取材を終えて
横浜にはあちこちに廃線となった引き込み線が残っており、この線路もその一種かと思えたが、実際には復活再利用を求める意見があがり注目の高まる線路だった。
具体的な動きは、2019年度末に南本牧ふ頭の新たなコンテナターミナルが稼働してから、ということになりそうだが、貨物線の復活はロマンのある話。さまざまな検討が必要になるだろうが、ぜひ実現してほしいと思う。
ー終わりー
「神奈川県横浜市中区かもめ町に「使用中止」と書かれた踏切があるのですが、かつて何に使われていたのでしょうか?気になります」という投稿が、とぽさんからはまれぽ.com編集部へとどいた。
かもめ町の踏切は、2005年まで利用されていた引き込み線「国際埠頭専用線」のためのものだった。
専用線は休止中だが、南本牧ふ頭の開発が進めば復活の可能性はゼロではなさそうだ。
(はまれぽ.com:はまれぽ編集部 )
南本牧ふ頭にほど近い、中区のかもめ町に、使われていない踏切があるという。
「使用中止」と書かれているというからには、線路が使われなくなったということなのだろうが、いったい何のための線路だったのか。早速現地に調査に向かった。
東京湾岸道路沿いから、南本牧ふ頭の入り口に向かって歩いていく。
周囲にあるのは運送会社や工場がほとんどで、売店らしき建物もあったが営業していない模様。ガソリンスタンドのほかに、コンビニなどは見当たらなかった。
ちょっと不安になりながら海の方角へ足を進めると、ようやく到着した。
なんとも可愛らしい名前の町名だ。
このエリアはもともと埋め立てに伴って誕生した地域。多くの中小企業が集結しており、町名は企業団体からの要望を受けて、同じく埋め立て地の「千鳥町」に合わせて「かもめ町」と名付けられたそうだ。
そんなかもめ町のバス停から、海に向かってもう少し進んだところに、その踏切はあった。
近づいてみると、これがキニナル投稿に寄せられた「使用中止」の踏切で間違いなさそうだ。
警報機だけが道路の真ん中にポツンと立ち尽くしている。線路は見当たらないが、どこにあるのだろう・・・と見渡すと、もう一つ警報機が目に入った。
これはもしかして、「第3種踏切」か!?
通常の踏切が「第1種踏切(甲)」と呼ばれるのに対して、「第3種踏切」は遮断機のない踏切。運転免許の講習で存在自体は知っていたが、実際に見たのは初めてかもしれない。
どうやら、先ほどの警報機は線路に向かって左折しようとするドライバーに、電車の接近を知らせるためのもののようだ。
「使用中止」ということは、この踏切と線路は使われていないということだろう。やはり気になるのはこの線路がいったい何のためのものなのか、ということ。
線路内にはあちこちにゴミが散乱していた。一方、レールは古びてはいるがしっかりと設置されている。その気になれば列車を走らせることができそうだ。
さてこの線路、いったいどこからどこまでをつないでいるのだろう。
この先は埋め立て地の端に続いており、道は行き止まりになっているようだ。確認したいところだが、私有地のために立ち入りは禁止。どうやら線路はまっすぐ進んでいるようだ。
この先の敷地を保有しているのが「国際埠頭株式会社」。どうやらこの線路は、国際埠頭と大いに関係があるようだ。
線路を走る列車が運んでいたものとは?
この線路の正式名称は「国際埠頭専用線」。貨物輸送を専門にする神奈川臨海鉄道が、2005(平成17)年まで専用車両で工業用の塩を輸送していた。貨物列車は国際埠頭から横浜本牧駅に合流し、上越線で群馬県渋川市の渋川駅まで運んでいたのだという。
こちらの工場で行われるソーダ電解の材料に、大量の工業塩が必要だった
つまり、線路の反対側は横浜本牧駅につながるはずだが、この専用線は現在使われていない。いったいどのような様子なのか、確認してみることにした。
横浜本牧駅までつながっているはずの線路だが、やはり道中はごみも多く、使われている気配はない。
線路は車道とも並走したり、交差したりしながら続いている。車道部分は車が走りやすいようにするためかコンクリートで埋められており、列車が走れる状態ではなさそうだ。
やはり列車が走ることは想定されていないようで、大きなマットレス(!)が放置されている箇所もあるなど、基本的には荒れた状態の線路だったが、ある位置からは様子が変わる。
バラスト(敷石)も綺麗で、今にも電車が走ってきそうな雰囲気になった。だが、もちろん何も走ってはいない。これはどういうことなのか。
真新しい高架の「はま道路」と並んで続く線路は、その後首都高湾岸線と道路が合流する形で大きく右に曲がる。
ここから先には三菱重工業の本牧工場を始め、大きな工場などがあるエリア。車の出入りも多いようで、踏切が設置されていた。
すぐに見えてくるのが「三菱重工業(株)横浜製作所本牧工場」。広い敷地の工場は絶賛稼働中だが、踏切はどれも使用中止。
この工場の敷地には入り口がいくつかあり、それぞれに踏切が設けられているようだ。
そんな工場前を通過した線路は、道路を横断する形で反対側へと延びていく。そろそろ「専用線」の旅も終点が近いようだ。
専用線が単線で走るのはここまでだ。
線路沿いを歩いても列車は一台も通らないままに、ここまで続いた専用線。かもめ町の踏切から30分以上歩いてたどり着いたのは神奈川臨海鉄道の「横浜本牧駅」だ。
かもめ町の踏切が担っていた役割や全体像は分かったものの、使われていないはずの線路なのに、一部綺麗に整備された箇所があったことは、ちょっとキニナル。
こちらについても調査してみることにした。
専用線復活の可能性は?
かもめ町から対岸にある南本牧のふ頭では、横浜市による新たなコンテナターミナルの建設が進んでいる。
2019年度末の供用開始を予定しているのが、「南本牧ふ頭MC-4コンテナターミナル」。
林文子市長も横浜市会の答弁で「国内唯一の水深18メートル連続バースを早急に完成させ、基幹航路の維持拡大に取り組むことが、国際コンテナ戦略港湾である横浜港にとって極めて重要」と話すなど、横浜港全体においても非常に重要な立ち位置にある施設だ。
完成すれば、南本牧ふ頭はより多く、大きな船から荷揚げが可能になり、ターミナル機能が大きくアップすることになる。
世界最大級のコンテナ船がやってくる最新鋭のコンテナターミナルだ
このコンテナターミナルの整備が進む中で、陸上の輸送手段の一つとして注目されているのが、ほかならぬ「国際埠頭専用線」の一部。
2017年度には、港湾局が「横浜港コンテナ貨物動線検討業務委託」として、国際埠頭専用線に貨物駅設置の可能性を検討していると報じられたことで、期待が高まっているようだ。
「はま道路」の高架下部分の綺麗な線路といい、「国際埠頭専用線」は復活の兆しがあるのだろうか!
折しも新年度予算案が発表されたタイミング、横浜市港湾局はこの「南本牧ふ頭」整備に33億1500万円を計上している。所管の物流企画課にお話を伺うことにした。
「いえ、こちらの予算案はあくまでもふ頭整備に関わるもので、貨物鉄道に関するものは含まれていません」と担当者。
「現状では、すぐに貨物線を利用してどうこうということはないです。鉄道も含め、大量の輸送が可能かどうかを検討する必要はあります」とのこと。
現在の輸送手段はトラックが主体。鉄道での輸送に関して、以前から意見や要望としては寄せられてきたが、鉄道と船の積み替えに関わるコストなど、調査を進めなければならない部分も多いようだ。
線路が綺麗に整備されていた箇所については「現在の『はま道路』を作る際に、レールの位置をずらしたんです。道路が高架になったことで、一部を戻したのが現状になります」とのことで、貨物線の復活との直接の関係はないという。
だが、あくまでも専用線は「休止中」。復活の可能性がないというわけでもなさそうだ。
近年は環境負荷の低減という課題も踏まえ、コンテナの輸送方法を現在のトラック輸送中心から、海運と鉄道輸送へ移行する「モーダルシフト」が求められている。南本牧ふ頭においても、コンテナターミナルの整備に合わせた鉄道の利用検討が俎上に載せられてきたのは確かだ。
2018年2月の横浜市会でも南本牧での鉄道利用を求める意見が寄せられている。
それを受けて林文子市長は、新駅の整備やコンテナターミナルと鉄道の接続などには触れていないものの、「鉄道輸送は、北関東、東北方面など、中長距離の集貨に有効な手段です。環境負荷の低減にもつながります。コンテナターミナルと鉄道駅が近くに立地する優位性を生かして、鉄道の有効活用に向けた検討を進めていきます」と答弁している。
可能性は排除されていないが、専用線の利用が具体的に動き出している、という状況ではない。
物流企画課によれば、「現時点では業界の意見を聞いている段階です。まずはMC-4コンテナターミナルの完成に向けて事業を進めています」とのことだ。
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