今月の天気の流れを解説する「今月の天気」。1ヶ月という長いスパンで、その月の天気の特徴や仕組みを見ていく連載です。解説はデイリーポータルZではおなじみ、気象予報士の増田雅昭さん。ついでに、ライターが気になる天気の疑問もぶつけます。
今回は7月の天気を伺いました。(本連載は1ヶ月の見込みをお伝えするもので、詳しい予報は行っていません。詳しい予報が見たいかたは、ウェザーマップなどの専門サイトをどうぞ)
ここの文と対談まとめ:小野洋平(やじろべえ)
梅雨明けのポイントは台風の発生?
早いもので1年の半分が終わりましたね。7月はどんな天気になりますか?
7月の前半は、先月に引き続き梅雨前線がウネウネと蛇行します。しかし、だんだんと南から太平洋高気圧が大きくなり、7月のうちに主役は交代するでしょうね。
先月の話だと、北に行けば行くほど、水源地から遠くなっていくほど梅雨前線はぼやけてくるんですよね?
北上するにつれてぼやける梅雨前線
そうですね。曖昧になり、北海道の北あたりで待機することになります。そして、太平洋高気圧に覆われてしまえば、日本の天気は「晴れ」と「暑い」。以上!になりますね。
とはいえ、太平洋高気圧に覆われるまでが難しいんですよ。特に太平洋高気圧の縁辺りは一番ややこしい。高気圧がバランスボールのようにふくらんだり、しぼんだりするため、晴れたり、急に雨が降ったりします。
少しの動きで全然天気が変わってしまうんですね。梅雨前線と太平洋高気圧以外に登場人物はいますか?
影の主役は台風ですよね。熱帯地方で台風が発生してくれないと、夏になりきらないですから。
結局、天気のスタートというのは熱帯地方なんです。熱帯周辺に太陽の熱がたくさん降り注ぐことで、海は熱くなります。
そして、温められた海から上昇気流が発生し、海の湿気が大量の雲に変わるわけです。その雲が渦を巻いて発達すれば台風になります。
なるほど。それが日本の夏とどう関係するのでしょうか?
台風は強い上昇気流でできています。上昇した空気は周辺部で下降します。
太平洋高気圧は下降気流のため、台風から周辺に出た空気が下降していくことで、下降気流を強める=高気圧を強めることになります。逆に言えば、台風が生まれないと、太平洋高気圧は弱いままで梅雨が明けないという可能性もあるんです。
台風って雨を降らす以外に裏で太平洋高気圧と結託していたんですね。
フィリピン沖から梅雨までつながるようす
だから、南側で台風が発生するかどうかはけっこう大事なんです。ちなみに今日の資料を見ると、7月は太平洋高気圧が強まり、例年並もしくは例年以上に強くなるみたいです。おそらく、梅雨明けは早まるんじゃないかと思います。
では、7月はじめには太平洋高気圧も沖縄に入り始めている?
そうですね。ただ、先ほども言ったように、高気圧がバランスボールのように強まったり、弱まったりしているので、いつ本州を完全に覆うか予報は難しいですね。
でも、8月に入れば「晴れ」と「暑い」のみで簡単なんですよね?
8月上旬まではそうですが、お盆を過ぎると、太平洋高気圧が萎んでいくので、またバランスボールのような現象が起きます(笑)。
気象予報士の仕事は予報だけじゃない
そもそも、天気予報ってどのように作られているのでしょうか? テレビ番組でいえば、気象予報士の方が話すことを考えているとは言っても、予報データの元はどこも同じ気象庁なんですよね?
そうですね。気象庁が運用しているスパコンのデータを元に我々は天気を予報しています。
じゃあ、どのチャンネルでも同じ天気予報になるのでは?
いえ。スパコンのデータはあくまで大元です。そこから我々のような民間の気象会社が、独自データ・計算式のフィルターを通し、天気予報を作っていきます。
なるほど。天気予報がチャンネルによって違うのは、そのフィルターの違い?
そうですね。要はテレビなどのメディアで広範囲に天気予報をお知らせする場合は、気象庁の予報を出す、もしくは許可を得ている民間の気象会社でなければなりません。僕で言えば、ウェザーマップの予報をベースにお伝えしています。
(注:増田さんはウェザーマップの所属です)
気象庁が卸し、気象会社や予報士は小売といったところでしょうか?
そうですね。もちろん、気象庁もデータを作りながら予報も出しています。
それは、メーカーが小売もしているみたいな感じですね。
また、なかには気象庁のデータを受けて、個人で許可を得て予報している方もいますよ。
気象予報士って、資格を取っただけでは伝えられないんですね。
ということは、気象予報士の仕事って予報を作るというよりは、伝える仕事?
「作る」に関わる仕事もあります。例えば、民間気象会社では予報を作るときに独自データやフィルターを通した上で、最終的に今の天気と見比べたりして、予報を修正したりFIXさせるのは予報士の仕事です。
たまにネットで「気象予報士、的中ランキング」みたいなものをつけている方がいますが、フィルターの違いだったんですね。
天気予報が届くまでの流れ
あとは、表現の仕方でも変わってくるかもしれません。予報データは、マークや雲量の数字などで送られてきます。そのため、その部分を言語化しなければ、テレビでは伝えられないんですよ。
同じ晴れでも、表現ひとつでイメージがガラリと変わりそうですね。
例えば「カンカン照りの晴れ」と「コロっと手のひらを返すかもしれない腹黒い晴れ」では、同じ晴れマークでも天気のイメージが全然変わってきますよね?
予報能力にくわえて、そこの言い回しは大きく関わってきそうですね。
でも、先ほどの「気象予報士、的中ランキング」みたいなサイトが日々更新されていけば、今はこの気象予報士が好調だって比較できて面白そうですよね。ぜひ誰かにやってほしいな〜(笑)。
懐かしき気象用語。陣風線、不連続線、真夏夜
そういえば、今朝(2020/6/25)の五島列島、雨がすごかったみたいですね?
そうですね。だんだんと梅雨も後半になってきたなという感じですね。
前回の話で言えば、東南アジアから流れてくる大量の湿気に太平洋の湿気が合流したから強くなったんですか?
そうですね。先ほど見たら「線状降水帯」ができていましたね。
かっこよくしてみました(林)
その名の通り、雨雲(積乱雲)がライン状に伸びた積乱雲群です。これは数時間に渡って、ほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出されます。
しちゃいます。ただ、線状になった積乱雲が動いてくれれば、激しい雨も一瞬で終わるのですが、これが停滞してしまうと、たちまち豪雨になります。
線状降水帯って、最近聞き始めた印象なんですが、昔からそういう現象はあったんですよね?
はい、ありましたが、2017年には流行語大賞にノミネートされるまでになりましたね。
言葉としては昔からありましたが、テレビやメディアで使われるようになったのが、2005年に杉並区を中心に豪雨になった「杉並豪雨」からだと思います。危機感を伝えるためのキャッチーな名前として取り上げられるようになったんでしょう。
天気の世界でも急に注目を浴びる現象ってあるんですね。
ゲリラ豪雨もそうですね。元々はただの夕立、もしくは局地的な豪雨としていたのですが、ゲリラ豪雨というキャッチーな名前がついてからは、なんでもかんでもそう言われるようになりましたね。
集中豪雨はもうちょっと規模が大きい場合に使われます。定義としては、積乱雲が連続して通過することによってもたらされ、数時間にわたって強く降り、100mmから数百mmの雨量をもたらす雨。
対して、局地的大雨は単独の積乱雲によりもたらされ、数十分の短時間に数十mm程度の雨量をもたらす雨です。
今は天気予報の用語となっていますが、元々は1950年代に新聞の記事で使われてからメジャーになっていきましたね。
80年代〜90年代まではひどい大雨災害は集中豪雨って言われていたのですが、いつからか集中豪雨という言葉では人々に訴えるのに足りなくなり、ゲリラ豪雨という言葉が生まれました。正確には、ゲリラ豪雨は気象用語ではないですし、予測が困難な局地的大雨のことを指すのですが…
ゲリラ豪雨はいつか学術の定義が決定するんですかね?
一般的に使われている気象用語が、あとで学術的に定義されることって多いんですか?
半々でしょうね。線状降水帯のように学術用語がみなさんの中に定着するパターンもありますから。ちなみに僕は天気予報で「ゲリラ豪雨」と「猛暑日」はまだ使っていません。
(注:増田さんはTBSテレビ「あさチャン!」「まるっと!サタデー」で天気予報を担当中です)
最初に「そんな言葉を使うものか」と言ってしまったので、意地で使ってません。……同じように言ってた他の気象予報士さんはどんどん使うようになっていますけど(笑)。
ありますよ。例えば、陣風線。これは急に風が吹くことを指しますが、今では寒冷前線と呼ばれるのが一般的です。あとは、不連続線。これは、2つの気団の境目のことを指すのですが、今では「前線」としか言わなくなりましたね。
盛り上がったリモート会議を再現
熱帯夜は最低気温が25度を下回らない日ですが、真夏夜は20度を下回らない日です。今現在、20度を下回らなくとも、みんな真夏だとは思わないじゃないですか? それもあって、残念ながら消えましたね。
なっているんじゃないですか? 歳時記に載っていると思いますよ。
個人的には、降水確率の「5%未満」も使われなくなったのが気になります。
それを見て、僕は未満って言葉を覚えたんですけどね。
現在では、降水確率が4%でも四捨五入して0%と表示しています。
ゼロカロリーみたい!( 100gあたり5kcal未満、飲料は100mlあたり5kcal未満ならゼロカロリー表記することができる)
日本は四季ではなく、五季!?
梅雨は雨季ですよ。世界の人に紹介するなら、ジャパニーズ レイニーシーズンです。
でも、熱帯の雨季ってものすごく長いイメージなんですけど。
そうですね。とはいえ、日本でも1ヶ月半くらいはありますから。ある程度の期間がありますから雨季でしょうね。
増田さんがさらっと常識を覆した瞬間
五季とも言えますね。さらにいえば、七十二候のように72の季節に分類することもできますからね(笑)。
ただ関東の場合、梅雨よりも秋雨の方が雨量は多いんですよ。
そうですね。境目がはっきりしないのも、メジャーではない要因かもしれませんね。
湿度100%って水中じゃないの?
正確に言うと、湿度とは飽和水蒸気量(=1㎥の空気に含むことのできる水蒸気の最大量)に対する空気中の水蒸気の割合を指します。100%はわかりやすく言えば、霧ですよね。
では、湿度100%の部屋があったとして、どうやったら水が出てくるんですか?
わかりやすい実験でいうと、まず45度ほどのお湯に中性洗剤を数滴落とします。
次にお湯の中にストローを入れ、息を吹き込みシャボン玉のドームを作ってください。最初はその中に湯気がほわんほわんと見えますが、しばらくするとなくなります。
これはシャボン玉内の凝結核を使い果たしたからなんです。なので、もう一度シャボン玉に息を吹き込めば、湯気が出て凝結しますよ。
飛行機雲は、ジェット燃料のカスに周りの水蒸気がくっついて水となったもの
photo by aka
ジェット燃料が噴射した後のカスですね。湿度の高い所に飛行機が飛び、カスがあることで、周辺の水蒸気が水になります。
ちなみに、飛行機雲ができても一瞬で消えてしまうのは、周りの空気が乾いている証拠なので天気は崩れにくいです。逆に飛行機雲がなかなか消えないということは、周りの空気が湿っている証拠なので翌日や翌々日に天気が崩れることがけっこうあるんです。
前回の答え合わせ
今回も答えは月末を待たないといけませんね。(取材日は6月25日)
ということは、フィリピン沖の海が温められていないと?
そうですね。ここまで少ないと、バランスをとるために7月〜9月に一気に発生するかもしれません。
メロポンさん
答え:2個
理由:
気象庁ホームページにある6月の台風発生数(1990年以降)を数えると51個ありました。平均すると1.7個発生しているようです。
ただ、6月はすでに10日経過していますが、まだ発生していませんし、台風の卵である熱帯低気圧もないので、明日も台風はないでしょう。
なので、6月11日まで台風なしとして1.7個を日割り計算すると残り19日で1.08個となりました。
そこで回答は「1個発生するので2号まで」とさせていただきます。
(編集注:クイズの回答は「2個」になりました。正解者はメロポンさんです。おめでとうございます!)
今回もクイズです
Q. 7月15日時点でどこまで梅雨明けしているでしょうか?
<選択肢>
沖縄・奄美・九州南部・九州北部・四国・中国地方・近畿・東海・関東甲信・北陸・東北南部・東北北部
出典:気象庁ホームページ
平年の7月15日の状況を見ると、関東は明けてないですね。九州北部で7月19日。ということは、沖縄、奄美、九州南部までしか梅雨明けしてませんね。
でも、中国、近畿、関東って緯度があまり変わらないからポンポンポンと梅雨明けしそうですよね。
締め切りは7月8日にしましょうか。1週間後の予測なので、ぜひ週間予報を参考にしてみてください。