加入者が歩いて健康になると保険会社は儲かるんですか
林:
加入者に健康になってもらおうキャンペーンがありますけど、あれで死亡率が下がるんですか
田中:
これはですね、難しい問題ですね。
保険以前の医学の話として、例えばちょっと歩いたらほんとに死亡率が改善するのか、改善したとしてどのぐらい改善するのかといった点に関して、どのくらい信頼性の高いエビデンスがあるかっていうと、そこはかなり怪しい部分があります。
たぶん、健康にいいよねとはみんな思ってますけど、程度論として死亡率が例えば1パーセントだったものを0.99%にしてくれるのか、0.9%にしてくれるのか。
一応、0.99%になるだけだと、リスクの軽減幅が小さすぎてほとんど保険料とは関係のない話になってしまうわけですよ。それなら1だった死亡率が0.9になりますかって言われると、ちょっと歩いたくらいでそんなにみんな健康になるかなと考えると、ちょっとそこまで強気にはなれない。
林:
○○が身体にいい、いや、やっぱり悪いって健康情報はどっちもありますね
田中:
そうです。とはいえ、でもやっぱり一般論として体にいいことは間違いないし、そういうところでお客さまが頑張る誘因に保険がなるんであれば、それはお客さまにとってもいいことだし、それで結果として保険金の支払いが減れば我々も嬉しい。
さらに言えば、なんかそういう商品ってマーケティング的にキャッチーだよねみたいなことも。
そういうところを合わせた結果として健康増進保険みたいなものが生まれていくっていう。
みんな健康だと、保険料を安くできる
林:
歩くことだけじゃなくて、人が健康になるとどうなります?
古川:
保険会社ってやっぱ安いほうがお客さん来てくれるじゃないですか。
安い保険料で売るためには、①死差益②事務費③運用益、この3つの中で削るしかない。事業費はそんな大きく変えられないし、運用益は動きがある。
だけど、健康な人が多くなればなるほど、予定した保険料に対して支払いは少なくなる。支払いが少なくなるってことは、保険料を安く提供する基礎データが溜まります。
林:
健康な人には保険料が安い商品が出る可能性がある
古川:
健康な人たちはこれぐらいの保険料でやります、って言っても前例がないので、当然金融庁も慎重になります。
林:
加入者の健康状態が経営に関係してくるんだ
古川:
今すでにその健康体保険と呼ばれる、タバコを吸わない人が安くなる商品はあります。保険料細分化と呼ばれている、発生率に応じてあなたは保険料を安くできますよ、あなたは割り増しですよみたいなのが起こり得る。
林:
損保のゴールド免許保険みたいな。
健康な人を優遇しすぎると入れない人が出る
古川:
あれはもう1個重要な問題があって、細分化しすぎると保険に入れない人が出てきます。
林:
あー
古川:
今は全員で保険料を出し合ってます。健康な人だけ安い保険料にすると残った人は健康じゃない集団になるので、残った人たちは高い保険になる。
林:
それは怖いですね。
古川:
入れなくなる人が出ちゃうねってなるので、細分化の行き過ぎってどうなんだっていうのはあります。
CMで「検討」というのは、保険はいい商品でも全員必要じゃないから
林:
保険の広告って「検討してください」って言うじゃないですか。あれは「加入しよう!」じゃだめなんですか
田中:
なんで検討っていうかっていうと、保険って誰にでもニーズがあるものではないんですよ。
例えば美味しいものはみんな嬉しいからいいですけど、保険はどんなにいい商品だったとしても、みんなにいいっていうことは絶対にありえないんです。例えば死亡保険はいま独身の方は別に入らなくていい。
林:
CMに登場する夫婦の奥さんが「検討してみない?」と言うのはそういう理由があったんだ
田中:
あと、ご結婚されててお子さんもいてっていう時に、自分が死んだら残された家族が経済的に困ることは、理論上は明らかであっても、自分が死んだ後のことって、あんまり考えたくない。だから、そういう時にテレビCMを見て、現状そもそもどうなってて、これで大丈夫なのか?って思ってもらいたい。
古川:
自分だったら、そうだね、まあまあ考えときますわぐらいになっちゃう。でも、それが2度3度とされるとやっぱり。
「自分だったら、そうだね、まあまあ考えときますわぐらいになっちゃう。」
田中:
さすがにね
考えたくないことだから、牛肉
林:
保険のCMって繰り返しが大事なんですね
田中:
大事だと思います
古川:
基本的には後回しにしたいもの、でも絶対に重要なものっていう。重い腰を上げるためには繰り返しで意識してもらうしかないよねっていうところはある。
林:
生命保険って資料請求で牛肉がもらえますよね
古川:
やっぱりシビアな現実だけじゃ面白くないので、やっぱ牛肉とかアイスっていうのは、いわゆる遊びの世界ですよね。そういうものの中に保険商品を合わせないと届かない層もいるし、理屈では心が動かない世界がある。
田中:
別にもちろん牛肉をメインで営業してるわけではないので、そう、あれもご興味を持っていただくきっかけになればっていうところで
林:
効果があるんですか
田中:
いや、あると思います。もちろん
古川:
その重い腰をあげざるを得ない最後の一押しに、じゃあもう牛肉もらう時にやろうみたいな、なんかそのぐらいの働きはあるような気が。
林:
考えなきゃ、でも考えたくないなっていう時に、最後の一押しが
古川:
保険っていう商材自体が物で釣るってことは基本的にできないんです。検討というめんどくさいものを後回しにしないためじゃないですかね。でもそれが結構大事で。
田中:
そうそう
古川:
ギリシャの格言で、1個踏み出すことは半分と同じみたいな格言がある。
田中:
もちろん、保険会社側も効果をそれなりに見てもいます。牛肉のキャンペーンやってる時とやってない時で資料請求の数が変わらないことが明らかに数字として出てしまったら、どこもやらなくなっちゃうんで。
林:
続いてるってことは効果があるんですね。
牛肉の背景には思った以上の理論があった
牛肉には意味があった
死亡保険のCMで急に牛肉がもらえるキャンペーンの紹介になる瞬間が気になっていた。万が一…という暗いトーンから急にポジティブになるのがおもしろいなと思っていたが、それには理由があった。
考えなきゃなと思う最後の一押しになるスパークだったのだ。納得である。
そしてこのインタビューで約款って読まなくてもいいんじゃないですか?という私の質問に対して、ライフネット生命のふたりは理解を示しながらもイエスと言ってないことにお気づきだろうか。
さっき調べたら約款はカフカの「変身」の半分ぐらいの分量だった。あのぺらぺらの文庫本の半分だ、読めるよ!
取材協力:ライフネット生命