役に立たない機械
つぎは中谷先生による「役に立たない機械」という課題。
『役に立たない機械(装置、機構、組み合わせなど)を作ってください。※ 何かの役には立っていそうなのだが、それが何かは決して分からない機械です』
毎年、妙な機械がたくさん生まれる名物課題だ。まずはこれ。
4つのキーだけがあるキーボードだ。「文字の代わりに大小様々の黒い四角を打つキーボード」と説明されている。
実際に実演してもらった。

キーを押すと確かに四角が入力されていく。

何かは入力されているが、通常、役に立たない内容だ。もちろん、「まさにこういう文章が書きたかった」 という人にとっては渡りに船なのだろうが。
キーボードとしての造形はしっかりしていて、何かの役に立ちそうには見えるが、実際には役に立たない。
こちらは、一見すると曲がった口吻を持つ蝶のような見た目だ。
「この装置の機能はその名の通り、自分が動き続けるために油を差し続けることのみです」とある。動作するようすはこんなふう。

機械としても美しく、正常に動作しているが、自分をメンテナンスすることのみが目的のため、世の中に対しては役に立っていない。
しかしそれを言い出すと、たいていの生き物はただ生きるために生きているため、これは自分に跳ね返ってくる役に立たなさだ。パンダのように、起きている時間のほとんどをただ食べるためだけに費やすものもある。もちろん、ただ生きることが結果として誰かの役に立つこともある(土を耕すミミズのように)が、役に立とうとして生きているわけではない。
そうすると、役に立つためにあるのは機械の大きな特徴なんだなと感じる。
「2025年早稲田大学、理工学部数学大門1(1)の答えを再現しました」と書かれている。つまり自分が入試で解いた問題のまさに最初の一問めということだろう。

出題された問題はこのようなものだそうだ。そしてこれを解くと点 w の軌跡は楕円になる。その楕円の形を再現する機械ということなのだろう。
作者である王さんの好きな建築は「軽井沢千住博美術館」(西沢立衛)とのこと。
実際に操作してもらった。

変数 z が半径1の円の上を動くと、その周りを w が縦長の楕円の上で周る様子がよく分かる。
木材を使って歯車などの複雑な機構が組み上げられていて、とてもよくできている。そしてとても役に立っていると思う。もし早稲田の赤本の付録にこれがあったらみんな喜ぶだろう。もし役に立たないとしたら、試験中にこれを作っていたのでは間に合わないという点だけじゃないだろうか。
名建築の腰掛け
建築学科の課題なので、建築に直結する課題もある。
「名建築を腰掛け(椅子、スツール)化してください」(出題:田熊隆樹)
という課題。建築の特徴を捉えて、実際に座れる強度を持つ椅子を作る。
たとえばこの椅子のモチーフは代々木競技場の体育館だ。
この体育館は吊り屋根の構造になっているのが特徴だそうで、椅子のほうも吊り橋のようになっている。
しかしどう座ればいいのかはよく分からなかった。ちゃんと聞いておけばよかった。
こちらのモチーフになったのは梅田スカイビルとのこと。
「梅田スカイビルの特徴である、空に溶け込むようなビジュアルと、リフトアップ工事による空中庭園の完成を再現した。」
空中庭園というのは屋上の丸い部分のようだ。

たしかに再現されている。かっこいい。
空に溶け込むようなビジュアル、ということだとすると、室内よりも屋外に置くとより映える椅子になるのかもしれない。
私しか知らない美
知られていない美を見つけ出して手描きで描いてください、という小阪淳先生の課題。
『美しいものを描いてください。しかし単に美しいのではなく、共感が得にくい美しさや、見つけにくい美しさ、誰にも知られていないような視点から見える美しさを探してください』
で、「美しさ」という点からするとちょっと変化球かもしれないが、面白かったがこれ。
「居酒屋バイトの人なら、片づけのときこの形があったら激アツだと分かります」とある。
じつをいうと、初見では意味がわからなくて、ちょっと考えてからようやく分かった。みなさんはどうだろうか。
自分が客だとしたら、この形にしておくことはとても気づかない。ということは居酒屋でバイトの経験がある人がこういう気遣いができるということだろうか。


