データのどんなところをみるとよいのか
さて、選手名鑑の肝でもある「成績データ」は、そのデータが、どんな意味を持っていて、どんな風に算出されたものか、知っておけば面白くなるはずだ。プロ野球ファンはどこをどんな風にみているのか。
西村:投手の勝利数というのは、何勝ぐらいしてたらすごいんですか? (勝利数=そのチームが勝った試合で投手を務めていた一人のピッチャーが勝ち投手となり、勝利数1としてカウントされるものとして考えておく、実際の勝ち投手の条件はちょっと複雑)
べつやく:(1シーズンで)10勝以上だね。昔だったら20勝って言ってたけど、最近は二桁勝利が基準かな。
林:ロッテの選手とかだと、5勝12敗みたいな選手がいるんですよ。俺、そういう選手が好きなんですよ。
べつやく:チームが弱いから、本当だったら10勝10敗ぐらいかもしれないけれど……。
林:90年の小宮山とかは、防御率3.27だから、1試合投げて3点ぐらいしか取られてないんだけど、でも6勝10敗。(防御率は、その投手が9回まで投げたとしたら、何点に抑えられたかを示す数値。0に近くなればなるほどよい。[防御率=自責点×9÷投球回数]で計算する)
ロッテ・小宮山悟、90年(91年の名鑑に載っている前年)の成績
92年は防御率3.96で、8勝15敗
べつやく:9回まで投げて3点だからそんなに取られてないのに、チームが全然打てないから。勝利数にならない。
古賀:勝たせてもらえないわけですね。
林:逆に、85年に阪神が優勝した時は、ゲイルとかが確か13勝(8敗)とかしてるんですけど、防御率4点台(4.30)なんですよ。
べつやく:バースとか掛布がバンバン打って、それ以上に点を取ってくれるから勝てるんだよね。
林:でも、ゲイルは翌年はチームが打ってくれなかったので、防御率4.56で5勝(10敗)。
西村:8勝も差が出てくる。
林:だから、今の佐々木朗希が防御率1点台とかって、9回投げて1点とれるかとれないかだから圧倒的にすごい。2点取れれば勝てる、うっかりすれば1点でも勝てるかもしれない。なんで、すごいなーって思うんだけど、おれが好きなのは、防御率4点台の5勝14敗みたいなエースがいいなあって。
西村:防御率の考え方もむずいですね。
林:たまに、リリーフで出てきて、1アウト(1イニング=3アウトなので投球回数0.333…回で計算)しかとれないのに、5点(自責点)とか取られちゃうと、防御率が135とかになっちゃう。(5×9÷0.333で計算)
古賀:(実際の登板回数が少ないと)異常値が出ちゃうわけですね。
林:この異常値が出てる時点で二軍に落とされちゃったりなんかすると……記録としてはこのまんまになっちゃう。
西村:この時点で成績を判断されちゃうと気の毒ですね。(異常値が記録にならないように、規定の投球回数や規定の打席数などは決まっている)
林:今年横浜に入ったメジャーリーガーのバウアーは、最初すごい点取られて防御率8点台とかだったけど、6月入ってからは4点台とかになってるね。
べつやく:何回も投げて0点に抑える回が増えると、普通の数字になって防御率が整っていく。
西村:バウアーって、あのYouTubeやってる人ですよね。日本語の自動翻訳でナレーションつけて。
林:そう、バウアー偉いなって思って、他の野球選手のYouTubeは、家の中で撮ってたりするじゃないですか。でも、バウアーは外に出て行ってロケして撮ってる。あれがなんかデイリーっぽいなーって。
古賀:外に出ようという(笑)
林:あれちゃんと撮ってんな〜。
年俸もチェックしている
西村:選手の成績だけじゃなくて年俸とかもみるんですか。
林:うん、見る。
西村:見るんですね(笑)
林:例えば、ソフトバンクって給料いいから、こんな(成績の)選手でもこんなにあげちゃうんだ……っていうのはある。
べつやく:その選手にそんなに出すの……みたいな感じで見たりするね。
西村:その辺を見ると、チーム自体の体力というか、財力がなんとなくわかるわけだ。
べつやく:いちばん少なそうなのは中日かな……。(印象です)
林:『グラゼニ』(野球選手とお金をテーマにしたマンガ)でよく、選手名鑑の年俸のところ読んでるシーンが出てきますよ。中継ぎピッチャーが、ブルペンで、出番がくるまで年俸のところ確認して「あいつこんな貰ってんのか」って。
べつやく:年俸が高い選手だと「燃える」という。
西村:意外と年俸のデータから想像できることは多いんですね。年俸に関しては過去5年の年俸が載ってる『プロ野球12球団全選手完全名鑑2023』(コスミック出版)、『2023プロ野球写真&データ選手名鑑』(日本スポーツ企画出版社)、『プロ野球2023選手データ名鑑』(宝島社)あたりが、過去の変遷もわかって見やすいですね。
過去5年分の年俸も含めて見やすくなっている選手名鑑のひとつ。コスミック出版『プロ野球12球団全選手完全名鑑2023』
「意味のわからない本」から「内容が少しはわかる本」になった
以上、プロ野球の選手名鑑についていろいろ見てきた。
昔の選手名鑑を読むと、めちゃくちゃ面白くて、時間が溶ける。
野球に対してまったく知識も情熱もないぼくや古賀さんでさえそうだったので、野球好きであればなおさらだろう。
さらにデータの見方を教えてもらうと、成績部分の数字の羅列も、がぜんおもしろくなってくるというのもわかってきた。
本屋にならんでいる選手名鑑が「意味のわからない本」から「内容が少しはわかる本」になったのがなんだがうれしい。
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