ベトナム料理屋さんにて
会社の近くにベトナム料理のお店がある。ここは何を食べても美味しいし、お店の横のちょっとしたスペースに簡易的なテーブルがしつらえてあって、それがまるでアジアの路上みたいなラフさで好きなのだ。会社の会議室が埋まっていたりすると、みんなでここに来る。
このお店に、見たことがないドリンクメニューがあった。ツバメの巣ドリンクと書いてある。
注文したら缶と氷の入ったカップをくれた。
ツバメの巣というとフカヒレやアワビと並ぶ中華の珍しい食材である。
たぶん一生食べることはないだろうと思っていたものだが、まさかこのタイミングで、しかも350円で体験できるとは。今朝家を出る時にはそんなこと想像だにしなかった。
中華食材のツバメの巣は初夏の頃に日本の軒先に飛んでくるツバメが作る巣とは違い、アマツバメという海岸に巣をつくるタイプのツバメの巣らしい。違うと言っても巣は巣だろう。家食べるの?的な不思議さは残る。
缶を空けてカップに注ぐと、ちょっと茶色がかったとろみのある液体が、もったりと氷を揺らした。
ツバメの巣というのでもっと繊維質なのを想像していたのだけれど、見た感じ少しとろみのある液体にすぎない。嗅いでみてもとくべつな匂いもない。飲んでみた。
巣、懐かしの味
これ、いつかどこかで飲んだことがある味なのだ。ただ、それがどこで飲んだか、何だったのか、いっさい思いだせない。
言ってしまえばとろみのあるうすら甘い水である。ところどころにナタデココの切れ端みたいな弾力のある食感を感じるが、これがツバメの巣なのだろうか。
不思議なのはちょっとだけ香るこの感じだ。シナモン?子どもの頃にお祭りとかで嗅いだことがある匂いのような気がする。
しばらく思いだすための時間がほしかったので、一緒にいた編集部の二人にも飲んでもらった。
やはり似たような感想である。なんか知ってる味がする。ただ、それがなんなのかわからない。
頭の隅にある引き出しを手あたり次第に開けてみたのだけれど、思い出の正体は結局わからずじまいだった。
僕を含め三人が三人とも同じ感想だったということは、ヒトのDNAに刻まれた味なのかもしれない。それとも三人ともだいたい同じような年代なので、子どもの頃に共通に体験した何かなのか。
謎は残るものの、ツバメの巣飲料はさっぱりしていて美味しいし、美容にもいいんじゃないかと思うので、見つけたら飲んでみてください。あの味の正体がわかったら教えてください。