びっくりドンキーとの出会い
わたしがはじめてびっくりドンキーを訪れたのは、たしか小学1年生の頃だったと思う。友達の家族に連れられ、博物館に行った帰りだった。テーマパークの中の建物みたいな外観とやたらと大きいメニューに月餅少女はあっという間に魅了されたのだった。
ただ、残念ながら水に関する当時の記憶はない。20年も前のことだし、なにより「つぶつぶ食感イチゴミルク」に夢中だったので。あれはこの世の液体の中でトップレベルにおいしい。
真のメインディッシュ、水
わたしがびっくりドンキーの真のメインディッシュを認識したのは大学生の頃だ。当時、大学が池袋で、ありがたいことにびっくりドンキーは池袋サンシャイン通り店と南池袋店の2店舗あった。
はじまりは講義の空き時間に友人と南池袋店へ行った時のことだった。久々のびっくりドンキーにわくわくしつつ、大きいメニュー表を眺めながら何を食べようかと考える。季節は夏で、キャンパスは池袋駅西口にあるので南池袋までそこそこ歩いて喉が乾いていた。オーダー前に持ってきてくれていた水を一口、二口と飲む。
「チーズバーグディッシュからなかなか他のメニューに冒険できないんだよなあ」なんてことを話し、店員さんを呼び、オーダーを済ませた。友人との会話に興じていると、さっきメニュー表を片付けたばかりの店員さんがスッとやってきて「お冷やお注ぎいたします」とまだ半分以上残っているわたしのグラスに水を注いでくれた。
そのとき、まだわたしの中では「気が利くな」というくらいで取り立てて注目に至るほどではなかった。しかし、このときもうすでにメインディッシュはサーブされ、わたしはそれを味わっていたのである。
しばらくして注文していたチーズバーグディッシュが運ばれる。最初の一口が思ったより熱く、冷ますために二、三口程水を飲む。どこからともなく店員さんが現れ、水が注ぎ足される。
濃厚なチェダーチーズやマヨネーズドレッシングの口直しに二口程水を飲む。どこからともなく店員さんが現れ、水が注ぎ足される。その時点で水に手をつけていなかった友人の水も注ぎ足される。
この辺りから友人とわたしは「お冷やお注ぎいたします」の頻度に違和感を覚えた。お水、めっちゃ注いでくれない???
その後もハンバーグを食べ終えるまで何度も水は注がれた。本当に一口飲んだだけで待ってましたとばかりに追加される。どこからか「ハイ、どんどん♪」とか「じゃんじゃん♪」とか聞こえてくるんじゃないかというほどに。
また、わたしたちが水に手をつけていないか店員さんが順次ピッチャーを片手に見回りにくる。このときのピッチャーの持ち方には特徴がある。必ず片手で持ち、脇を閉め、胸の前に引きつけるようにして持っている。どの店員さんもだ。
食事が終わったあと、店内も空いていたので少しお腹を落ち着けようとゆっくりしていると、氷が入りキンキンに冷えたグラスが到着した。
これは帰れという合図か?と考えたが、口をつけるとすぐに注ぎ足しに来てくれる。食後にお決まりの「ごゆっくりどうぞ」という声かけも忘れずに。
強烈な給水体験
その日からびっくりドンキーの水への徹底ぶりが尋常ではないと友人とわたしの間で話題になった。
もちろんハンバーグはおいしい、ディッシュサラダも大好き。いつだったかアメトーーク!にて語られた、マヨネーズドレッシングとハンバーグとご飯が三位一体に絡み合った部分のおいしさは筆舌に尽くしがたいものがある。
しかし、もうその日はなによりも水の印象が強烈だった。何を思い出しても直後に水を注ぎにきてくれる店員さんの姿がちらつく。
ひょっとしてびっくりドンキーの真のメインディッシュは水ではないのか。こうしてついにわたしと友人は真実に辿り着いたのだ。
しかし安易に結論づけてはならない。学問する身として浅薄な言説は最低限控えるべきである。そして別の店舗ではどうか。後日、池袋サンシャイン通り店へ訪れることとなった。
水が出ていない=有事
池袋サンシャイン通り店は地下にあり、南池袋店に比べて客が多い。ちょっとしたアトラクションくらいには人が並んでいる。東京ディズニーシーで待ち時間を例えるならば「フランダーのフライングフィッシュコースター」と同じくらいかそれより短く、「シンドバット・ストーリーブック・ヴォヤッジ」よりは並ぶ。といっても時と場合によると思う。人生は冒険だ。
しばらくしてウェイティングリストに書き込んだわたしたちの名前が呼ばれ、アテンドの店員さんの近くに行くと、すでにレジ横に水の入ったピッチャーが2つ見えた。この時点でもううきうきが止まらない。アトラクションに乗る前に隠れミッキーを見つけたときの気分だ。
「2名様ですね、ご案内します」と席へ誘導してくれる店員さんを尻目にわたしはレジ付近に設置されたウォーターサーバーの存在を確認した。そこにはバイトリーダーらしき風格の女性がいて、新規で着席した客の水を用意しているようだった。
なるほどこの店舗は最初と一杯となる水を作成する担当が決められているのか、と頼もしく思ったそのとき、わたしは決定的瞬間を見逃さなかった。
「○番お冷や出てないんだけど」
バイトリーダー(推定)がインカムに向かってそう発した。語気はやや強く、しかし怒っているわけではない。ただ、「特定の卓にお冷やが出ていないのだが、これがどういうことだかわかるな?」という気迫が感じられる口調だった。
これを以て池袋サンシャイン通り店もメインディッシュは水だな、と確信をした。そしてその予測は当たった。席に着くまでに通ったダスターや未使用のお皿が置いてあるコーナーに3つのピッチャーが置いてあるのが見えたし、食前から食後まで終始タイミングよく水は注がれた。
水に見るホスピタリティの高さ
写真は2019年撮影の新宿靖国通り店のもの。一斉に3卓が水を飲んだとしてもすぐに給水できる体制になっている。
「意識高い」という言葉では語り尽くせないホスピタリティの高さに言い知れぬ感銘を受けた。店員さん一人一人がプロフェッショナルである。
それから何度か、池袋・新宿を中心にびっくりドンキーに訪れるたび、わたしはメインディッシュである水を楽しんでいる。
ところで、わたしは日頃から水分補給がかなり頻回であり、あの田中みなみが目標としている1日あたり水分摂取量3リットルは余裕で達成している。
そのため、外食時についてくる水は十中八九飲み干すし、店員さんが水を注ぎに来てくれる際にはコップが空になっている場合がほとんどである。
しかし、びっくりドンキーではたったの一度も水を完飲できた試しがない。一口飲もうものならすぐさまピッチャーを装備した店員さんが駆けつけてくれるからである。
気づいている顧客たちも
とはいえ、ここでわたしが1人びっくりドンキーの水について独りよがりに語っても信じてくれる人は限られていることと思う。そこで下記のエビデンスを参照されたい。
少しすると店員さんが、
「お冷やをどうぞ」と水を持ってきてくださいました。
喉がカラっカラだったので、
ほんの一口で流し込みました。
するとさっきの店員さんが、
自分がちょうど飲み終わったタイミングでふと現れ、
「どうぞ」と
お冷やのおかわりを持ってきてくださいました。
再度、ひと口で飲み干すと
またまた、同じ店員さんがいつのまにか登場し、
「どうぞ」とお冷をついでくれました。
そんなことがさらにもう一回
まったく同じように繰り返されました。
あれっ、この店員さんはいったい。。。
どうしてこうタイミングよく現れるのだろうか?
引用元:びっくりドンキー関町店「お冷やをどうぞ」 | いいよ!あの店★あのスタッフ★
わたしは関町店に行ったことはないのだが、ここもメインディッシュは水のようだ。読んでいてニコニコしてしまうほどのホスピタリティマインドである。
人気グルメ口コミサイト「食べログ」でも次のように、水に関する高評価を見つけることができる。
Twitterでも以下のようなつぶやきがみられる。
一部の顧客はやはりびっくりドンキーの水へのパッションに気がついている。きっと水が真のメインディッシュであると認識するのも時間の問題である。
びっくりドンキーお水情報をください
筆者の実体験に加え、前項の口コミから、びっくりドンキーの水に対する教育がきっととんでもなく徹底したものであることは想像に難くない。
給水の教育体制について、びっくりドンキーを運営する株式会社アレフへ問い合わせをしたいところであったが、件の自粛要請により電話窓口が休止されており、メールでの対応のみとなっていた。緊急事態宣言解除後の現在は電話窓口は再開されているものの、不要不急の極みのような質問をするのは気が引けるので控えることにする。
もしこの文章を読んでくださっている方の中にびっくりドンキーにお勤めの経験があり、水について何かご存知の方がいらっしゃれば是非ともご連絡いただきたい。お知り合いのお知り合いがバイトをしているとか、ご本人じゃなくてもいいので。
裏メインディッシュとしての水
最後に、わたしが実際に訪れたことのある店舗は池袋サンシャイン通り店、南池袋店、新宿靖国通り店の3店舗のみである。本拠地である北海道に住む知人は水について印象にないと言うし、都内某店舗では特におかわりに注ぎに来ることはなかったという情報もある。
また一部はセルフサービス式であったりと、店舗によって水への情熱は異なると言えるので、過度は期待は禁物だ。水に手が回らないほど忙しいときだってもちろんあるだろう。おかわりが欲しかったら自分で頼もう。
ただ、今後もしびっくりドンキーに行ったとき、店員さんがやたらと給水をしてくれたら、それは選ばれしあなたへ真のメインディッシュを提供してくれるということに他ならない。誇りを持ちながら、思う存分味わって欲しい。本当にすぐに注いでくれるから。
おまけ〜南池袋店〜
つい先日びっくりドンキー南池袋店を訪れたところ、あの大きいメニューはなく、タブレットと自動精算機が導入されていた。店員さん曰く3〜4ヶ月の出来事で、この店舗のみだそう。
タブレットにある「店員呼出」を押すと一番に「お水」と出てくる。パッションを感じざるを得ない。さすがメインディッシュ。
もちろん店員さんは頻繁にお水を注いでくれるが、試しに「お水」を押してみると、ものの5秒ほどですぐに来てくれた。
正直わたしのこの1回以外押されたことはないんじゃないか、と思ってしまうが、このご時世最低限の接触で済むため、顧客にも店員さんにも嬉しいサービスかもしれない。