特集 2021年7月16日

おしゃれな手術着で会社に行ってもいいですか

 

編集部の安藤さんから「おしゃれすぎる白衣屋さんがあるそうですよ」と教えてもらった。

聞くとその白衣屋さんは白衣だけでなく手術着なども手掛けていて、あまりの着心地の良さに社員の人たちも私服として愛用しているらしい。

 

私服として手術服を…?!

まちを歩くのと建物が好きで不動産会社に入りました。
休日は山を登り川を渡り海で石を拾います。

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おしゃれな手術着がほしかった

奇遇なことに、筆者はここ数年の間「手術着」を探していた。オフィスカジュアルの一着として着たかったのだ。

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みんな見覚えがあるだろう

この手の手術着のことを「スクラブ」というそうだ。じつは単に手術着と呼んでしまうのは語弊があって、もともと手術着だったが、現在は医療現場のユニフォームとして日常的に使われているらしい。

初めてスクラブを認識したのは医療ドラマのワンシーンだったか。

詰まり気味のVネック、むやみな装飾はなし、シワになりにくそうな生地…そうそう、こういう服が着たかったのよ!オフィスカジュアルの迷い子であった筆者にとって、まさに一筋の光明である。

それからというもの、毎年夏が近づくたびに、地引網のごとくファッションビルを渡り歩いては「スクラブ風」の服を探した。しかしなかなか成果は芳しくない。やはり漁場がちがうのだろうかと思っていたところ、先の安藤さんのお知らせがあったわけだ。

おしゃれ白衣屋さん、会社の名を「クラシコ」というらしい。

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ぐぐったらトップページがこれよ

……

おしゃれすぎません?!!!

海外アパレルと間違えたかと思い、検索画面に戻るが、やはりここが白衣メーカーのクラシコさんに違いないようだ。

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たしかに白衣って書いてあるな…

 

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あまりに洒落た世界観におののく
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こちらはウィメンズのスクラブ。昔ドラマで見たスクラブとは全くの別物じゃんか?!

ここだ、ここに探し求めていた服があるぞと、心の漁師が大漁旗を握りしめてささやく。なんともタイミングのいいことに、個人向けの販売は創業以来ネット通販をメインにしていたクラシコさんが、このたび5月に東京・六本木に実店舗「クラシコ 六本木」を構えたそうだ。さっそくお伺いしてきた。

 

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中央が創業者であり代表を務める大和さん、向かって左がDPZ読者であり今回のご紹介人・マーケティングの青木さん、右はPRの米久さん。

3yk:よろしくおねがいします!実は青木さんからクラシコさんでは私服としてスクラブを着ていると聞いて、通勤服にもなるんじゃないかと思いまして…今日は会社用の服で来ました!

クラシコの皆さん:ハハハ(笑)それじゃあ探してみましょうか!

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開店前のお店でお話を聞かせていただきました!

スーツの技術で白衣を作る

店内に入り、最初に目に飛び込んできたのは両側にズラッと並ぶ白衣たち。スクラブ探しの前に、白衣のこともたっぷり聞いておきたい。

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一口に白と言っても、ひとつひとつ微妙に色味や布地の表情が異なる
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大和さんが手にしたのは「クラシコテーラー」というメンズ白衣。

大和さん:一番最初はメンズの白衣一型だけで。僕と一緒に始めた、今はデザイナーで取締役の大豆生田がペコラ銀座というオーダースーツの工房で働いていたんです。彼のスーツづくりの技術を使って白衣を作るというのがコンセプトでした。

3yk:スーツと白衣だとどういうところが違いますか?

大和さん:スーツはカッチリ見せるために、肩パッドや芯材など「副資材」と呼ばれる様々な素材を布の内側に仕込むんですね。白衣は逆で、病院のハードなクリーニングに耐えるようになるべく副資材を減らします。

大和さん:シンプルにしつつ、動きやすさとフィット感はスーツと同じにする。服の展開図をパターンと言うんですが、構成をシンプルにしたぶんパターンで勝負する感じですね。

病院のクリーニングは熱湯と強力な洗剤・熱風・上から熱した鉄板を落とすかのようなプレスアイロンと、まさに地獄ツアーの様相だ。白衣制作を始めたての頃、クリーニングに出したら白衣のボタンがバキバキに砕けたと、お医者さんからお叱りを受けたこともあったそう。

大和さん:白衣ってこんなに難しいものなのかって。今でも一般アパレル企業が白衣に挑戦してはその難しさに撤退していきます。それでも「かっこいい白衣作るんでしょう、応援してるから頑張って作ってよ!」ってお医者さんたちが励ましてくださって。ありがたかったですね。

そうして試行錯誤をぎゅっと詰め込んだのがこの白衣なのである。

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大和さん「背裏が付いているのは当時としては斬新で。内ポケットがあるところも。」
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米久さん「このね、背裏のボーダーが透けるんですよね!」大和さん「そう、背中から見ると!着てる本人は見えないんですけどね〜笑」
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大和さん「それからこのパイピング(布の端を包む装飾)!ちょっと袖を折り返してパイピングを見せるのが好きな先生も多いみたいです。」

シンプルにと言いつつも、とても細やかな「かっこよさ」のオンパレードだ。服そのものが白一色な分、着心地からシルエットからさりげない装飾まで、いつもなら無意識に通り過ぎてしまうようなこだわりが光って見える。なぜ、こんな白衣を作り始めたんだろう。

始まりは友人のボヤキから

大和さん:僕自身は全然医療関係でもアパレルの出身でもなくって。たまたま行った同窓会で、医者になった友達がいたんですよ。めちゃくちゃ服好きで、お金も全部服にかけてたような人なんですけど。

3yk:すごい

大和さん:その友達が言うんです、バッチリ身だしなみを決めて家を出て、病院であのペラペラの白衣を取り出すとめっちゃモチベーションが下がる。周りのドクターもみんな不満言ってるよ、いい白衣があったら絶対買うって。

実は筆者も学生時代、病院実習のために白衣を着たことがあった。

生協で売っていた2000円の白衣は、ブカブカのペラペラで「給食係かな…?」とがっかりしたのをよく覚えている。

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実習のときは怖かった先生たちも、白衣についてはどう思ってたんだろう

大和さん:それで同じく友人でオーダースーツの工房で働いていた大豆生田のスーツづくりの技術を使ったらおもしろいんじゃないかって、二人とも会社勤めを続けながら週末起業を始めました。それが2008年だからもう13年も前ですね。

 

大和さん:平日仕事終わりにウェブサイトつくって、土日に試作して。当時は今みたいにネットショップの作り方みたいなのもないから、購入したい人には、問い合わせフォームに「買います」って名前とか住所とか書いて送ってもらって。で、僕がそれに手動で「この口座に〇万円振り込んでください」って個人の口座の情報書いて返信してました。(笑)

3yk:そんなの完全に詐欺の手口!めっちゃあやしいですね(笑)

大和さん:あやしいでしょ。で、当時は受注生産だったから注文受けてから発送までに2〜3ヶ月くらいかかるんですよ。ますますあやしい(笑)。それでも信じて振り込んでくれて待ってくれてたのが嬉しかったですね。

 

アスクルなら1980円で買える白衣に、あえて3万円。しかも詐欺かもしれない、でもこの可能性にかけたい――笑い話のようだが、それだけクラシコさんの白衣が待ち望まれていたということだろう。

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筆者も7年の時を経てあらためて白衣にチャレンジ!

ウィメンズのイチオシ白衣は「ハイツイストコットンLABコート」。

シワになりにくいポリエステルが主流の中、綿花からの糸の撚るところから考えて作られた綿100%の布地なのだそうだ。

筆者の昔の記憶を手繰って比べると、特売のガサガサティッシュと鼻セレブくらい手触りが違う。

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布の躍動からテンションの高まりを感じてくれ
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あの、これすごいよ!!!ビシッと袖を通した瞬間がめちゃくちゃ気持ちがいい!

肩から腕・背中に落ちる布が無駄なくすっと身体に寄り添ってくれて、背筋が自然に伸びる。それでいて生地が柔らかくてしっとりしていて、身体を服に閉じ込めるような感覚はちっともないのだ。

筆者がわあわあ興奮していると、同行した編集部の石川さんも白衣に挑戦。

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に、にあう〜!!

石川さん:あの…そもそもの質問なんですが、これはボタンを開けて着るものなんでしょうか。

大和さん:特に決まってないですが、開けている方が多いですかね。

青木さん:身だしなみについてのルールブックが定められている病院もありますね。スクラブだけで患者さんの前を歩くのはだめ、白衣の前ボタンは全部閉めること、とか。

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青木さん「靴下は紺色のみ、とかも聞いたことがありますね」

3yk:学校の校則みたいですね…

大和さん:そう、病院って、学校みたいに毎日同じメンバーが集まる場所だから、「お前その靴カッケーじゃん、どこの?」みたいなノリがあるみたいで。

青木さん:個人で購入された方の口コミで院内のチームで採用されて、別のチームの目に留まって…という連鎖が最近はすごく増えてますね。

石川さん:僕、普段はあまり服に関心がなくて、あるものを着る…という感じなんですけど。それでもこれは着た瞬間にあっと思うものがありますね。明らかにかっこいい。チームで購入するのだと、最初は全然興味を持っていなかった人も着るわけじゃないですか。いつの間にか他のが着れなくなっちゃうなんてこともありそう。

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これでヘボコン(DPZの人気イベント、技術力の低い人のためのロボット相撲大会)出ましょうよ!と青木さん。

お医者さんだけでなく、理科の先生やお寿司屋さんなど、クラシコさんの白衣を求める人は多岐にわたるそうだ。こんなシュッとした格好でへぼいロボットを一生懸命戦わせてたら、いじらしさに泣いてしまうな…。

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ウィメンズ白衣からもう一着ご紹介いただいた。華やかな花柄はスターバックスのさくらタンブラーなども手掛けるフラワーアートユニット「plantica」とコラボレーションしたもの
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先程の白衣とはちがって裾がすこし広がってワンピースみたいだ。「石川さん!ちょっと!見てください!!」

 

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「ポケットの内側が花柄ですよ!」こんな、自分しか見えないようなところまでかわいいのか〜!!

極めつけは風にはためいたときだけ見えるという隠し花柄である。

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この一瞬の!一瞬のおしゃれよ…
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ランウェイが見えたね

なんだかこの白衣たち、着た瞬間に笑っちゃうな。照れ隠しではない。格好良いものが、自分にぴったり寄り添ってくれているという、なんかこう、世界に祝福されているような嬉しさだ。

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いざスクラブ探しの旅へ

さて、いよいよ自分用のスクラブを探そう。

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クラシコ社員さんの間では、リモートワーク時の部屋着として大活躍なんだそう

3yk:私はドラマで見かけてスクラブを知ったんですが、昔からよく着られているものだったんですか?

大和さん:昔は、日本では特に手術室の中で着るものでしたね。今でこそYシャツとかTシャツみたいに、インナーとして着られてますけど。看護師さんもかつてはワンピースだったのが、スクラブ上下になって機能的で動きやすくなりましたよね。

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3yk:スクラブが広く使われるようになったのはここ最近の話なんですね。

大和さん:そうですね、スクラブを手術以外でも、という文化はドラマの影響が大きいんですよ。アメリカだとジョージ・クルーニーが出た「ER緊急救命室」でみんな着るようになって、日本だと「コード・ブルー」で山Pや松嶋菜々子さんが着るようになって。それで病院の中でもどんどん広まっていきましたね。

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そうそう、ドラマで見たのもこんなかたちだったなあ

大和さん:初めてクラシコで作ったスクラブがこの「デオスクラブ」。デオはデオドラントですね、汗の匂いを消す素材を織り込んでいるんですよ。ナースの方たちが、夜勤のときにこれを着て、着たまま仮眠して、呼ばれたらバッと行く。パジャマと兼用なので寝汗とか、仕事中の汗とかの臭いをなくして快適にしたいという声から開発しました。

3yk:素材開発から…!実際に使う人の声を聞きながら作っていくんですね。

大和さん:めちゃめちゃ聞きますね!動きやすさとか色とかもだけど、周りの人に汗の匂いがバレていないか気になるとか、そういう現場で困っていることを聞きながら作ってます。

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こちらの「スクラブ FREE」では360°伸縮する素材を開発されたんだそうだ。素材レベルで困りごとを解決しようという意気込みが頼もしい。

3yk:スクラブのかたちは決まっているんですか?

大和さん:そうですね、だいたいVネックで、日本とかアジアでは肩のところにボタンがあって…

3yk:国によってボタンの有無に違いがあるんですか?

大和さん:そうなんですよ、アメリカだと最近はボタンがついてなくて、普通のTシャツみたいにガバっと脱ぎ着するのが多いみたいですね。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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こちらはアメリカの医療アパレルブランド。ヘルシーな雰囲気がまたかっこいい!

ちなみに白衣でも、蒸し暑い台湾では半袖で通気性がいいものが人気、先ほどの花柄の白衣はなぜか中東でバカ売れと地域性があるのだそうだ。

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話を聞くほどにあれもこれも着たくなってしまう
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最初に試着させていただいたのは、キーネックが特徴の「スクラブTRO」。

実はウェブサイトで見たときから仕事着候補だったTRO。奥行きのある質感といい、ボタンの色が布地に揃えられているところといい、かゆいところに手が届くとはまさにこのこと…!

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「もうこれで決まりです!」試着室からニンマリ登場。
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首元がきれい!二の腕が気にならない!肩をぐるぐるまわしても苦しくない!
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パンツも揃えて履いてみたら、足のラインのすっきりさに感激!この細さで屈伸もへっちゃらなんだぜ…!
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これ着てる自分、かっこいいなあ〜!嬉しくて鏡の前で踊りだしてしまいそうだった

お医者さんの中には、普段は病院指定のスクラブ、ここぞと気合を入れる大事な日にはクラシコのスクラブ、と使い分ける方もいらっしゃるんだそうだ。気持ち、わかるなあ。自分のことをこんなに思ってくれる服がある、服を作るひとがいるんだと思うと背筋も伸びるってもんだ。

 

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続いて軽やかな素材の「スクラブ シアサッカー」は落ち着いた色で、着心地と見た目のシックさのギャップが嬉しい!

3yk:クラシコさんのスクラブは本当にどれも色が絶妙ですね…!

大和さん:昔はそれこそわかりやすい水色とか緑しかなかったんです。僕らが初めてもっと大人っぽい色をとディープネイビーを作って、それがすごくウケて、今はもう他のメーカーでもどこでもディープネイビーが一番売れているくらいですね。その年のトレンドとか、ブランドイメージなんかを考えて話し合って決めています。

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わ、こんなとこにキラキラが!

ウィメンズの「スクラブDECO」は首の後ろや裾のところにさり気なく光るラインが入っている。アクセサリーもなかなか身に付けられない現場での、ささやかなときめきである。

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気づかないところにあるの、お守りみたいだな

たかが仕事服、されど仕事服…。バタバタ忙しない日々の中、ふと窓ガラスに映った自分を見、なんてひどい面してやがんだとますます気持ちが落ち込むことは誰しも経験があるのではないか。そんなときに自分の一番近くにある服が、自分の一番の応援団だとしたらこんなにも心強いことはないなあと思うのだ。

 


夏のOLスクラブ、はじめました

後日、とうとう会社用に注文したスクラブが届いた。

早速会社に着て行っているが、今のところこのナイスなトップスが手術着だとは気づかれていない様子。次はどうにかして白衣を普段着として着こなすセンスを身に着けたいところだ。

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誰かに気づいてほしいようなソワソワもちょっとある

取材協力:
白衣のクラシコ (WEB)

Classico ROPPONGI (ショップ)
〒170-0052 東京都港区赤坂9丁目5−12
パークサイドシックス B1F
080-3554-3391
営業時間 12:00〜17:00 (祝日を除く月〜金)

※2021/7/16現在、感染対策のため予約制です。詳しくはリンク先をご覧ください

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