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ファームイン杉田棟
千葉県安房郡三芳村池之内374
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知人の同僚、宮城さん
宮城さんは知人の同僚だ。なんどか一緒に飲んだこともある。3人で飲んでるときはふつうに会話をしているが、知人がトイレに行ってしまうと二人して黙り込んでしまう。そんな関係だ。
今回は宮城さんと仲良くなるために千葉に出かけることにした。が、本気でふたりだとどうしようもなく気まずくなってしまうかもしれないので、僕と宮城さんをつなぐ知人、横山さんにも同行願った。
日曜日の朝、9時に東京駅に集合した。
とはいえ、日曜日の朝に男3人でみかん狩りである。いまはぎこちないが、夕方にはリュックいっぱいにみかんを詰めこんだフレンドリーな3人男になっているだろう。
特急で館山に向かう
林 「いやあ、どうですか。みかん狩り」
宮城さん 「僕はこうやって休みの日に出かけるというのが、生まれてはじめてかもしれません」
オーバーに気を使ってくれているような気がするが、そういってもらえて素直に嬉しい。
電車は快適なスピードで千葉に向かう。京浜工業地帯で巨大な水蒸気が見えた。
横山さん 「火事?」
宮城さん 「なんでしょうね。……あ、そういえば」
林 「なんですか?」
宮城さん 「僕がタレントになりそこねた話ってしましたっけ?」
僕 「いえ、聞いてないです」(そういえば、じゃないな…)
聞いてみると、宮城さんはテレビCMに出たことがあって、あのCMに出てるのは誰?ということでテレビにも出たことがあるそうだ。
宮城さん 「ストリートミュージシャンとして新橋の駅前で歌っているというCMでした」
林 「ストリートミュージシャンだったんですか?」
宮城さん 「いえ、先輩に頼まれて出たんです」
林 「どんな歌だったんですか?」
宮城さん 「携帯を売っていたヒットショップというお店で、歌詞は『♪ペット買うならペットショップー、携帯買うならヒットショップー』というものでした」
横山さん 「くだらねー」
僕もそう思ったが飲み込んでしまった。やっぱりああいうことが言えないと。
宮城さん 「CDデビューの話もあったんです、グループ名は 『ヒットショップボーイズ』 で(イギリスのミュージシャン ペットショップボーイズとかけている)」
林 「く、くだらないですね…」
宮城さん 「ええ。その会社が傾いてすべて話は流れました」
くだらない、と言ってみたが、くだらねー!みたいにあ勢いよく言わないと、本気で悪く言ってるようになってしまった。
館山到着
会話を引用したらやたら長くなってしまった。館山までに話したことは箇条書きにします。
・いすを回転させて3人座っていたので、残りのひとつの席の人がきたらどうしよう、どうしよう
・宮城さんの両親はすごく仲がいい
・今朝の朝ごはんがあんころ餅と柿2個だった。
・(そとに巨大な仏像が見えて)でかいものってかっこいいよね
・房総特急って暴走特急みたいでかっこいい
館山はすばらしいところです
快晴。とても暖かい。予約してあったみかん農家の杉田さんに電話をして迎えにきてもらう。
林 「いま駅です。3人です」
杉田さん 「お子様がいっしょですか?」
林 「いえ、友達です。男3人です」
ちょっと杉田さんは戸惑っているようだ。この際だからずっとオネエ言葉で「なんなのよ、男どうしでもいいじゃないのよ!」と言うのも考えたがきょうはそういう趣旨ではない。
車で杉田さんの農園「ファームイン杉田棟」へ。
みかんの木は収穫を考えると高いほうがいいのだが、みかん狩り用に木を低くしてあるそうだ。枝の剪定で木を低くすることができる。車のなかで聞いたみかん豆知識でした。
車を降り、山を登るとそこはみかん畑。みかんがぼこぼこなっていた。みかん狩り、スタートだ。
泥棒っぽい僕ら
400円で時間無制限でみかん食べ放題だ。500円払うとカゴいっぱいに持ち帰りできる。なんだかすごく安い。
「こぶりのがおいしいですよ」
「こっちにたくさんなってる」
よかった。それなりに盛り上がっている。ふたりがなんとなくみかん泥棒のように見えたのだがそれは黙っておいた。ふだん、夜しか行動してないせいだろうか。か、服装のせいかもしれない。宮城さんはこれぞ場違い、というブーツを履いていた。
宮城さんがきゃあと声を上げた
宮城さん 「いえ、葉っぱの裏にセミの抜け殻が」
横山さん 「なーんだ。…でも、カップルだったらきゃあきゃあ言うんだろうな」
林 「でもカップルがこんなところきたらチューとしかして、みかんどこじゃないんじゃないですか」
横山さん 「みかん狩りは男同士がベストだ」
宮城さん 「これが全部CDだったらいいなって思います」
かみあってない会話だが、たぶん盛り上がっている。
宮城さんがみかん畑にしゃがんでいるとフランスの文芸映画のワンシーンみたいだ。泥棒じゃなくなってきた。
林 「『伯父さん』って感じですよ。泥棒じゃなくて」
宮城さん 「いや、でも僕28歳ですよ」
がーん。年下だった。
コテージでする話か
杉田さんの農園にはきれいなコテージがあり、長期滞在もできるのだ。横山さんが興味ありそうに見ている。
「いいですね。むかし山中湖のほうのコテージに泊まったことあったんですが、毛じらみうつったことがあったんですよ」
って全然コテージで初対面の人に話す内容ではないのだが、
杉田さん 「それはひどい。どうやって治すんですか」
横山さん 「もう剃るしかないですよ」
杉田さん 「ほう」
意外に盛り上がっていた。杉田さん、ありがとうございました。
眺めのいいレストランで食事
杉田さんおすすめの手作りハムの店で食事。だんだん旅行ガイドみたいになってきたが、男3人だと会話がそうならない。
宮城さん 「こういう田園風景を見ると」
林 「はい」
宮城さん 「おばちゃんひとりひとりに『ビートルズって知ってる?』って聞きたくなります」
林 「え、なんでですか」
宮城さん 「知ってると思うんですよ」
林 「名前ぐらいならば、たぶん」
宮城さん 「ビートルズってすごい、と思います」
あ、結論はそこなのか。あまり田園風景が関係ないような…。
横山さん 「そうだよな、音楽で売れるってそういうことなんだよな。外国のおばちゃんにも知られるってるってことだ」
つきあいが長い横山さんは着地点のない話をうまくまとめた。さすが。
旅の最後は東京湾フェリーで
最後は東京湾フェリーで久里浜(神奈川県)に出て帰る。千葉の山を見てきたので、海の魅力も感じてもらうつもりだ。
フェリー乗り場にさかなセンターのような巨大なおみやげ屋があった。3人で鮮魚やおみやげを見ていると、途中で宮城さんの姿が見えなくなった。
あれ?
おみやげはCD
さかなセンターの脇でフリーマーケットが開かれていて、宮城さんはそこで中古CDを見ていたのだ。
ここまでちょこちょこ登場していた音楽の話はこれへの伏線だったのか。しかし僕と横山さんも中古CDに夢中になり、気づけば横山さんと僕が14枚(70円)、宮城さんが9枚(45円)購入
横山さん 「やー いい買い物した」
宮城さん 「ほんとに」
などといいながらフェリーに乗り込む。ここまで来て中古CD。休日の過ごし方のバリエーションが少ない3人だ。フェリーの上で千葉の自然について話を聞くつもりだったが買ってきたCDの見せあい大会になる。
横山さん 「東京の中古CD屋は荒らされてるからさ。ここはけっこうよかった。」
題材はCDなのだが魚にも当てはまるようなことを言っている。
宮城さん 「僕はわりとジャケ買いしました。」
林 「かわいいジャケットが多いですね」
宮城さん 「林さんは、……渋谷系ですね」
林 「ええ、あ、うれしいです。」
日が暮れると急に冷え込んできた。風も強い。客室に入ればいいのだが、3人とも言い出せずに我慢して座っていた。
ビールのつまみに買ってきたイカ焼きが風で飛んでいった。(買ったCDはこちらです)
新宿にもどってきた
久里浜から電車を乗り継いで新宿まで戻ってきた。宮城さんとタメ口で口をきくまではならなかったが、もう親友寸前のところまで来た感がある。友達口調で話をするだけが親しさではない。というか年下であることがわかったので僕からタメ口で切り出すべきなのかもしれない。
帰り際、宮城さんの携帯を覗いたら待ち受けがみかん畑になっていた。みかん狩り、やっぱり楽しかったんだ。これだけで満足だ。
みなさんも果実狩りでコミュニケーションの突破口を探してみるのはいかがでしょう。そしてやっぱり千葉って奥深いな、と思いました。