特集 2020年12月24日

毛糸の靴下の中で寝てみたい

キンと冷たい空気、キラキラに輝く街。
お堅いビルの入り口にはツリーが飾られ、老舗のそば屋にはクリスマスソングが流れる。
私はクリスマスが大好きだ。
街もみんなも楽しそうだから。

だけど、この寒さは苦手である。
夜はモコモコの靴下なしでは寝られない。

1995年、海の近く生まれ。映画と動物とバーベキューが好きです。オレンジジュースを飲んでいたコップに麦茶を注いでもらう時でも「コップこのままでいいよー!」と言えます。

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毛糸の靴下の中で寝たい

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今年は小さいツリーを飾った。

クリスマスを境に本格的な冬がやってくる。
楽しい気持ちとウラハラに、朝晩の冷えとの戦いである。
私は特に足が冷えるので、靴下を履いて寝ている。

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いつも使うモコモコの靴下。オコジョの刺しゅうが気に入っている。

しかし最近、この靴下を履いていても冷える。
もっと暖かい靴下を買いに行こうか。
どうにか暖かく冬を越したいと思い、近くの街に出かけた。「毛布を買う。」と言って父もついてきた。

今年は白い息がでない。
マスクで冬の風物詩が一つ減ったなぁと思ったが、ショッピングモールに入ったところで、父のメガネが白く曇った。昔から父のメガネが曇ると笑ってしまう。
メガネの人は風物詩を身につけていて、いいなぁと思った。

寝具売り場に向かう途中、雑貨屋のクリスマスコーナーを見て、私はハッとした。

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視線を感じる。

サンタとトナカイが、靴下から顔をだしてこちらを見ているのだ。
温泉に浸かっているみたいに、ポッ!と頬を赤らめて、いかにも気持ちよさそう。
いいなぁ、私も毛糸の靴下の中で寝てみたい。
全身包み込まれたらあったかいんだろうなぁ。

でっかい靴下は編めるのか

暖を求めて、でっかい靴下を編むことにしたのだが、通常の毛糸で編んでいたら春が来てしまう。
とにかく太い毛糸が必要だ。
「極太 毛糸」で検索するとチャンキーヤーンというブランケットを作る用の太い毛糸をみつけた。
早速クリスマスカラーの赤と白を買った。

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数日後、わたあめが届いた。

この太さならクリスマスに間に合いそうだ。

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触り心地がねこのしっぽみたいで気持ちいい。

この太さだと手編みが無難だが、より早くできるリリアン編みで筒状に編んでいくことにした。
まずはでっかい靴下が編める巨大リリアンを作らなければ。
構造を知るために早速近くの100均でリリアンと毛糸を買ってきた。

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リリアンというのはこれだ。小学生の時に夢中でやっていた。

円の周りの柱に糸をかけ、スティックで糸を引っかけて編んでいく。

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動画を見ながら片手間に編めるほど簡単だ。

編むこと2時間で完成。

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履いてみた。

体が洗えそうなゴツい見た目だが、意外にもふんわり包み込んでくれた。
編み目が大きいので、肌が見えて寒いのではないかと思ったが、空気の層ができて暖かい。
締め付けもないし、伸びるので足の形にフィットする。

手編みの靴下ってこんなに高いポテンシャルを持っていたのか。
でっかい靴下に期待が高まる。

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巨大リリアンを作る

通常の出来上がりサイズを元に巨大リリアンを作っていく。
枠となるフラフープを買い、周りの柱は部屋にあったダンボールで作ることにした。

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ダンボールは強いと聞いたことあるが、この柱は弱そうだ。レベルで言うと2。

柱の本数や間隔が出来上がりを左右するが、計算せずにフィーリングで作る疾走感が好きだ。
私はもう走り出しちゃったら止まらないのである。

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巨大リリアンができた!!

でっか~い!!私がフラフープに入れるのだから、私が入れる靴下ができるだろう。

ひたすら編んでいく

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早速糸をかけて編んでいこう。

くるくる巻きながら1周して、下の糸を向こう側へ、糸をかけて下の糸を向こう側へを繰り返していく。

2周ほどしたところで、円デカすぎない?と思った。毛糸の減りも早い。
出来上がった靴下が伸びることを信じて、組み立て式フラフープの部品を減らし、直径を小さくすることにした。。

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とりあえず一回ほどく。

フィーリングで作るとこうなりがちだ。

気を取り直して、編んでいこう!!

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つま先部分が出来上がってきた。

編んでいると、服に毛糸がたくさんついてしまう。この中で寝たら全身毛だらけの「猫を飼っている人」が出来上がってしまいそうだ。ペット不可の家なのに。

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赤に突入。早く編めて楽しい!

いい!!いいぞ!!!クリスマスっぽい。
ダンボールの柱がしなり始めたが、セロテープで補強してなんとか保っている。

毎日夜、1時間編む。
ひたすら手を動かすのは、意外にもストレス発散になるのだ。

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かかとの部分には再び白を入れる。

夢中で編んでしまう。

ふと、途中経過を見たら、

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マリオカートで追いかけてくる甲羅ができていた。これを2番手に持たれたら怖い。
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じゃーーん!裏返すと編み目がかわいい!!

持ちあげながら写真を撮っていたらダンボールの柱が重みで弱ってきて、焦る。

いよいよ、ラストスパートだ。

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ほんとに大きな靴下が出来ている!

自分がコビトになって、巨人の靴下を編んでいる気分だ。

ついに最後の1玉。
最初は楽に回しながら編んでいたフラフープも、かなり重たくなった。
この下のカーペット、毛糸まみれだろうなぁ。

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編むこと1週間。全部で毛糸6玉使った。

思っていたよりも順調に進んだ。

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いよいよ完成!

でっかい靴下ができた!!

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靴下の形も上出来だ!

私の履いている靴下と比べると大きさがわかるだろう。
プレゼントを届けに来た家で、この靴下が吊るされていたらサンタも戸惑う。

早速入ってみよう。

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未知の世界へ足を踏み入れるのはドキドキする。

編み目をたぐり寄せて、おしりをずらしながら入る。
からだがすっぽり収まった。大きさはちょうどよい。

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へへ!へへへ!あのね…これね…、いいよ!!

肌触りもよくて、柔らかい!
背中に編み目のごつごつを感じるが、石の上で岩盤浴しているような心地よさ。
そしてなにより、暖かい!!

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寝返りも自由にうてるし、伸びるので中も狭くない!

父に見せたら「寝袋みたいだな。」と言われた。
今度友達とキャンプ行くときに持っていこうかな。かさばるけど。

中に入ってごろごろしていたら温まって眠たくなってきた。
時は来た!
パジャマに着替えてまくらも用意して、いざ就寝!

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おやすみなさい!

窓が曇るほど冷え込んだ日なのに、暖かくてすぐ寝てしまった。

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一時間半ぐっすり寝た。

すごくいい昼寝だった。
あのサンタとトナカイみたいに、満足の笑みを浮かべて起きた。

すぐ脱げないのでトイレに行きにくく、全身が毛だらけになってしまうが、入って本を読んだり昼寝をしたり、部屋でくつろぐにはもってこいの靴下ができた。

クリスマスソックスを木に飾りたい

せっかくクリスマスの色で編んだので木に飾ってみたい。
木に飾って初めてクリスマスソックスなのだ。
今のままじゃただのでかい靴下だ。

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靴下を抱えて外に出かけた。結構重い。

川の近くの木に飾ろうとしていたら、「これ、あなたが編んだの?」とおばさんが話しかけてきた。
飾れる木を探していると言うと、近くの良さそうな公園をたくさん教えてくれた。

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とりあえずここで写真を…と広げると、かかとが見えるように直してくれる。

「これじゃあ、おせっかいおばさんね。」と笑う顔がすごくチャーミングで、たった5分前に会ったのに、このおせっかいがどこか懐かしい。

おばさんは「これからクリスマスカードを買いに行くの。」と言って、お孫さんの写真を見せてくれた。いいですね、と言うと「これしかすることないのよ。」と照れたように笑った。

「近くに住んでるから、また会いましょ~!」と言っておばさんは暖かい嵐のように去っていった。
みんな誰かと話したいのだ。

教えてもらった公園についた。

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高く結ぶには限界があったので手で持った。

枯れ木なうえに低い。
クリスマスツリーとはかけ離れているが、お気に入りの写真だ。

写真を撮って帰ろうとしたら、ベンチで日向ぼっこをしながら新聞を読んでいたおじいさんが「もし必要だったら脚立があるけど、いるかい?」と話しかけてくれた。

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脚立を借りた。

そしてさっきよりも高い位置で吊るせた。

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というより干せた。

干すとかなり伸びて私の身長をゆうに超えた。

そのあとおじいさんにお礼を言って少し話した。
一緒に写真を撮ってもいいですか?と聞くと、「あぁ、いいよ。ちょっとまってね。」と、少し濡れていたベンチに新聞紙を広げてくれた。

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靴下よりもなによりも、人の優しさがいちばん暖かいのだ。
そう思いながら抱えた靴下は、さっきより少し軽かった。


結局、まだ新しい靴下を買っていない。
一足でやりくりするくつしたを洗ってしまい、急いで乾燥機にかけた。
今夜は特に冷える。

乾燥機が終わった音がして洗面所に行くと、風呂上がりの父がいた。
「お風呂空いたぞ。今日掃除したから、気持ちいいぞ。」と言うメガネは、湯気で真っ白に曇っていた。

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