容赦ない難しさの作品もある
ウイルスの場合はまだ現実世界にあるものなのでいいのだが、なかには容赦なく理解が難しい作品もあるのだ。その容赦のなさが面白かったので紹介したい。
『Wire Construction of the Boy Surface』中川功大、 舘知宏
作者の中川さんがぼくに丁寧に説明してくれた内容を箇条書きにしたい。
・これは Boy Surface というものです
・三直交のXYZではなく二直交のXYの金具を使っています
・平たい円盤みたいな餃子の皮みたいなものをイメージしてください
・上をまとめるときに、3回対称といって同じ箇所が3回出てくるように閉じたりとか、メビウスの輪みたいに裏表をねじって組み合わせるみたいなことをするとこんな形がでてきます
言葉を尽くして説明してくれる中川さん
ぜんぜん分からなくて面白い。その後に調べたところによると、Boy Surface というのは位相幾何学では有名な曲面なのだそうだ。
Boy Surface の画像検索結果
中川さんが説明してくれたように、餃子の丸い皮を伸ばして丸い球を作ろうとすることを考える。ここでよく考えると、反対側を閉じるときに、実際にはどうやってもすべての正反対の点どうしをきれいに閉じることはできないことが分かる。クラインの壺みたいに自分自身を貫通する形になってしまう。
それに対してヴェルナー・ボーイという数学者が考えたうまい滑らかな閉じ方が Boy Surface なのだそうだ。でそこから中川さんが何を作ったかについてはもう一段壁があるけれども、ようするにその曲面をうまくワイヤーフレームで表現するための工夫を考えて、実際にそれを組んでみたということなのだと思う。
単純にすごく面白かったもの
むずかしすぎて面白いものもあるし、理屈は分からなくても単純に手を動かして面白いものもある。ぼくと林さんが面白がって何回も試したものを紹介したい。
『五枚接ぎ』Quentin Becker
この、赤い台の上に置いた、白と黒の二つが組み合わさったやつだ。真ん中のところで木材の継ぎ手みたいに複雑に組み合わさっている。
なるほど継ぎ手みたいになってるのねーと思って白と黒を左右に離したが最後、たったいま自分で離したはずなのに二度と元に戻らないのだ。
左右に離す途中。ここまではまだ戻れる。
いったん離すともう元に戻らない
この、たったいま自分の手で離したはずなのに、どうやっても元に戻らない感覚はすごく面白い。ぜひ会場でみんなもやってみてほしい。
こういうのを「斜め組み継ぎ」というらしい。ふつうは、組み合わせた後に進む向きは一方向に制限されるものの、組み合わせる出発点の位置はある程度の自由があるのだと思う。ところがこの作品の場合は、出発点自体も一つしか正解がないということらしい。むちゃくちゃ難しくて面白い。
わざと漆にシワをつくる
『ウルシオール皮膜におけるうねりパターンの試作』下田悠太、 中原風香
つづいてのこれは、漆(うるし)をわざと厚く塗ってできるシワのパターンを愛でるという作品。
本来、漆は薄く塗り重ねていくものなのだそうだ。厚く塗るとシワができてしまうことがあり、失敗とされる。しかしここでは、あえていろんな条件で厚塗りして、どんなシワができるかを観察している。

作者は建築構造系のバックグラウンドを持っている方なのだそうだ。ほかにも野老さんのような美術系の方や、情報系、数学系、建築系などいろんな背景の作家が参加しているのだそうだ。
三角形のピースを組み合わせてつくる BAO BAO ISSEY MIYAKE のバッグ
『TRY MINGLE TRIANGLES』BAO BAO ISSEY MIYAKE + 東京大学舘研究室
右側にあるのは BAO BAO ISSEY MIYAKE というブランドのバッグだ。正三角形を組み合わせてできている。
それに対して左側にあるのは、BAO BAO ISSEY MIYAKE と舘研究室が共同で試作しているかたち。正三角形が一定のルールでつながってできているという。まさに「つながるかたち展」にふさわしい。

これがそのルールに沿って作ったかたちを並べたもの。
まず、上の写真の右下の小さいやつはふつうの正四面体だ。展開図はこうなる。

薄い灰色の線に沿って折り畳めば正四面体になる。そして次にこんな図を考える。

左がふつうの正四面体の展開図で、右側のやつはそのグリッド上にちょっと傾けて大きな正三角形を書いたものになっている。これが実は、正四面体ぽい妙な形の展開図になっているというのだ。
元になった論文(後述)の Figure 1 から引用
左が展開図で、これをうまく折ると右側の妙な多面体になるらしい。ちょっと信じがたい。そしてそんなものを思いつくのがすごい。
そして同様に傾け方をさらにちょっと変えたやつを考えることもできて、
この一番右のやつ
それがまた新しい妙な多面体の展開図になっている。
同じ論文の同じ図から引用。右ができあがった多面体。
傾け方を変えればまた別の展開図と多面体ができて、それを規則的に並べたのが冒頭のものになる、ということらしい。
せいぞろい
上のような説明ではよく分からんという方も安心してほしい。なんとこの形を自分で作れるコーナーもあるのだ。
こんな感じで部品をつないで作れるようになっている
上では「折る」と書いたのだけれど、実際には輪っかをつなぐように作るのがよくて、このコーナーではそれが体験できるようになっている。

もくもくと作る林さんと舘先生。

お父さんとお子さんも作っていた。
この形を考えたのは当時2年生だった西本清里さんで、授業に参加していて思いついたとのこと。BAO BAO ISSEY MIYAKE の方によると、このかたち自体はまだ試作中で製品になるかは未定とのこと。今後の動向に注目である。ていうかすごい話だねえ。
※引用した論文は以下です。
『Geodesic Folding of Regular Tetrahedron』
Seri Nishimoto, Takashi Horiyama, Tomohiro Tachi
https://www.heldermann-verlag.de/jgg/jgg26/j26h1nish.pdf
まとめ
自分でも触れる「わしゃわしゃ」のゾーンはとにかく楽しいのでおススメ。よく分からない理屈で妙な動きをするおもちゃみたいなのがいっぱいあるのだ。記事でも紹介した「五枚接ぎ」がすぐ戻せたという人がいたら教えてほしい。
自分は理屈も気になるぞという人向けには、壁に論文が吊り下げてあるという親切設計になっている。仕組みも分かってにっこりである。
取材協力:
CONNECTING ARTIFACTS
つながるかたち展 06
東京大学駒場博物館
2026.7.18 - 9.23
https://sites.google.com/view/connecting-artifacts/06
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
ハサミムシのやつすごいですね。すぐこの仕組みの折り畳み傘を作ってほしい。
この記事は取材対象もすごく面白いのですが、三土さんの説明のうまさもちょっと注目してほしいです。
読者と同じ「わからんな」という目線に立ちつつも、実はほどよく説明というか翻訳してくれて、作品の理解を深めてくれるという。 三土さんの記事ではおなじみのスタンスではありますが、今回特に「効いてる」なと思いました。(石川)