特集 2021年7月22日

速記を勉強するとすべてが速記に見えてくる

最近マンガで「速記文字」のことを知った。

とにかく速く書くためだけに作られた暗号みたいなぐねぐねの文字で、少し前までは資格として重宝されていたものの、レコーダーのおかげでいまや絶滅寸前らしい。

ここで知ったのもなにかのご縁。絶滅寸前の速記を救うため、いちから勉強してみることにした。

どうでもいいことを真剣に分析してみる記事をたくさん書いているエンタメライター。音楽や映画が特に好き!

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■速記で人をあおってみる

まずはこちらを見て欲しい。

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すね毛が散らばっているようにしか見えないかもしれないが、これはれっきとした日本語だ。名前を速記文字という。

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ただただあおっているだけの文が書いてある。ただ、あおってみたものの私も五十音表を見ながら必死に読んでいる。

速記はとにかく速く書くための文字で、いまのようにレコーダーが普及していなかった頃に議事録などを書くのに使われていた。

いまでは速記の学校を探すのも一苦労だが、かつては人気の資格だったらしい。そんな速記を、独学で勉強してみることにした。

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五十音を練習中。速記にはいろいろ種類があるが、今回は教材が手に入った「V式」にチャレンジ。「ア段はすべて左に傾く」「オ段は基本的に横線」といった段・行ごとのなんとなくのルールがある。

まずは名前を書いてみよう。DPZ速記-04.jpg

どう見てもすね毛にしか見えないし、「なぜ私はすね毛を丁寧に書いているのだろう」という気持ちになってくるが、気にせずどんどん練習しよう。

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まずは簡単な言葉を書いてみる。​​​​​

 

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これは「速記わからん」という意味だ。いまの正直な気持ちである。

 

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こちらはいたってシンプルな速記。

 

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実は「もうむり」と書いてある。V式は「線の傾きで母音を、線の長さで子音をあらわす」文字なのだが、厳密に「『あ』は5cm以上の長さで60度傾ける」などと決まっているわけではないため「これぐらい書いたら長いのでは?」「ここまで傾けたらOKでは?」とかだいたいカンで書くことになる。いま自分が書いている文字がが合っているのかどうかもわからない。まさに「もうむり」の状況である。

 

ある程度書いて五十音を覚えたら、今度は速記の本領である「音声を聞いてそれを文字にする」という書き取りの練習をやってみよう。

 

なにを書き取るか悩んだが、どうせなら有名な話がいいだろうと、中島敦『山月記』の書き取りをすることにした。

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全然書き取りできなかった。

速記がどうのこうのというより、山月記が書き取りの教材としてハードすぎた。

いきなり「隴西(ろうせい)の李徴(りちょう)は博学才穎(はくがくさいえい)」なんて言われても初心者の速記ではまったく対応できない。だいたい博学才穎という言葉自体、山月記以外で聞いたことがない。

 

もう少し、いやかなりハードルを下げようと思い、今度は名作「おおきなかぶ」を書き取りすることにした。

これでもう一度、書き取りにチャレンジする。

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タイトルの「おおきなかぶ」と書いている間にどんどんかぶが育っていった。

まず五十音がうろ覚えなので、思い出すのに微妙に時間がかかってしまう。速記の手練れなら「文字をつなげて書くことでさらにスピードアップする」という技があるのだが、その域まで達していない私では「まあ普段よりはちょっと速いかもしれないな?」ぐらいのスピードしか出せない。

速記、なかなか難しい。さすがかつての人気資格というべきか、素人がちょっと勉強しただけではなかなか書き取りまでスルスルやるのは難しいようだ。

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■速記を書くより速記フォントでタイピングする方が早いのでは

このまま独学で練習をしていると、私が書き取りができるのは半世紀先になってしまう。

ここは思い切って文明の利器を使うしかない。

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配布元:https://wyess.github.io/shorthand_fonts.html

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まさにマリー・アントワネット的発想。手書きの速記ができないならば、パソコンで打ち込めばいいのである。ここは文明の利器に頼って速記をささっとマスターしよう。

文明の利器に頼ってみると、『おおきなかぶ』も......

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この通り!

まったく歯が立たなかった『山月記』も...

 

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しっかり書き取ることができた!!

打ち込みながら「これはライターとして普段やってるインタビューの文字起こしと同じ作業では?」と思えてきたが、それ以上は考えないことにした。

■アスキーアートの元祖・速記文字画をやってみる

せっかく文明の利器で速記をマスターしたので、もっと速記で遊んでみたい。

速記を練習し始めたとき、一番グッときたのが「速記文字画」だ。

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「速記文字画」とは「ほとんど線と点だけの速記文字を組み合わせて、人の顔などを書く」というアスキーアートの元祖みたいな優雅な遊び。図は松尾芭蕉の一句で作られた文字画。(参考:​​​​​​小谷征勝『みんなの速記入門V式』)

せっかく速記をマスターしたなら、この優雅な遊びもやってみたい。さきほどの速記フォントを使って「デイリーポータルゼット」を速記文字画を書いてみよう。

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今回は「V式」ではなく曲線が多くて絵が描きやすい「早稲田式」の速記でチャレンジ。が、「デ」や「ッ」の書き方がよくわからなかったので、やむなく「ていりほたるせつと」にした。

この文字をもとにあれこれ文字を組み合わせよう。

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試行錯誤中。組み合わせ方がよくわからない。
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こねくり回したら、まあまあ腹立つ顔が出来た。

「ていりほたるせつと」の速記文字画を作ってみたら、まあまあ腹の立つ顔ができた。速記を学ぶと、腹の立つ顔をささっと描くことができるらしい。


せっかく速記を勉強したので、書くだけではなく身の回りのいろんなものを、速記文字で読んでみることにした。

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床に落としたひもは「エツオヌンワ」と言っていた。
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私の左手の手相には、「ヌフフウ」という文字が隠れていた。

 

速記を学ぶと、身の回りのあらゆるものが速記に見えてくるようになる。優雅なアスキーアートも書けるし、世界がぐんと広がる気がする。最近新しい趣味が欲しいなと思っている人は始めようよ!いまこそ速記!

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