記号化する意味
たとえばこの方である。
この人を他人に説明する場合、
・悪役でよく出ていて
・スキンヘッドで
・ひげが生えてて
・でもちょっと優しそうで
・踊ることもあって
・踊るときは白塗りで
・翔んで埼玉に出てて
などと説明すればするほど相手は混乱し、無駄に時間が費やされていくことになる。ちなみにこの方は麿赤兒さんである。
こういう場合に備え、有名人ごとにビジュアルを記号化しておけば会話がスムーズに運ぶのだ。(麿赤兒さんの記号は本稿に登場します)
記号化の手法
ではどうやって記号化するか?
今回は地図記号のなりたちの手法を用いることにする。
たとえば果樹園の記号である。
まず現物の果樹園、その中から果樹園の概念である部分を抜き出す。
その概念の中から最も象徴的な部分を絞り込み、真髄とする。
それを簡略的にしたものを記号とするのである。
今回はこの手法で5人の有名人を記号化してみよう。
①楠田枝里子さんを記号化する
まず一人目は楠田枝里子さんを記号化してみよう。
楠田枝里子さんといえば、奇抜なファッションと顔の横に手をあげるポーズである。
ここから彼女の概念を抜き出してみるとこうなる。
みごとに楠田枝里子の概念を抜き出すことができた。
これだけで楠田枝里子にみえる。仮にみえないという人には、じゃあ誰に見えると言うのか聞いてみたい。
さあ、ここから最も象徴的な部分だけを絞り込んでみると…
今まで誰も気がつかなかったが、これが楠田枝里子さんの真髄であったのだ。
これだけで「なーるほどザ・ワールド」の声が聞こえてくる。そしてじっと見ればみるほど隣の愛川欽也さんまで見えてくるのだ。
そして、ここから記号を導き出すとこうなる。
楠田枝里子(記号)
この記号さえ見せれば「ああ、あの人ね」と相手も瞬時に楠田枝里子さんを思い浮かべることができるのである。
②藤井壮太さんを記号化する
つづいてはこの人、棋士の藤井壮太さんである。
藤井壮太さんといえばマスク姿と将棋の駒である。藤井壮太さん以外の棋士も同じではないかという声も聞こえてくる。しかしコロナ禍の中でもっとも躍進する棋士として、マスク姿と将棋の駒の組み合わせは藤井壮太以外にはいないと断言できるのである。
さて、ここから彼の概念を抜き出してみるとこうなる。
王将――。
拭けば飛ぶよな将棋の駒にと、村田英雄は歌った。
それと同じく我々には小さな駒だが、藤井壮太の中ではこのくらい大きな存在であるに違いない。
それが効果を発揮し、概念だけで藤井壮太さんを十分に彷彿させてくれる結果となった。
さて、ここからもっとも象徴的な部分を絞り込んでみると…
おっとりしている中に凄みが見え隠れしている。これ本当に対局する相手には彼の顔がこう見えてるんじゃないか?
そしてここから記号を導き出すとこうなる。
藤井壮太(記号)
この記号さえみれば、将棋を知らない人であっても「ああ、2007年ごろから祖父母から将棋の手ほどきを受けて、2016年には史上最年少でプロ入りを果たしたあの人ね」と言わざるを得なくなるのである。
③九代目桂文楽(元・桂小益)さんを記号化する
つづいては九代目桂文楽師匠である。
桂文楽といえば、よっ四角い顔!でお馴染みのペヤングの初代CMタレントである。
CMの中で豆絞りの鉢巻きで柔道部員相手に屋台で焼きそばを売る姿から彼の概念を抜き出してみるとこうなる。
おお、桂文楽!
これをみるだけで無性に空腹を覚え、部活の最中にもかかわらず振り返って後輩部員に「腹減ったなあ」と同意を求めたくなる。
さらにここからもっとも象徴的な部分を絞り込んでみると…
数十年の時を経て、あのCMで言いたかったことは、つまりこういうことだったんだなあと思わせるものがある。万が一、これで桂文楽を感じることが難しい場合は、CMの中で師匠が
と顔を傾けるシーンのように、真髄も同様に傾けてみれば
と、桂文楽を十分に感じることができるので、感じられるまで見続けてほしい。
そして、ここから記号を導き出せば…
桂文楽(記号)
このような結果となり、思わず
と言ってしまうのである。
※注 ついて来られないという人はYouTubeでペヤングCM柔道部員編をみてみよう!
④楳図かずおさんを記号化する
つづいて記号化するのは漫画家の楳図かずお先生である。
楳図かずおさんといえば、トレードマークの赤白のボーダー柄とグワッシのポーズである。
ここから概念を抜き出してみるとこうなる。
用意した手の模型が非可動式なためグワッシのポーズでないにもかかわらず、他の部分と組み合わせることで楳図先生がグワッシをしているように見えてくるから不思議である。
さて、ここからもっとも象徴的な部分を絞り込んでみると…
赤白のボーダーグワッシ。楳図先生の狂気の中にもポップでユーモアあふれるエッセンスが凝縮されたかたちとなった。
ここから記号を導き出すと…
楳図かずお(記号)
このような結果となり、吉祥寺に行くたびに先生をお見掛けし、握手をしていただいたことを思い出すのである。ちなみに吉祥寺で安部譲二さんをお見掛けしたときにはおっかなくて声がかけられなかったことも思い出した。
⑤麿赤兒さんを記号化する
さて、最後は冒頭でも触れた麿赤兒さんである。
麿赤兒さんといえば、やはり白塗りでの舞踏である。
そこから概念を抜き出してみると…
むおおお暗黒舞踏!前衛芸術!美と醜!
なんだかわからんが麿さんのパワーを感じる!
ここからもっとも象徴的な部分を絞り込んでみると…
これでも麿赤兒というのではない。これこそが麿赤兒なのだ。
さあ、これから記号を導き出すとこうなる。
麿赤兒(記号)
シンプルにすることでみえてくることがある。
これこそが麿赤兒――。
これだから麿赤兒――。
麿赤兒。
ただ麿赤兒と言いたいだけではない。いや、ただ麿赤兒と言いたいだけかもしれない。
有名人を記号化するその他のメリット
有名人を記号化することで得られるメリットは会話がスムーズに済むだけではない。たとえばタレントが番組の収録を、病気かなにかで欠席する場合がある。
その場合、欠席したタレントの等身大パネルなどを置いたりすることがあるが、それを用意するのにも手間がかかる。
そこで、このように看板に記号だけ書いておけば等身大パネルの代わりになるのである。
また、タレント自身もサインが簡略化でき、スターの職業病ともいえる腱鞘炎問題からも解放されるのである。
この記事を書いた経緯
この記事は、2021年の暮れにデイリーポータル編集部のYouTubeチャンネルで公開したものを修正し記事用に書き起こしたものである。
本当は「焼き芋」は、さつま芋以外にも合う芋があるのではないか?という趣旨で、いろんな芋を焚き火で焼く企画を書く予定だったのだ。
しかし準備を整えて出向いた焚き火のできる場所は、下調べが不十分で冬季は焚き火が禁止であった。
撮影のスケジュールはこの日しかなく、焦りで手が震えながらスマホで検索し、遠方にあった冬季も焚き火のできるバーベキュー場を発見。
慌てて移動したものの到着したのは日が沈んだあとであり、なおかつ
で、焚き火などとてもできる状況ではなかったという喜劇のような展開に車の中でひとり爆笑。焚き火の撮影を断念し、動画の企画を書き起こすことになったのである。