特集 2025年5月17日

佐渡島の岩海苔を摘んで伴海苔(板海苔)を作る食文化を体験した

①岩海苔を刻む

まずは岩海苔を刻んで、徹底的に砂を落とす。

砂のある海苔というものは、砂出しの甘いアサリよりもイラっとするらしい。

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私が摘んできた岩海苔を触り、「これは砂がすごいな」と笑う伴海苔同好会の会長。
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今日採ってきた岩海苔はジャリジャリだし量も少ないので、冷凍してあった貴重な一番海苔を解凍してもらった。
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「今年の一番海苔は成長がよかったから、鷲掴みで簡単にとれた」と長い岩海苔を見せてくれた。
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二本の包丁でタカタカタカタカタカンとリズミカルに岩海苔を叩く。ちょっとフラメンコっぽかった。
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下が開いている仕切りを入れたたらいに岩海苔を流して泳がせ、苦味になる塩分と砂を洗い落とす。砂金取りの逆の発想だ。大昔はたらいで洗うだけだったが、井戸にポンプが設置されてからはこの方法とのこと。
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②板状にする

二つの枠と海苔簾(のりず)を使って、刻んだ岩海苔を板状(伴)にする。

昔は夫婦で作業を分担し、父親が海苔を刻み、母親が板状にする流れ作業で作ったそうだ。

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沢崎の伴海苔は21×19センチ(一般的な板海苔は21×18センチ)と決まっている。
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枠もそうだが海苔簾も手作りで、ススキの芯を集めて作ったもの。一日に千枚の板海苔を作ったということは、この簾が千枚あったということだ。今も作れる人はいるのだろうか。
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容器に水を張って、簾を挟んだ枠を左手で抑えて底につけて(簾が1センチくらい沈むように)、岩海苔を軽く一つかみ乗せる。
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枠の中に満遍なく広げる。昔は底につけるのでなく、水面に浮かせた状態でやったそうだ。安定しないので水平を保つのが難しいだろうけど、慣れるとそのほうが早いのだろう。しかも簾を5枚くらい重ねていたのだとか。
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枠を浮かせると板状になった海苔が現れるので、そっと枠を外す。
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枠から簾を持ち上げて、慎重に立てかけて水を切る。

この作業をやらせてもらったのだが、見ての通り簡単ではなかった。薄いところと厚いところができたり、どうしても四隅のひとつが欠けてしまったり、なかなかきれいな板状にはなってくれない。

「紙漉きと同じ要領ですが、こればっかりは経験です。薄くすれば穴が開くし、厚くすると噛み切れない。均一にするのは何年やっても難しい。うまくできたと思っても、乾燥すると余計にムラが目立つんですよ」

時間とグラムさえ計れば失敗しないタイプの料理とは根本が違う難しさ。その土地で生まれ育った人(あるいは移住した人)にだけ許される、最高の趣味だなと思った。

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③海苔を干す

海苔簾を竹竿に刺していき、ある程度溜まったら乾燥させる場所へと運ぶ。

干す工程にもノウハウがたくさんあった。

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ある程度まで水が切れると、ぶら下げても剥がれない。
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冬は風が強い日も多いので、屋外ではなく屋内に干し、ストーブを焚きながら丸二日ほどかけてしっかり乾かす。
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そのままだと海苔が丸まるので、突っ張り棒と呼んでいる竹串を挟んで伸ばすという人類の英知。
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一つ一つの行程に長年に渡って培われてきたノウハウが存在していた。
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黒々と干しあがった伴海苔。
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最終チェックをする

干しあがったらできあがり、ではなく、極力砂が残らないようにするための最終チェックを怠らない。

砂への対抗心がすごい。絶対にジャリっと言わせてたくないのだろうが、ここまでやっても残ってしまうこともあるのだとか。完全手作りの厚い海苔だからこその苦悩。

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海苔のほうを抑えて、優しく簾をはがしていく。
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鐵の板とローラーでゴリゴリ。これによって海苔を伸ばしつつ、感触で砂を発見する。手で触ってもわからない砂が、この方法だとわかるそうだ。
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ようやく伴海苔の出来上がり。

こうして手間暇かけて作った沢崎産の伴海苔は、基本的には販売をしていないものの(趣味だから)、その一部を佐渡市のふるさと納税の返礼品用として納品しているそうだ。

集落によっては直売所などで販売しているところもあるようだが、今後は後継者不足によってさらに貴重になっていくのかもしれない。

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味見をさせてもらった

伴海苔は焼き海苔ではなく乾海苔なので、このまま食べるのではなく、サッと加熱してこそ本領を発揮する。

部屋を暖めていた灯油ストーブの上で、漆黒だった色が鮮やかな深緑になるまで炙ったものをいただくと、バリっとした歯ごたえと確かな磯の風味が堪らない。醤油をちょっと垂らすともう最高。

育つ環境、摘む大変さ、加工の難しさを知ることができたからこそ、その思い入れがさらに味を膨らませる。

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焦がさないようにサッと炙る。

「酒のつまみにいいんですよ。これは作った人だけの特権の味。

厚すぎるから海苔巻きには向かないけれど、お餅を巻いたり、おにぎりやのり弁にしたら抜群じゃないですか。ラーメンとか蕎麦みたいな麺類にもよく合います」

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鮮やかな深緑色になった。これをつまみに佐渡の地酒を飲んだら、そりゃ堪らないでしょうよ。
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岩海苔でうどんを作った

ここからは余談。岩海苔のお礼という訳でもないのだが、摘んできた生の岩海苔とこの伴海苔を使ったうどんを作らせてもらった。

持参した家庭用製麺機をさりげなく取り出すと、「懐かしいなあ、これ子どもの頃に使っていたわ。作ったのは蕎麦だったと思うけど」と、予想外の反応が返ってきて驚く。

まさか沢崎にも家庭用製麺機を使った製麺文化があったとは。この話を深掘りしたいところだが、今日のところはとりあえず我慢だ。

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「これは生地を伸ばして切るやつだろ」という、珍しがるのではなく懐かしがる反応でびっくり。
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私が採ってきた岩海苔の砂を丁寧に洗い流し、つゆで軽く煮る。出汁はアゴ(トビウオ)が貴重品になってしまったのでアジの焼き干しを使用。
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佐渡産の小麦粉をブレンドしたうどんを茹でて、岩海苔たっぷりのつゆに入れる。さらに炙った伴海苔も乗せて、「のりのり岩海苔うどん」の完成だ。
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こうして一緒にうどんを食べられたことが、なんだかすごくうれしかった。

繊維が長いままの生岩海苔を煮たものと、伴海苔にして炙ったものでは、同じ岩海苔でも食感と風味がまったく違う。その両方が楽しめるのだから、海苔好きには堪らない一杯となった。

「うまいな。コシのあるうどんに岩海苔がよく合っている。でも一つ言わせてもらうと、ちょっと石の取り方が甘かったな!」


佐渡島のイベントに出ます

ということで、2月に佐渡島へ行ったばかりですが、5月31日(土)に『ハロー!ブックス2025』というイベントでまた訪れます。よろしければ佐渡で会いましょう。

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平野レミさんも来るよ。


あとインド旅行の旅日記の同人誌『南インドを食べ歩く バンガロール・マドゥライ・ゴアのゆるゆる旅行記』を出したので、こちらもよろしくお願い致します。

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愉快な本だよ。
編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
60年前は手袋が使用禁止だったって話がおもしろいですよね。持ってる人と持ってない人の不公平があるから。
道具が普及するときのちょっとした決め事から当時の様子が想像できます。こういう記録に残らない営み、チョー大事です。(林)

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