平成最後の年の瀬に飛び込んできた「ポケベルサービスが2019年で終了する」というニュース。
時代が変わっていく感慨と、そもそもまだ使っている人いたの?という驚きが広がる中で、「病院関係者の間では、ポケベルが重宝されている(あるいはされていた)」というお話も、まことしやかに聞こえてくる。
病院を含め、果たして横浜市内でもポケベルを使っている場所はあるのか? そして今後はどうなるの?
調査すると、かつてのポケベルブームを支え、なんと今でも形を変えた「ポケベル」を販売しているメーカーが横浜にあった。
これは訪問するしかない!
菊名の大井電気は「ポケベルミュージアム」
一世を風靡した「ポケベル」だが、その中で大きな役割を果たしたのが、横浜市港北区の企業「大井電気」。
ポケベルはいくつかのメーカーで作られていたが、大井電気もポケベルを作っていた会社の一つ。かつてはラジオCMでも「ポケットベルといえば、大井電気」と流れていたほど、「ポケベル界」でメジャーな存在だったという。
大井電気製のポケベルがこちら!
懐かしいフォルム、手に取ると「こんなに小さかったっけ?」と思ってしまう。
ポケベルといえば、数字を送ることができる機器として「14106(あいしてる)」「428825(渋谷ハチ公)」「08171(おやいない)」などのメッセージを送りあうことが若者の間で流行したイメージ。だが、それよりも以前には「受信があったことだけを知らせるポケベル」もあったのだ。
大井電気にはそんな歴史を知ることができる、同社発売のポケベルを展示したギャラリーも設けられている。
まずはブーム以前、若者に浸透する前のポケベルを見ていく。機能としては、無線呼び出しを受けるとベルが鳴り、相手の電話番号が表示されるというもので、外出が多い営業マンが折り返し用に持つという使われ方をしていた。
そして、ドラマの影響などでポケベルブームが起こると、若者の間に一気に普及。さまざまな機能を持ったポケベルや、変わったデザインのものも作られるようになった。
こちらのペン型のポケベルは、ブームの後期に販売されたものだという。胸ポケットに指すことができるお洒落なデザインは、社内からアイデアを募って作られ、高い評価を受けた。
一方で、ポケベルブームはPHS電話の登場や携帯電話の台頭で短期間で終わりを迎えることになる。その後の携帯端末の高機能化はご存知の通りだ。
そんな「ポケベル」だが、ちょっと姿を変えて今も販売が続けられ、横浜市内でも活躍しているのだという。
医療現場で活躍する「ポケベル」
2019年9月でその歴史を終えると話題のポケベルだが、特定の施設などでは元気に活躍中で、今後も重宝されることになりそう。
現在の大井電気で主力製品になっているのが「病院向けのポケベル」だ。
現在のポケベルは、病院の受付システムの一部となった院内専用の端末。Wi-Fi回線やPHS回線を使うが近距離での通信に限られ、もちろん医療機器には影響を及ぼさない。
当然、公衆無線を使ったポケベルサービスが終了しても、関係なく使うことができる。
この「ポケベル」は、病院での外来患者に渡されて、診察の順番などを知らせてくれるのだ。
大井電気の担当者によれば、「最近では個人情報保護の関係で、患者さんを名前ではなく番号などで管理する病院が増えています。ですが、それだと自分が呼ばれていることが分からない人もいる。この装置を受付時にお渡しすれば、音と振動、そして文字で順番が来たことを知らせてくれます」とのことで、現場から喜ばれているそうだ。
市大センター病院にも「ポケベル」が?
こういった「ポケベル」を実際に使っている病院は、横浜市内にいくつかある。そのうちの一つ、「横浜市立大学附属市民総合医療センター」で、装置を見せてもらえることになった。
市大センター病院で使っている装置は、大井電気のものとはメーカー・種類が異なる。だが「ポケベル」としての機能はほとんど変わらないようだ。
大井電気製のものよりも縦に長く、見慣れた「ポケベル」とはちょっと違う。どちらかというと初期型の形に近いかも?
ポケベルとは広義には「無線呼び出し」のことを指す。NTTやテレメッセージなどの事業者がかつて提供していた電気通信サービス以外のものではあるが、施設内のみで有効な呼び出し装置も立派な「ポケベル」なのだ。
市大センター病院の端末も、公衆無線ではなく病院内のWi-Fiを使うので、来年9月にポケベルサービスが終わっても問題なく利用できる。
市大センター病院では、2000(平成12)年から外来患者の方にこの装置を渡すシステムを導入し、待ち時間に売店に行ったり、受付を離れることができると好評だという。
ちなみに、今では普通の「ポケベル」を使う医師や看護師の方はまったくいないそう。同じくWi-Fi回線を使った院内医療用のPHSを使っており、病院関係者がポケベルを持つ必要はないようだ。
取材を終えて
人々の記憶からも遠くなったポケベルだが、サービスが終わる公衆無線ではなく構内無線やWi-Fiを使った形で、これからも姿を変えて生活を支えていくことになる。ポケベルを使った呼び出しサービスを導入する病院は増えつつあり、端末の高機能化も期待できそう。
また、ポケベルなどで培われた無線技術は、自然災害の監視や防災無線として応用が進んでいるそうで、こちらも新たな役割を与えられている。
横浜のメーカーからも日本中に届けられ、今では忘れ去られた「ポケベル」。身近な病院などで再び出会うことがあったら、ブームの頃に思いを馳せてもらいたい。
ー終わりー