かぎ針編みの世界
友人にかぎ針1本でなんでも作ってしまう編み物作家さんがいる。
その名を植月沙織さん。作家名はZAORIC(ザオリク)さん。名前がドラクエの復活の呪文なのだが、そこはあまり気にしなくていいらしい。
ZAORIC(ザオリク)さんは出会った時は若いママだったのに、いつの間にか変な編み物作家になっていた。
思わず変って言ってしまったが、こんな作品である。変って言ってもいいと思う。
いったいなぜこんなことになっているのか。ちゃんと膝を付き合わせて聞いたことのないいろんな話を聞いてみた。
編み物作家への道
- いまさらな質問だけど、編み物を始めたのはいつ頃なの?
えっと4歳か5歳の頃だはず。お母さんが棒針で編み物をやっていて、自分もやりたいと思ったのが最初。
でもまだ小さくて棒針で編み物なんかできないでしょ。で、これなら、と母が渡してくれたのがかぎ針だった。
それでかぎ針のほんとの基本的な「こま編み」っていうのをを教えてもらって、母の横で編んでいた。
- じゃあもう30年ぐらい編んでいるんだ?
いや。それが違って。4歳とかのときは小さかったので、かぎ針を渡されても正直全然できなくて。
母が棒針でセーターなんかをきれいに作っているのに、わたしが編むものはガタガタで、ちゃんと形にもならない。それがすごく悔しいでしょ。 「かぎ針だからできないんだ!棒針がいい!」と駄々をこねて、棒針を持たせてもらったけど当たり前だけど、余計何もできなくて。もう編み物は嫌だーって投げ出したよね!
なので小さい頃から編み物に没頭していたわけではなく、幼少の頃に少し触って、それからブランクが空いて、その次にかぎ針を触るのは23歳。
- ブランク長っ!何がきかっけでもう一回かぎ針を始めたの?
23歳で長女を出産したので、赤ちゃんの靴下を編んであげようと思って。良い理由でしょ。
それで、かぎ針をほぼ20年ぶりに触るんだけど、編み方はなぜか覚えていたの。ああ、そうだそうだと思いながらやって、編み図を見ながら靴下を編み始めたんだけど、10分で飽きた!
- そこからハマるパターンかと思ったらまさかの!?
編み図を見ながら編むのが全然楽しくなかったの。楽しくないし、時間もかかるし、毛糸代とか考えたら買った方が安いじゃないかと思って。
赤ちゃんの靴下だけど、人目に触れるので黒い毛糸で編んでいたの。黒ければアラが目立たないだろうと。でも片方だけ靴下を編んだら、もう嫌になってしまって。
だからもう片方の靴下を作らずに、余った黒い毛糸でこま編みで筒を作るのをずっと続けてイラブーの燻製を作った。
(※イラブーとは和名エラブウミヘビといいハブより強い毒を持ったウミヘビ。沖縄では燻製にして食べるイラブー汁という食べ物があります。)
靴下をそのまま長ーく編む要領で最後に中に綿を詰めたらイラブーの燻製みたいになるでしょ!
- 赤ちゃんの靴下がイラブーの燻製に..。編むのが嫌じゃなくて、編み図通りに編むのが嫌だったんだね
作ったイラブーの燻製を姉に見せたら「これ、いい!!」って喜んで。
「で、次なにつくるの?」って会うたびに言ってくるので、次はゴーヤーを作ってみた。同じくこま編みでイラブーを太く短くしたらゴーヤーになるかなって思って。たまたま家にボコボコした毛糸もあったので、そのまま編んだらゴーヤーのブツブツも再現できて。
姉に見せたら「これもいい!で、次は?」って全然終わらない(笑)
次は?って言われるから色の違う毛糸を組み合わせてサーターアンダギーを作って、ちんすこうを作って、紅芋タルトを作って。
子供があと2人産まれて、3人の子供の育児をしながらなので、空いた時間にときどき作っては見せてを何年か続けていて。
- 編み図を見るのが嫌になったと言ってたけど、どうやって編むの?
そうそう。編み図を読むのは靴下を片方作った段階で向いていないとわかったので。
大体の予測を立てて編み始めて、あとは編みながら考える!ここちょっと大きくしたいなと思ったら編み目を増やして、くびれが欲しい時は減らしてって。
こういう編み方をクリエイティブ・ニッティングと呼ぶらしく、海外ではやっている人がいるけど、日本ではその当時はまだあまりいなかった。
2011年に本格的にZAORICknitknit始動
- お姉さんに発表していた編み物が、いまのように商品として販売したり展示会をしたりするZAORICknitknitという活動になるけど、そのきっかけは?
姉が雑貨店を始めたの。そして「お店の一角で面白い編み物のワークショップをやれるようにしたから」と言われて。
- お姉さんの独断!
え、どうしようと思っている間に、チラシを作られて配られて。姉はそういうところがものすごく早いから。
そこまでされたら覚悟を決めてやるしかないと思って、初めて「のーまんじゅう」を作るワークショップをやった。
京都からわざわざ来て参加してくれた人もいて。
終わった後に「すごく楽しかったけど、今日作った"のーまんじゅう"って何?」って言ってたけど(笑)
「首里の儀保にね、美味しいのーまんじゅうのお店があって..」って編み物教えるのにそこから話すんかい!という。
(※のーまんじゅうとはまんじゅうの上に赤文字で「の」と書く沖縄のお菓子。那覇市首里にあるぎぼまんじゅうののーまんじゅうが有名)
- これまでで一番作るのが難しかったものってある?
活動を続けていたら、某テレビ番組の依頼で筋肉を作って欲しいと依頼が来て。オッケーオッケーと受けたら、骨格標本につけるらしく、成人サイズの身体の全筋肉を作る仕事だったの。
最初は30個ぐらいの筋肉があれば大丈夫と言われたけど、結果的に作らないといけない筋肉は100個だった。
しかも翌週の放送で使いたいからと言われて。骨格標本を覆うから平面ではなく立体にしないといけないので、筋肉の裏や横がどうなっているのかがわからないといけない。筋肉の裏側とか見たことある?見たいと思ったこともないものを作らないといけない。あと横隔膜ってすごく大きい!そんな発見もあったり。
PCで見られる3Dデータを探したら見つかったので、これで裏側や側面を見られると思ったけど、3Dだからかデータがものすごく重くて買ったばかりのPCなのに「ファー!」って鳴ってPCが動かなくなった!
どうしようって諦めたときに、たまたま同じデータを本にした医学書が本屋さんにあることがわかったので、すぐに電話して「買うから絶対に売らないで!」って。
そんなこんなをしているうちに、テレビ局から本番で使うのと同じ180cmの骨格標本が送られてきて。段ボール箱の中に死体が入っているのかと思うぐらいの本格的なやつ。そこに医学書と格闘しながら全筋肉を作ってつけていくんだけど、作っても作っても全然終わらずに結果的に3日間徹夜した。本当に今思い出しても泣ける。ちなみに一番作るのが難しい筋肉は骨盤の中にあるインナーマッスルの骨盤底筋!
- もはや編み物の話を聞いている気がしないけど!
編み図がないから、出来上がるのは自分らしい世界
- ZAORICさんって編めないものはあるの?
編めないというか、今まで作った中で自分が納得できないと思うものは2つあって、ひとつはポーポー(※これも沖縄のお菓子)。
30回ぐらい編んだけど、そのまま板状に編んだものを巻いても茶色いものが巻いてあるだけでポーポーに見えない。切った状態を再現しようと編んだら竹にしか見えない。シンプルすぎるものって編みにくいと思った。
もうひとつは馬。これも何度作っても、あみぐるみのようなファンシーな感じの馬しか編めなくて。動物は人気があるのでいろいろ作るけど、かわいらしいものじゃなくて味のあるものを作りたいので、どうやったら私らしい馬が編めるのかというのはまだ模索中。
あ、あと編み図を元にしたセーターも編めない。靴下もいまだに片方は編めてないし!(笑)
でも逆に、ワークショップに編み物の講師をやっているようなプロの方がいらしたことがあるけど、わたしの作ったものを見て「どうやって編んでいるんだ」って頭を抱えてた。編み図を見せてと言われたけどそんなものないので、隣で一緒に編みながら「ここで2目増やして、ここで逆に減らせば、タコの足のうねうね感が出ますよね」って解説しても「全然意味がわからない」って。
ワークショップをやっていて思うのが、考えて編む方よりも勢いで編む人がクリエイティブ・ニッティングに向いている。かぎ針編みは多少間違えても致命的なことにはならないので、間違えた時に糸をほどいて間違いを正すのではなく、「これも味」と思える人が最終的にどんどん作品を作れる気がする。
- イラブーやゴーヤーの沖縄シリーズから始まって、いまはいろんなものを編んでいるよね?
最初に編んだのが黒い毛糸だったからイラブーにして、その後も沖縄のものを編んでいたんだけど、もしかしたら最初が緑の毛糸で編んだのがニシキヘビだったら、最初からぜんぜん違う方向に行っていたのかもしれない。
でも2017年にファッションとデザインの合同展示会「rooms EXPERIENCE」というのに参加して、そのときにサンゴを編んで持って行ったの。
ちなみにサンゴを立体で作るには石を彫ったり紙を折ったり、棒針で編んでも正確に再現するのは不可能で、唯一再現できるのがかぎ針らしいよ!かぎ針すごいよね。
で、かぎ針でサンゴっていろんな国の人が作っているんだけど、同じようにサンゴを作っても、ノルウェーの人が作るサンゴは北欧家具のようにおしゃれで、オーストラリアの人が作ったらグレートバリアリーフのようにきらびやか。そして私が作ったサンゴは沖縄の海洋研究をしている人に「沖縄のサンゴっぽい!」と言われた。なので沖縄のものを作らなくても、自分の中の沖縄が作品に現れるのかなといまは思っている。
手の中から生まれる沖縄
ということでZAORICさんにお話を伺った。
実はわたし、数年前に全10回のZAORICknitknitかぎ針編み講座に参加したことがあり、そのときになんでも作れるよ!と聞いたので沖縄の神様であるミルク様を作りたい!と熱望したことがある。
かぎ針自体が初めてだったので編み図を書いてもらってそれを再現する方法をとっていたのだけど、たしかに編み図を読みながら編むより、頭の中で想像しながら形を作っていく方が楽しそうではあった。まぁできなかったけど(小さい作品は編めました)。
ちなみにZAORICさんは、何を見てもどうやったら編めるかを頭の中で妄想しているらしい。怖いね。
作品を見たい方、買いたい方、またはワークショップに参加してみたい方はぜひ下記を参考に。
大丈夫。とって編まれたりはしませんから。たぶん。
ZAORICknitknit
http://zaoric-knitknit.me/:公式サイト
てれふぉーじ:沖縄にあるお姉さんの雑貨店(ZAORICさんはお店で店番しながら編んでいることが多い)
ほとんどきのこ展:4月中旬から東京での展示会に出品予定