全校朝会に参加して
お話の後、先生は「来週はどんな話をしようかなぁ」と笑った。校長先生はべつに長い話をするのが趣味なんじゃない。毎週、次にする話のことを考えて悩んでいるのかもしれないと思うと、少し身近に感じられるようになった。
それと同時に、お話が長いな、と感じた子ども時代の気持ちも忘れないでいたいと感じた。将来自分にこどもができて、何かを伝える場合に、あのときの感覚を覚えておいたほうがよさそうだ。
しだいに子どもたちが校庭にあつまってきた。下級生、上級生がばらばらにやってくる。
今日はこれから運動会の練習があるらしく、みな体操着だ。紅白帽もつけている。蛇足ながら、ぼくは子どものころ「紅白帽性格判定」ともいうべきものを信じていた。クールなやつはたいてい白組で、ひょうきん者は赤組なのだ。そしてぼくはいつも赤組だった。
しばらくして校長先生が登壇された。約20年ぶりの全校朝会。大人として、新たな気持ちでお話を聞くことができるだろうか。
「2つお話をします。」
と、先生は切り出された。校長先生のお話のはじまりはいつもこうだったなあ、と思い出す。
ぼくの小学校では体育館で全校朝会をしていた。先生たちのお話の間、体育館の天井の骨組みにはさまって落ちてこなくなったバレーボールを眺めて、あのボールが今落ちてきたらみんなびっくりするだろうなあ、とか、そんなことばかり考えていた。
最初のお話は交通安全についてだった。いま地域で行われている運動はなんでしょう?と生徒に聞いて、答えてもらう形。
「あなたがたはどこを探してもたった一人しかいません。あなたが亡くなると多くの人が悲しみます。交通安全に限らず、ふだんから自分の命を守る方法を考えましょう。」
子どものときは、「あなたが大切だ」といわれると照れくさかったり斜にかまえたりしたのを思い出す。そうか、あの頃は言われたことを素直に受け止められなかったんだな、といまになって思う。
つぎのお話は先日の秋分の日についてだった。
「秋分の日は、一週間あるお彼岸のちょうど真ん中の日です。お彼岸は先祖を敬い、迎える日です。」
という言葉とともに、暑さ寒さも彼岸まで、という成句を紹介していた。これも、ぼくが子どもだったら「そんなの知ってるよ」などと思っていたことだろう。
その後先生は、来週行われる運動会にちなんで詩人・新井和さんの「うんどう会」という詩を朗読した。自分自身も若いころ詩を書いていたという泉校長先生は、全校朝会のお話の後にいつもいっぺんの詩を朗読するのだという。
全校朝会の後、校長先生にお話をうかがった。
生徒にお話をされる際は、だいたいの内容を頭にいれておき、スピーチの原稿のようなものを用意することはないのだという。お話をされる上で一番念頭におかれるのは、いろいろなことに対してなぜだろう、と思うようになって欲しいということだった。
「秋に葉っぱが落ちるのを見て、きれいだ、とか寂しいと思うだけでなく、なぜなんだろうと、ものの背後を考えるようになって欲しい。」
お話はこの後もつづき、先生の生徒に対する、また教育に対する思いがとても厚いのを感じた。
お話の後、先生は「来週はどんな話をしようかなぁ」と笑った。校長先生はべつに長い話をするのが趣味なんじゃない。毎週、次にする話のことを考えて悩んでいるのかもしれないと思うと、少し身近に感じられるようになった。
それと同時に、お話が長いな、と感じた子ども時代の気持ちも忘れないでいたいと感じた。将来自分にこどもができて、何かを伝える場合に、あのときの感覚を覚えておいたほうがよさそうだ。
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