まだ定まっていないことのおもしろさ
結果的には世界標準と思われる表現が見つかってしまったわけだが、それでもまだ残っている手さぐり状態の表現がたくさん見つかったのは良かった。こういう未成熟な状態での試行錯誤こそ、「人の営み」という感じでとてもいじらしく、そして面白いと思うのだ。
新型コロナの流行で、最近急に出てきて一気に広まった概念「ソーシャルディスタンス」。
感染予防のため他人と距離をあけましょう、というものだ。
急に出てきた概念なので、トイレのマークみたいな、決まった図がない。どんなふうに図示されているか、街中の張り紙から調べてみた。
事例を集めるために街中を歩き回って……ができないのが昨今の辛いところである。
そのかわり、GW中に、デイリーポータルZをはげます会、それからTwitterを通じて、読者のみなさまに写真を送っていただいた。(ありがとうございました!)
ソーシャルディスタンスがどんな絵で表現されているか、さっそく見てみよう。
※各写真のカッコ書きは写真提供者です。
一番シンプル。単に人と人とのあいだが開いている絵だ。
しかしながらこのパターン、単に「人が二人いるだけ」の絵にも見えてしまうので、文字での補足が不可欠である。
それを回避するために、みんないろんな工夫を凝らしている。
たとえば、ものさし的な道具の絵を描くことで、距離の概念を表現しているパターン。
「ディスタンス」というのは距離のことなので、これらはもっとも言葉の意味を忠実に図にしたもの、といえるかもしれない。
ものさしほど直接的ではないものの、目安になる物を使って距離を表現するパターン。
学校の体育で準備体操をするとき、両手を広げて間隔を測っていたのを思い出した。
義務教育はすでにソーシャルディスタンスを予言していたのである!(なんだってー)
人と人とのあいだに何かをはさんだ絵だ。
これは、普通なら2人分のスペースにいまは一人ですよ、という引き算のニュアンスを感じるのだけど
こちらは、2人のあいだにいつもより余分に「間」をいれてくださいね、という足し算のニュアンスを感じる。
絵としては似ているけど、実は解釈が分かれているようでおもしろい。
OKのほう、よく見ると足元に矢印と「2m」の文字が書かれているのだけど、それがなかったとしてもこういう対比であれば一目瞭然。
それから、さっき「単純に空ける系」のところで紹介したこちらも、
ふだんこういう張り紙では2人の人物はもっと近くに配置されることが多いと思う。
そういう感覚があるからこそ、「あれ、妙に離れてるな……」という感じで、距離に意識的になる。
その点で、この張り紙も「対比する系」カテゴリに入れても良さそうだ。
実際にはこのような仕切りは存在しないわけだが、心理的には「距離をあける」と「壁を作る」はかなり近い感覚である。そんなフィーリングに基づいた表現だ。
これは本記事の前半部のオチです。
世の中には記号的なイラスト表現があふれている。
たとえば男女が並んで立っている絵はトイレを表すし、人が扉に走っている絵は非常口を表す。地図上にフォークとナイフが並んでいる絵があれば、それは飲食店のマークだろう。
こういう記号化された絵はピクトグラムと呼ばれるけれども、これらは人々が「こういう絵がかいてあったらこういう意味ですよ」という共通認識を持っているからこそ、メッセージとして伝わっている。
たとえば、
トイレを表すなら便器を描いた方が直感的だと思うのだが、みんなが「これはトイレのマークだ」という共通認識を持っているからこれが使われている。
フロッピーディスクの実物を知らない世代でも、このアイコンが「保存」をあらわすということは分かる。共通認識をもっているから。
言い換えれば、こういう記号は「ずっと使われているので、人々がその表現に慣れている」という状態にあるのだ。
じゃあ、こういう共通認識がない概念がいきなり出てきたら、どういう表現がされるのだろうか。興味深いテーマだが、なかなか実際に観測する機会はない。
そこへ本当にいきなり出てきたのが、「ソーシャルディスタンス」という概念だ。これを表す図の共通認識を、人類はまだ持っていないはず。まだ記号としての形が定まっていないのではないかと思ったのだ。
結果、あつめてみると上記のようにいろいろな試行錯誤が見られた。これはすごくおもしろかった。
しかし、である。上に紹介したパターンは実は、ひとにぎりの「例外」でしかない。
ほんとうは、すでにソーシャルディスタンスを表すピクトグラムはすでに完成して、人類の共通認識に組み込まれていたのだ。その伝播の速さときたら、件のウィルスの比ではない。
圧倒的多数を占めていたその表現は、これだ。
二人の人を描き、そのあいだに外向きの両矢印を入れる。これは日本でも海外のいろんな国でも共通して使われているようだ。人類が獲得したソーシャルディスタンスのピクトグラムの標準形である、といっても問題ないだろう。
最後のは「マスクもしろよ」という気になってしまう。口が開いているからだろう。有事におけるゆるキャラ起用の難しさである。
それからけっこう多いのが、矢印と一緒に具体的な距離が書かれているパターンだ。
いろいろ見ていて思ったのだが、この距離が、張り紙によってけっこう違う。
店内なのか公園か、など条件が違うので一概にどれが正しいとかいう話でもないと思うが、思いのほかばらついているなと思った。
さらに興味深かったのは、日本/海外問わずメートル表記のものはわりと距離がバラバラなのに対して、フィート表記のものはすべて6フィートだった点だ。
気になってちょっと調べてみたのだが、結論としては、単にフィートを使っているのが米国くらいだから、というオチだった。CDC(米疾病対策センター)がソーシャルディスタンスの距離を6フィートと定めているのだ。なるほどー。
結果的には世界標準と思われる表現が見つかってしまったわけだが、それでもまだ残っている手さぐり状態の表現がたくさん見つかったのは良かった。こういう未成熟な状態での試行錯誤こそ、「人の営み」という感じでとてもいじらしく、そして面白いと思うのだ。
技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)、例年ならそろそろ開催アナウンスの時期ですが、今年はイベントの見通しがつかないので、オンラインで開催します!
オンライン対戦の舞台は、Besiege という攻城兵器作成ゲーム。動画を見ていただくとわかりますが、リアルヘボコンに劣らぬヘボさの、すぐ壊れるロボットが簡単に作成できます!いつものヘボコンではできない、火炎放射や放水もアリ!
【日時】2020/6/7 (日) 20:00または21:00から(調整中)
【出場方法】こちらからご登録ください→ 参加登録フォーム
イベントの様子はYoutube Liveで配信予定です。
正式な告知ページは近日公開予定です!デイリーポータルZをまめにチェックしていただくか、Facebookグループ にご参加いただくと通知が来ます。
オンラインじゃないいつものヘボコンの開催はまだ未定ですが、秋くらいにできたらやりたいと思っています。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |