本気を出して本気の迷子になった


「とりもちさんに雑な影響を与えないでくださいね」
腹ごしらえも完了し、私は置き去りにされる直前に林さんから言われたことを思い出していた。
「とりもちさんの丁寧な作風に、雑な影響を与えないでくださいね」と念押しされたことをだ。
このとき私は、自らを〝雑〟でまとめられたことにいささかショックを受けながら、この旅でとりもちさんに悪影響を与えてはならぬ、と肝に銘じたのである。
「こんな公園が近くにあったら…」
さて、次はどこへ向かおうか?
検索したところ、ながいき市場より4.5キロほど離れたところに茂原公園という場所があり、見どころは以下であるという。
・弁財天という映えスポットの神社がある
・郷土資料館がある
・馬がいる
・展望台がある
こんなに見どころがたくさんある公園には行くしかない。
馬への餌やり体験なんかができたら撮れ高的にも文句なしである。
ということで茂原公園到着。
日曜日だったが人影はまばらで広くて静か。園内は遊歩道がありとても歩きやすい。
とりもちさんは公園を歩きながら「こんな公園が近くにあったら、ちょくちょく撮影で使いますよねー」とデイリーライターの鑑のようなことを言うのであった。
両手にダンベルを持ったおじさん
しばらく歩くと、弁天湖という湖が現れそこにかかる弁天橋が見えた。
弁天橋の中央には弁財天がある。
弁財天に参拝していると、ジョギング中の中年男性が唐突に「毎年2月に御開帳されるよ」と話しかけてきた。
「へえ、そうなんですか」と答えると、男性は走り去っていった。
私は気がつかなかったが、とりもちさんが「あの人、両手にダンベル持ってましたね」と言う。
トレーニングのためだろうが、知らない人に話しかけるときくらいはダンベルを置いてくれればいい。とにかく弁財天に参拝する二人へのジェラシーで襲われなくてよかった。
「やっぱり昭和ってこうだったんですか?」
次に向かったのは公園の奥にある美術館&郷土資料館。
行った先々では必ず看板を探して紹介ポーズを忘れないとりもちさん。記事を書くときに非常に便利で楽である。同じ撮影でもだいたいのことをサボろうとして失敗する宮城さんとは一味違う。
「これ、とりもちカラーですね」と言うと「そうですか?」と言う。
自分でなんでそう思ったんだろうと考えてみたら、恐らく
こちらの記事より、とりもちカラーと連想したのだろう。
館内に入りこれこそが郷土資料館という展示物を見る。
次に見たのがこちらの展示物。
ふーん、なるほど、と思っていると、とりもちさんが「やっぱり昭和ってこうだったんですか?」と言った。
「いやいや、これは自分の世代よりだいぶ昔の昭和だよー」と答えたが、今、この写真をよく見てみると、だいたいこうだったかもなとも思う。
しかし容易にそんなことを言うと「やっぱりはじめてテレビが家にやってきたときは感動しましたか?」などと言われかねないので注意したい。
僕いったい何を見ていたんだろうね?
さて、次はお楽しみの馬だと思ったが資料館の職員の方に聞いても馬など公園にはいないとのこと。
ショーケースの中に、かやかや馬なる馬の人形があった。
どうやら私はこの情報を本物の馬がいると間違えて認識していた模様だ。
しかし確かにさっき調べた時には〝乗馬〟や〝厩舎〟の文字を見た気がする。そして、とりもちさんに「餌やり体験できるといいですね」と話しかけ「え、あげてみたーい」などというやりとりをしていたのだ。
なので当然かやかや馬を見たとりもちさんの視線が冷たくなった。ような気がする。心の中でため息をついている。ような気もする。
しかたなく「僕はいったい何をみていたんだろうね?」と、とりもちさんからすれば「こっちのセリフだよ」と言いたくなることを言い、それ以上馬のことには触れないようにしたのである。
けっこうな迷子になる
とりもちさんが、職員の方に展望台への行き方を質問していたが、そんなものあったからしら?と言わんばかりに首をかしげている。
とりあえず置いてあった地図入りのチラシをもらい「僕がみつけますよ」と言って展望台へ向かう。馬のくだりを挽回せねば。
しかし進めば進むほど、先ほどまで舗装されていた遊歩道が登山道のようになり、どんどん公園から離れていく。
道を間違えたかなと思ったが、「あれ?あれ?」などと言って何度も引き返し、できない男と思われたくない。というかできる男と思われたい。その一心でとにかくどんどん進む。
しばらくして、とりもちさんが「こっちで合ってますか?」と言ったが、「ほら、地図ではこっちで合ってるよ」と、正直地図もよく理解していなかったが行けばなんとかなる式でどんどん進んだ。
寒さと疲労とでだんだん口数が少なくなるとりもちさん。
おそらく私はここで、できる男どころかできない男と判定されたことだろう。
30分ほど行きつ戻りつし足も痛くなったところで展望台はあきらめることにした。
というか展望台どころか、公園に戻ることもできなくなってしまった。
我々以外に人もおらず、道をたずねることもできない。とにかく少しでもひと気を感じる場所を目指してしばらく歩くと…
こうして大黒屋があるような大きな道に出られたことで無事に迷子状態から抜け出すことができた。
先行して歩く者は、道がわからないとき、それを素直に同行者に表明する必要があることがわかった。
ロケバスのお迎え場所へ戻る
山道で迷子になりながらも「戻ったらながいき市場で豚汁のみましょう」と励まし合いながら帰ってくることができた。
しかし豚汁無料配布場所は撤収されていた。
馬はおらず、道に迷い、豚汁は終了済。
私は今回の企画で林さんの懸念通り、とりもちさんに雑な影響を与える結果となってしまったのである。

