育てた鶏を最後まで大切にしたい
ーーなるほど、そのお話が、今回のイベントで使われる食材である「鶏」「野菜」「うに」につながるんですね。
タケナカリー:そうなんです。まずひとつめは、「鶏革命団」さんの、親鶏。埼玉県の小川町という場所でのびのびと、玉子を産むために育った鶏なんですが、年老いて玉子を産めなくなってしまうと、ちょっとショッキングな言葉ですが、その鶏は産業廃棄物という扱いになってしまうんです。鶏革命団さんは、「それって嫌だよね、大切に育てた命だから最後まで大切に扱いたい」というところから、その鶏を食材として利用する活動をしていて。
ーー香川県の「一鶴」というお店の名物に「元祖骨付鶏」がありますが、「ひなどり」と「おやどり」があって、僕はだんぜんおやどり派なんですよ。
タケナカリー:まさにそうで! 地域によっては食べられている食材でもあるんです。筋肉質だから歯ごたえがあって、旨味も強い。それを捨ててしまうなんて、なおさらもったいないじゃないですか。そこで今回は、鶏革命団さんから親鶏から取った鶏ガラスープを仕入れ、カレーのベースとして使わせてもらおうと。実際、かなりいい出汁が出るんですよね。
規格外野菜もちゃんと売りたい
タケナカリー:続いて「チバベジ」さん。その名のとおり、千葉県産の規格外野菜ですね。大きくなりすぎてしまったり、形がいびつだったりで、本来ならば廃棄されてしまう野菜を販売するECサイトをやっているところで。
ーー千葉県産の野菜は美味しいですもんね。
タケナカリー:本来ならば廃棄されてしまう野菜を捨てずに流通させる企業やシステムっていうのは、最近はけっこう増えてきてるんです。だけど、僕がチバベジさんを特に素晴らしいと思うのは、そういう野菜のことを「アート野菜」って呼んでるんですね。規格外野菜って、値段が安いのが当たり前と思われがちじゃないですか。だけどチバベジさんは、そもそもまったく同じ味の美味しい野菜だし、なんなら可食部分はこっちのほうが多いぞ! と。そういう考えかたで、少しでも農家さんに還元しようとしているんですよね。
ーー素晴らしいなぁ。
地球規模で深刻な問題になっている「磯焼け」
タケナカリー:最後は「ウニノミクス」さん。
ーーいちばん気になっていました。廃棄食材なのに、ウニ? と。
タケナカリー:日本全国の漁業、いや、それどころか、地球規模でも深刻な問題になっている「磯焼け」という現象があるんです。端的に言うと、ウニが増えすぎて海藻を食べつくし、海が砂漠化してしまうという。実はウニって、飢餓状態にすごく強くて、そんな状態でも増え続けてしまうそうで。ただ、中身はスッカスカで、食べるところなんてまったくない。
ーー一般的なウニのイメージからはほど遠い現象ですね。
タケナカリー:これもなんとかならないかということで、、そのままではまったく価値のないウニを、漁師さんに獲ってきてもらい、それを買い取って、地上でエサをあげて質のいい状態にしてから販売するという事業モデルを手がけているのがウニノミクスさんなんです。しかもそのエサも、昆布の加工品のあまりなど、本来なら廃棄される部分を使っていたり。
ーーシンプルにすごい! それに、こういう機会がないと知ることがなかったかもしれない問題の提起にもなっているし。
タケナカリー:そうなんです。ちなみにウニは、カレーにしてしまうのがもったいないので、スパイスオイルをかけて食べる前菜のような形で提供する予定です。
ーーう、うまそ〜……。
タケナカリー:というわけで、そういう食材たちを使ってカレーを作りましょうというのが今回の主旨。まぁ、そんな素晴らしい食材たちを「もったいないおばけ」って呼んじゃってるんですけどね(笑)。テーマとしては、スパイス陰陽師が、そういう食材たちから生まれてきたもったいないおばけを、カレーにして祓うぞという。
ーーわはは。すべてがつながった! さっきのCMの意味が今、完全に理解できました。
タケナカリー:ちなみに今回陰陽師として参加してくれるシェフが、僕に加えて、ソウダルアさん、伊藤盛さんのふたり。ソウダルアさんは、出張料理人で現代美食家。かなり独創的な「フードインスタレーション」という表現を取り入れた料理をされる方で、どんな料理を作ってくれるのかがとても楽しみです。
ーー出張料理という言葉のイメージをはるかに超えたパフォーマンスですね! 陰陽師としての力も確かそう。
タケナカリー:伊藤盛さんは、長く出張カレー活動をされている「東京カリ〜番長」のリーダーで、僕の大先輩ですね。こちらもライブクッキング風のパフォーマンスをお願いしようと思っています。
ーー単に会場でカレーを提供するのではなく、ライブ要素もあるイベントなんですね。まだまだ仕掛けがありそうで、すごく楽しみです!
ここであらためてイベント詳細を!
スパイス陰陽師のカレー店 〜もったいないおばけ祓い〜 powered by 渋谷渦渦
カレー愛とバイタリティにあふれるタケナカリーさん。その行動力とアイデアから生まれたイベント「スパイス陰陽師のカレー店 〜もったいないおばけ祓い〜」がどんなものになるのか、今から本当に楽しみだ。
ちなみにこの日の取材後、タケナカリーさんは、取材班一同にお手製のカレーをごちそうしてくれた。
ネパール風のチキンカレーで、第一印象は穏やかで優しいのに、食べすすめるにつれ、スパイスの効果で体がぽかぽかしてくる超本格派。爽やかな香りのネパール山椒「ティンブール」のアクセントも絶妙で、めちゃくちゃ美味しい!
取材中、そのあまりにもいい香りが店の周囲にまでもれ、カレー屋と間違えたお客さんが入ってきてしまったのには笑った。