ゆるいばっかじゃないですよ
ということでなんだかものすっごいゆるい大会みたいに書いてしまったけれども、当の訓練士さんたちにとっては日頃の成果を披露する場。緊張するところもあったと思う。それでもそんなプレッシャーを表に出さず、和やかに大会を進める心の余裕。そんなおおらかな人たちだからこそ、犬も安心してしつけられてくれるのだろうな、とそんなことを思いました。
警戒 |
上記の2種目が同時進行で行われたあと、最後のハイライトを飾るのがこの「警戒」だ。
内容は、パトロール→犯人発見→威嚇→犯人襲撃。ここまでを一連の流れとして、テントで作られた摸擬現場を舞台に行なう。
これまでの2つの競技は比較的しずかな動きばかりだったが、ここへきて様子は一変、犬たちは所狭しと駆け回ることになる。
競技前の様子を見ていると、他の競技では平然としていた犬たちが、キョロキョロと辺りを見回したりリードを引っ張ってみたり、どこか落ち着きのない様子を見せる。
そしてかけ声とともに競技はスタート。パトロールといってもゆっくりと巡回するようなパトロールではない。ここは事件現場で、犯人はどこかに隠れているのだ。3つあるテントを全力疾走で走り抜け、陰に犯人が隠れていないかチェック。
犯人を見つけたら威嚇だ。ここで大事なのは、犯人に襲いかかってはいけないということ。襲いかかるのはあくまで人間の指示があってから。犯人を逃がさないように、接触すれすれまで近寄って、威嚇。ワン!ワン!と勇猛に吠えかけるのだが、このときは犬も興奮状態なのだろう、近くで聴いていると吠え声といっしょに「カプ、カプ」という音がする。上下の歯が咬み合う音だ。そのくらい力強く吠えかけているのだ。
そしていよいよ襲撃。
飛びかかる犬の迫力はすごい。日本で警察犬種として認められている犬種は7種類あるのだが、シェパードやドーベルマンをはじめ、すべて大型犬。巨大な犬が2メートル近く離れた場所から飛びかかって、腕に食い込むように噛みついてくる。犯人は犬を振り払おうと身をよじるのだが、訓練士が指示するまでは絶対に離さない。
あとから犯人役の人に話を聴いてみたのだが、強い犬に襲われると「体ごと持ってかれる」そうだ。犯人役には慣れてはいるけれども、時々どう見ても気の強そうな犬がいて、そんな犬を相手にするときはやっぱり少し緊張するとか。
警察はどういうケースに警察犬が動くのか、ぜひ僕に教えてほしいと思う。今後犯罪する場合は、それだけは避けるようにするので。
そしてそんな激戦が繰り広げられる中、オーディエンスはこんなことになっていた。
むしろオーディエンスに緊張が走るのは、パトロール中の犬がテントを無視してどっかに走り去ってしまった場合や、犬がなかなか犯人に襲いかかってくれない場合であった。僕と緊張するとこが逆だ。
中には、吠えるばかりでなかなか犯人に襲いかかることができない犬もいて、しびれを切らした犯人が、腕カバーを抜いて噛みつきやすいように振り回してあげる場面もあった。バールを振り回す荒くれ者が、ふとした瞬間に見せた優しさだ。ちょっといい話。
そんなこんなですべての競技が終わって、最後は表彰式。
まだ表彰してるのに片付けが始まるわ、受賞者がいないと「誰か代わりに取りにきてー」なんて言い出すわ、終始ゆるい感じのテンションであった。
最後に主催者である日本警察犬協会・埼玉西支部の支部長にお話をうかがった。
石川「今日の大会、どうでしたか?」
支部長「よかったですよ。いい天気だったから。」
ということでなんだかものすっごいゆるい大会みたいに書いてしまったけれども、当の訓練士さんたちにとっては日頃の成果を披露する場。緊張するところもあったと思う。それでもそんなプレッシャーを表に出さず、和やかに大会を進める心の余裕。そんなおおらかな人たちだからこそ、犬も安心してしつけられてくれるのだろうな、とそんなことを思いました。
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