もう一軒、安い価格帯のラーメンも食べてみたい
「てんがらラーメン、美味しかったな……」とぼーっとしながら帰宅し、改めて思った。パリッコさんと妙典で見かけた看板のような、ああいう明らかに安さを前面に打ち出したラーメンはどうだろうか。凝ったラーメンも美味しくて最高だが、安くてもちゃんと満足感が味わえるラーメンもまた、最高である。
そういうラーメンが食べられそうなパチンコ店と言えば……と、考えても自分にはパチンコ店の知識が乏しいのでなかなか思いつかない。一か所だけ、前に神戸・新開地を飲み歩いていて、そういう安い看板を見かけた記憶があり、それを頼りにしてみることに。
当日、JR三ノ宮駅から阪急電鉄に乗り換えて新開地駅を目指したのだが、来た車両が「ちいかわ」とのコラボ電車だった。私はちいかわに思い入れがないのだが、ちいかわが大人気であることは知っている。
車輛のあちこちにちいかわのイラストがあって賑やかである。
電車が駅のホームに停車するごとに、ホーム上にいる人が「ちいかわ電車だ！」とびっくりして写真を撮っている。それを見て、乗っているだけの私すらちょっと得意な気になってくるから不思議だ。「ほら、ちいかわ電車だよ、驚いたでしょう！？」と得意げに言いたくなる。そんな私はちいかわ電車に乗ってパチンコ店のラーメンを食べに行くところである。
さて、新開地駅から地上に出て、記憶を頼りに歩いてみる。場外舟券発売場もある新開地周辺には、パチンコホールもたくさんあったはずだ。いくつかの店舗を眺めて「ここか。いや、違うな」と通り過ぎ、「Super D'station新開地店」という大きなホールの前までやってきた。
建物の周囲を眺めていると、あった！大きな看板が。
これぞ！という醬油ラーメン
パチンコ店のある建物に併設された「食堂チャンス」という飲食店で、350円の醬油ラーメンが提供されている。まさにこの感じ、妙典で見つけた看板と似た雰囲気である。
そしてこの「食堂チャンス」もまた、パチンコホールからはあくまで独立したスペースとなっていて、このお店に入るためだけの入り口が設けられている。やはりここも、パチンコをせずとも利用できる店らしい。
外に貼り出されたメニューを見るに、350円の醬油ラーメンとカレーライスのほか、うどんやそばや丼ものなどもある。そのどれもが破格に安いというのではなく、価格帯的にも幅のある品揃えになっているようだ。
この店も食券を買って番号札を受け取り、呼ばれたらできあがったものをカウンターへ取りに行くスタイル。私は350円の醤油ラーメンを注文して待つ。
できあがったようだ。
美味しそう！私はこういうザ・ラーメンといった感じのラーメンがすごく好みなので、もう見た目からして「やった！」と思う。
すっきりとしつつ絶妙な甘みがあって和食と中華の融合的な、人懐っこいスープ。何時間も鶏ガラを炊いて……というのとは違うけど、バランスのいい味わい。黄色いちぢれ麺の弾力がよく、好きなタイプだった。たっぷり入ったワカメも嬉しいな。
近所で会社員をしていたら週に数回はランチをここに食べにくるだろうなと想像する、安心の味。690円と、実に醬油ラーメンの倍近い値段の「みそラーメン」も食べてみたくなった。
なんとなくパチンコに挑戦
美味しくラーメンをいただき、目的は果たせた。が、せっかく新開地まで来たのだからと興が乗って、数十年ぶりにパチンコをしてみることに。
ホール内に入ると賑やかな音に包まれ、途端に緊張しつつ歩く。長らくパチンコから遠ざかっているため、まずどこでどうすれば球が手に入るのかわからない。
少しうろうろした後、優しそうなスタッフの方に「久々にパチンコをするのですが、どうすればいいでしょうか」とアドバイスを仰いだ。「現金でのご利用であれば、現金を台の横の投入口に入れていただいて、貸玉ボタンを押していただければ！」と教えていただいた通り、なんの根拠もなく選んだ台に座ってやってみる。
千円札を入れて貸玉ボタンを押すと、なるほど、ジャラジャラと銀の球が出てきた。「少なくともこれをこうするのは間違いないはず」と、右手でハンドルを握って回してみると、球が勢いよく打ち出された。
とりあえずパチンコをしてる人らしくなれたと思って安心していると、アニメキャラの声で「左打ちに戻してね！」と、割と大きめに何度も言ってくる。その声が止まない。私は何か間違ったことをしているらしい。え？左手で打つってこと？どう考えても右手の位置にあるハンドルを左手で握ってみるも、声は収まらず、ずっと「左打ちに戻してね！」と繰り返している。
周りを見るもスタッフの方はおらず、なんだか恥ずかしくなって、とりあえず打つのをやめ、スマホで「左打ちに戻してね」と検索。やっとわかったのだが、私はハンドルを目一杯に右に回してしまっていて、この台ではそうしてはいけないらしい。レバーを回す力を加減すると、さっきの声が出なくなった。安心していると、みるみるうちに球が無くなった。正直なところ、恥ずかしいのでもう早く終わって欲しいとすら思っていたので、逃げるように建物の外へ出た。ああ、緊張した！
千円を失ったことなど忘れ、改めて新開地の街を歩くと、そこら中に安価な立ち食いそば・うどんがある。
さっきの「食堂チャンス」もかなりの安さだったが、このようなお店があちこちにある。なるほど、新開地のような街なかであれば、必ずしもパチンコホール併設の店で食事をせずとも、そこら中に選択肢があるのだ。
私は今回、大阪と神戸の都市部でしかパチンコホール併設の飲食店を探せなかったけど、もう少し郊外や田舎になったら併設されているお店のスタイルや雰囲気もまた違うのかもしれない。そんなことを考えつつ帰路についた。
最後にもう一杯！
ふたつの店でラーメンを食べ、「よし、今日こそ原稿を書こう」と思っていた日の昼、私は用があって大阪・天満のあたりを歩いていた。
天満は私の住まいの割と近くなのだが、大通り沿いに「FREEDOM」という巨大なパチンコホールがあって、その同じ建物に「ゲオ」が入っているのでそっちをよく利用している。
「そういえば、あそこにもラーメン店が併設されていた気がする……」そう思って近づいてみると、やはりあった。
一つの建物にパチンコホールもあればゲオもあればフィットネスジムも入っている複合商業施設ゆえ、この「天神ラーメン」もまた、パチンコをしない人でも利用できる店だ。
とはいえ、飲食スペースとパチンコホールの入口はかなり近く、ホールから出入りする人がいて自動ドアがあくと、店内の賑やかな音が聞こえてくるほどだ。
看板に「人気No.1」と記載されていたので注文した「豚骨ラーメン」は950円と、これまでに比べると高級ライン。とはいえ、今、ラーメン専門店でラーメンを食べようと思うとこれぐらいする。今までがちょっと安過ぎたほどだ。
食券ボタンを押そうと思って券売機を見ると、各ラーメンメニューのボタンの下に「フリーダム様会員限定」というボタンがあって、そちらは100円引きの価格になっている。
パチンコホールの会員になっていると、100円安く食べられるということらしい。これは、“パチンコ併設系ラーメン”ならではのサービスと言えよう。
できあがった「豚骨ラーメン」は、すりごまが丼全体を覆うようにたっぷりかけられた一杯であった。スープがとろっと濃厚で、食べ放題のキムチ、ニラで味に変化をつけながら食べるとたまらなく美味しい。
私が食べていると、後から入ってきたお客さんが、お店の方に「ちょっと一旦戻ってくるから出しておいてな！」と、食券を渡した後にパチンコホールへと入っていったりして、ここならではの臨場感があった。
満腹になって外へ出る。ここ数日、これまでのブランクを取り戻すかのように、パチンコホールに出入りしていた。
パチンコ併設系ラーメンの奥深さとバリエーションの豊富さに気付いてしまった以上、もっとあちこちに食べに行ってみたいと思う。
そうしているうちに、きっとパチンコに対する緊張感も解けていき、いつしか日常的にパチンコをしている自分になるのかもしれない。思いがけず、人生の新しい一章がスタートした気がする。
