特集 2020年8月8日

梅雨の影響で今年の夏は猛暑? 冷夏?〜8月の天気〜

今月の天気の流れを解説する「今月の天気」。1ヶ月という長いスパンで、その月の天気の特徴や仕組みを見ていく連載です。解説はデイリーポータルZではおなじみ、気象予報士の増田雅昭さん。ついでに、ライターが気になる天気の疑問もぶつけます。

今回は8月の天気を伺いました。(本連載は1ヶ月の見込みをお伝えするもので、詳しい予報は行っていません。詳しい予報が見たいかたは、ウェザーマップなどの専門サイトをどうぞ)

ここの文と対談まとめ:小野洋平(やじろべえ)

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

前の記事:日本は四季ではなく、五季!?〜7月の天気〜

> 個人サイト ウェザーマップ・増田雅昭 ツイッター @MasudaMasaaki

 

 


台風シーズンの7月に台風が0!

林
8月の天気の前に、この長かった梅雨について伺ってもいいですか?
増田
はい。僕もここまで延びるとは思いませんでしたよ。
林
前回の話だと、フィリピン周辺の熱帯地方の海が温められると、台風が発生。そして、太平洋高気圧をパワーアップさせ、梅雨前線を北に押し上げるってことでしたよね?
梅雨が長引いたということは、フィリピン周辺の海がなかなか熱くならなかったんですか?
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先月の月一天気から
増田
たしかに、今年は台風が発生しなかったことも絡んで、梅雨が長引きました。しかし、フィリピン周辺の海水自体は例年並みに温まっていましたよ。
林
では、なぜ?
増田
今年は風が集まらなかったんです。
西村
どういうことでしょう?
増田
台風というのは、風が集まり上昇気流を起こすことで発生します。そのため、いくら海水が温まっていても、風が集まらなければ、台風は発生しないんです。
加藤
風が集まらなかった原因というのは?
増田
はっきりとはわかりません。風が集まりやすい場所というのは10日毎、もしくは半月毎とかで少しずつズレていきますから。
林
では、今年はちょうど暑くなった海の上に風が集まらなかった
増田
そうですね。台風シーズンと呼ばれる7月ですが、結果的に今年は0でしたからね。統計が残るこの70年の歴史の中でも初めてのことですよ。
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記録に色めき立った瞬間
林
記録的ですね。
加藤
ちなみに、温まった海の熱はどうなるんですか?
増田
そのままです。本来ならば、台風が通ることで、表面の温まった海水と海底にある冷たい海水がかき混ぜられるんですけどね。
今年はそれがありませんでしたから、日本周辺では大雨の一因にもなってしまいました。
林
というと?
増田
ぬるいお風呂と熱いお風呂、どちらの方が湯気はモクモクしますか?
林
熱いお風呂です。
増田
そうですよね。
つまり、台風が発生しなかった→海がかき混ぜられない→日本周辺の海水温度が高いまま→モクモクと水蒸気が海から上空に供給される→雲が発達→大雨というわけです。
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増田さんの話を聞いて林がパワポで作った図
加藤
台風には、海水温度を下げる役割もあったわけか。
西村
台風ってなければない方がいいのかと思ってたんですけど、そういうわけでもないんですね。
増田
その通り。また、台風には熱帯地方の熱を温帯地方に持ってくる輸送船の役割もあります。きっと、このままでは終わらないでしょう。
西村
じゃあ、7月に発生しなかった台風の分は、8月に強くて大きな台風としてやってくるかもしれない?
増田
可能性としてはあるでしょう。
林
宝くじのキャリーオーバーみたいな状態になっているんですね。こわいこわい。
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オホーツク海高気圧は嫌なやつ

加藤
梅雨って、気圧と気圧の押し合いですよね? 例えば、今年は上が強かったとかはないんですか?
増田
それもありました。南から太平洋高気圧が強まったタイミングで、スーッと北からオホーツク海高気圧が現れてグッと押し下げていましたよ。
西村
せっかく下から上がってきたのに……かわいそう。
増田
2回くらい繰り返したかな? それがなければ、梅雨前線も北に上がって、梅雨はもっと早く明けていたでしょう。
ただ、今年は台風が発生しなかったこともあり、太平洋高気圧も押し切る力がなかったんですよ。それなのに、オホーツク海高気圧は……。
林
嫌な奴ですね。
増田
本当に嫌なやつですよ。冷たい空気を送るから、性格はクール。
そして、海から湿った空気を送るため、陰湿です。オホーツク海高気圧のせいで天気予報も外れましたからね。
林
今年のオホーツク海高気圧は、なんでそんなに元気だったんですか?
増田
例年通りであれば、太平洋高気圧がジリジリと押し上がることで、オホーツク海高気圧の影響を北海道と東北北部くらいまでに抑えてくれます。
しかし、今年は太平洋高気圧が来ないのをいいことに、オホーツク海高気圧が南まで進出してきたんです。
林
なるほど。では、関東の梅雨明けはいつになりそうですか?(取材は7月30日)
増田
早ければ今週末です。ようやく、台風の卵もちらほらと確認できるようになってきましたよ。
(編集注:その通り、週末の8月1日に梅雨明けしました)
林
気象衛星のひまわりを見れば、台風の卵は見えますか?
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7月30日時点のひまわりの写真に加筆
増田
はい。フィリピン周辺で、雲がボコボコと発達してきています。これが上昇気流であり、台風の卵です。
そして、雲のない黒い部分に空気が降りていきます。そこが下降気流であり、高気圧なんです。やっと、夏らしいかたちになってきましたね。
林
わかりやすい写真ですね。
西村
日本にかかっている、筋状の雲が梅雨前線ですね?
増田
そうです。ご覧の通り、西の方から強まっているため、九州北部・四国・中国地方は雲がないですよね?
だから今日(2020年7月30日)の11時には、九州北部・四国・中国地方の梅雨明けが発表されました。
林
あっちは晴れているのか。
増田
この調子で関東も今週末か来週には。
加藤
とはいえ、今後の台風は梅雨前線を押し上げるんじゃなくて、日本に上陸するかもしれない?
増田
可能性としてはありますよ。
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ハワイから遠路はるばるやってきた台風がいた

西村
昨日ニュースを見ていたら、ハワイの方で発生したハリケーンが日本にくるかもしれないって。その可能性はありますか?
増田
それは消滅しそうなんですよ。
西村
ハリケーンって日本でいう台風ですよね?
増田
はい、同じものです。人間の都合で日付変更線を超えると、台風と名前が変わるんです。
西村
へ〜。
増田
2015年にハワイの近くで生まれたハリケーンになりかけの熱帯低気圧が、日付変更線を超えて台風になったことがありました。
どこまでいくんだろうなって見ていたら、本州の南を通り、鹿児島の南を通り、そこからぐるっと回って、九州の西を北上し、長崎県に上陸したんです。
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2015年の台風12号
西村
ハワイ生まれの台風が日本に来たんですね。この図では、緯度のギリギリで発生していますね。
増田
これは日本の気象庁が作成したものなので、日付変更線から書いているだけです。本当はもっと東から来ていましたよ。
林
長旅ですね。
増田
ここまでの長距離のものは、僕も初めて見ましたね。
加藤
台風の定義と、ハリケーンの定義って違うんですか?
増田
モノは同じですが、風速の定義が違うんですよ。
中心付近の最大風速が32m以上ないとアメリカではハリケーンとして認められません。トロピカルストームと呼ばれます。日本で32m以上だと、「強い」勢力と呼ばれるランクの台風です。
加藤
アメリカは基準が厳しいんですね。
林
途中で点線になっているのは?
増田
熱帯低気圧に落ちて勢力が弱まったんでしょう。
林
波乱万丈な台風ですね。
増田
例えるならば、マイナーリーグ(トロピカルストーム)からメジャーリーグ(ハリケーン)を目指していた選手が、はるばる海を渡って日本球界(台風)にやってきたけど、2軍(熱帯低気圧)に落ちて、やっと一軍みたいな。
西村
実際に、そんな選手いそうじゃないですか?
林
良い話ですね。で、セリーグで活躍して、最後は福岡ソフトバンクホークスに引き抜かれるみたいな。
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2007年は長い梅雨の後に40度が出た(今年がそうだとは限りません)

林
例えば、梅雨が長かった時の夏は冷夏傾向とか、逆に猛暑が続くみたいな特徴はありますか?
増田
バラバラですね。冷夏で終わってしまう年もあれば、大逆転で猛暑になる年もあります。
西村
猛暑の年もあるんですね。
増田
例えば、熊谷市、多治見市で40度以上を記録した2007年がそうですね。あの年の関東の梅雨明けが8月1日だったんですよ。
西村
そうだったんですか? 全然覚えてないや。
増田
8月に入るまでは冷夏傾向で、今年のようにずっと天気が悪かったんです。
しかし、梅雨明けからはひたすら晴れ続け、じわじわと気温が上がっていきました。そして、8月16日にピークに達し、熊谷・多治見で40.9度を記録したんです。国内では74年振りに当時の観測史上最高気温を塗り替えたんですよ。
林
じゃあ、今年もありえますね。
加藤
2007年ってけっこう雨降りましたよね? たしか、林道が崩壊して登山に行けなかった記憶があります。
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気象庁ホームページ より
増田
こちらが、ここ数年の「梅雨入り」「梅雨明け」「梅雨の時期の降水量の平年比」です。
林
今年も「梅雨の時期の降水量の平年比」は多そうですか?
増田
まだ出てないですけど、多いと思います。
西村
去年も多いですね。でも、それ以前の3年間は全然降ってないのか。
林
増田さんの予想では、8月はどうなりそうですか?
増田
大逆転といえるほどには暑くならないけど、ある程度は挽回して気温が上がるでしょうね。記録が出るかはまだかわかりません。
西村
梅雨が長かったから「今年は冷夏!」とも言えないと……。
林
そんな単純な二択じゃないんですね(笑)。

フィリピン沖が熱いままだと、トマトが酸っぱい

林
やっと、本題です。今年の8月の天気について教えてください。
増田
太平洋高気圧が安定していれば、大抵は晴れるでしょう。ただ、それも太平洋高気圧の「パワー(どこまで勢力を拡大できるか)」と、「スタミナ(すぐに萎まないかどうか)」次第ですね。
林
パワーとスタミナか。年によっては、お盆過ぎから涼しくなることもありますもんね。
西村
やはり、太平洋高気圧の供給源は台風でしょうか?
増田
そうですね。弱まりかけたところに台風がぼこっと発生してくれれば、エネルギーを注入してくれるので、また膨らんでいきます。
加藤
10月まで暑かった年もありましたよね?
増田
2013年ですかね? 10月12日でも30度を超えていました。
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2013年10月14日の後出し天気でも大興奮で書いていました。
西村
10月半ばで30度超えはビックリですね。それは、太平洋高気圧のスタミナがすごかったから?
増田
そうですね。今年も10月近くまで太平洋高気圧が踏ん張る可能性はありますよ。
今年は梅雨明けが2週間も遅いわけですから、そのぶん季節が後ろにズレるかもしれません。
林
前回、増田さんが「日本は五季だ」って言っていましたけど、本当にこれだけ梅雨が長いと、1つの季節ですね。
加藤
今年、本当に晴れ間がなかったですしね。
増田
はい。ちなみに、今年7月の東京の合計日照時間は、明治時代の観測開始以降、最も少なかったんです。
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2回目の記録に驚く。観測史上に弱いメンバー
西村
明治時代以降、最も「晴れなかった年」か……。
加藤
家庭菜園をしている人たちは、みんな絶叫してますよ。どんどん野菜が病気になっていくって。ツイッターで「ミニトマト」って検索してみてください。
林
そういう視点で検索したことなかったです。
西村
家庭菜園をしていると、気象に対する興味も深くなりそうですね。
加藤
フィリピンの海水温の話が、庭のトマトの味にまで影響してくるわけですから。今年はトマトが甘くないから、子どもも食べないんですよ。
林
フィリピン沖が温まったままで雲や台風が発生しないと、トマトが酸っぱいって面白いですね。
 

太平洋高気圧の上にチベット高気圧、2枚重ねの高気圧で猛暑に

増田
夏のキャラクターでいえば、チベット高原を中心とした「チベット高気圧」もいます。
林
太平洋高気圧と、違いはあるんですか?
増田
太平洋高気圧は、上空5000m以上から下降気流として空気を抑えつけ、雲をほとんど発生させません。
一方、チベット高気圧はもう一段上。9000m〜10000m以上から、ぐっと押さえつける高気圧になります。
林
高さが違うんですね。

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増田
こちらが8月7日の予想です。オレンジがチベット高気圧なのですが、北海道以外、日本列島がほぼ覆われていますよね。
林
本当だ。
増田
ただでさえ太平洋高気圧で熱を抑え込まれているのに、さらに上からもギューッと押し込められている状態です。
テレビではよく「布団の二枚重ね」なんて喩えられますが、同じだと癪なので僕は「漬物石」と表現しときます。空気を押さえつけ、地上付近に熱を押し込む役割を果たしていますから。
西村
チベット高気圧は、毎年登場していましたっけ?
増田
全く張り出さない年もありますよ。ただ、ここまで張り出しているのは珍しいですね。
林
では、今年の夏はものすごく暑くなるのでは?
増田
より一層、いや二層暑くなることでしょう。
林
失礼ですが、8月は割と天気予報も簡単なのでは?
増田
……少しは楽させてください(笑)。今年の7月は本当に苦労しましたから。
西村
7月の的中率はいかがでしたか?
増田
正直に言います。全然当たってないです(笑)。何回、週末の予報を外したんだってくらい。
西村
先月の記事でも「梅雨も後半になってきたな」っておっしゃっていましたもんね(笑)。
増田
そうなんです。担当している番組で、6月の終わりに「さあ、いよいよ来週は梅雨明けへカウントダウン!!」って言ってしまったんですよね。……どれだけ長いカウントダウンなんだって。
西村
100くらいからのカウントダウンでしたね。
林
7月は日によってコロコロ予報が変わってたけど、それだけ難しかったってことですね。
加藤
そうそう、半日先の予報で晴れマークになっていたのに、実際は雨が降ったりして。
増田
当日の予報ですら、全然ダメでしたね。時系列予報ってあるじゃないですか? 3時間ごとにお天気マークをつけるんですけど、どこに雨マークをつければいいのか毎日悩みながらやってました。
林
なんでそんなに難しかったんですか?
増田
スパコンの計算ですね。太平洋高気圧が5日先、7日先に覆って来ると予測して、そう思わせておいて結局来ない…という状態が続きました。
太平洋高気圧は来ない、梅雨前線は居座る、湿気はどんどん流れてくる、雲が大量発生……。大変な7月でした。

前回のクイズの答えと今月のクイズ

Q. 7月15日時点でどこまで梅雨明けしているでしょうか?

正解.沖縄

林
繰り返しになりますが、前回の出題時点では「沖縄」のままだとは思わなかったですね。
増田
そうですね。「奄美」と「四国」と予想された方が多かったみたいです。
林
残念ながら、今回は正解者なしです。
西村
今年は記録的な梅雨でしたから、外れてもしょうがないです。
増田
大丈夫! 気象予報士も全員外していますから(笑)!

今回もクイズです

林
今月はどうしましょうか?
増田
今回の話ともリンクするので、最高気温にしましょうか。
Q. 今年の国内の最高気温は?

クイズの締め切り:2020年8月11日

増田
もしかしたら、締め切りの11日までに国内最高気温が出るかもしれませんね。そこも踏まえて、答えてもらいましょう。
林
40度超えはあるんですかね?
増田
西日本は梅雨明けしたんですけど、ずっと晴れが続くんですよね。10日ぐらい連続で晴れたら、けっこう近いところまで上がるんじゃないかな?
林
ちなみに、これまでの国内最高気温は2018年の熊谷市の41.1度。
増田
小数点以下は難しいと思うので、正解者は一番近かった方にしましょうか。
林
僕は40度にします。メリハリが大事だと思うので。
西村
う〜ん。チベット高気圧を見たらすごく暑くなると思うんですが、40度はいかないと思う。37度で。
林
きっと、40度を記録して、みんな「体温より暑い」って言いますよ。
増田
どうなるんでしょうね。1ヶ月前も予想しない天気だったわけですから、今年もまさかの展開が待っているかもしれませんよ。今年の夏は、ワクワクさせてくれますね!
しめきり:2020年8月11日

 

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