今のスクイーズブームは海外から火がついた
スクイーズについて教えてもらうべくやってきたのは、スクイーズ界の中でも人気の高い商品を次々に生み出している株式会社ブルームだ。
オフィスに入った瞬間、いいにおいがした。オフィス全体がスクイーズの香りに包まれている。この時点で我々大人の生きている世界とは違う文化が広がっていることが垣間見える。
今泉:早速ですが、そもそもスクイーズとはなんですか?
山本:いま世の中では柔らかいおもちゃの総称になっています。当社ではポリウレタン製のものをそう呼んでいます。
今泉:スクイーズと呼び始めたのは御社が?
山本:もともとあったと思いますが、爆発的なヒットによりスクイーズを一般的に認知させたのがブルームです。
もともと日本ではポリウレタン製の玩具って馴染みがなかったんですが、私たちにはとても魅力的なものとして企画しました。作り始めたのが2002年です。
山本:海外では硬いタイプで動物のフィギュアを素材としてポリウレタンを使っていただけなのですが、それをもっと柔らかく、そして香りもつけてと、もっと面白く出来ると思い、追求して改良してできたもが今までにない新しい癒し系玩具となりスクイーズと呼んでヒットしました。
古賀:かなり前から出されてるんですね。
今泉:どのように今のブームに至ったのでしょうか。
山本:当社はもともと色々な玩具や雑貨を作っていたんですが、特にゲームセンターの景品としてぬいぐるみ、フィギュア、雑貨などを作っていました。当時人気だった『でるぞシリーズ』は全て当社で考えたアイディアで金型の設計から行い大ヒットし400万個以上売り上げました。
安藤:400万…単位がすごいですね、全こどもが持ってる。
山本:そういった中で、先ほど話したようにポリウレタンを取り入れてみようということで生まれたのがスクイーズです。スクイーズは1000万個以上が販売されています。
ゲームセンターのクレーン機でバナナを売ったら面白いんじゃないかという社長の発案で、リアルなバナナを取らせるバナナ売りというのが最初のヒット作です。
山本:その後にヒットしたのは「桃」。これはいまでもブルームの人気商品です。当時はスクイーズとして、というより「バナナ」「桃」として流行っていましたね。
古賀:スクイーズに軸があったわけではなく、モノの方に軸があったわけですね
山本:そうですね、単純にバナナが、桃が、可愛いから売れていた、という感じです。それが2002~2003年くらい。
うちではスクイーズとは区別してTPRというゴム系の素材のものをぷにぷに系と呼んでいるのですが、こういう伸びるタイプもあったりします。
今泉:確かに手触りが全然違いますね
古賀:卵焼きを伸ばそうって発想が半端なくないですか?
安藤:感触ではまらせるというのが素晴らしい…!
山本:柔らかいものは人を安心させる効果があるのとTPRは商品をリアルに表現できるので面白いものが作れます。
そうした中で女子高生が携帯電話に大きなストラップを付けるブームがあり、スクイーズもデカ版ストラップとして流行した。これが2007~2009年くらいで、めざましテレビなどのメディアに取り上げてもらいました。
古賀:2009年ということはガラケーですよね…あっこのカステラ、見たことある。
山本:この頃まではゲームセンターの景品が多かったのですが、物販品としてもロフトで展開した際は、8週連続1位を取り好成績をいただきました。その時に海外の方が日本にたくさん買いに来てくださいました。
海外の方は初めて、柔らかくて、いい香りがして、色が綺麗なスクイーズを見て感動し、海外Youtuberのあげた動画は2014年から大人気になりました。
安藤:感触は言語を越えてるから国も文脈も関係ないんだ。
山本:海外のYoutuberが取り上げていたものが取り合いになり、ネットオークションでブルームのスクイーズの価値がどんどんあがっていったんです。
ブルームの商品は高くてもほしいというニーズが生まれていきました。
その流れの中で「ブルームの商品」にブランド力がついて、市場での価値が決まっていきました。
ブルームのスクイーズは他社よりも高価ですが、そういう背景のおかげでプレミアム価格がつけられる環境があるため、クオリティを下げずに商品を出し続けられています。
スクイーズ、思った以上に歴史が深い。「柔らかいものを作ろう」ではなく「面白いものを作ろう」というマインドから生まれたのがスクイーズであり、そのマインドで商品開発を続けているからこそ今のブームがあるのだ。
スクイーズは文化としてしっかり根付いている
安藤:今のメインターゲットって誰になるんでしょうか?
山本:小中学生の女の子が中心です。
安藤:そうなると値段が上がると買えないのでは…。
山本:お財布を握っているお母さんたちも「ブルームのスクイーズいいね」と思ってくれています。
一度触ると「こんなに柔らかいの!すごーい!」とブルームのファンになってくれます。
高いけれどデザイン・色・香り・柔らかさ・品質・パッケージがとても良くお客様が喜んでくださるからこそ、今だにヒットが続いているのだと思います。他社のスクイーズを持っているお客様も「一番好きなスクイーズはブルーム!」と答えてくれることも多いです。ブルームは子どもたちのシャネルと言われるブランドになりました。
古賀:子どもたちのシャネル……!
今泉:完全にブランドが確立されていますね。
古賀:ガチガチに品質勝負なんですね。割と100均とかに模倣品もあるじゃないですか。
山本:はい、でも触っていただけると違いはすぐに分かっていただけると思います。安くても粗悪品はすぐに飽きてしまいます。
安藤:柔らかさというのはどういう風に変えているんですか?
山本:成分によって変わりますね。商品に合わせて柔らかさは全部変えています。ブルームのパンは実際のパン以上の柔らかさです。
古賀:赤子のように抱いてしまうね。
安藤:怖いっすもん。
今泉:か弱い存在だ。
古賀:でもパン一斤だもんね(笑)
子ども自身はもちろん、お金を出す親にもその柔らかさと気持ち良さがちゃんと伝わっているのだろう。確かにブルームのスクイーズにはつべこべ言わずに握っていたくなる圧倒的な柔らかさがある。それは大人も子どもも関係ない。人類みな平等に気持ち良いのだ。
今泉:遊び方としてはコレクションを見せ合うということでしょうか?
山本:たくさんの商品をコンプリートし、おうちで大事にコレクションしてくれているときいています。
安藤:割とスクイーズ全体的に高価なものですよね。
山本:作っている私たちも高いという認識は持っています。だからこそ品質を大切に作り続けています。
お店で金額だけ見ると、確かに高いと思ってしまう。しかし作り手の話を聞くとその金額にも納得できる。
【クオリティの高い商品を作る】→【お客さんはそれ以上のものを求める】→【よりハイクオリティの商品を作る】→【金額は高くなるがそれが「ブランド」として認められる】という流れがしっかりとできており、スクイーズが既に文化として確立されていることが良く分かる。
あの「牛乳ひたしパン」はデザイナーが小さい頃の想い出の味だった
古賀:いま人気の商品はどれなんでしょうか。
山本:売れているのは「フォクシーフォックス」っていうキツネのキャラクターです。
古賀:可愛い~~~!!!
山本:売れた理由がカラーリングで、いわゆる原宿のトレンドカラーです。
完全オリジナルのキャラクターで、モニター調査をしてキャラクター作りをしています。
キャラクターごとに香りも全部違うんですが、香りを楽しむ用用と飾る用という感じでお客さんが何個も買ってくれるのでとても嬉しいです。
古賀:完全にコレクターだ。
山本:あとはパンとかスイーツはリアルな部分に面白さがあるので定番で売れています。「牛乳ひたしパン」は日本中で大ヒットしていて「牛乳ひたしパンのミニバージョン」は50万個以上も製造しています。
実はこれ、私が小さいころ風邪の時に母親に作ってもらった牛乳にひたしたパンを商品化したものなんです。
安藤:これ、山本さん発案なんですか!?
山本:はい、直感のすごい社長に「牛乳ひたしパン作りたいんですけど」と言ったら「面白いね!」となって商品化されました。
古賀:え、普通牛乳ひたしパンでGo出ないですよね。
安藤:だってステーキとか唐揚げじゃなくて、牛乳ひたしパンですもんね。
古賀:まず牛乳ひたしパン自体が、山本さんが幼少期に食べていたものすごく個人的なものなわけですから。
山本:そうなんですよ、社長がそういう面白いものにピンときてくださって。うちの社長はモノをうるセンスがすごいんです。
今泉:それでこんなに大ヒットするとは思わないですよね。
山本:この「牛乳ひたしパン」の歴史は長くて、2009年から発売しています。発売当初はストラップブームだったのでボールチェーンをつけていました。今はなにもつけずに復刻版として大ヒットしています。
山本:少し厚み出したものや、レインボーカラーやイギリスバージョン等、色んなバージョンの「牛乳ひたしパン」を作っています。
古賀:めちゃくちゃロマンありますね…そしてパンからキャラに移行してキャラが独り立ちするってすごい意外な流れですよね、そういうことがあるのかっていう。
山本:最近は大切な友達とワケて遊べるほんとにちぎれる「ワケパン」を発売しました。
古賀:キャラクターかつパンなんだ! 発想!
今泉:すごい!!
安藤:ちぎっちゃっていいんですか!?
山本:大切な友達や恋人とワケっこすることで世界でひとつしかない二人だけの商品になるので二人の仲が深まるグッズになっているのです!
古賀:これって昔でいうところのペアのハートが割れるペアリングみたいなやつの2019年バージョンってことですよね!?
安藤:最新版の友達の契りだ。
超ビッグサイズの桃が安い
スクイーズのいろはから開発秘話まで色々な話を聞いたところで安藤さんが気付いた。
安藤:このビッグサイズの桃は8,000円台と言っていましたが、小さいサイズが880円と考えると安くないですか?
山本:はい、とてもお買い得な商品だと思っています。この桃は世界一の大きさにチャレンジしてつくりました。パッケージもゴールドの箱を使用して高級感を目指しました。
安藤:今の話を伺ったあとだと「まぁ8,000円台なら買うわ」となりますね。
山本:思っちゃいますよね。実際、売れているんです。
古賀:お客さんにもそれが伝わっているんでしょうね。あ、これお得だって。
山本:社長にずっと言われているのは、「五感を刺激するものを創ろう」ということです。手に持った瞬間に感動とか驚きとかを与えられるものを創ろうと。「可愛いね」くらいじゃなくて「ええっなにこれ!」と驚くものを目指そうとして、この素材とマッチしたのだと思います。
安藤:説明いらないですもんね
山本:そうなんです。小売店に最初に営業行く時は「これなに?」と言われて大変なんですが、そのお客さんもずっと触っていると最後にはスクイーズのファンになっているんです。
安藤:もう夢中になってますもん
古賀:うん、これはないと困るなって気がしてきた。
今泉:大人も持ってるべき。疲れた大人には必要ですよ。
話を聞いていたらどんどん引き込まれて、気がついたら3人そろってめちゃめちゃスクイーズ所有欲が高まっていた。見た目の可愛さから、手触り、においと五感が刺激されまくっている。
というわけで最後にブルームの商品を取扱っている店舗にもお邪魔させていただいた。
当然のようにそれぞれ気に入った商品を手に入れてしまった。分かりやすく思うつぼにはまっている。
全くの異文化にほぼ共感ゼロの状態で取材に臨んだが、まんまとスクイーズの魅力に気付かされてしまった。
キャラクターの文脈みたいなことに関わらず、まず単純にモノとして所有欲を刺激されるのだ。理屈ではなく五感が「ほしい!」と訴えてくる。
さらにはブルームのようなブランドも存在する。それなりの値段でなかなか手に入らないけれど、クオリティは折り紙付き。そういう「憧れの存在」にコレクター心もそそられる。
うん、ちゃんと文化として成り立っている。しかも一過性のものではなくそれなりに成熟している。今後この文化がどのように展開していくのか、これからもスクイーズから目が離せない。
取材協力
株式会社ブルーム
SQUISHY SHOP MOOOSH