山側は現在進行中の別荘地でござった
記事のボリューム上やむなくカットしたのだが、じつは海から役場を発見したとき、さらに目を引く一角があった。
御宿町、なかなか底知れない場所である。
6時前に目がさめて外を見ると、自転車を漕ぐ人、犬を連れて歩く人がちらほらいる。
ぼさぼさのすっぴんで、海を眺める朝がここにはある。
朝日がきらきらと波に散る間に黒い影がちらほら見える。サーフィンをする人々だ。
サーフィンを初めてじっくり見た。
ぷかぷかと浮かぶ大きな板に腹ばいになって、両腕でえっちらおっちら波を越えてより深い方へと向かう。
じっと海の向こうを見ていと思うと、何かを見つけたのか、急いでUターンをして、波の上に立ちあがる。
ここであの、よくみる波乗りサーファーのポーズだ。
どうやらあのサーフィンの格好いい姿はほんの一瞬のことらしい。体勢が崩れたあとは、ふたたび海の向こうへ向かう。ぷかぷか揺れながら、じっと波を見つめている時間の方がずっと長い。
サーフィンというのは、ずっと海を眺め続けるための口実なのかもしれないな。
思い思いに海を味わう人々を存分に堪能し、部屋に戻ってきた。伊勢海老の殻を煮る。
「身よりも殻とミソを煮出した味噌汁がうまい」と昨日魚屋さんで聞いて、食べガラをバッチリ取っておいたのだ。
ううううますぎる!!!香ばしくてめちゃめちゃに味が強い。殻にこびりついていた身もふわふわにほぐれて、その身がじゅわじゅわに汁を吸っていてなおのことうまい。
一日の終りに食べるうまいものも最高だけど、始まりがこんなにおいしいと世界に祝福されているような気分だ。良き朝、良き人生を。ピンクの部屋もだいぶ似合ってきたんじゃないの。
チェックアウトの時間がやってきて、マンションを出る。もう部屋に戻ることはないと知りつつも、しかし今日のわたしは旅立ちではなく引越し二日目。もっと町を知りたい。
昨夜のうちに薄々わかっていたことだが、御宿町、現役バリバリギラギラのリゾート地というよりは、昭和のリゾート開発の名残が残るちいさな町、という解釈が正しそうだ。
ぐるっとそれぞれのマンションの外観を見て回って、御宿町でいちばん住みたいリゾートマンションを決めた。「御宿アーバンコンフォート」である。
決めてはなんと言っても、海を望むこの丸い部屋だ。
ぐるりと曲線を描く窓がたまらない。この間取り図だけでもうまい酒が飲めそうだ。
わたしだったらクローゼット部分をぶち抜いて一部屋にしたいけれど、構造上の問題でそうしてないのかしら…と妄想が膨らむ。
きっとこの町でのわたしは、いつかこのマンションを買うためにせっせと貯金をするのだろう。
一方リゾートマンションの密集地帯を一歩出れば、築40年、50年くらいはありそうな古い一軒家の集落が広がっている。
散歩をしていたら不意に海に出る、そんな…そんな幸せなことがあるのか…
さて、そろそろ帰りの時間も近づいているが、わたしにはどうしてもやらなければならないミッションがある。引越といえば転居届けだ。町役場にいかなくては。
で、それでですよ、この御宿町役場。何も知らずに行ったら絶対ファンになってしまう、とんでもない場所だったのです。
景色のなかに見知った店があり、自分の部屋がある。きっともっと月日が経ったら、手のひらに収まるほどの、この小さな町を愛おしく思うのだろうなあ。
つくばの自宅に戻ってひと眠りしたあと、服を洗濯機に入れようしてふわりと漂うあのピンク色の部屋の匂いに気づいた。夢だったのか現実だったのか、狐につままれたような心地で引越の旅は終わったのだった。
記事のボリューム上やむなくカットしたのだが、じつは海から役場を発見したとき、さらに目を引く一角があった。
御宿町、なかなか底知れない場所である。
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