なぜ、私が奇妙な連想をするか説明しよう
そのむかし、私はデートでさまざまな鳥が放し飼いにされている施設、神戸花鳥園へ行ったのだ。そして、彼女がホロホロチョウという聞きなれない鳥の前で突如、
「ホロホロチョウを見るたびに私のことを思い出して」とささやいた。
この謎の言葉の魔法は強力で、十数年たっても「ホロホロチョウ」と聞けば「彼女」のことを思い出してしまう。まるでパブロフの犬、不便じゃないが不自然なこの連想ゲーム。どうにかして止めてしまいたい。
この連想ゲームの原因は、私がホロホロチョウについて「デートで見た鳥」以上のことを知らないからだろう。それなら、ホロホロチョウのことをもっと知ればいいのだ。
神戸花鳥園を再訪しよう
神戸花鳥園は私たちがデートしたあとリニューアルし、「神戸どうぶつ王国」となった。
再訪してホロホロチョウと向き合おうと思ったが、いまは遠方に住んでいるため代理でライターの唐沢むぎこさんに神戸どうぶつ王国に行ってもらうことにした。ありがとう。
唐沢さんから飼育さんに確認してもらったところ
・2010年にどんなホロホロチョウがいたか、現在務めている飼育員の方には不明
といった情報が得られた。
もしかして、私の彼女と神戸花鳥園にったこと自体が幻想なのだろうか。心に不安の影がさしてしまう。
神戸花鳥園がリニューアルし神戸どうぶつ王国になったのは2014年のこと。そのタイミングでいなくなったのか、もしくは私が見たホロホロチョウが亡くなってしまい、その後、あたらしいホロホロチョウが迎えられなかった……ということかもしれない。
仕方がないことだが残念だ。ただ、他に送られてきた写真を眺めていたら、とある写真で脳みそのシナプスがスパークした。
この丸テーブルで食事シーンが蘇ったのだ。私は間違いなくここにいた。でも会話の中身も思い出せない。なんて薄情な人間なんだろう。
何に乗りどこで場所で食事をしたか覚えているが、彼女のことで覚えているのは「ホロホロチョウを見るたびに私を思い出して」のみだ。
残念ながら神戸どうぶつ王国ではホロホロチョウ情報は入手できず、私の元カノとのデートの断片情報がよみがえっただけ。これでは「ホロホロチョウ」なら「彼女」の連想が強くなってしまっただけじゃないか。
大宮小動物公園にはホロホロチョウがいるらしい
当時と同じ場所のホロホロチョウを見ることは叶わなかった。
それならばどこでもよいからホロホロチョウを見に行こう! ということで調べたところ、埼玉の大宮公園内にある「大宮小動物園」でホロホロチョウが飼育されていることが分かった。
早速向かう。
いや、さあホロホロチョウと真剣に向き合うべき時がきたのだ。
一目散にホロホロチョウがいそうなフライングケージに向う。
いざ乗り込み。鳥たちの楽園、ユートピアはここにあるらしい。かなり大それた名前だ。
ここで、魂を燃やしている私が乗り込むこともしらずに。
一気に不安になり、背中に汗がどばっと出た。
もしかして私はホロホロチョウに会えないのだろうか。園全体が私に不安をあおってくる。事前に展示状況について調べてから来るべきだった。
ここの一本道を抜けると動物園の出口なのだ。ここにホロホロチョウがいなければ無駄足に終わってしまう。幸せの青い鳥と違ってホロホロチョウは家に帰ってもいる保障はない。どうかこのゾーンにいてくれと祈りながら歩く。
不安のまましばらく歩いたところに……
いた……!!!!
ホロホロチョウは現物を見ると相当に情報量が多いフォルムの生き物だった。
改めてホロホロチョウのご本人登場を眺めていると色々と発見がある。
「名前が特徴的」で「見た目も特徴的」なのが原因なのか、ホロホロチョウの前で立ち止まる人がかなり多い。
当時の私と彼女がホロホロチョウの前で足を止めたのもこんな背景があったに違いない。
そんな中、とある客のホロホロチョウへの「草間彌生デザインの鳥だ」という言葉が脳にクリティカルヒットした。
確かに草間彌生のデザインを彷彿とさせるほどのドットの数だ。
そうだ、確かに草間彌生デザインだ。水玉が全体にあしらわれたデザインといえば草間彌生であり、このホロホロチョウは草間彌生作品と同じ勢いで水玉があしらわれている。
このたとえツッコミの腑に落ちる感じが脳に染み付いた。
私は今後、ホロホロチョウを見かけるたびに「草間彌生」を連想するようになるのだろう。