プロフェッショナルだらけの工場
せっかくなので、五十畑工業さんの工場を見せてもらった。社屋の奥に、工場となるビルがさらにあるのだ。
このとき平日の15時で、ちょうど午後の休憩時間。お休みのところすみません。
あんなにパッと折りたためる構造なのである。そりゃぁ関節となる部品も多いでしょう……と思うけど、これを何も見ずに組み立てるのすごい。
そしてそれだけでなく、少量多品種ということは、商品の数だけこうした部品がいっぱいあるということじゃないですか……!?
勝通さん そうなんです。何がどの部品なのかを管理するのが大変ですよ(笑)。同じ商品を1週間作ったあと、次の週はまた違う商品を作ったりしますから。
縫製の作業場では、5,6人の方々がそれぞれ自分のミシンを操っていた。
アクセルを踏むように、足でミシンのオンオフを操っているそうなのだけど、これがまったく迷いがない。平らな布たちが、またたく間に形を与えられていく。
サンポカーを個人で買う人がいた
いやはや。「お客さんの要望をできるだけ取り入れられるように」という話でしたけど、それも各工程で腕をふるうプロたちの手仕事があってこそ。細かいニーズに応えられるわけだ……。
とはいえ、どれくらい「こうしたい」という声が集まったら試しに作ってみるんですか? 1人1人に付き合っていたら、プロたちも大変ですよね?
和德さん 確かに1件だけなら、たまたまということもありますけど、2~3件立て続けに問合せがあったら「これは」と思いますね。ペット用のカートを作ったときもそうだったんですよ。
きっかけは、サンポカーを個人で買う人がたびたび現れたこと。
そんなに安いものじゃないのに何に使うんだろう? ひょっとして7つ子でも生まれたのか? 「差し支えなければ」と理由を聞いてみたところ……。
雅章さん ワンちゃんを乗せると言うんです。それも年老いた大型犬。長い距離は歩けないんだけど、家にこもりっきりなのもストレスが溜まるから、カートに乗せて公園まで「お散歩」をしてあげるんだと。
和德さん 中型犬までなら専用のペットカートがあるんですが、大型犬用のものはないみたいで。しかも大型犬は体重が80kg以上あるから、持ち上げるのもしんどい。だから、こうしてスロープがあると楽なんだ……という話を別の人から2~3回聞いたんです。
さっそく大型犬用カートを開発したところ、「こういうのを待っていた」というお客さんが殺到。飼い主のコミュニティを中心に広まっていったという。またしても口コミである。
和德さん 愛犬をカートに乗せて、ドッグショーに連れて行く人とかがいるんですね。そうなると「それどこで買ったの?」ってなるみたいで(笑)。ありがたいですね。
貸し出し用ベビーカーは「かなり頑丈」
もう、パイプと布からできるものならなんでも作れるんじゃないかという五十畑工業さんであるが、最後に「そんなところにも!?」とビックリしたものをお伝えしたい。
動物園やテーマパークにある「貸し出し用ベビーカー」だ。ある。確かに園の入口にたくさん置いてある……!
勝通さん テーマパークって1日中ベビーカーを走らせることになるじゃないですか。しかも複数のお客さんが交代で借りるから、365日フル稼働になる。普通のベビーカーだと耐久性が足りなくて、1ヵ月も持たないんですよ。
なので、五十畑工業さんが「頑丈な貸し出し用ベビーカー」をイチから設計して作り、納品とメンテナンスを担当しているのだそう。
そういえば貸し出し用のベビーカーって、普通のベビーカーとなんか形が違うなぁ……と、なんとなく記憶にある。あれはそういうことだったのか!
勝通さん 貸し出し用は1人乗りですけど、4人乗りベビーカーと同じ部材を使ってますし、耐荷重もはるかに高く設定してます。パイプも肉厚ですし、ガチガチに強くしてますね(笑)
さらに、五十畑工業さんは布地も作れるのでキャラクター入りのベビーカーもできちゃう。ここにも一貫生産の強みが。
……ただ、さまざまなしがらみで写真が載せられない。つまりそういうことだとご理解いただきたい。いろいろ大変だそうですよ。
そうそう、協賛企業のロゴが入ったベビーカーを作ることも多いんですって。
和德さん ただ、目立つところにロゴを入れようとすると、ちょうど子どもが手でつかんだり、かじったりするフロント部分になっちゃうんです。企業ロゴがボロボロになるのはイメージが悪いので、そこも我々の技術でカバーしています(笑)
大人も乗りたい
仕事や育児に疲れたとき、あのサンポカーに揺られてどこかに運ばれたい……そんな声をSNSでたまに見かけることがある。わかる。なにも考えたくないとき、大人だってボンヤリと公園の緑を眺めながら運ばれていきたい……。
そんな話をしてみたところ「あまり聞いたことないです(笑)」とのこと。ですよね……。
ただ、サンポカーは「避難車」として使われるケースもある。万が一のとき、子どもたちを乗せて避難場所まで運ぶために活躍するわけだ。
そうなると、今後は「いざというときお年寄りを乗せて避難したい」というニーズもあるかもしれない。耐荷重は十分にあるので、不可能な話ではない。「そうした対応も、していかなくちゃいけないかなと思いますね」と雅章さんは言う。
創業からまもなく100年、サンポカーが登場して30年、まだまだ五十畑工業は「お客様の声」を聞く。
取材協力:五十畑工業株式会社