やくそうは民間薬の可能性が高い
山上さんは東京生薬協会の統括管理責任者であり、さらに過去に製薬メーカーに勤務していたこともあり、知識が豊富な薬草のエキスパートだ。
中村さんは薬剤師の免許を持っていて、毒草の見分け方の講義なども行っている。
今日はこのお二人に薬草について聞いていきたいと思う。
東京都薬用植物園は昭和21年に設立し、当初は東京都庁の直轄の施設だった。それが平成22年から公益社団法人 東京生薬協会に委託して運営するようになった。
ドラクエというRPGゲームにでてくる「やくそう」について調べるために今日は来ました。ドラクエに出てくるやくそうはこんな感じです(↓)
【ドラクエのやくそうの簡単な情報】
■どの街でもたいてい手軽に手に入る
■使うと体力が回復する
■だいたい800円前後で買える
・シリーズによるがやくそうは8Gが多い。また、ドラクエの1G=約100円という話しに基づく。
■一般人が自由に使える。薬機法などに引っかからない
■使い方はわからない。ゲームや漫画によっては飲んでる描写もある。
・トルネコの大冒険などでは「くすりにしてのんだ」と表示される
ドラクエはまったく知らないんだけどね、話しを聞いて画像をみた感じだと「漢方薬」じゃなくて、「民間薬」の方なのかなと思いますね。
おお、草の種類とかではなく分類から探っていくんですね!
漢方薬と民間薬って具体的にどう違うんですか?
漢方薬の方を簡単に言えば「いくつかの生薬を医学的に組み合わせて作る」ものなんですよ。葛根湯(かっこんとう)って飲んだことある?
あれは葛根、麻黄、桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草っていう7つの生薬の組み合わせからできているんですよ。
逆に民間薬っていうのはおじいちゃんおばあちゃんが昔から伝承してきたもので、「良い」と言われるので代々伝わってきたもの。それから単独で使う生薬が多いんですよ。
昔、ストーブで両手を火傷したときに母に「とりあえずアロエ貼っときな!!」って言われたことがあるんですが、それも民間薬ですか?
そうそう!種類によるけどアロエも民間薬の一つ。
あとはドクダミって草があるでしょ?あれは蚊に刺されたときにこすって塗って使うと痒みが引くんですよ。あれも昔からある民間薬だね。
さっき見せてもらったドラクエのやくそうは葉の部分だけだったから、漢方薬ではないと思います。
それから切り傷とかの外傷が治るようなものじゃなくて、使うと元気になるようなものなんだよね?
ドラクエのバージョンによっては「傷が治る」って効果もあるみたいですけど、一応ゲーム的には「HP回復」する効果なのでそれに近い感じでありますか?
なるほど、そういった条件で考えると名前的にも「延命草」が一番近いのかなと思いますね。「ヒキオコシ」っていう薬草から作られる生薬なんですけど。
延命草!!
名前もゲームにでてきそうな感じがするし、体力も回復しそう!むしろ最大HPあがりそう!
ヒキオコシって名前も「倒れた病人を引き起こす」って意味から来てるんですよね。滋養強壮効果もあるから体力回復して復活するイメージには近いかもしれないね。
やくそうはお茶みたいに飲んで使うのかもしれない
延命草はゲームみたいに「やくそう食べたら速攻で体力回復!!」ってことはないですよね?(笑)
さすがに現実ではありえないですね(笑)
民間薬っていうのは多くは保健的に飲むものなんです。サプリメント的なものが多いんですよ。
ドラクエみたいに瀕死になっても草食べるだけで全回復できたらアベンジャーズ入れるレベルだもんな…
ドラクエでやくそうって草をそのまま売っているイメージなんですけど、現実だと薬草って草のまま買えるんですか?
いや、ほとんどないでしょうね。漢方薬や生薬のように加工されて売られてますね。
RPGの道具屋で売ってる「やくそう」ももしかしたら漢方薬みたいな状態で売られてるのかな…?
ゲームはわかりやすさを優先するために「やくそう=草」としているんでしょうね
あと、ゲーム内だと「やくそうをつかった」って表示されるから使い方がわからないんですよね。
民間薬ってどうやって使うのが一般的なんですか?
草をそのままこすったり患部にあてたりする方法もあるけど、民間薬は飲むのが多いかな。
飲む場合は生薬として使う部分を陰干ししてから、煎じて飲みますね。
薬っぽく使うんじゃなくて、お茶にして飲む感じなんですね!
んー、ちょっと違いますね。「煎じて飲む」のと「お茶として飲む」のは意味が違うんですよ。
煎じ薬として使う場合は、生薬を煮詰めてうんと濃くしてエキスをいっぱいだすんですよ。それを1日かけて少しずつ飲んでいきます。
逆にお茶の場合はやかんに生薬を入れて煮詰めないようにするんですね。
なるほど!その違いまったく意識したことなかったですね!
文字でも違いがわかりやすいですよ。
葛根湯のように語尾に「湯」がつくものが煎じ薬で、「飲」がつくものがお茶という意味になります。湯はスープという意味があるんですね。スープって煮出すじゃないですか。
わかりやすい!
こういうの学校の授業でやってほしかった!!
ドラクエのやくそうの使い方を想像したときに「食べる」「薬にして飲む」「患部に塗る」という使用方法のどれかだと思っていた。
しかし、山上さんの話しを聞いているともしかしたら、
「生薬を煮詰めたものを水筒みたいなものに入れておき、戦闘中にそれを飲んで体力を回復している」
というパターンもあるかもしれないなと思った。ああ、妄想が捗る。こういう意味のない考察が大好きなんだ!!
「世界樹のしずく」というアイテムももしかしたら世界樹の葉を煎じたら無理やり生成できるかもしれない…!(めちゃくちゃ濁ってそうではある)
ちなみに風来のシレンやトルネコの大冒険には「弟切草」というやくそうの上位互換のアイテムがでてくる。
これについても聞いてみたのだが「オトギリソウ」は現実に存在するが、回復するような感じのものではないらしい。
別名セントジョーンズワートと呼ばれ、精神安定剤として使われたり興奮作用がある。飲んだとしても精神的に痛みをごまかす感じに近いらしい。
※ そもそも「弟切草」というゲームがあり「それのパロディとしてトルネコに出てくるのではないか?」と言われているらしい。
アイテム名は曖昧な方がいい
ちょっと疑問に思ったことがあるんですけど、民間薬って一般人が勝手に使っても問題ないんですか?気づかないうちに薬機法に触れてしまった…とか
使うだけであれば民間薬は特に法に触れないので大丈夫ですよ。
薬機法に書いてない効能とかを「〇〇という薬草は〇〇という病気に効く」とメディアなどで公表するのはダメですね。
もし誰かが「ドクダミを飲めば〇〇は必ず治る」と書き、それを信じてしまった人がいたとします。そうするとその人は病院に来なくなって、さらに病気を悪化させてしまうかもしれませんから。
そのあたりメディア関連は少しルールが厳しいかもしれませんね。
言葉選びが大事なんですよ。例えば龍角散のど飴ってあるでしょ?
あれってコンビニでもスーパでも売っているから食品って扱いなんですよ。だから裏面見るとわかるけど「ハーブ配合」って書いてあるんです。食品に生薬って言葉は使えないからハーブって書くんですね。ハーブって言葉は便利。
ゲームとかでも現実の薬品名とか使って効能を書いてしまうと問題になる可能性があるので、「やくそう」という曖昧な名前にしておくのは理にかなっているとも言えますね。
なるほど!
たしかに回復アイテムって現実の薬を明確に示唆しているものって少ないかもしれないな。FFだとポーションだし、ポケモンだときずぐすり、テイルズに至ってはグミだし…
「どくけしそう」は吐き気を誘う。あと現実の毒草は食べると死ぬ。
やくそうから話は少しそれるんですが、ドラクエのアイテムの中に「どくけしそう」っていうのもあるんです。それに近い薬草ってなにかありますか?
どくけしそうですか…そうですね……
「毒を消す」というのは難しいので、現実だと毒を吐き出す形が近いのかな?
トコンという生薬から作られたトコンシロップというものがあります。これを飲むと吐き気を誘発することができるので、異物を吐かせることができるんです。
もしそうであるなら毒を治すために嘔吐しつつ戦闘もしていることになるのか、つらすぎる…!
どくけしそう見ただけで嘔吐する身体になりそう
この植物園でも毒草を育てているって聞いたんですけど、もし間違って食べてしまった場合ってゲームみたいに簡単に回復できるものなんですか?
即座に治すというのは難しいでしょうね。食べてしまうと吐き気を引き起こすものや、食中毒になるもの、心臓が止まって死ぬものもありますからね
例えば公園によく生えてるというキョウチクトウという毒草は、水辺に葉っぱが落ちただけで魚は死んでしまいます。人間がキョウチクトウを食べたら食中毒になりますね。
けっこう身近にある生えてる草でも毒草ってあるんですね…!
クリスマスに使われるクリスマスローズという草も食べると心臓停止してしまうことがありますからね。
園内の毒草ゾーンにあるものは食べたらだいたい死んでしまいますね。
だいたい死ぬ…
クリフトのザラキより毒草の方が恐ろしい…!
毒草が厄介なのは薬草と見た目が似ているものが多いところです。
トリカブトはニリンソウによく似ていて、間違えて食べてしまうケースがよくあります。山菜採りに行ったら一個だけトリカブトが混ざっていたというケースもありましたね。
毒草と薬草の両方の知識がないといけないから見分けるの相当難しそうですね…!
そうですね。
セリとドクゼリを見分けるときは根茎を縦に割って中身の形の違いで判断するので、一般の方には難しいかもしれませんね…
「無人島行ってもそのへんの草食べれば生きられそう」とか思ってたんだけど絶対ムリだ。危ないのはキノコだけだと思ってた。
もっといろいろな生薬について聞いてやくそう候補を探す
根っこ部分が生薬になって、生薬名は「山帰来(サンキライ)」と言うんですよ。
山帰来って名前の由来がやくそうの「回復」っていうのに近いかもしれないね
【山帰来の由来】
山帰来という名前の由来は江戸時代にある。当時は梅毒になってしまった人間は廃人になってしまうため、山に捨てられていた。
しかし、とある山に捨てられた人間は数日経つと元気に戻ってきたのだ。理由を聞いてみるとみんなサルトリイバラを食べたら治ったという共通点があった。
「山」から「帰って」「来る」ということで、山帰来と呼ばれるようになった。
なるほど!
病気を治す効果があると考えると「どくけしそう」とか「まんげつそう(マヒ治し)」とかの方が近い気がするな…!
これ草みたいに見えるでしょ?
実はこれ木なんですよ。だから正しくは薬草じゃなくて薬木なんですね。
木の幹や樹皮から作られる生薬も多いんですよ。
麻黄は葛根湯にも使われていて、興奮作用があります。ロサンゼルスオリンピックのときに風邪気味の選手に葛根湯を使ったら、ドーピング反応がでてしまった…という話もありましたね。
ただ、当時はグレーだったんですが今はアウトです。
「戦闘中だけ攻撃力をあげる」みたいなアイテムっぽいな。ポケモンでいうプラスパワーとかスペシャルアップみたいな感じかもしれない。
キキョウは喉の炎症を取り去ってくれる効能があります。龍角散はほとんど桔梗湯と甘草で作られているんですよ。あとはキョウニンとセネガが少し。
漢方薬はそうやって割合を変えることによって効能も変わってくるんですね
昔は百味箪笥を使って漢方をその人に合わせて作っていましたからね。「下痢がひどい?じゃあ〇〇を増やしましょう」みたいに。
この調合のときにさじを使ってやっていたので「さじ加減」という言葉が生まれたんですよ。
食卓でよくでる野菜のにんじんはセリ科で、こっちはウコギ科の人蔘になります。
江戸時代には万能薬として日本で有名でした。朝鮮から取り寄せていたため値段が高くて10両(70~80万)ほどもしました。お父さんが病気になったときには娘が身売りをして買うほどだったんです。
人蔘だけで100万円近くも…!
それほど当時は効果があるとされてたんですね
当時は「飲めば病気が治る」と思っていたんですよ。人蔘は滋養強壮の効果が高くて、気付け薬としても使用されていますね。今でも高価ですよ。
【オタネニンジンの名前の由来】
高麗人蔘、朝鮮人蔘、薬用人蔘はすべて同じ人蔘のことを指す名前だ。日本だとオタネニンジンと呼ぶ。
このオタネニンジンという呼び名の由来は、江戸時代にまで遡る。
人蔘は朝鮮から輸入していため、異常に値段が高かった。これをなんとか日本で栽培しようとしていたがなかなかうまくいかなかった。
八代将軍吉宗のときに紀州公時代から雇っていた採薬師に命じて、日光で栽培をさせ成功に至った。
朝鮮から人蔘を輸入する際に日本は銀を輸出していたのだが、これ以上に銀を流出させないためにも将軍から人蔘の栽培を奨励していった。
将軍自らが人蔘の「御種」を渡していったところから、「オタネニンジン」と呼ばれるようになっていった。
ゲームの「やくそう」の効果を考えると人蔘が一番近いのかなと私は思ったんですよ。
だけれど人蔘は使うのが根っこ部分なんですよね。見せてもらったやくそうの画像とは全然違いますね
たしかに根っこだとゲームのやくそうの画像とだいぶ違いますからね…
人蔘が万能薬って言われていたなら、名前の通り「状態異常をすべて回復する」系のアイテムなのかも。もしくは高価なものだから「世界樹のしずく」くらいのレベルかもしれない。
今日話しを聞いて思ったんですけど、草や木ってほとんどが生薬として活用できるんですね
そりゃあそうだね。
生きていくために草や木もなにかのパワーを持っているんだから。生きる力をもらっているんだから、人間にとっても効果がでますよ。
なるほど!
そう考えるとドラクエの歴代勇者たちも、やくそうという植物からパワーをもらっていることになりますね。
ドラクエだと「世界樹の葉」とかも自然のものだから、最後まで自然から生きる力をもらい続けているんだな…!
う〜ん、そうだね…
効能的には「人蔘」かなと思ったけど、ゲームの「やくそう」は見た目が草だからね。
そうだな、やっぱり最初に言った「延命草」が効能も名前的にも一番近いんじゃないかな?
【わかったことまとめ】
■やくそう≒延命草
・現実にはすぐに体力を回復することはない
・煎じて飲む
■やくそうは民間薬である可能性が高い
・単体で使用するため漢方薬ではないかもしれない
・簡単に誰でも使えるし、簡単に手に入るという点から民間薬の可能性がある
■どくけしそう≒トコンシロップ
・どくけしそうを飲んで吐き気を誘発することによって、毒を吐き出している?
・そう考えるとどくけしそうを飲むのは辛い
■現実だと薬草は草の状態で売っておらず、漢方や生薬の状態で売られている
・ゲーム内でも生薬として売っているかもしれない
■道具屋のやくそうはしっかりと効能などが法整備されている
・じゃないと雑草をやくそうとして売りつける詐欺が横行するはず
・やくそうに限らずどくけしそうなど他の草もしっかり効果が検証されているはず
■現実の毒草は食べたら死ぬ。どくけしそうじゃ助からない
薬草の世界は予想以上におもしろかった
そのへんに生えてる草に効能があったり、見たことある草が毒草だったりで、足元に知らない世界は広がっているんだなと改めてわかった。
次からドラクエやるときに「あ〜このやくそうは煎じて飲んでるのかもな〜!!」と考えるだけでも楽しい。妄想が捗る。
【東京都薬用植物園】
今回訪れた東京都薬用植物園は東大和市駅から徒歩1分にあり、無料で入園できます。さらに毎月誰でも参加できるイベントも行っています。
11月9日(土)には「薬草収穫感謝の会」という1年の中でも大きなイベントがあり、薬草園見学やハーブティーが楽しめるので興味ある方はホームページをご覧になってみてください。
■ホームページ
http://www.tokyo-eiken.go.jp/lb_iyaku/plant/
■住所
〒187-0033 東京都小平市中島町21−1
■電話番号
042−341−0344
■開演時間
4月〜9月:午前9時から午後4時30分まで
10月〜3月:午前9時から午後4時まで
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