特集 2023年9月14日

9月の天気図は合戦だ~気象予報士増田さんの詳しすぎ天気解説9月その2

9月の気温は下がるのか。見込みについて話を聞きました。

主なトピック:
・さすがにピークはこえた
・9月の天気図は合戦だ
・8月1日の突風はダウンバーストかガストフロント(名前がかっこいい)
・自動販売機が倒れてもFスケールは0
・和歌山に台風が上陸して、静岡で竜巻が起きた

前後編の後編です。8月の振り返りは前半をどうぞ。

(インタビュー・構成:デイリーポータルZ編集部 林)

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

前の記事:暑すぎた8月の感想戦~気象予報士増田さんの詳しすぎ天気解説9月その1

> 個人サイト ウェザーマップ・増田雅昭 ツイッター @MasudaMasaaki

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後編もこのメンバーでお送りします

さすがにピークはこえた

林:
今年はいつまで暑いですか?
増田:
今年はさすがにピークはもう越えてますし、35℃をあちこちで超えるような暑さは減っていると思います。
西村:
良かった~
増田:
30℃以上の真夏日の連続記録は途切れますけど、日数はさらに更新していくでしょうね。
西村:
連続じゃなくても。9月の20日ぐらいまでは。
林:
お彼岸。彼岸まで。
増田:
暑さ寒さも彼岸までと言いながらも、それでもまだちょっと暑いなっていう感じじゃないですか。
林:
10月で30℃も全然ありますね。
増田:
近年ちょいちょい出てますからね。
増田:
今一番遅いのは10月12日かな。東京は。
西村:
10月に30℃?
増田:
っていうのが一番遅い記録ですけど。いつかは更新していくんでしょうね。

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9月の天気図は合戦だ

増田:
9月11日週は晴れる日が多くて30℃を東京でも超えるんですけど、ただちょっといい情報を言うと、だんだん北風も入ってくることも増えるので、ちょっと湿度が下がって、ちょっと日陰がホッとできるね、朝晩ホッとできるねという日がだんだん増えてはきます。

その後ストーンと気温が下がるかどうかは第3週が鍵を握っているから、それこそお彼岸のタイミングですよね。
秋雨前線の雨がしっかり降って、秋雨前線が南に下りきればストンと気温が下がって本格的な秋になる。
林:
秋雨前線は今どこにいますか?
増田:
今日も東北とか北陸で雨が強まっているのはあるんですけど、そこを秋雨前線と見る向きもあります。天気図なんかを見てもらっても前線が下にピョコピョコっと行って。

(インタビューをした日の天気図)

西村:
これが秋雨前線。
増田:
ぽくなってきてますね。西から来ている高気圧は大陸育ちの秋の高気圧なので。
西村:
冷たい?
増田:
冷たいまではいかないな。涼しい。サラッとした空気。これはやっと北には来るようになってくるので、ちょっとずつ北からは秋めいてくるというのはありますよね。確実にちょっとずつ秋は来てます。前線が完全に下がらないと。
林:
下に熱帯低気圧。
増田:
下がった前線をちょっと待ったちょっと待ったって押し返すっていう役割をしますから。
林:
夏の残党。
増田:
大陸性の空気と海洋性の熱帯の空気の戦いですよね。
林:
関ヶ原の戦い。
西村:
天下分け目の。
増田:
やっぱり前線っていうぐらいですから。
林:
あ、そうか!
増田:
空気と空気が戦っている最前線!フロントですから。
西村:
戦争のようですね。
増田:
もとは戦争用語です。
林:
その名前つけた人もこれはまるで前線だって思ったんでしょうね。
増田:
英語ではフロントって言い、訳して前線なわけですけど。空気同士がぐわって押し合って。
林:
台風も戦場の図で見る山の形にすると分かりやすい。

(前線を挟んで2つの勢力が対峙している)

西村:
高気圧もこっち向かってる。
増田:
どっちが勝つかっていう。だから季節の変わり目は天気図を見るのは面白い。でも予報は難しいから気象予報士は面白いばかりではない。大変。
西村:
趣味でやるしか。
増田:
当たった時は面白いけど。ほんとちょっとした空気のせめぎあいで、気温の予測がガラッと変わったりとか雨の降る場所がガラッと変わるわけですよね。それに振り回されます。
西村:
命令できないですもんね。見て状況判断するだけ。
林:
従軍記者みたいな。
増田:
最終的には秋が勝つんですけどね。勝つのがいつになるのかっていうところですね。短期決戦なのか、長期戦に持ち込まれるのか。
西村:
秋の空気がどんどん上から物資が補給されてくるわけですもんね。
増田:
後方から。
西村:
兵隊が。
増田:
大陸性の後方からどんどん供給されて、だんだん溜まっていくというか、涼しい空気が。
林:
でも意外に南にも、まだ。
西村:
補給がある。
増田:
こっちも熱帯にはいっぱいありますから。熱帯からどれだけ輸送されてくるか。こっちは大陸の移動。こっちは海の移動。海は…。

林:
海はまだホッカホカですよね。
増田:
で、熱を運んでくるのは台風とか熱帯低気圧。だから台風とか熱帯低気圧は熱の輸送船って、僕らが勝手に呼んでいるんですけど、輸送船としてどんどん前線に向かって熱い空気を運んでいく。
断ち切りには行ってないから。
林:
断ち切れないですね。

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8月1日の突風はダウンバーストかガストフロント(名前がかっこいい)

キャプション

西村:
東京ですごい突風が吹いた日がありましたよね。
林:
8月1日。中野で工事現場崩れたりとか。
西村:
工事現場の足場がガシャガシャガシャガシャーって崩れるニュースをやっていて。

増田:
突風が吹くということは雨が降ったんでしょうね。
西村:
なんで吹いたんでしょう。
林:
気象庁の発表によると、ダウンバーストまたはガストフロントだそうです。
令和5年8月1日に東京都中野区で発生した突風について
~気象庁機動調査班による現地調査の報告~

気象庁ホームページの図を元に作成
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/tornado1-1.html

西村:
ガストフロント・ダウンバースト。魔女の宅急便のときに説明してもらったやつですよね。(「魔女の宅急便」の気象現象を推理する~月一天気2022年4月号その2
増田:
竜巻ではないってことですよね。つまり積乱雲がすぐ近くにあって、その下周辺で起こった現象ですね。
林:
下にどーんって降りるやつ
増田:
下に落ちる系ですよね。
西村:
竜巻と逆ですよね
増田:
竜巻は激しい渦の上昇気流ですね。
西村:
8月1日のやつは竜巻ではなく下降気流だった、と

(どーんと下に降りた)

自動販売機が倒れてもFスケールは0

西村:
藤田スケールが面白いなと。面白いなというとあれですけど、興味深い。日本人の人が考えたっていうことなんですよね。被害の状況がかなり細かいですよね。
(藤田スケール:被害の状況から風速を推定する尺度) 

増田:
突風が起こるのはかなり狭い範囲で、ほとんどの場合は風の観測器がないので、被害の痕から推定するしかないんですよ。
林:
「日本版改良」となってるんですね。
増田:
最初Fスケールを作ったときに比べ建物が頑丈になるなど変化が出てきたので、実際の竜巻の被害調査を反映してより詳しく把握できる、改良版のEFスケールができて、さらに日本によく見られるものを指標に反映した日本版改良藤田スケールになった。
林:
出てくる単語がコンパクトカーとか
西村:
いま街にあるものに合わせて調整したっていうのが面白い
西村:
自販機が横転するのでゼロ。ゼロでかなりのってことなんですね。 

林:
中野のやつも藤田スケールでゼロで。あんだけ壊れてるのに。
西村:
あんだけ壊れてガシャガシャガシャーってなってるのに、それでもゼロ。さらに5まであるっていうのがすごいですね。
増田:
5だと集合住宅のベランダなどの手すりが変形したり脱落する。
西村:
手すりが変形ってすごいですよね。風圧で。
小林:
3でアスファルトがめくれる。
西村:
地面にへばりついているものがめくれ上がるっていうことだから。それもすごいですよね。

和歌山に台風が上陸して、静岡で竜巻が起きた

増田:
先月の竜巻はけっこう衝撃じゃなかったですか。8月15日、台風7号が和歌山に上陸して近畿を北西方向に台風が進んでいるときに静岡市内の安倍川で竜巻が発生していた。

西村:
これすごい! 
増田:
台風が上陸したのが朝で、その後昼前にこれが起きているのはたまたまじゃないんですよね。
竜巻って9月が一番多いんですけど、台風が北上してくる時に竜巻って起こることが多いんですよ。特に東側で。
林:
それはぜひホワイトボードで教えてください。
増田:
台風がこの辺。台風が11時だから近畿地方。静岡市だからこの辺。

(台風から離れた東側で竜巻が発生する)

西村:
200kmとかそのぐらいは離れてますね。
増田:
台風って、大量の積乱雲の集合体が渦を巻いてるわけですよね。中心付近はギュッとそれが詰まってるわけですけど、周辺に行くとちょっと積乱雲がバラけるような感じがあります。バラけたうちのひとつの下で竜巻が起こっているということですよね。

増田:
すごい強い上昇気流があって。それがなんらかのきっかけで渦を巻いた時にぎゅるぎゅるぎゅるって激しい渦を巻いた上昇気流になる。
西村:
どんどんどんどんまわりの空気を吸い込んで強くなっていく。
増田:
という面もあります。湿っているので、何も湿っていなければ目に見えないんですけど、湿っているので可視化されて、ゾウの鼻のように垂れ下がるように見えるんですけど、地上に必ず降りてくるとは限らないんですよ。
上空だけで、雲の下で渦を巻く漏斗雲(ろうとぐも)って言うんですけど。あれが地面まで着くとやばい! タッチダウンっていうんですけど、地面まで着いちゃうと竜巻になる!危ない! そういう状態で発見されることもけっこうあります。

(漏斗雲  CC BY 2.5  Justin1569 )

西村:
実物を見てみたくなるんですよね。
増田:
なかなかこれは。人が竜巻に遭遇する確率って、何百年か何千年に1回ぐらい。
西村:
それぐらい生きないとってことなんですね。竜巻を見てスマホで撮ってる人はすごく運がいい。
林:
すごく運がいいか運が悪い。
増田:
だし、撮ってる場合じゃない。ひとまず離れようよって。すごい風が吹くわけですから。
西村:
でも見てみたいですね。


9月の温度は秋雨前線が鍵を握っています。9月の問題の鍵も秋雨前線です。

9月の問題:9月の東京の一番低い最低気温を当ててください
回答はこちらから(しめきり:2023年9月16日23時59分)

過去の9月の最低気温などヒントは前編に書いてあります。読もう!
「前編)暑すぎた8月の感想戦」

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