地元を別の角度から楽しめた
なんとなくやってみたい。ただそれだけの理由で、勢いのまま、潰れたバイト先をめぐってみた。普段とはちょっと違う視点から地元を楽しめたような気がする。
店長:オープンは4年前ですね。最初は1階だけだったんですが、そのうち2階、3階と徐々に売り場面積を増やしていって今に至ります。
2階と3階には洋服やファッション雑貨が置かれている。
ちなみにこのビルがある付近は、かなり正直にいってしまうと、現状栄えているとはいいがたいエリアだったりする。ゆえに、ここでお店を出すのは、結構チャレンジングな試みと思ってしまうのが、元地元民の老婆心なのだけど……
店長:お店を出した当初によく言われました(笑)。もともと僕は東京のほうにいたので、この街の事情を詳しくは知らなかったんです。
ただ、最近では白井屋ホテル(※)ができた影響で、徐々に街に人やお店が増えはじめているという。
※白井屋ホテル…地域活性化活動の一環として大改修・新棟建設が行われ、アートホテルとして生まれ変わったかっこいいホテル。宿泊料金は高めだが、スペシャルな体験がたくさんできるという。
え!それはとてもよいニュース。
帰省のたびに駅前のようすを眺めながら「大丈夫かしら」と憂いでばっかりだったのだが、建物の内側が変わるとともに、状況も変わっていくのだろうか。
街は長い時間をかけて呼吸をしているみたいだ。
次に訪れたいのが「るーぱん伊勢崎店」の跡地である。
自らを「埼玉県民ののソウルフード」と称するるーぱんは、埼玉の埼玉による埼玉のためのローカルチェーンなのだけど、その昔、群馬県にもあったのだ。
「え、そうだったの?」って思った人や、そもそもるーぱんを知らないって人もいるかもしれない。でも、私は覚えている。
だってバイト先だったから。
バイトしていた当時のことをつつみ隠さずに話すと、残念なことに、伊勢崎店が混み合っている日はとても少なかった。そもそも、その噂を聞きつけて、ならば業務で苦労することもなかろうと、働いてみることに決めたのだ。
結果、自分は手持ち無沙汰が得意じゃないという知見を得た。適正を見極めるのってたいせつだ。
外側にはかすかな名残があれども、内側はまったくの別物だ。リノベーション技術のすばらしさに息をのむ。
続いては「セーブオン」の跡地である。
2018年にすべての店舗がローソンに転換して姿を消した、今はなきローカルコンビニ、セーブオン。私が働いていた店舗は、ローソンに転換するより随分前に潰れてしまっている。
ところでコンビニの跡地は、台湾料理店やコインランドリーに生まれ変わることが多い気がする。元セーブオンも、王道を突っ走るかのように、コインランドリーとして活躍していた。
ひとつ驚いた。
24時間営業であることに対してである。
なぜ驚いたかというと、働いていた当時、セーブオンは24時間営業ではなかったから。
早朝に開き、夜は閉まるタイプのコンビニだったのだ。
隠されていたのに、結局顔を出しちゃってるところまで含めて、なんといじらしい。潰れたバイト先めぐり冥利につきる発見である。
最後にもう1軒だけ、初めてのバイト先の跡地に行っておきたい。
ローソンである。当時、男子高生の間ではズボンを腰履きするのが流行っていて、このお店には、ダルダルのズボンを由々しき事態と考えている副店長がいた。
ある日バイトが終わったあと、副店長のズボンへの思いを約1時間聞きつづける機会があって、まもなく私はバイトを辞めた。
滞在期間は2週間。とても儚く短かい時間であった。
壁はたしかに語りかけてくれていた。
ありがとう壁。
しかし興奮のあまり、つい建物のまわりをうろうろしすぎて、周辺にいた人に「何やってんですか」と強めに不審がられてしまった。
そりゃそうだ。自分にとっては思い出とともにある特別な場所であっても、今はもう別の何かなのである。
なんとなくやってみたい。ただそれだけの理由で、勢いのまま、潰れたバイト先をめぐってみた。普段とはちょっと違う視点から地元を楽しめたような気がする。
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