特集 2021年6月30日

ペットボトル飲料はもはや600mlがスタンダード

ポテトチップスやお弁当など、様々なものがあの手この手で値上げされていくこの世の中、なぜかペットボトル飲料だけがお値段据え置きのまま増量を続けている。あれは一体何なのだろう。経営は大丈夫なのだろうか。手の届く範囲で調べてみよう。

1993年群馬生まれ、神奈川在住。会社員です。辛いものが好きですが、おなかが弱いので食べた後大抵ぐったりします。好きな調味料は花椒。

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ペットボトルの標準サイズは600ml

いきなりですがクイズです。ペットボトル飲料の標準サイズは何mlでしょうか。

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あなたの脳内にあるペットボトルを思い浮かべてください

350ml缶よりもやや大きく、ちょっとした散歩にも持ち歩きが便利な500mlだと思われましたでしょうか?

いいえ、答えは600mlです。ペットボトルといえば600ml。そういった時代がもうすぐそこまで来ています。
 

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落ち着いてください。ここはあなたが普段生活している世界で間違いありません

ペットボトル飲料メーカーが心配である

ここ最近600mlのペットボトル飲料が急増している。いつものコンビニでいつものお茶を買おうとしたとき、目の前にあったのはいつもの500mlペットボトルではなく、600mlに増量したペットボトルであった。そういった経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。

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コンビニのみならず、自販機も同様である。日常は600mlに侵食されつつある

恐ろしいのは増量しているだけでなく、あまつさえ値段が据え置きということである。20%増量したから20%値上げされているのならば道理である。20%増量しているのにお値段はそのままなのだ。

物理学には等価交換の法則というものがあるはずだが、この現象は現代物理の枠を越えていると言って差し支えないだろう。
 

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この2つのアクエリアスが同じ値段?うっ、頭が......

20%というのは並々ならぬ数値ではない。容量だけが1.2倍になるということは、単純に考えて売り上げは1/1.2になるということだ。割合にして83%。そんな減益が許されるのだろうか。

社内報告は、経営会議は、株主総会はどうなっているのだろうか。心配だ。担当者のことを考えると胸がきゅっとなる。夜は眠れているのだろうか。取りやめるなら今のうちじゃないのか。

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今、600mlという選択

いけないいけない。見えていないことをあれこれ想像するのではなく、まずは見えていることを整理しよう。

身の回りのコンビニや自販機、スーパーを見てまわったところ、600mlのペットボトル飲料をこれだけ見つけることができた。
 

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その数16種類。もう整列させようったってそうはいかない数だ

600mlペットボトルの多くはお茶のようで、今回見つけた中でも16種類中12種類がお茶の類であった。

見つけてきたものの中から、特に気になるものをいくらかピックアップしてみたい。

時代がやってきたぞ やかんの麦茶

まずはコカ・コーラの「やかんの麦茶」だ。

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なんだこのお茶は!と思う方も多いかもしれない。私も同じ気持ちである。なんだこのお茶は!

それもそのはず、今年の4月26日から新発売したコカ・コーラ社の新商品なのだ。そして恐るべきはその商品体制である。

4月26日から新発売ということで、このお茶は増量して600mlになったわけではない。発売当初から600mlでの展開がなされているのだ。ナチュラル・ボーン・600ml。現実世界の話ですよ。

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もうデカい!

増量飲料水のパイオニア 健康ミネラルむぎ茶

おいおい、ちょっと待ってくれと。デカいお茶を伊藤園の「健康ミネラルむぎ茶」なしに語れるのかと。おっしゃる通りである。健康ミネラルむぎ茶といえば大容量、大容量といえば健康ミネラルむぎ茶だ。

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デカいお茶の代名詞、健康ミネラル麦茶

他のお茶がまだ500mlだった時代から健康ミネラルむぎ茶は600mlであった。むしろ健康ミネラルむぎ茶に時代が追いついてきたという形だろう。

しかし健康ミネラルむぎ茶の躍進は止まらない。公式サイトを確認したところ、なんと現在は600ml、650ml、670mlというラインナップで商品展開を行っていた。670ml。なんとしてでも他のお茶に大容量の座は譲らないぞという気概が見える。

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デカ過ぎて固定資産税がかかりそうだな!

600ml炭酸飲料の風雲児 ペプシコーラ

お茶が圧倒的勢力を誇る600mlペットボトル業界において、彗星のごとく現れたのがペプシコーラである。炭酸なのに600ml。これは革命ですよ、奥さん。

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これからは炭酸飲料も600mlがスタンダードになっていくのか......?

今回見つけたのはペプシコーラの中でも「PEPSI JAPAN COLA ZERO」という種類なのだが、どうやら今後通常のペプシコーラも600mlに増量していくようだ。

SUNTORY社のこれからの攻勢に期待したい。そしてあわよくば他の炭酸飲料も600mlになっていってほしい。なぜなら炭酸飲料が大好きなので。

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新時代の幕開けだ!

外伝:大丈夫か レッドブル

600mlペットボトルではないのだが、飲料水が増量している例としてついでにひとつだけ挙げさせていただきたい。

翼を授けることでおなじみのレッドブルだ。

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これが最小サイズ。お気づきだろうか、いつの間にかちょっと大きいことに

元々レッドブルは185mlからの商品展開であったが、今年の2月1日から最小サイズである185ml缶の販売を取り止めている。そうなると少し大きくお値段もお高い250ml缶を買わなければいけないのかという話になるが、なんと同時に250ml缶のお値段が185mlのものまで値下げされたのだ。

つまり75mlの増量である。185mlのものが75ml増量。これは500mlのものが100ml増量するよりも明らかに大事である。

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大体このくらい増量している

もしかして500mlペットボトルだけでなく、飲料水全体が増量する傾向にあるのか。そんな期待をさせる事例である。

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背中に羽がはえてる!

 

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600mlペットボトルには戦略がある

600mlペットボトルを集めてみた中で分かったこともある。それらを少しだけまとめておこう。

ほぼ全てのペットボトルが「600ml」と表記している

まず集めてみて一目瞭然だったのが、600mlペットボトルは必ずパッケージに「600ml」と書いてあることである。

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これも、これも、これも。全て大容量を主張している。

500mlペットボトルの時代、パッケージに「500ml」とデカデカと書いてあるペットボトルは見かけなかっただろう。

しかも商品によっては容量の前に「たっぷり」や「BIG」というワードまで記載されている。明らかに大容量をウリにしているのだ。

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いままでのやつら(500ml)とはワケが違うぜ!という気概を感じる
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「いつでも一緒に600ml」もあった。どういう意味かは分からないが、そう言われては仕方ない

600mlペットボトルには寸胴型が多い

600mlペットボトルには形状に遊びのあるものが少なく、その多くがストンとした寸胴型であることも分かってきた。500mlペットボトル時代にあった持ちやすさへの考慮や、デザイン性という観点が削られているのだ。

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500mlペットボトルにはくびれがデザインされたものが多い
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それに対する600mlペットボトルの堂々たる佇まいよ

しかし600mlペットボトルにはデザイン性がない、と考えるのは早合点である。実際に持ってみるとわかるのだが、くびれのない形状はその見た目以上に太さを感じやすいのだ。

つまり大容量を感じさせるためのデザイン、そう考えることもできるのだ。

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この明らかな太さがお得さを感じさせる

場所によっては既存の500mlペットボトルを販売しているものもある

これは気をつけなければならないという話なのだが、商品によっては500mlペットボトルと600mlペットボトル両方で展開しているものがある。

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冒頭で挙げたアクエリアスもその一つだ

片方はコンビニ、片方は自動販売機と販売場所が異なっていたりするのだが、この600mlの時代に500mlの方を誤って買ってしまうと「なんか損したな」と思ってしまったりするので気をつけていきたい。

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そんなことを思ってしまう私の心は300mlペットボトルくらいだろうか

600mlへの増量は「水分補給」がキーワード

買い集めてみることで600mlペットボトルの傾向や特徴については分かってきたが、増量の理由や影響についてはやはり謎のままである。

やきもきし続けるくらいならいっそメーカーさんに聞いてしまった方が早いのではないか。そこでSUNTORY社とコカ・コーラ社に聞いてみたところ、両社から回答をいただくことができた。お忙しい中本当にありがとうございます。

Q:どうして600mlへの増量や商品展開を行っているのですか?

A:
満足度向上のためです。味わいが大事な商品は少量での満足度が高く、水分補給に適した商品は1本あたりの容量の多さが満足度につながることが多いです。(SUNTORY)

消費者の飲用量が多く、ゴクゴク飲みたいというニーズに応えるためです。特に麦茶は2010年の記録的な猛暑以降、熱中症に対する意識が高まり飲まれ方が変わりました。(コカ・コーラ) 

水分補給!どうりで600mlのペットボトルにはお茶が多かったわけだ。なんでもかんでも増量のブームが来ているわけではなく、きちんと狙いがあっての増量だったのだ。

2010年の猛暑以降、消費傾向が変わっていったというコカ・コーラ社の回答も興味深い。増量の裏には人の行動があり、人の行動の裏にはきちんと時代背景が存在するのだ。

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すっかり忘れてしまっていたが、2010年はとんでもない猛暑だったらしい。ペットボトルで分かる日本の歴史だ(Google画像検索より)

しかし、そうなると気になるのは「ペプシ ジャパンコーラ」の存在である。あの手の炭酸飲料は水分補給というより味わいが重視されているものではないのか。

そこで次の質問である。

Q:「ペプシ   ジャパンコーラ」のような炭酸飲料が増量するのには特別な理由はありますか?


A:詳しい理由はお答えできませんが、「ペプシジャパンコーラ」においては、多くの日本の“コーラ好き”の皆様にご好評いただいており、3月から490mlペットボトルを600mlペットボトルに増量しますます好調に推移しています。

そして、6/22(火)に600mlペットボトルのまま「ペプシ<生>」へと生まれ変わります。
https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1119.html(SUNTORY)

ウワーッ、気になる。「詳しい理由」が大変気になるところだが、増量後ますます好調ということならばそれが全てなのかもしれない。

ペプシコーラの増量によって我々もうれしい、SUNTORY社もうれしい。その事実以上に何が必要なのかという話なのだ。

ちなみに600mlペットボトルの商品展開についてはコカ・コーラ社からこんなお話もあった。

その時々によって飲む/飲める量が変わってきますので、お客様に好きな時に好きな量を選んでいただけるよう、600mlペットボトルだけではなく、さまざまな容器展開をしています。(コカ・コーラ)

 当たり前だが、複数サイズの商品展開は意図してのものだったのだ。「500mlの方を誤って買うと損した気持ちになる」などと思ってしまい大変申し訳ありませんでした。

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500mlのアクエリアスもおいしく飲みました!

 

いずれ来たる700mlへの世界に向けて

SUNTORY社やコカ・コーラ社の回答から、600mlペットボトル時代の到来はいよいよ明らかとなってきた。しかしこれは移りゆくペットボトル飲料業界の中間地点に過ぎないのかもしれない。

もしかしたら、いや、おそらくは今後もペットボトル飲料は増量を続け、いつか700mlペットボトルの時代に突入するのだろう。

そう思ったので今後に備えて手紙を書きました。

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ペットボトル飲料が700mlに増量された世界の自分へ

この手紙を読んでいるということは、もう600mlペットボトルはこの世に存在しないのでしょう。

元気にしていますか。まだ炭酸飲料は好きですか?

僕は今、会社勤めをしながら記事を書いています。

文章を書くときは大抵コカ・コーラやペプシコーラを飲んでいます。文章は続けていますか?変わらず、何かを飲みながら文章を書いていればいいなと思います。

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変わらずへんてこな写真も撮っていればいいなと思います

そもそも、この手紙を読んでいるのは何年後なのでしょう?十年後?二十年後?ひょっとして、医者から炭酸飲料を止められていたりしますか?

例えそうだとしても、それでもきっと隠れてこっそり飲んでいるのでしょう。ただでさえさらに100ml増量しているのですから程々にしてくださいね。

なんだか説教くさくなってしまいすいません。健康で、幸せであることを願っています。

700mlに増量した世の中でもどうかお元気で。

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おわりに

本文中には記載していないが、メーカーさんに対して、増量によって損をしているのではないかという直球の質問もさせていただいた。

回答としては「具体的な利益率についてはお答えできない(コカ・コーラ)」というものであった。そりゃそうだと思う。せっかくなので決算説明会資料などにも目を通してみたが、詳細な部分での情報を得ることはできなかった。

しかしペプシ ジャパンコーラが600ml増量後にも好調である事例から、おそらくコストは上がりつつも採算は取れている計算なのだろう。増量について担当者が怒られてはいなさそうなのでひとまずは安心である。

いずれにせよ600mlへの増量の影響は計り知れない。これからも各飲料をおいしくいただきつつ、ペットボトル飲料業界の動向に注目していきたい。

それでは700mlの時代で、また。
 

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手紙はどうしていいか分からなかったのでおもちゃ箱にしまいました

 

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