特集 2023年8月21日

ウミホタルってこんなに光るのか

佐渡島でウミホタルを見てきた。東京湾アクアラインのパーキングエリアではなく(それは海ほたる)、海底に潜む小さな生き物だ。

ウミホタルという名がつけられているだけあって、陸のホタルのように光ることができる。

もちろん知識としては知っていたが、実際に見てみると想像していたよりもずっと光りは強く、青白く揺らめきながら水中を泳ぐ様子はとても幻想的だった。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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佐渡島でウミホタル観察会

7月に佐渡島へ行ったとき、伊藤屋という旅館の主人であり、フォトグラファーである伊藤ヨシユキさんに、ウミホタルの観察会をしていただいた。

ウミホタルとは沿岸に生息する日本固有の小型生物で、昼間は海底の砂に潜み、夜になると死んだ魚などのエサを求めて遊泳するそうだ。同じように青く光るため混同されがちなヤコウチュウ(夜光虫)は、まったく別の生き物である。

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案内をしてくれた伊藤さん。場所は佐渡島の某港。ウミホタルは暖かい海の生き物というイメージだったので、佐渡にいるというのは私も知らなかった。

ウミホタルとの出会いは、伊藤さんがまだ小さかった頃。母親から「夜の海をバシャバシャやると光るんだよ」と、近所の港で教えてもらったそうだ。

そして数年前、友人から私も見てみたいと言われて海へ行ったがあまり見つからず、そこから伊藤さんのウミホタル熱が高まって、たくさんいる場所を探し、効率の良い採集方法を調べたそうだ。フォトグラファーとすればウミホタルはとても魅力的な被写体なのだろう。

最近は佐渡島でのウミホタル観察のノウハウがしっかり溜まったので、ウミホタルの動きが活発な初夏から秋にかけて、観光としての観察会を開いているそうだ。

ウミホタルがほんのりと見えた

ウミホタルが多い場所は、海底が砂で、波が穏やかで、川から遠く真水が入り込まないような港内が狙い目とのこと。海が濁っていたり、波がある日は好ましくない。

夜行性なので、観察会は日が落ちてから行われる。そもそも昼間だと光っているのがわからいない。また月明かりも観察の妨げとなるため、月が出ていない新月周辺のほうが好ましい。

ウミホタルが多い場所なら、波が当たるような場所を上から眺めているだけでも見られるそうなので、ライトを消して真っ暗な海を見守っていると、たまにフワっと青白く光る様子が見られた。

なるほど、これは海のホタルだ。陸のホタルは点滅を続けるけど、海のホタルの光は波に飲まれて儚く消えていく。

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写真だとまったくおもしろくないが、この程度の光が陸上から見られた。

ウミホタルは外部からの刺激を受けるとウミホタルルシフェリンという発光物質を放出し、それがウミホタルルシフェラーゼという酵素の作用で酸化される際に、青白く発光するらしい。私もよくわかっていないので、詳しい原理は各自で調べていただきたい。

私が陸から見た淡い光は、波という刺激を受けたウミホタルがルシフェリンを放出し、それがすぐに拡散していく様子だったのだ。

ウミホタルを採集する

伊藤さんのお母さんがそうしたように、長い棒などで海をかき回すとその刺激でウミホタルは光るのだが、観察会ではもう少し安全で確実な方法をとっている。ウミホタルを採集するのだ。

その方法は、適当なビンの蓋に5ミリ程度の穴をたくさん空けた仕掛けを用意し、その中にエサとなる魚などを入れて、3時間ほど海底に沈めておくというもの。

エサの匂いに釣られてウミホタルがフタの穴から入ってきたところを、そっと引き上げるのである。

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ウミホタルを採集する仕掛け。カニなどの大きな生き物が入ってこないサイズの穴がポイント。
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エサは地産地消が好ましいということで、佐渡産のアジが選ばれた。
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海底に沈めておき、3時間くらいで引き上げる。

引き上げられたビンをライトで照らすと、巨大なミジンコのような丸い生物が元気にクルクルと動き回っていた。これがウミホタルなのか。この時点ではホタルっぽさが皆無で、どちらかというとカピパラ、あるいは豆。

調子の悪い日は僅か数匹ということもあるそうだが、今日はめでたく大漁で、ビンの底に積もるほどのウミホタルが捕れた。

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めっちゃとれた。
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すごく早く動くカピパラみたいだ。ダンゴムシみたいな目が赤いやつは別の生物。
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以前に伊藤さんが撮影したウミホタル。
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大きさは指紋の線3~5本分くらいで、殻が結構硬い。
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ウミホタルはすごく光る

ビンの中身を目の細かい金魚用ネットにザバっと流して、採集したウミホタルを取り出すのだが、この時にライトを消したところ、網から流れ落ちる海水が青白く光っていて驚いた。これがウミホタルが放出するルシフェリンか。

陸のホタルやホタルイカ、そしてヤコウチュウは自身の体内で発光をするが、ウミホタルは光る液を体外に出すタイプなので、このように海水が光るのである。

明るさのベクトルは全く逆だが、イメージとしてはイカやタコの吐くスミが近いだろうか。

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こんなにはっきり光るのか。

網の中には幻想的な光の粒。ウミホタル自身ではなく、その周囲が光っているというのがおもしろい。

自らが放出した光を纏って、モゾモゾと動いているのだ。かっけー。

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海中と違って発光物質が拡散しないので、光が長続きしている。これを集めたら「天空の城ラピュタ」に出てくる飛行石の結晶が作れるのでは。

月明かりもない真っ暗な状態であれば、この青い光ははっきりと見えるのだが、ライトをつけると光は途端に見えなくなり、みっちりと網に詰まった丸い虫がうごめいている現実があらわになる。

ウミホタルはオンとオフの差が激しすぎる。声を上げるほど驚いてしまった。(マウスオンで表示されますが、かなりびっくりするのでご注意ください。)

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ウミホタルが手について、体内に光るマイクロチップを埋め込んだみたいになった。

 ウミホタルに小宇宙(コスモ)を感じた

伊藤さんはバケツに海水を汲むと、そこに数匹のウミホタルを放った。

するとウミホタルはルシフェリンを放出しながら、クルクルと螺旋を描くように泳ぎ、その軌跡は青白く光り、ゆっくりと時間をかけて、闇に同化して消えていった。

まるで人魂のようでもある。

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小学生の頃に見ていた「蒼き流星レイズナー」というアニメを思い出した。

せっかくの機会なので、網の中のウミホタルに手を突っ込んで、掬い上げてみることにした。明るく照らされた状態だったら気持ち悪いけど、闇の中ではウミホタルがとても魅力的に見えるのだ。

突然の敵襲にウミホタルは激しくルシフェリンを放出した。精一杯の威嚇行為なのだろうか。

光る粒々まみれになった私の手のひら。ものすごく現実味のない光景である。なんだこれ。

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うひょー。
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そのままバケツの海水へ指を入れると、ウミホタルとルシフェリンは静かに拡散していった。指はしばらく光っていた。

ウミホタルを手で掬った感触は、濡れたビーズのようだった。ただし、微妙にもぞもぞと動いているビーズ。

噛まれたりはしなかったが、そういえばウミホタルはエサのアジを数時間で骨だけにするピラニアみたいな生物だった。もしかしたら噛まれることもなくはないと思うので、過度なスキンシップはお勧めしない。でも最高に楽しかった。

伊藤さんから「ウミホタルは食べないんですか」と聞かれたが、硬そうなのでやめておいた。もし食べたら、刺激を与えると光るウンコが出たのだろうか。

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ウミホタルを海に返したら、そこに小宇宙(コスモ)が広がった。

動画にまとめたのでどうぞ。


書き終わってから気がついたのだが、当サイトの2004年7月の記事に「ウミホタルは小粒でもキラリと綺麗」という記事が載っていて、すでに青白い光を飛行石で例えられていた。2023年に書いている自分が恥ずかしくなった。でもオッケー。

もしかしたら私がウミホタルという存在を知ったのは、この記事が初めてだったのかもしれない。その記事から約20年、デジカメはだいぶ進化したなと思った。

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