初めての伊豆諸島へ
伊豆諸島にはまって東海汽船の株主になった挙句、遂には三宅島に移住してしまった知人がいる。過剰な人の話はいつでも魅力的だ。彼から伊豆諸島の話を聞いているうち気になってしまい、夏休みに家族で行ってみることにした。
行先に選んだのは式根島。行き方の選択肢は幾つかあるが、私達は東京の竹芝客船ターミナルから夜中に出発する大型のフェリーを選んだ。
埠頭を出発してからしばらくは、デッキから東京湾の綺麗な夜景を満喫できる。つい数時間前まで仕事をしていたのが信じられないくらい、開放的な気分。この旅、既に勝ちが確定した気がする。
船酔いが唯一の心配だったが、幸いこの日は波も穏やか。ベッドに入ったら式根島到着まで一度も目覚めることもなく、快適な船旅であった。
小さくても魅力的な島
式根島は周囲12kmほどで、電動自転車を借りてしまえばあっという間に一周できてしまう。だがその小さな島に魅力的なビーチが点在しているのだ。
勿論水の透明度も高く、少し泳いだだけでたくさんの魚が見える。大きく息を吸い込んで水の中に潜るたび、「バリバリッ」と音を立てて心に溜まった澱が剥がれ落ちていくのを感じた。
ちょっと自転車を漕げばすぐにビーチのはしごができるので、他にも色々回ってみる。
魚と戯れるのも勿論楽しいが、砂浜でボーっと揚げパン食べてるだけでセロトニンが異常に分泌されるのを感じる。
長時間波に漂っていると、頭も身体も心地良い疲労感に包まれてくる。これ、子供の頃にプールで馬鹿みたいにはしゃいで、家に帰ってからソファでウトウトしていた時のやつだ。
なんだ。式根島、完璧じゃないの。絶対にまた来よう。
温泉こそ最注目ポイント!
あやうく記事を締めくくりそうになったが、この島最大の魅力はまだ他にある。温泉だ。今回式根島を選んだのも、この温泉が理由であった。
式根島には無料の露天風呂が幾つかあり、そのどれもが素晴らしい泉質なのは勿論、入浴体験自体が特殊で面白い。例えばこちらの松が下雅湯。
後述するがここは式根島の露天風呂の中では珍しく、潮の干満の影響を受けない。海と明確に仕切られているので海水が入ってくる時間がなく、時間を気にせずいつでも入浴できる。実際すぐ横の漁港で夜釣りをしていたら、この温泉から話し声が聞こえてきた。月明かりの下で波の音と温泉を楽しむ、なんて最高じゃないか。
この松が下雅湯から歩いてすぐの場所にある足付(あしつき)温泉も良い。
褐色の湯が多い式根島の温泉の中で、こちらだけは無色透明。満潮時には一帯が水没してしまうので、基本的には干潮前後にしか入れない。
そしてこの足付温泉で地元のご老人に「あそこの温泉は絶対行っとけよ」と勧められた地鉈温泉こそ、今回皆様に一番紹介したい温泉である。
ここ降りていくのか…
夕方、足付温泉から自転車を漕いでこの日最後の予定地、地鉈温泉に向かう。先ほどの宿の掲示板には、地鉈温泉のおすすめ時間は17時と書かれていた。宿の晩御飯が18時からなので、タイミングとしてはちょうど良い。
途中、道端に「湯加減の穴」というものが現れた。
ここから目的地を見下ろした瞬間、正直「嫌だな…」という気持ちが芽生えた。
午前中から海で散々遊び、その後は自転車を漕いで温泉をはしご。結構疲れは溜まっており、わざわざ急な階段を下りていくのは修行モードだ。