特集 2026年6月2日

山と山に登る

山は登ってもいいですし、遠くから眺めてもいいものです。富士山の美しさは言わずもがな、山頂へも多くの人が目指します。低い山でも地元で親しまれている山もありますし、身近な分気軽に登ることができます。登っても、眺めても楽しめるのが山のいいところです。

ですが、それを両立することはできません。今登っている山を登りながら眺めることはできません。当たり前ですね。でも、せっかくなので、山頂から自分の足下にある山を眺められたらいいですね。この願望を実現するため、山をつくり、山と山に登ります。

1993年生まれ。島根で暮らす。たびたび山に登っている。山にいるかホームセンターにいるかのどちらかである。可能性は低いが地元のスーパーにもいる。


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山をつくる

山に山を連れていくため、山をつくりました。

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完成。ミニ山。

島根県松江市にある嵩山(だけさん)と和久羅山(わくらさん)です。嵩山は標高331m、和久羅山は標高262mの低山です。松江のいたるところから眺めることができ、この2つの山は気軽に登れる山です。

スチレンボードに地図を張り付け、それを等高線に沿って切って、積み重ねて作りました。

スチレンボードの厚さにより、実際の山よりも背が高い、デフォルメされた形になっています。

初めてなので考えながら作りましたが、完成してみるとしっかりと山になっていますね。よかったです。
 

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嵩山+和久羅山=?

さて、実際の山の方も見てみましょう。

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宍道湖を挟んだ場所から。

上の写真の右が和久羅山、左が嵩山です。古くは『出雲国風土記』にも記録が見られ、現代までその歴史は繋がっています。
2つの山は寝仏山とも呼ばれ親しまれてきました。山を横から見たら、仏さまが仰向けに寝た姿に見えるんですよね。和久羅山が顔で、嵩山が胸から下になります。和久羅山はちゃんとおでこと鼻があるように見えますよね。自分で作った山も仏さまに見えたらうれしいということで、この山をチョイスしました。
これからは2つをあわせて寝仏山と呼んでいきます。

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2つの山で顔と体を構成。

一緒に登りたいという、はやる気持ちはいったん抑えます。
まずはミニ山と実際の山を見比べてみましょう。

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宍道湖を挟んだ場所で一緒に。
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島根半島の東端。美保関の馬着山より。寝仏山の東からなので頭と体の左右が入れ替わる。
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寝仏山の東に位置する大根島の大塚山より。
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松江城天守最上階より。
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松江城天守最上階からは寝姿がはっきり見える。
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地理院地図に加筆。赤丸の4か所から寝仏山を眺めた。

いいものですね、一緒に出歩いて、ミニ山と共に寝仏山を眺めるのは。特に松江城から一緒に眺める寝仏山は、雲間から差し込んだ朝日に照らされとても美しいものでした。
自分がつくったミニ山も、ちゃんと仏さまが寝ているようにみえます。高さの縮尺は違いますが、シルエットはほぼ同じじゃないでしょうか。

SNSではぬいぐるみとお出かけをし、その姿の写真を掲載することをぬい活と言いますが、それに通じるものを感じています。何故か生き物と一緒にお出かけしている気分になるんです。
あと、気づいたのですが、山をつくると同時に仏さまをつくったといっても過言ではないので、私は仏師だったのかもしれません。

気分が高まってきました。いよいよ登ってもいい頃合いでしょう。

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山と山に登る

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和久羅山登山口

ついにやってきました寝仏山。今回の登山ルートは和久羅山南側駐車場→和久羅山山頂→嵩山登山口→嵩山山頂です。

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地図として使う。

立体的な地図があるので心強いですね。低山ですが、地形は確認していきましょう。

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半分まで来た。
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和久羅山山頂。
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一緒に松江を一望する。
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次に向かうは嵩山山頂。目的地である胸の位置を一緒に眺める。
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分かれ道もミニ山があるので大丈夫、ではない。分岐では実際の地図を見るべきである。
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ロープが必要な坂も協力して降りる。
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和久羅山を下山。和久羅山と嵩山の間にも駐車場がある。

和久羅山を降りました。和久羅山は急な坂で滑りやすいので注意が必要です。しかし、ミニ山が一緒にいてくれたので大丈夫でした。
これから嵩山に登っていきます。嵩山は和久羅山と比べて道が整備してあるので、登りやすい山になっています。

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嵩山入り口には鳥居がある。
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ベンチで一緒に休憩。
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山道入り口は複数ある。山頂に神社があるため、看板には「参道」と表記される。
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石がむき出しのところも。道幅は広い。
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東屋に到着。

山頂手前の東屋まで来ました。
実はミニ山をつくり始めてから登山まで、約1か月の期間が経っています。手探りで山をつくっていましたが、完成してちゃんと寝姿がわかったときは感動しました。完成したら一緒にあちこち回りましたね。
わざわざ違う山に登って、遠くからその姿を眺めもしました。いろいろな角度から一緒に寝仏山を眺めるのは楽しかったです。相棒となったミニ山とついに目的の山に登っているのです。その旅ももうすぐおしまいです。

ついに登頂です。

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山頂です。和久羅山の方向を見ています。

白いですね。

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山頂の石碑。

「天下の絶景 大仏の寝たる姿や嵩・和久羅」だそうです。
嵩山を登っている途中から小雨が降り始めてきていたので、わかってはいましたが、展望なしです。さらにいうと、登る前から天気悪いな~とは思ってはいました。天気の良い日が続いていたのですが、この日は残念ながら悪天候でした。

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天気が悪くても大丈夫。

でも、私にはミニ山があります。天気が悪くて展望がなくても、ミニ山を眺めればいいのです。最初の願望では、山に登って、その山を眺められることができたらとても楽しいだろうな思っていました。天候が悪いことで、この効用がより高まったと思っています。
山頂からの展望は山登りの醍醐味ですが、曇っているとそれは叶いません。ですが、ミニ山と一緒に登れば、天気関係なく手元の山を眺められるのです。あと、ここのルートで登ったなと、すぐさま道をトレースできるので、登ってきたという実感がより一層得られます。

今回の試みは個人的に大成功と言えるでしょう。つくってよかった寝仏山。

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山頂の布伎自美神社で下山の安全を祈る。
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ミニ山ができるまで

ミニ山の作成には約1か月かかっています。ミニ山の作成風景は、山登り同様、大変地味な絵面です。みなさんにも作成過程を見ていただき、私の苦労を分かち合ってもらいます。

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材料と道具。真ん中の発泡スチロールを熱で切るやつは開封すらしなかった。

つくっていきましょう。

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地図をスチレンボードに張り付ける。これから山を切っていく。
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嵩山の南が和久羅山。嵩山を半周し、和久羅山に刃を入れる。
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地図の端で等高線が途切れる。再び刃を入れるときは等高線があっているか確認必須。
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ゴール。

100mゴールです。やりました。達成感があります。
作業には緊張感が伴います。スチレンボードは簡単に切れてしまうので、程よい力加減を維持しなければなりません。また、等高線同士の間隔は狭いので、今切っている線が正しいかを常に意識する必要があります。

全身の筋肉を固めながら作業を進め、ようやく1枚目が完了と思いましたが、そう簡単にはいきません。スチレンボードが裏まで切れておらず、同じコースを再び刃でなぞるという、二度手間が発生しました。

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2回目の刃を入れ、ようやく100mができる。

くびれになっている細いところが離れないように苦労しました。地図と並べてみると、かなりいい感じではないでしょうか。これを繰り返していけば、いいのです。繰り返していけば、いつか完成します。
ちなみにここまで1時間かかっています。

では、どんどん行きましょう。

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120m切り出し、接着。位置は地図を見ながら慎重に。

100mと120mを接着しました。これで合計2時間使いました。しかし、標高が上がれば、等高線の長さは短くなっていきます。しだいに1枚1枚の作成時間は短縮されていくことでしょう。

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140mで2つの山が分離した。
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細長く切れ込みを入れるとちぎりやすいことが分かった。
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200mに到達。和久羅山がとても小さくなった。

200mまで行くと一周も短くなり、接着まで30分以下で済むようになりました。切ることにも慣れてきて、多少の曲線なら刃を止めずに進められるようになりました。このタイプの作業はやればやるほど熟達していくので、次第に楽になっていきますね。

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和久羅山のラスト。260mを達成。
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2つの山が完成。せっかくなので、嵩山は330mまで切った。
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嵩山の330m。
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山の地形が立体的に把握できる。
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これだけ切った。

では、土台のスチレンボードと組み合わせます。

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完成。ミニ山。

土台のスチレンボードにくっつけました。土台と区別しやすくするために、完成した山を茶色に塗ってみました。土台との色の差ができたので認識しやすくなりましたね。
ここまでが願望の前座という段階ですが、めちゃめちゃ時間かかりました。正直山に登るよりも疲れました。仕事終わりに少しずつ進めてましたし、作業細かすぎ。完成してもちゃんと山になるか不安でしたし。

ともあれ、こうしてミニ山が完成したというわけです。

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おまけ

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晴れたら嵩山から松江市街と宍道湖が一望できる。
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東側の展望もよい。中海に浮かぶ大根島。とても薄い。
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ミニ大根島をつくった。1/20000サイズ。中央の黄色の点が島で一番高い大塚山。標高42m。
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大根島は1/20000だと2mmくらいになる。ミニ大根島は2mmより少し厚いがそれでも薄い。
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標高10mごとに切った大根島。パーツが少ない。

おわり。

この記事は読者投稿でお送りいただいた記事です。

編集部より寸評

山に登ると山が見れない、という「言われてみれば確かに…」なジレンマを、うまく工作で解決する記事です。
工作記事なんですけど、作品を作って終わりじゃなくて、それによって新しい体験を作り出してるのがいいと思うんですよね。少しだけ世界を変えているというか。
世界をガラッと変えることはできなくても、少しだけ変えることはできる、そんな、見ようによってはちょっと勇気もわいてくる記事だと思うんです。(編集部・石川)

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