春に風で桜が散るのは毎年恒例?
林:あっという間に新年度ですね。今月の天気はどうなりますか?
増田:4月のオーソドックスな天気で、高気圧と低気圧が交互にやってきます。
林:王道ですね。その高気圧に名前は付いていますか?
増田:特に固有名前はなく、「移動性高気圧」というぐらいです。これは西側の長江(揚子江)あたりから来ることが多いですね。
林:揚子江気団はまだ続くんですか?
増田:人間は勝手に3月や4月という区切りを定めていますが、天気には境目がないので、引き続き暖かい空気を持った揚子江気団はやってきます。
林:低気圧はどこから来ますか?
増田:低気圧も基本的には西側からやってきます。ただ、この低気圧は時々「暴れる」ことがあるんですよ。
林:「台風並みの低気圧」ってよく言われるのは4月でしたっけ?
増田:多いのは秋〜冬にかけてですが、4月にも時々発達した低気圧がやってきます。2012年4月3日に東京で暴風警報が出たのを覚えていますか?
林:エピソードがあれば覚えているんですけど……。
増田:震災の翌年だったこともあり、帰宅難民を防ぐため社員を早く帰らせる企業もありました。あれは、暴れた低気圧の仕業です。
桜が散るのは空気の温度の差のせい
西村:一昨日(3/24)もめちゃくちゃ風が強かったですよね? あれも低気圧の影響ですか?
増田:風が強ければ、発達した低気圧の場合が多いです。というのも、4月は季節の変わり目になるので、暖かい空気と冷たい空気の両方が存在します。この2つの温度差を解消するために低気圧は反時計回りにグルグルと渦を巻き、空気をかき混ぜ、ぬるい温度にしてくれるわけです。
林:なるほど。ちょうど良い気温にするためにかき混ぜてくれてたんですね。
増田:はい。北からの冷たい空気も南からの冷たい空気もお互いが譲らないため、ぶつかります。それを緩和させるために低気圧がグルグルと渦を巻いているんです。だから、温度差が大きい場合はたくさんかき混ぜないといけないじゃないですか? つまり、空気が勢いよく動く。これが強い風が吹く正体です。
西村:ということは、風が強い日の後は温度が極端に変化しない?
増田:そうですね。かき混ぜる過程でアップダウンはありますが、数日後には平均化されることが多いですね。
林:今年は風が強い日が多いなと思うのですが、僕の運が悪いだけですか?
増田:いえ、実際に今年はちょっと多いですよ。それに、東京でいうと、1年で風が強い日(強風日数)が一番多いのは春ですから。
林:温度を混ざるために、風が強かったんですね。
増田:そして、夏になると毎日晴れて暑いですよね? あれは太平洋高気圧。日本が熱い空気一色になるため、混ぜる必要がなくなるんです。だから、強い風もあまり吹きません。
西村:では、春に咲いた桜が風で散ってしまうのも仕方ないわけですね?
増田:はい。風が強くなる季節なので仕方ないです。
林:「せっかく咲いたのに、この風で散っちゃうね」なんて毎年言ってますけど、当たり前だったんですね。
西村:桜が咲くと、1日くらい寒くなるじゃないですか? あれも春だから?
増田:暖気と寒気がお互いぶつかり合っていますからね。桜が咲いても、急に寒くなったり、暖かくなったり。そして最後は強風で散る。毎年の残念パターンですよ。
林:そういうのものだって理解して納得するしかないですね。
梅雨はモンスーンである
増田:また、低気圧が空気をかき混ぜているうちに、今度は4月の終わりに南から梅雨前線がやってきます。
林:たしか梅雨前線って東南アジアまで繋がっているんですよね?
増田:そうです。「モンスーン」と呼ばれている大量の湿気をもった風が南から来て雨雲の列をつくります。インドや東南アジア、中国など約5000kmほど長く繋がっていることもあります。
西村:そんなに長いんですか?
増田:衛星写真で見ると、繋がっているのがわかると思います。毎年、梅雨前線はこのように現れているんですよ。
西村:四川省の辺りからアリューシャン列島まで続いていますね。
増田:南側で夏の太平洋高気圧が成長するため、雲は北に押し上げられます。写真は 昨年の6月ですが、早いと4月の終わりでも沖縄の辺りにはじわじわと梅雨前線が訪れます。
林:ついつい「梅雨は嫌ですね」と言ってましたけど、日本だけでなくアジア規模の話だったんですね。
増田:はい、中国ではメイユ、韓国ではチャンマって呼び名もあります。例えば、今日も梅雨で鬱陶しいなと思っても、それは点に過ぎない。この雲をたどっていけば、太平洋の真ん中からインドまで行ける。そう思うと、梅雨も許せてきませんか(笑)?
西村:梅雨前線の上下に雲がないのは何故ですか?
増田:雲がないのは高気圧があるからです。前述の通り、南には太平洋高気圧があり、中国の真ん中辺りには春や初夏の乾いた高気圧があります。ちなみに南のつぶつぶの雲が見えますか? あれは海上で湿気がたっぷりあるために細かい雲として発生した証拠です。
西村:中国の左辺りにあるのも雪ではなく雲なんですか?
増田:山に沿った雲になります。これは、モンスーン(南からの湿った空気)が吹いてくると、どうしてもヒマラヤ山脈などにはぶつかってしまうからなんです。結果、山の壁にぶつかったモンスーンが上昇気流を起こし、雨をたくさん降らせています。ヒマラヤの南側に世界的に見て雨が多い地域があるのは山にぶつかっていたためです。
林:日本の梅雨前線は、何とぶつかって雨を降らせているんですか?
増田:梅雨前線の北側には、中国の真ん中辺り同様、春や初夏の乾いた高気圧があります。基本的に違う空気同士は交わらないため、これが壁の役割を果たしています。
林:梅雨前線は上下で高気圧に挟まれているということですね?
増田;そうです。4月の話なのに、6月の話になってましたね(笑)。話を戻すと、4月は30℃近くまで上がる日もあれば、雪が降ったりする日もありますから激情型と言えます。現に東京では、2010年4月17日に雪が積もっていますよ。
西村:そういえば、最近も霰が降りましたよね?
増田:3月14日かな? 雪が降り、本当にホワイトデーになりましたね。これは北の冷たい空気の自己主張が強かったわけですね。
林:でも、もうすぐ自己主張も終わりますよね?
増田:そうですね。だんだんシベリアも暖かくなってきているので、冷たい空気の「在庫」が少なくなってきているはずです。
それぞれの低気圧の役割
西村:そろそろ、台風って発生しますか?
増田:たしか1月に発生していたような……。いや、あれは昨年の12月か。とはいえ、冬の台風は珍しくもないですけど。
西村:12月の発生は珍しくないのですか?
増田:本来の台風シーズンは4月以降、夏にかけてですよね? しかし、年によって1月に台風1号が発生します。逆に遅い年もあり、たとえば2016年は7月に1号が発生しました。この時は記録的に遅かったですね。
西村:寒い1月に発生するのは、なぜですか?
増田:夏が過ぎても、海が冷えるまでにはタイムラグがあるからです。つまり、暑い時期が過ぎても、海はまだ熱いまま。よって、季節が11月・12月になったとしても、南の熱帯地方の海が暖かければ、冬でも台風が発生することがあるんです。天気的には前年の名残でも、年が変わると「台風1号」として認定されます。ちなみに2月~3月は海が冷え込むので、最も発生しにくいです。
西村:台風1号って日本に上陸したことありますか?
増田:過去にはないはずですが、可能性は0ではないですよ。7月に1号が発生した年もあるくらいですから。
西村:7月に発生したのは、海面の温度があまり上がっていなかったから?
増田:それも1つの要因です。
林:台風って気圧の数字が表示されるから興奮しますよね。
増田:言ってしまえば、戦闘能力みたいなものですからね(笑)。低気圧も出ますよ。
林:台風も低気圧なのに、「台風並みの低気圧」と呼ばれるのは生まれた場所の違いですか?
増田:生まれた場所と構造です。台風は熱帯低気圧、つまり熱帯の空気だけで作られた低気圧なんです。しかし、一般的な低気圧は温帯低気圧という名前で、北にある冷たい空気や、南にある暖かい空気などの温帯の空気で作られています。そのため、同じ低気圧でも役割が違うんです。
林:先ほどの話だと、低気圧は北と南の温度差を解消する役割のために渦を巻くんですよね?
増田:その通りです。一方で南の熱帯低気圧は熱い空気だけで渦を巻きます。これは、熱帯地方の熱い空気を北に放り出す役割を担っています。熱帯では温帯のようにかき混ぜる冷たい空気がありませんから、放っておいたらどんどん暑くなる一方です。
西村:南の熱が北に放り投げられる。だから、台風が過ぎ去ったあとの日本は暑いわけですね?
増田:そうです。ニュースなどでよく言われる「台風が温帯低気圧になりました」というのは、放り投げられた熱帯の空気に冷たい空気が混ざり始め、普通の低気圧になったということです。
林:「台風が温帯低気圧になりました」って聞くと、弱まったイメージがありましたが、空気の話だったんですね。台風の話は面白いです。
増田;そう言えるのは今のうち。シーズンになると被害もたくさん出てしまいますからね。
寒くても厚着で乗り切ろう
林:率直な質問ですが、冬物をしまうのはいつ頃がいいですか? 例えば、ダウンジャケット。
増田:先週のTVで「ダウンジャケットは必要ありません」って言ったばかりです。ただ、今日(3月26日)みたいな朝はダウンジャケットがあった方がいいですよね。やせ我慢せずに。
林:TVでダウンジャケットはしまっていいと言ったら、もう増田さんは着られないですよね?
増田:そうですね、やせ我慢するしかないです。でも、自分が言ったことですからダウンジャケットは本当に片付けましたよ。
林:じゃあ、私もしまいますよ?
増田:もう大丈夫です。仮に雪が降っても、それは厚着して乗り切りましょう。
西村:コートはいかがですか?
増田:コートもしまっていいですよ。1日ぐらい寒くてもいいじゃないですか。その時は、この記事を思い浮かべて、私を恨んでください(笑)。
今回もクイズです
<ヒント1>
過去、4月で初めて25度を超えた日(東京)
4月22日(2019年)
4月4日(2018年)
4月16日(2017年)
4月18日(2016年)
<ヒント2>
過去、4月で25度を超えた日数(東京)
1日(2019年)
9日(2018年)
<ヒント3>
林の予想は14日(桜の開花から1ヶ月後だから)
西村の予想は19日(なんとなく遅いと思ったから)
増田:この先1ヶ月の気温のデータを見ると、4月10日ぐらいまでは、平年並みの気温になりそうです。ただ、15日過ぎからは上がりそうな気配があります。なお、25度を平均的に超えるようになるのは6月上旬です。
締め切り:2020年4月10日
前回の答え合わせ
Q.今年の3月 1日〜25日の間で、東京の最も高い日の最高気温は何度でしょうか?
A.23.7℃(3月22日)
増田:投稿では「メロポン」さんの23.4℃が一番近いですね。心の底からおめでとうございます!!
林:加藤さんは0.1℃違いでしたね。
西村:おぉ〜すごい! 理科教師の面目を保ちましたね。
増田:根拠を見ても、林さんと西村さんの理由は情緒ですもんね(笑)。気象予報士が外す辛さ、少しはわかっていただけましたか?
林:そういえば、前回の最後に「僕が予想すると、答えになってしまうので控えますね」と含みのある発言がありましたが、増田さんは正解がわかっていたんですか?
増田:いえ、これは予想しても絶対に当たらないと思ったので保身です。
林さん:そうだったんですね。
増田:今回も僕が予想すると、答えになってしまうので控えますね。