パレットタウンのモンスター
大観覧車を真下から見上げると、一気に足がすくむ。蒲田のグレ太とは比較にもならない。
「この、怪物め……」
グレ太もびよんびよんも、どれも克服出来なかったこの僕が、これからこのモンスターに挑もうとしている。
無謀に見えるこの挑戦だが、モンスターに対する秘策はある。
ゴンドラの中で気持ちを静めるため、エンヤのCDを用意しておいたのだ。透通る様な癒しの音楽が、高さへの恐怖をやわらげてくれるはず。
パレットタウンの大観覧車は8分かけてゆったりと頂上まで登って行き、同じく8分かけて下っていく。合計16分間の空中散歩を楽しめる訳だ。
セレブレイト、セレブレイト、セレブレイト……
エンヤの声を感じながら、ゴンドラは徐々に高くなる。
セレブレイト、セレブレイト、セレブレイト……
いや、セレブレイトって雰囲気じゃないな。どんどん空が近くなって来るし、地面は遠のいていく。
思えばこの反重力な感じが恐くて恐くてたまらないのだ。飛行機だって離陸する時の、あのGがたまらなく恐い。
頂上で測った結果。 |
やっぱり、駄目だ。
この怪物は、僕の手に負える代物じゃないのか……。
「再度チャレンジ、モンスターは征服されたのか?」
このまま引き下がる僕ではない。
ちゃんと次の手も考えてある。
坐禅だ。
ゴンドラの中で禅を組み「高さ」を超越する、という寸法だ。
ゴンドラの固い椅子に深く静かに座り込む。
目を閉じて無念無想の境地を求める。呼吸は鼻でゆっくりと腹式呼吸。
高さは恐くない。
「間もなく最高頂115メートル付近に差し掛かります」
ゴンドラ内に放送が流れる。
115メートル……。
2度目の頂上で測った結果。 |
「ここから新宿の高層ビル群や、羽田空港などをご覧いただけます」
いや、ご覧いただけないな。
そんな115メートルなんて言われたら、正味な話、恐いって。
それに何が坐禅だ?
坐禅で高さを切り抜けたところで、それは単に高さから逃げているだけだし、逃げる事すら出来なかった。
結局このまま高所恐怖症を克服出来ずに終わるのか?
次のページで、僕は最後の手段に出る。