたが、スープ切れで閉店していた。なのでちゃんこ屋でちゃんこを食べた。煮詰まるほどに味が濃くなり、味が変化して最後までおいしかった。帰って体重を測ったら96キロだった。変わっていなかった。
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