お盆期間中にお墓参りをしない
まず、本土のお盆ではお盆期間中に家族や親戚が揃ってお墓の掃除やお墓参りをすることが多いと思うのだが、沖縄では旧盆の約一週間前の旧暦7月7日(七夕)にお墓の掃除とお参りをし、もうすぐお盆が来ることをご先祖様に知らせるのが慣習となっている。そのためお盆期間中はお墓には行かず、本家に親戚が集まりそこでお仏壇に手を合わせるのだ。
旧暦7/13 ウンケー(「お迎え」の意味)
ご先祖様をお迎えする日。
旧暦7/14 ナカヌヒー(中の日)
主に親戚の家を廻って、仏前で挨拶などをする日。
旧暦7/15 ウークイ(「お送り」の意味)
ご馳走や、あの世に持って行く品々、ウチカビを持たせてご先祖様を送り出す日。
ちなみに、よく「沖縄県民はお墓でピクニックをする」とテレビなどで取り上げられることがあるが、あれはどちらかというと旧暦3月に行われるシーミー(清明祭)で見られる光景であり、旧盆前は墓掃除がメインとなり家族単位の小規模で行うことが多いため、そこまでピクニック感はない。というかこの真夏にコンクリート貼りの日陰もないお墓の前でピクニックなんてしたら熱中症でおじいやおばあが倒れてしまうかもしれない。
お盆のご馳走は炊き込みごはんや豚モツ汁
お次は食事。お盆に親戚が集まったらご馳走を振る舞う、振る舞われることも多い。地域によるとは思うが、本土のお盆でお盆の食卓にのぼるものといえば素麺やおはぎ、お団子あたりが一般的だろうか。
沖縄でも素麺などを食べることはあるが、お盆のご馳走として外せないのがジューシー(豚肉の炊き込みご飯)と、中味汁(豚のモツ入りすまし汁)である。豚肉文化の沖縄では、ハレの日のご馳走といえばやはり豚肉なのだ。
特にジューシーは「ウンケージューシー」という言葉があり、ウンケーの日、つまりお盆初日に食べるのが習わしとされており、スーパーなどでもジューシーの素やお惣菜コーナーのジューシーが店頭大プッシュ商品となる。幼い頃からの刷り込みで、お盆になるとどうしてもジューシーが食べたくなるという沖縄県民も少なくないのだ。
中味汁も同様で、旧盆前になるとスーパーや市場などで中味(豚のモツ)が大売り出しになっている。中味は丁寧に下処理しないと臭みが残ってしまいかなり手間のかかる料理なので、家庭で日常的に食されることが少なくなってきた沖縄料理のひとつだ。
味のほうはというと、すまし汁仕立てで意外なほどさっぱり。具は豚モツの他に細切りのこんにゃくや椎茸などが入っている。
最近は手軽なレトルトの中味汁などもあるのでそれを使うという家庭もあるが、ジューシーと並んで沖縄のお盆のご馳走であることには間違いない。
お供え物が独特
次にお供え物を見てみよう。
本土のお盆では仏壇の近くに「盆棚」「精霊棚」と呼ばれる祭壇を置き、そこに飾り付けをするという文化があるが、沖縄のお盆では基本的に仏壇そのものにお供え物をして飾り付けをする。
仏壇にどういったものを飾るのかというと、「ガンシナー」や「グーサンウージ」「ウークイカーサ」など沖縄県外の人にとってはまるで呪文のような品々だ。
その他にも、お線香が何本かくっついたような平たい形状のお線香「ヒラウコー」や、あの世のお金「ウチカビ(紙銭)」、「コーグヮーシ(干菓子)」など、沖縄独特のものが仏壇にお供えされている。
内地のお盆ではよくキュウリで馬、ナスで牛を作り、それに乗ってご先祖様が帰ってくるとされているが、さきほどのお供え物を見る限りどうやら沖縄のご先祖様は徒歩であの世とこの世を行き来しているようだ。なんともタフである。
踊るのは盆踊りではなくエイサー
盆といえば思い出すのが地域の盆踊り。広場に組まれたやぐらの周囲を浴衣を着て大人も子どもも輪になって踊るあれだ。子どもの頃は意味も分からずにただ楽しく踊っていたが、本来は死者の魂を供養するためのもので、念仏踊りが原型と言われている。
沖縄でそんな本土の盆踊りにあたるのが、お馴染みエイサーだ。
旧盆時期に入ると夕方頃から夜にかけて、風にのってどこからともなく聞こえてくるエイサーの太鼓の音。沖縄県民にとって「ああ、今年もお盆が来たなあ」としみじみ感じる音風景なのだ。
ちなみにエイサーは本番までに厳しい練習を積んだ地域の青年会の若者たちが踊るものであり、本土の盆踊りのように一般飛び入り参加はできない。というか気迫がすごすぎて見ているだけで圧倒されてしまう。
無縁仏を送るための祭りがある
お盆の期間といえば通常8月13日から15日の3日間だが、沖縄の一部地域ではお盆最終日の翌日に予備日が設けられている。
というのも、沖縄本島南部のいくつかの集落では、地域に伝わる伝統芸能を披露し安寧と五穀豊穣を祈願するとともに、うっかり帰りそびれてしまった霊、そして誰にも見送ってもらえなかった無縁仏をもてなしあの世へ帰すための「ヌーバレー」という祭り(神事)が行われているのだ。
南城市の知念知名地区では、広場に立派なステージが組まれ、観客が大勢集まる。
祭りのクライマックスに踊られるのは、知名地区だけの演舞であり無形文化財に指定されている「胡蝶の舞」。
祭りが終わるのは夜の22時過ぎ。その後はご先祖様が舞台で踊って唄って楽しみ、そしてあの世へ帰って行くので、生きている人はすぐに退散しないといけないのだそうだ。
最後にあの世のお金をじゃんじゃん燃やす
旧盆の最終日、ウークイ(お送り)の日はいちばん忙しい。飲食店やスーパーをはじめとする県内ほとんどの店は、このウークイの日はお休みか早仕舞いしてしまう。学校や保育園などもお休みになるところが多く、一般企業でも早退する人やお休みをとる人が多い日だ。
お盆のあいだ、この世で楽しく過ごしたご先祖様をあの世へ送る際に欠かせないのが、前出のお供え物にもラインアップされていたウチカビ(紙銭)だ。
ウチカビは黄色い紙にお金(鳩目銭)の模様を型押ししたもので、スーパーやコンビニなどでも普通に売られている。ちなみに手触りはゴワゴワとしていて、キッチンペーパーに近い。
これをどう使うのかというと、燃やしてご先祖様に送金するのだ。
あの世での生活費にあてられるらしく、ご先祖様が不自由しないようじゃんじゃん燃やす。
本土のお盆で行われる「送り火」といえばなんだかしんみりとした雰囲気だが、紙銭をじゃんじゃん燃やしてご先祖様を送り出すというのはなかなか景気が良い。
たくさんウチカビを燃やした家のご先祖様は、帰りは徒歩ではなくジェット機であの世へ帰っているのかもしれない。
来年にはいつもの旧盆の風景が戻るよう願う
というわけで本日は沖縄の旧盆の慣習や風景を旧盆の沖縄よりお届けした。
ただし、沖縄の離島を含め地域によって様々な違いがあることを付け加えておきたい。
また一部のスーパーでは、お供え用果物コーナーに定番のバナナやパイナップルと並んでしれっとアボカドが並んでいたり、藁などの天然素材の代わりに化学繊維で作られたガンシナーやソーローメーシがあったり、より本物のお札っぽいデザインのウチカビが登場していたりと、時代とともに旧盆の風景も少しずつ変化していることも付け加えておきたい。