石川さんが終始笑っていた
撮ってもらった動画を見返したところ、石川さんが終始笑っていた。悔しい。今回は最初から最後まで私が体験させてもらっていたのだが、この大変さを石川さんにも味わって欲しかった。
もし私の知り合いでシミュレーター乗馬やってみるよ〜、という人がいたら声をかけて欲しい。すぐに駆けつけて、隣でニコニコするので。
人類の歴史は馬の歴史である。農耕から始まり戦での利用や物・人の運搬と、人間の側には気づけばいつも馬がいた。昔も今も、そしてこれからも人は馬と協力しあって生きていく。
だが私は馬に乗ったことがない。それでいいのか。
いいわけがないのである。
やあやあ我こそはこれから馬に乗りしりばすとだと、高らかに名乗りを上げてやって来たるは銀座である。
聞けばこのコンクリートジャングル銀座に乗馬のできる施設があるというのだ。馬とはそんなにも身近なものであったのか。
同行している編集部の石川さん曰く、その施設は「乗馬倶楽部銀座」と言うらしい。確かに乗馬ができそうな倶楽部だし、銀座にありそうだ。これで猫カフェとかだったらびっくりする。通ってしまうと思う。
乗馬倶楽部銀座に入ると、とんでもないものが目に入ってきた。
乗馬倶楽部銀座は日本初のシミュレーター乗馬クラブだったのだ。乗馬のことも全く分かっていないのにシミュレーター乗馬。しかも日本初。要素が多すぎて溺れそうである。
シミュレーターは徹底的にリアルな仕上がりとなっており、本物の馬と変わらぬ感覚、操作で乗馬ができるらしい。さらにシミュレーターならではの機能もあるとか。
今回は店長の嶺本さんとインストラクターの砂田さんに手取り足取り教えていただきながら、乗馬、ジャンプ、競馬、そして馬上ヨガと一通りの乗馬体験をさせてもらうことになった。お忙しいところありがとうございます。
さっそくシミュレーター馬に乗っていくのだが、近づいてみて気づくのはその大きさである。本物の馬に合わせたサイズ感になっているのだが、想像よりも大きいのだ。
もちろん跨ってみると馬が大きい分だけ高い。私はハムスターほどの肝っ玉しか持ち合わせていないので、本物の馬だったらこの時点ですくみあがっていたことだろう。そういう意味ではこの時点ですでにシミュレーターで大助かりである。
乗馬姿勢や手綱の持ち方を一通り教わったところで、まずは軽く動かしてもらう。
揺れる揺れる。自分の力の及ばぬものによって自分が縦に揺らされる。常歩(なみあし)といって馬の歩法のうち最もゆっくりのもので歩いているのだが、それでもついつい声が出てしまう揺れなのだ。
写真やGIFでは伝わりづらいので動画を......と思ったのだが、動画も伝わりづらいかもしれない。客観的に見たらこの程度の揺れなんだ、と記事を書きながら私が一番驚いている。体感ではちょっとした船くらい揺れていたのに。
歩いている様子は目の前のモニターに反映される。例えば手綱を左に引くと馬は左に曲がるのだが、そういった操作含めてシミュレーターおよびモニターで再現されるようになっているのだ。
ある程度歩いて少しずつ揺れにも慣れてきたところで、今度は少し早い速歩(はやあし)。
さっきよりも縦にガタガタと揺れる!全く人間のことが考慮されていない揺れだ。
自動車や電車、新幹線など人間のために作られた乗り物とは異なり、私は今、馬さんに「乗せてもらっている」。馬が私のために駆けているのではない。私が自由に駆ける馬さんの背中をお借りしているのだ。そういう気持ちが湧き上がってくる揺れである。
そして休む暇なく馬はさらにスピードを上げ、駈歩(かけあし)に。
速歩が常歩の延長線上の揺れであったのに対し、駈歩は揺れのリズムや方向が違う。縦揺れが前揺れに、大体2拍子だった揺れが3拍子になっているのだ。
そしてなんだか速歩よりも乗りやすい。これは......意外といけるぞ!
なんとなく速度が速いほど乗るのが大変かと思っていたのでこれは意外だ。駈歩は時速30km程度の速さというが、これなら気持ちよく駆けていけそうだ。
楽しくなってきたところでモニターに注目。このシミュレーター、楽しい・気持ちがいいだけでは終わらないのが肝なのである。
なんと鞍や手綱が全てシステムに繋がっており、自分の足や重心の位置、手綱を引く強さといった乗馬の上達に必要な要素が可視化されるようになっているのだ。
しかもそれらの要素が常にモニター上に表示され、すぐにフィードバックを得ることができる。本物の馬では感覚で学び・慣れによって改善していくしかないものを、このシミュレーターならとてもロジカルに学ぶことができるのだ。
乗れば乗るほどどんどん姿勢やバランスを正していける。シミュレーターならではの強みだ......!
そんな活用方法を教えてもらったところで、最後に足を使った馬の走らせ方、手綱を用いた馬の止め方を習って終了。
りばすと「いやあ、ありがとうございました。勉強になりましたし楽しかったです」
嶺本さん「次はジャンプに行きます。ここまでは基礎の『き』ですよ」
え?
乗馬倶楽部銀座の初心者向けコースは常歩から始まり、先ほど体験した駈歩までで終わるという。駈歩に手こずる方もいらっしゃるそうだ。また、本物の馬でジャンプまでできるようになるには一般的に3〜4年くらいかかるものらしい。
じゃあジャンプなんかやっちゃいけないんじゃないですか?
ちなみにシミュレーター馬には一頭一頭名前がついていた。先ほどまでの馬がバーバラ、これから一緒にジャンプする馬がシューティングスターである。よろしくな、シューティングスター。
まずは再び軽く歩いてもらうところから。
乗ってみると先ほどの馬(バーバラ)よりも横揺れが少なく、少し乗りやすく感じる。これは馬ごとの個性を再現しており、同じ歩法でもシミュレーター馬によって揺れの癖などが違うそうだ。
確かに全て画一的な動きだと練習にならないもんな。重ね重ねよくできている。
ハードルを越えるにあたって、特に騎手側でやることはないらしい。しっかりとハードルの方に馬を向け、臆さず突っ込むことで馬が自然と跳躍してくれるそうだ。これはシミュレーターだからではなく、実際の乗馬でも同じことだ。
つまりはここでも大事なのは「馬を飛ばせる」のではなく、「馬さんに飛んでもらう」ということ。とことん馬に合わせるスタイルである。頼むぞシューティングスター。
これまた伝わりづらいかもしれないが、駈歩のような前揺れの中で、一度沈み込んだ後にしっかりと前に飛び上がっている。速歩同様、ついていくのに必死のやつだ。
もちろんジャンプについてもシステムでフィードバックが得られる。自分がどれだけ前後に揺れているかや手綱を持つ強さが表示されるのだ。
ジャンプ中であってもなるべく揺さぶられず、手綱も引っ張りすぎないのが大事らしい。
言っていることは分かるが、そんなことを言われても困る。世の中ってそんなことばっかりですよね。
今回はお試しとして数種類のハードルを飛ばせてもらった。時間としては10分程度のはずなのに、もう、いっぱいいっぱいです。
なんと乗馬倶楽部銀座では一般的な乗馬教室ではできない、競馬の体験もできるという。人の負担が大きいためあまり長い時間はできないそうだが、全速力で駆ける馬に乗れるというのだ。
もう大変な予感しかしないが、あまりにも興味がありすぎる。乗せてもらおう。
全速力で走るときはお尻をつけず、常に腰を浮かした状態で乗馬する。確かに競馬のジョッキーさん達もおしなべて皆そのポーズだ。
下半身にしっかりと意識を向けて踏ん張っていないとすぐに体が持っていかれそうになる。足への負担がさっきまでとは段違いだ。
乗っているだけで精一杯というか、もはや乗れてもいない。全速力の馬にしがみついているという表現が正しい。これは大変だ。これはだめだ。
競馬体験で完全燃焼したところで、最後に「馬上ヨガ」なるものをさせていただくことになった。乗馬倶楽部銀座には馬上ヨガコースという、その名の通り馬上でヨガをするコースもあるのだ。
もう要素が多すぎる。ひょっとして夢か?
馬上ヨガという言葉も初めて聞いたのだが、概念自体は乗馬倶楽部銀座オリジナルのものではなく、もともとあるものらしい。
ゆったりと歩行する馬の上でヨガをすることで、体幹やインナーマッスルをより鍛えることができるのだそうだ。確かに常にバランスを取る必要があるため、地上のヨガよりも大変だ。
しかし慣れてくると、ここまでの乗馬で疲れ切った身体をゆっくりと伸ばしていくのが気持ちいい。少しずつ呼吸も穏やかになり、のびのびとした気分になってきた。
馬上ヨガいいなあ。ずっとのびのびしていたい。
これにて今度こそ一通りの乗馬体験が終了。ありがとうございました。
シミュレーターでの乗馬と聞いてどんなものかなと思ったが、想像よりもシミュレーターの強みが出ていて大変楽しく乗らせてもらうことができた。
ジャンプや競馬といった本物の馬ではそうそう出来ない体験に加え、データから自分の乗り方を改善させることもできた。嶺本さんに終始横につきっきりで教えてもらったが、そもそも乗っている最中に横からあれやこれやと教えてもらうことができるのもシミュレーターならではだろう。本物の馬だったら、先生がついてくれても走り出したら一瞬で置き去りにしてしまうからだ。
この体験ができるのが日本初、つまりは日本で唯一なのは勿体なさすぎる。年内に全国展開してほしい。みんなに体験してほしい。
そして何より本当にいい運動になった。特に下半身や骨盤を意識することが多かったためか、終わった直後から足腰の疲労がとんでもないのだ。楽しみながら運動するには乗馬はぴったりなのかもしれない。
明日の筋肉痛が楽しみだ。
撮ってもらった動画を見返したところ、石川さんが終始笑っていた。悔しい。今回は最初から最後まで私が体験させてもらっていたのだが、この大変さを石川さんにも味わって欲しかった。
もし私の知り合いでシミュレーター乗馬やってみるよ〜、という人がいたら声をかけて欲しい。すぐに駆けつけて、隣でニコニコするので。
乗馬倶楽部銀座 Horse Club Ginza
〒104-0061 東京都中央区銀座2-5-19 パズル銀座3F
お問合せ・ご予約 03-6264-4128 / [email protected]
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