……ヤンキーってどうやってしゃべるんだろう。本当はこの記事をすべてヤンキー口調で書いていこうと思っていたのだけれど、やめた。
予想以上にヤンキーのセリフというのが思いつかない。困ったら「あぁん」と「おらぁ」しかでてこない。
カバンを薄くしていたのはヤンキーだけじゃなかった
僕(平成2年生まれ)が中学生のときは指定の布カバンを使っていたので、そもそも革の学生カバンというものを見たことがなかった。
さらに中学と高校は制服がブレザーだったので、学ランすら着たことがない。ヤンキーのファッション文化とは程遠い青春時代を送ってきた。短ラン、長ランなんて漫画やドラマの世界の話しだ。
だから僕は「カバンを潰す」という文化について右も左も分からない。そこで、薄いカバンについてアンケートをとって「どうやって革のカバンを薄くしていたのか」聞いてみることにした。
アンケート結果【なぜカバンを薄くしていたのでしょうか?】
通っていた中学校ではカバンが厚いのはダサい、薄けりゃ薄い方がイケてる!みたいな風潮がありました。
40代前半 / 女性
とにかく薄い方がかっこいいとおもっていました。紡木たくのマンガの影響かもしれない
@skanginavia
パンパンに荷物が詰まっていると「一生懸命やってるヤツ感」が出てダサいと思っていた。
30代後半 / 男性
私は転校生だったので、何も知らずに太いカバンのままで登校していたら、友達から「ダサいから潰した方がいい」とアドバイスされました。
40代前半 / 女性
薄くないとダサい!と見られるからだと思います。ずぼんをずり下げてほぼパンツ見えてる状態とセットでした。
@cotori9
流行り。ヤンキーと関係なく真面目な子以外はほとんど薄くしていた
40代後半 / 女性
薄くするのが流行っていたから。
50代後半 / 男性
学校に教科書などは置いていくので入れるものがない。でも空っぽだと、横から見たときに三角形のようになる(ブタカバンと呼んでました)ので、潰して形を整えてたものがカッコいいと思ってました
40代前半 / 女性
中学でも稀なデブ鞄の持ち主でしたが、ある時 友人から潰されました。「なんで潰さないの?」みたいな感じで2人がかりで潰してました。
40代後半 / 女性
アンケート結果を見てまず驚いたのが、カバンを薄くするのがヤンキーだけの文化じゃなかったということだ。僕の中ではなぜか「ヤンキーだけの文化」だと思っていたのだが、世間的にカバンを薄くしないとダサいという認識があったようだ。
僕が中学生のときは『白ソックスはダサい』『腰パンしてるとオシャレ』というような風潮があったのだけど、それと同じようなものだろうか。
あと僕の学校では東京の学校の指定カバンを持っているとオシャレみたいなこともあった。今考えれば「私は田舎者です!東京に憧れてますよ!!!!」という看板を持って歩いているようなものだ。もはや羞恥プレイに近い。
カバンを薄くしてみよう
次にカバンを薄くする方法だが、アンケートを見ると「風呂に入れる」、「針で縫う」、「針金で縛る」、「辞典で潰す」……など自分が想像もしていなかった方法が多くて驚いた。
アンケート結果【カバンをどうやって薄くしていましたか?】
布団の下に置いて踏み潰してた
30代前半 / 女性
革のカバンに太い丈夫な安全ピンでとめて薄くしていた
40代後半 / 女性
お湯につけて柔らかくして、鉄の芯を抜いて電話帳で挟んでぐるぐる巻きに。
40代後半 / 男性
プラスチック?の芯をはずして、お風呂場に持っていき革を柔らかくした後に布団の下にカバンを置いて寝押ししてました。
40代前半 / 女性
布団の下に敷いたり、厚み部分をむりくりカットしたり
40代後半 / 女性
底の芯を抜いて踏んだり叩いたり縫い付けたり。
50代後半 / 男性
一番多かったのは「布団の下に置いて寝て潰す」「イスに座るときはおしりの下に敷いておく」というような自分の体重で潰すというものだった。
どうやら時間をかけて潰していくとキレイに薄くなるらしい。肉を熟成させると美味しくなるみたいな話しだ。
方法が多すぎてどれが一番いいのかわからなかったので、とにかく色々と試していこうと思う。
革のカバンを薄くする方法その1:風呂に入れる
おふろ(温水)に漬けてやわらかくし、上から圧力をかけて(座ったりとか)平たくしました。
40代後半 / 女性
風呂で煮た
40代後半 / 女性
革を柔らかくするためにお湯につけるといいらしいのだが、罪悪感がすごい。新品の買ったばかりのカバンを自分の手で一瞬でダメにするのだ。
1万円もしたんだぞ。なんだこれは。だったら1万円で愛すべき弟にうなぎでも食べさせてあげればよかった。
ただ、一回お湯に入れてしまうともうどうでもよくなった。不思議なものだ。少し汚れてしまうと気持ちがスッと楽になる。
稲中卓球部という漫画のワンシーンで、可愛がっていた赤ちゃんがうんこを漏らした瞬間に「そいつはオレの中で『赤ちゃん』ではなく『でかいうんこ』になった。『でかいうんこ』などいらん」というセリフがあることを思い出した。
効果:革はたしかに柔らかくなった気がする。「もうここからカバンを好きにするぞ!!」という覚悟ができる。
革のカバンを薄くする方法その2:切る
姉がやっていました。底を切ったと言っていた記憶がありますが、詳しくはわかりません。
@persika2007
効果:カバンを固定している金具類がなくなるので一気に薄くなる。効果大。ただし、潰れる癖がカバンについていないので、持ち上げると広がってしまう。
革のカバンを薄くする方法その3:紐でぐるぐる巻きにする
マチ部分の芯を抜いて、紐で縛って重しを乗せたと聞いたことがある。
40代後半 / 女性
ひもで縛り薄い状態にして重しをする。
40代前半 / 女性
効果:長くやると効果ありそうだけど時間がかかる。他の方法と併用したほうがいい。
革のカバンを薄くする方法その4:辞書などで潰す
私はヤンキーではなかったのでまじめな方法(辞書などの重い本を載せてその上に正座)でつぶしてました。タコ糸で縫い合わせるという方法を聞いたことがあります。
40代前半 / 女性
空っぽのかばんに、辞書など重いものをのせて、薄くなるように癖をつけました
30代前半 / 女性
いくつかカバンを潰す方法を試してみて思ったのは、ヤンキーはみんな一生懸命で健気だったのかもしれないということだ。
特攻服を着ているヤンキーも、タバコを吸っているヤンキーも、リーゼントのヤンキーも、足でカバンを踏んだり、裁縫したりしてカバンを薄くしていたのだ。微笑ましい。
今だったらヤンキーとわかりあえるかもしれないと思ったのだけれど、中学のときのサッカー部のヤンキーの先輩が「ゴールの前に数人立たせて思いっきりボールを蹴る」という地獄のような遊びをしていたことを思い出してやめた。
効果:手間がかからなくていいが、それほど薄くならなそう。相当重い本を何冊ものせる必要があるかもしれない。ただヤンキーの家に六法全書とか百科事典があるとは考えづらい。
革のカバンを薄くする方法その5:カバンを縫う
カバンの底の隅を縫って薄くした
40代後半 / 女性
ヤンキーだって部活に励む少年少女と変わらなかったのかもしれない。だって彼らだって漫画やドラマや学校の先輩を見て「かっこいい!俺もヤンキーになりたい!」と思ってヤンキーになるのだ。
キャプテン翼を見てサッカーを始めるのとなんら変わりない。ヤンキーという部活に入っただけなのだ。他の部活と違うのは暴力と血と抗争があるだけだ。何も変わりはない。
効果:糸で縫ってくっつけて薄くするので、時間をかけずにすむ。一気に薄くなるし安定性抜群。ただし革が硬いので相当な力が必要。ものすごい労力がいる。
革のカバンを薄くする方法その6:寝て潰す
効果:結局は時間をかけて潰すのが一番いいのかもしれない。変な癖もつかないし、キレイに潰すなら、ベッドやソファーの下に置くのが良さそう。時間はかかるが確実に癖がついて薄くなる。
カバンを薄くしただけなのに、なんだかわからないがうれしい。なにがうれしいかはまったくわからないが、なにかをやり遂げた気持ちになった。苦労しただけにカバンに愛着が湧いているのかもしれない。
今の学生はブレザーの下に柄シャツを着たり、パーカーを着たり、髪色を変えたりと制服でもオシャレができる。しかし、当時はオシャレを表に出せるものが少なかったので、その対象となったのが学生カバンだったのかもしれない。
【その他のカバンに対する思い出】
マジソンスクエアガーデンの薄いボストンとセットだったなあ。
@bruno_saby
私のカバンは薄いだけで堅かったけどヤンキーは更に芯を抜くという技を持っていたらしく柔らかくてペラペラでした
40代前半 / 女性
取っ手もビニールテープでカスタマイズするのがイケていると流行っていた。落書きなども流行っていてレタリングがやたら上手い奴がいた。ヤンキー のクセに器用さやマメさも垣間見られる文化であった。
鶴ひよ子
彼氏や彼女の名前を暗号みたいにレタリングして書いてた人が多かったですかね。
50代後半 / 女性
ヤンキーはカバンを使わず、キティちゃんのバッグ等を持って来てました。
40代前半 / 女性
ヤンキーの子から ペラペラになるまで潰した鞄になぜかバスのボタンの「降りるとき押してください」のプレート(おそらく剥がしてきたもの)を貼ったものを 嬉しそうに見せられたことがあります。万引き自慢みたいなものだったんでしょうが「何故それを?」という思いの方が強かったです。
@sparrowchun
男性関係が派手な女子のカバンには絆創膏が貼ってあった
50代前半 / 女性
ヤンキーに限らず、薄くする以外にもカバンの蓋の芯を抜いたり、文字を刺繍したりといった改造をする人もいました。
@hojo_reeeen
そもそも「ヤンキー」ではなく昔は「ツッパリ」だった
アンケートの回答を見ていると、ヤンキー文化というもの自体に興味が湧いてきた。まったく触れてこなかった世界というのはおもしろい。もっと知りたい。
そこでヤンキー漫画を読んだり、昔のドラマを見たりしながら、もう少し『ヤンキーの歴史』というものを深掘りして調べてみることにした。
調べてみてまず知ったのは『ヤンキー』という言葉自体がそもそもは70年代には全国的ではなかったという話だ。「ツッパリ=硬派」「ヤンキー=軟派」というイメージもあったのだが、そこに明確な定義はないようである。時代の移り変わりで言葉が変化していっただけのようだ。
ちなみに余談であるがwikipediaのヤンキーの概要は、
> 日本国内において、「深夜にコンビニ前にたまり、うんこ座りをしながらタバコを吹かしてる俺かっこいい」という志向を持つ少年少女を指す俗語を指す。
から始まっており、恨みつらみ妬み嫉みなどが入り乱れているのがわかる最高の文章である。
70年代より前は『非行少年/少女』と呼ばれ、70年代後半〜80年代半ばくらいまでは『ツッパリ』と呼ばれることが多かった。90年代から『ヤンキー』という言葉が世間で取り上げられるようになり、一般的な言葉になっていったらしい。
ちなみにツッパリという言葉は関東発祥の言葉だという説があり、1980年に登場した横浜銀蝿というロックバンドの歌詞から全国に広まったとのことだ。
不良漫画を何冊か読んでみると、漫画でもヤンキーとツッパリの言葉の変化があることをわかった。
1983年に連載がスタートした「ビー・バップ・ハイスクール」では連載初期はツッパリという言葉を使用しているし、1988年にスタートした『今日から俺は』という作品では、「今日から俺の、ツッパり人生が始まる!!」というセリフから物語が始まっていくのだ。
さっきよりちょっと最近に近つき、1990年に始まった『クローズ』では「不良の学校」という言葉が使用され、同じ年に始まった「湘南純愛組!」では『ヤンキー街道まっしぐら!』というセリフが1巻で出てきた。おお、ツッパリとヤンキーという言葉がこのあたりで世代交代しているのか!
ヤンキー文化について書かれた本で調べてみても、やはり90年代が境目のようだ。
「レディス」という1981年に発行された暴走族女子をテーマにした雑誌には「ヤンキー」という言葉は登場しないが、1992年に発行された「特攻レディス」ではヤンキーというワードが頻繁に使われるようになっていたとのことだ。(参考:『ヤンキー進化論 不良文化はなぜ強い』)
なるほど!90年代に入るときにツッパリという言葉は終わりを向かえ、ヤンキーという言葉が主流になり始めていったというのは事実としてあるようだ。
この時代のことを調べていると、今と違いすぎて遠い昔の歴史を調べてる気がしてくるときがあるけど、父や母も体験してきたことなのである。時代の流れは早い。今から20年後って本当に想像がつかないなぁ…!
ここからは僕の仮説が入ってくるのだが、このツッパリ→ヤンキーの言葉の移り変わりは、カバンが薄い文化にも通じている部分があると思った。
今回とったアンケートの結果だけ見ると40代→30代→20代とカバンを薄くする文化が年々と廃れていっていることがわかった。(データ量が少なく偏りがあるのであんまり参考にならないかもしれなけど…)
カバンを薄くする文化が衰退した世代は40代と30代の間くらいであることが、グラフの『やっている人はいなかった(紫)』の線からわかる。年代でいえば1980年代〜1990年代半ばのことだ。ちょうどヤンキーとツッパリという言葉が入れ替わる境目と同じくらいなのだ。
これはなにか関連性があるに違いない…!
1980年代後半は制服が学ランからブレザーに変わり始めた時代でもある。ブレザーはそもそも『改造しても様にならない制服』という考えがあって採用されているらしい。僕が高校生(2007年ごろ)のときもやっぱり周りはブレザーが多くて、学ランはほとんどいなかった。
制服の変化によって「短ラン」「長ラン」などの学ランを改造したファッションは徐々に消えていった。カバンも次第に布製のものが増え「学ランで薄いカバンを持つ」というツッパリファッションも自然と消えていったのかもしれない。
短ランなどのツッパリファッションスタイルが終わっていくとともに、ヤンキーという言葉が広がっていき、、。薄いカバンの存在自体も薄くなっていったのだ。
なんだかそれっぽくまとまったが、仮説なので合っているどうかはわからない。そもそも「カバンを薄くする」という文化を誰が始めたのか調べても謎なのだ。
「カバンを薄くしてみたい」という衝動から始まったこの記事であるが、まさかこんなにヤンキー文化に興味を持って調べることになるとは思わなかった。ものごとの歴史というのは調べるとおもしろい。
でも『ヤンキーのことが知りたいから、本やネットでヤンキーの歴史を調べる』という行動をする時点で、自分にはヤンキーとしての資質はないんだろうな…とも同時に思って、なんだか切なくもなった。
こうして滅我殺(めがや)というヤンキーは名前をmegayaと改名し、このデイリーポータルZというサイトでライターとして活動していくのである。 〜Fin〜