と、これは3年前の話。それから数度訪れさせてもらったが、そのうち我が家が引っ越してしまい今は足が遠のいてしまっている。台風が来るたびにツリーハウスは大丈夫だったか気になるし、クリスマスが近くなればあのイルミネーションを思い出す。
まだ私の中で、No.1のイルミネーションといえば、あのツリーハウスなのである。
息子は5歳になった。「のぼりたい」と言っていたあのツリーハウス。近々再訪してみようか。
ある日、夫がツリーハウスを発見した
数年前の話になるのだが、ある日夫が興奮気味に教えてくれた。
「知ってる?ここから、ツリーハウスが見えるよ!」
え?ツリーハウス?
ここというのは我が家のこと。当時住んでいた家は小高い丘の上のようなところにあったのだが、平地を挟んで見える山の中腹あたりにツリーハウスが見えるというのだ。
夫はテンション高く、ツリーハウスがある!と指を差して教えてくれるのだが、ツリーハウスがあるとされる場所はまではわりと距離がある。目を凝らして見てみると、たしかに山の中のぽっかりと木がなくなっている箇所に建物が見えた。しかし、それが夫が言うように本当に木の上に建っているのか、地面の上のあるのかまではよく分からなかった。
なにより、ここは沖縄県の県庁所在地の那覇市である。那覇みたいな都会に、まさかツリーハウスはないでしょ?それが最初に思ったことである。
その時は、まあそのうち見に行ってみようか、ぐらいの話で終わったのだが、後日、外から帰ってきた夫がまた興奮して言うのだ。
「ツリーハウスがライトアップしだした!光を頼りに暗くなってから探してみたらツリーハウスの場所がわかった!」
本当にツリーハウスだったんだ!という気持ちと、夫の執念よ!なのである。
ただ見つけたはいいが、さすがに急に夜に訪問はできなかったということなので、次の休みに夫に連れられてツリーハウスがあるという場所まで行ってみると
さて、このツリーハウスはどんな経緯でできたのだろうか。
そして、ツリーハウスって沖縄の台風で飛ばされないのだろうか。
おじさんに伺った。
ツリーハウスおじさんに話を聞いた
おじさんは取材はOKだけど顔写真や名前の公表は恥ずかしいのでNG。
なのでツリーハウスおじさんと呼ばせていただくことにする。
――このツリーハウスってご自身で作られたんですか?
「そうだよ!仲間と一緒に2週間で作ったんだ」
――2週間!?そんなにすぐに出来るもんなんですか?建設業のようなお仕事をされているとか?
「うーん、そうではないけど。
でも前にも経験があるからね。ツリーハウスはこれで2つめなんだ」
――2つ目!
「最初のはね、名護市(沖縄本島の北部)の山の中の土地を知り合いが自由に使っていいっていうから毎週通って。
スコップ1つ持って、山の斜面を削って平地にしたんだ。なだらかな土地だったけど、広くてよ。2千坪ぐらいかな。
そんな風に遊ぶようになって。
それで山の手前に大きな木があったから、木の上に家を作ったら楽しいなと思って。
でも初めてだったから勝手が分からずに、木の上に家を作るというよりは高床式住宅を木の横に作ったような感じだった」
――今のツリーハウスとは違う様式ですよね?
「そう。2つめだから。今度は高床式ではなくどうやったらちゃんと木の上に建つのか考えてから作った。
これは大ぶりの枝を床の両端に取り込んでいる。まずは木の上に床だけを作って、そこから壁を作ったんです。
床ができたらあとは簡単だよ。」
――ツリーハウスにはおじさんが住んでいるんですか?
「いやいや、あそこは住めないよ。僕の家もこの場所とは違うところにある。
ツリーハウスはオブジェなんだ。見ているだけで面白いでしょう。観賞用だね」
――台風で飛ぶことはないんですか?
「ツリーハウスを作ってもう5年以上になるけど飛ばないよ。
理由の1つは床と枝が一緒になっていること。2つ目は窓ガラスをつけていないこと。
だから風が吹いても木と一緒に家もゆらゆら揺れる。風を逃す仕組みになっているから」
――ツリーハウスには上がれるんですか?
「上がれるよ!行ってきたらいいさ!」
ツリーハウスに上がらせてもらった
先ほどのお話で出てきたように、ツリーハウスは基本的に観賞用。中に入って過ごすことは無いという前提である。
なので、階段などはなく、立てかけられているはしごのみ。
下では一緒に来ていた2歳の息子が「自分も登ってみたい!」と騒いでいたが、無理無理。あと3年ぐらい待ってくれ。
中に入ると床を突き破って壁から出る枝。
この木と一体になった作りこそが、台風などの強風にも耐える仕組みなのだ。
山の中腹に立つツリーハウスの上からなので見晴らしが抜群。
こんなところに住めたらいいなと思うぐらいの眺めである。
間取りは1ルームで、家に入る階段は簡易はしご、バストイレ水道なし。
ツリーハウスおじさんは言う。
「クリスマス時期はツリーハウスをイルミネーションしているから夜来てもきれいなんだよ」
そうだった!それで場所がわかったんだった。
この取材時はクリスマスの1週間前。ツリーハウスおじさんによると「クリスマスに向けて、日々イルミネーションを増やしている途中!」ということだった。じゃあ次はクリスマスの夜に来させてください、とお願いをしてその日は帰った。
クリスマスイブにイルミネーションを見に行く
そしてクリスマスイブがやってきた。
街が浮かれている中、私たち家族が向かったのは山の中のツリーハウス。
どれぐらいツリーハウスはイルミネーションで輝いているのだろうか。
これぐらいである。
予想以上!
周りが暗いこともあって、めちゃめちゃ輝いている。
写真では光っていて分かりづらいが、窓枠の下部分にはプレゼントを抱えたサンタがいてメリークリスマスと言っていた。
下から見上げると、ツリーハウスの中にも光が見える。行っておいでと促されるままツリーハウスに登ってみると。
う、うわー!めっちゃきれい!!
ツリーハウスの中の電球と、窓の外に見える夜景!
種類の違うきらめきが同時に襲ってきてクラクラする。
しかもおじさんの演出なのか、ツリーハウスの中にラジカセがありエレクトリカルパレードの曲が流れているのだ。
♪タンタカタンタン タンタカタカタカ
この日は強風でツリーハウスはときおりグラーッと揺れるし、下からは夫に抱っこされた息子の「あがるー!おかーさん!ぼくもあがるー!」とぐずっている声も聞こえる。いつもならこの状況であればすぐに降りないと!と思うのだが、目の前のキラキラ過ぎる光景とエレクトリカルパレードによって、ツリーハウスの下の世界がすごく遠くのことのように思えるのだ。
♪タンタカタンタン タンタカタカタカ
ああ、きれい。素敵。良いクリスマスだなぁ。
あれ?これ夢?私は白昼夢を見ているのかしら..?夜だけど。
夢から覚めた
ふと窓から下を見るとツリーハウスおじさんの作業小屋の前であがる大きな炎。そしてツリーハウスの真下で夫と息子がじっとこちらを見ていた。
一瞬で正気に戻った。うん。あの炎なんやろね。すぐ降りようね。
炎の正体は、ツリーハウスおじさんの焚き火。
使い古しの貯水タンクで薪を燃やし、暖をとりながら宴会をがはじまっていた。
その光景に驚いている最中にもビールを手にツリーハウスおじさんの仲間が来る。これからみんなでクリスマス会をするそうだ。
ツリーハウスおじさんは言っていた。「ツリーハウスは観賞用」だと。
焚き火のまわりにいくつか置かれたイスからは、どこからでもばっちりツリーハウスが見える。
一緒に参加したら?と誘ってもらったが、息子が眠そうだったので帰ることに。
「そうか。でもまたいつでも来たらいいよ。ツリーハウスがもたらしてくれた新しい出会いがとても嬉しいから。いつか一緒に飲もうね。
ツリーハウスのところって言えば運転代行の人も知ってるはずだから(笑)」
ああ、嬉しい。泣いていいかな。